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第2章
第19話、人ってこんなにも強くなれるのですね
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「アズ、いきなりなにしてるの!? 」
アズの突然の行動に目を見開き固まっていた真琴も、俺に続いて声を荒げる。
「女狐、一体なにを!? 」
「見ればわかるでしょ?
指を舐めてるだけでしょ? 」
「いや、……そうなんだけどさ」
その言葉にたまらず真琴がアズを突き飛ばそうと腕を伸ばしにかかるが、そこはなんとかといった感じでグッと堪えた。
「はぁ、はぁ、女狐、ボクのユウトに対して卑猥な事を、今すぐやめるんだ」
「卑猥? あんたはなにを勘違いしてるのかしら?
私に詳しく教えてくれないかしら? 」
「おっ、おのれ、この女狐の分際で、もしかしてこのボクをはめようとしたのか!? 」
「そんな事より、羨ましいのならあんたもすればいいだけの事でしょ? 」
「えっ!? 」
真琴の動きが緊急停止した。
しかし呼吸は先ほどより荒くなっている気がし、その瞳はグルグルと回り始め、見るからにやばい目つきへと変わっていってしまう。
そして真琴は、アズがあむっと俺の親指を美味しそうに咥えるのを見た後覚悟を決めた表情に変わると、ゆっくりと俺の指に顔を近づけその唇を僅かに開いていき——
湯気が出そうなぐらい真っ赤な顔の真琴は、瞳をウルウルさせる。
「うぅぅ、ダメだよ、恥ずかしすぎるよ!
いきなりこれは、ボクにはハードルが高すぎるよ! 」
「ふぇんな奴」
俺はそこで動く。
落ち込む真琴を撫で撫でしながら、アズが小さな手でしっかり握り一生懸命ペロペロしている方の手をさっと振りほどいた。
「ちょっと、まだ練習中だったのにー」
「なんの練習だったの!?
それよりアズ、今後ペロペロしたら手も繋がないからね」
「それはいいけど、その取り決め事は勿論ダンジョン内限定って事よね? 」
「えっ、それは、どういう意味で……」
「あんたの事だから、危険なダンジョン内だからしたらダメって事なんでしょ? 」
「いや、そうなんだけど……」
あれ? なんか、このまま行くと話がおかしな方向に向かっていってしまう気がする。
「そうだアズ、手をペロペロするのはとてもはしたない行為なんだ。
だから人に見られたら恥ずかしい事であって——」
「わかったわ、今後人前では二度としないわ」
「わかってくれたらいいん——、えっ?
でもそれって? 」
「あんたが言い出したんだからね、約束を破ったら許さないわよ」
一方的にそう言い放ったアズは、例の鼻歌を歌い始めこちらからの呼びかけを一切受け付けなくなった。
『ガタタッ』
とそこでどこかの部屋から物音が聞こえた。
慌てて神経を研ぎ澄ますが、それきりで雨風の音以外何も聞こえない。
そうだ、何度も言うけどここはダンジョン内である。
不埒な事を考えている暇は……でも今答えをしっかり出しておかないと、後々の変更はさらに難しくなるわけで。
そんなこんなで困り果てていると、先程より僅かに距離が離れているような気がしてたクロさんと目が合った。
「その、……不潔です」
なんか凄く誤解をされています!
とそこで、少し離れたヴィクトリアさんが仕切りに眼鏡をくいくい上げ下げしているのが目に入った。
どうやらなにか発言をしたいようである。
そして俺とクロさんの視線が話しかけてオーラを出しているヴィクトリアさんに集まったところで、ヴィクトリアさんは眼鏡のくいくいをやめて一歩前へと進み出た。
「クロネディアさん、あなたは少し誤解をされているようですね」
まっ、まさかの援護射撃であった!
「わたしが誤解、ですか? 」
「はい、ユウト様は経験豊富ではなく間違いなく童貞であります。
それは紛れも無い事実。
しかも歴然たる童貞でもあります」
「ヴィクトリアさん!
なに暴露しちゃってるんですか!? 」
援護射撃だと信じてたのに、完全に誤爆レベルです!
