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第2章
第26話、借り暮らしの屍主
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クロさんが投げ放った魔光石により、下から照らし出される。
そいつは、思わず目を背けたくなるような醜悪な姿のモンスターであった。
一見すると茶色く薄汚れた人という人が折り重なり山を作っているだけにしか見えないのだけど、ソウルリストが示すためこれがモンスターであることは間違いないようだ。
そいつらはだだっ広いこの部屋の天井に届くほどまで積み上がっており、ちょうど俺たちがいる入り口とは反対側の壁際にどっしりと鎮座している。
そしてこの山全体から先程のソウルリスト、借り暮らしの屍主と確認できる事から、この人で出来た山丸ごと一つで敵なのだろう。
しかし巨大で圧迫感を感じずにはいられない敵を前にしてだけど、居た堪れなくなってしまう。
だって実際目の前にあるこの屍は本当の意味の屍ではないのだろうけど、このようにモンスターとして具現化している以上、同じようなモノが過去の世に存在していたはずだから——
しかしこの部屋、妙に生暖かいな。
熱源はこの山なのだろうか?
「気をつけられて下さい、嫌な感じがします! 」
クロさんが叫んだ。
そこで山の一部、上の方の屍が赤みを帯び異様に盛り上がりをみせている事に気付く。
そして山全体が震え始めたかと思うと、次の瞬間その盛り上がり部分が斜め上方に向け盛大に弾ける!
その光景はまるで噴火をした火山。
しかし岩石やマグマの代わりに山から飛んでくるのは、人の屍。それらはこちらへ向け降ってくるが、高く上がりすぎた屍もありそれらは天井に激突している。
また元から四肢が無くバラバラのモノもあるので正確ではないが、それでもざっと数えて20体あまりが迫ってくる!
物理の法則に従って屍は人形のように、手足がブラブラと空気抵抗を受けながらに飛来。
真琴とクロさんは猛烈な落下スピードで迫る屍の雨に対し、斜め上方に向け構えを取る。
そしてアズは俺のほうをチラリと一瞬だけ見たあと、キッと同じく上方を睨みつけるようにして蜘蛛の巣状の障壁を展開。
俺はそのアズの意図を読み取り、障壁の下に逃げ込むように飛び込む!
直後、屍の雨がゴズゴズッと障壁や床に落下してくる。
かっ、間一髪、危なかった!
……あれ?
今聞こえた屍が床に落ちて来た音、えらく重そうな感じじゃなかったかな?
近くに落ちた屍をよく見てみると、落ちた拍子に足が膝からもげ更に上半身と下半身が真っ二つに分かれている。
ううぅん?
もげた足、切り離された体、共に断面が綺麗に分かれている!?
それこそ石などの鉱物みたいにパッカリと。
もしかしてこの屍、鉱物並みに硬い、もしくは