「それに歴然たる童貞ってなんなんですか!?
例えるなら魔法使いとかじゃないのですか? 」
「えぇ、魔法使いとは三十を迎えても童貞の日本人男子が辿り着く特殊な境地でありますが、わたしが言う歴然たる童貞とは、魔法使いなんて足元にも及ばない、ぐんをぬいて先頭をひた走る、現在ユウト様にのみ授けられる名誉あるお言葉であります」
「あっあの、ヴィクトリアさん?
つまりその『歴然たる童貞』とはどういった意味なんでしょうか? 」
「今世はもちろん、幾度も繰り返した人間の生の中で、一度も女性と交わることが無かった者、という意味です」
なっ、なんだって!?
それって、俺って、何度転生しているのかわからないけど、かなりめちゃくちゃ可哀想な人の中でも最も可哀想な人って事じゃないのかな!?
「そっ、それって本当なんですか!? 」
「えぇ、ユウト様は戦争などない平和な時代に生まれても、僧侶などの自身に対して厳しい職業に就かれる事が多く、数ある生涯すべてで、女性と交わる事が一切ありませんでした」
……いやな予感がする。
もしかしてそれって、フラグってヤツじゃないのだろうか?
現在周りにはこんなに女性がいてエッチな展開が結構あっているように思うんですけど、今世も冒険半ばで死んでしまって結局童貞のまま終わるとかの。
「それなら私も歴然たる処女って事ね」
アズである。腕に抱きつき俺の方を見上げながらに言った。
てか鼻歌歌ってずっと拒絶していたけど、やっぱり聞いてたのね。
それより歴然たる処女とは?
「私は今回人間初めてで、この身体は処女だから歴然たる処女よ」
「そっ、それならボク……も」
続いたのは同じく見上げながらに言った真琴だ。
しかしその事柄についての話題が恥ずかしかったようで、尻窄みでトーンが落ちそれに伴い埋没するかのように俺の腕に顔を埋める。
いや俺としても面と向かって女の子の口からそのワードとかを聞かされるのは、かなり恥ずかしいものがあるんですけど。
と言うかアズは、もしかして俺を慰めようとしてくれたのかな?
真琴も恥ずかしかっただろうにその事について語ってくれて……。
「二人とも、ありがと。
それと同じ境遇の人が身近にいると、人ってこんなにも強くなれるもんなんだね」
ヴィクトリアさんから咳払いが聞こえた。
『ちなみにユウト様』
「はっ、はい」
あれ? ヴィクトリアさんの口が動いてないのに声が聞こえてきてる?
『歴然たる童貞についての補足ですが、ここまで辿り着いた者はみな、一人の例外もなく一度童貞を失うと今までにせき止められていたエネルギーが全て解放されます。
いくら身体が頑丈な真琴さんたちでも一人では荷が重すぎますので、くれぐれも理性が暴走しないよう重々気をつけられて下さい』
なっ、なんですと!?
その時下半身に痛みが走る。
衝撃の補足を直接心へ聞かされてしまい、俺の中で今まで抑え込んでいたなにかのスイッチが入ってしまったようだ。
俺はそれを懸命に抑えようとするのだけど、べったり引っ付いている真琴とアズの良い香りや手の感触、そして真正面にはヴィクトリアさんの破廉恥と言っても過言ではない姿に先ほどのクロさんのデルタゾーンの残像がフラッシュバックしてしまい、それらが今になって一斉に押し寄せてきた。
そうして一人煩悩と格闘をくりひろげている中、クロさんが申し訳なさそうにこちらを伺ってくる。
「その、ユウトさん、誤解していたみたいでごめんなさい。
あれだけの回復力を発揮する人が、酷い人間、女たらしであるわけがないですよね。
……それと皆さんは心の底から、ユウトさんに心を許しているのですね」
純粋に一片の曇りもない笑顔を見せてくれるクロさん、を見て胸に痛みが走る。
いや、クロさん、本当に俺はそんな大層な人間ではないです。
現に今も、危険なダンジョン内だと言うのに煩悩と闘っているわけですから—。
アズの突然の行動に目を見開き固まっていた真琴も、俺に続いて声を荒げる。
「女狐、一体なにを!? 」
「見ればわかるでしょ?
指を舐めてるだけでしょ? 」
「いや、……そうなんだけどさ」
その言葉にたまらず真琴がアズを突き飛ばそうと腕を伸ばしにかかるが、そこはなんとかといった感じでグッと堪えた。
「はぁ、はぁ、女狐、ボクのユウトに対して卑猥な事を、今すぐやめるんだ」
「卑猥? あんたはなにを勘違いしてるのかしら?
私に詳しく教えてくれないかしら? 」
「おっ、おのれ、この女狐の分際で、もしかしてこのボクをはめようとしたのか!? 」
「そんな事より、羨ましいのならあんたもすればいいだけの事でしょ? 」
「えっ!? 」
真琴の動きが緊急停止した。
しかし呼吸は先ほどより荒くなっている気がし、その瞳はグルグルと回り始め、見るからにやばい目つきへと変わっていってしまう。
そして真琴は、アズがあむっと俺の親指を美味しそうに咥えるのを見た後覚悟を決めた表情に変わると、ゆっくりと俺の指に顔を近づけその唇を僅かに開いていき——
湯気が出そうなぐらい真っ赤な顔の真琴は、瞳をウルウルさせる。
「うぅぅ、ダメだよ、恥ずかしすぎるよ!
いきなりこれは、ボクにはハードルが高すぎるよ! 」
「ふぇんな奴」
俺はそこで動く。
落ち込む真琴を撫で撫でしながら、アズが小さな手でしっかり握り一生懸命ペロペロしている方の手をさっと振りほどいた。
「ちょっと、まだ練習中だったのにー」
「なんの練習だったの!?
それよりアズ、今後ペロペロしたら手も繋がないからね」
「それはいいけど、その取り決め事は勿論ダンジョン内限定って事よね? 」
「えっ、それは、どういう意味で……」
「あんたの事だから、危険なダンジョン内だからしたらダメって事なんでしょ? 」
「いや、そうなんだけど……」
あれ? なんか、このまま行くと話がおかしな方向に向かっていってしまう気がする。
「そうだアズ、手をペロペロするのはとてもはしたない行為なんだ。
だから人に見られたら恥ずかしい事であって——」
「わかったわ、今後人前では二度としないわ」
「わかってくれたらいいん——、えっ?
でもそれって? 」
「あんたが言い出したんだからね、約束を破ったら許さないわよ」
一方的にそう言い放ったアズは、例の鼻歌を歌い始めこちらからの呼びかけを一切受け付けなくなった。
『ガタタッ』
とそこでどこかの部屋から物音が聞こえた。
慌てて神経を研ぎ澄ますが、それきりで雨風の音以外何も聞こえない。
そうだ、何度も言うけどここはダンジョン内である。
不埒な事を考えている暇は……でも今答えをしっかり出しておかないと、後々の変更はさらに難しくなるわけで。
そんなこんなで困り果てていると、先程より僅かに距離が離れているような気がしてたクロさんと目が合った。
「その、……不潔です」
なんか凄く誤解をされています!
とそこで、少し離れたヴィクトリアさんが仕切りに眼鏡をくいくい上げ下げしているのが目に入った。
どうやらなにか発言をしたいようである。
そして俺とクロさんの視線が話しかけてオーラを出しているヴィクトリアさんに集まったところで、ヴィクトリアさんは眼鏡のくいくいをやめて一歩前へと進み出た。
「クロネディアさん、あなたは少し誤解をされているようですね」
まっ、まさかの援護射撃であった!
「わたしが誤解、ですか? 」
「はい、ユウト様は経験豊富ではなく間違いなく童貞であります。
それは紛れも無い事実。
しかも歴然たる童貞でもあります」
「ヴィクトリアさん!
なに暴露しちゃってるんですか!? 」
援護射撃だと信じてたのに、完全に誤爆レベルです!
「それに歴然たる童貞ってなんなんですか!?
例えるなら魔法使いとかじゃないのですか? 」
「えぇ、魔法使いとは三十を迎えても童貞の日本人男子が辿り着く特殊な境地でありますが、わたしが言う歴然たる童貞とは、魔法使いなんて足元にも及ばない、ぐんをぬいて先頭をひた走る、現在ユウト様にのみ授けられる名誉あるお言葉であります」
「あっあの、ヴィクトリアさん?
つまりその『歴然たる童貞』とはどういった意味なんでしょうか? 」
「今世はもちろん、幾度も繰り返した人間の生の中で、一度も女性と交わることが無かった者、という意味です」
なっ、なんだって!?
それって、俺って、何度転生しているのかわからないけど、かなりめちゃくちゃ可哀想な人の中でも最も可哀想な人って事じゃないのかな!?
「そっ、それって本当なんですか!? 」
「えぇ、ユウト様は戦争などない平和な時代に生まれても、僧侶などの自身に対して厳しい職業に就かれる事が多く、数ある生涯すべてで、女性と交わる事が一切ありませんでした」
……いやな予感がする。
もしかしてそれって、フラグってヤツじゃないのだろうか?
現在周りにはこんなに女性がいてエッチな展開が結構あっているように思うんですけど、今世も冒険半ばで死んでしまって結局童貞のまま終わるとかの。
「それなら私も歴然たる処女って事ね」
アズである。腕に抱きつき俺の方を見上げながらに言った。
てか鼻歌歌ってずっと拒絶していたけど、やっぱり聞いてたのね。
それより歴然たる処女とは?
「私は今回人間初めてで、この身体は処女だから歴然たる処女よ」
「そっ、それならボク……も」
続いたのは同じく見上げながらに言った真琴だ。
しかしその事柄についての話題が恥ずかしかったようで、尻窄みでトーンが落ちそれに伴い埋没するかのように俺の腕に顔を埋める。
いや俺としても面と向かって女の子の口からそのワードとかを聞かされるのは、かなり恥ずかしいものがあるんですけど。
と言うかアズは、もしかして俺を慰めようとしてくれたのかな?
真琴も恥ずかしかっただろうにその事について語ってくれて……。
「二人とも、ありがと。
それと同じ境遇の人が身近にいると、人ってこんなにも強くなれるもんなんだね」
ヴィクトリアさんから咳払いが聞こえた。
『ちなみにユウト様』
「はっ、はい」
あれ? ヴィクトリアさんの口が動いてないのに声が聞こえてきてる?
『歴然たる童貞についての補足ですが、ここまで辿り着いた者はみな、一人の例外もなく一度童貞を失うと今までにせき止められていたエネルギーが全て解放されます。
いくら身体が頑丈な真琴さんたちでも一人では荷が重すぎますので、くれぐれも理性が暴走しないよう重々気をつけられて下さい』
なっ、なんですと!?
その時下半身に痛みが走る。
衝撃の補足を直接心へ聞かされてしまい、俺の中で今まで抑え込んでいたなにかのスイッチが入ってしまったようだ。
俺はそれを懸命に抑えようとするのだけど、べったり引っ付いている真琴とアズの良い香りや手の感触、そして真正面にはヴィクトリアさんの破廉恥と言っても過言ではない姿に先ほどのクロさんのデルタゾーンの残像がフラッシュバックしてしまい、それらが今になって一斉に押し寄せてきた。
そうして一人煩悩と格闘をくりひろげている中、クロさんが申し訳なさそうにこちらを伺ってくる。
「その、ユウトさん、誤解していたみたいでごめんなさい。
あれだけの回復力を発揮する人が、酷い人間、女たらしであるわけがないですよね。
……それと皆さんは心の底から、ユウトさんに心を許しているのですね」
純粋に一片の曇りもない笑顔を見せてくれるクロさん、を見て胸に痛みが走る。
いや、クロさん、本当に俺はそんな大層な人間ではないです。
現に今も、危険なダンジョン内だと言うのに煩悩と闘っているわけですから—。
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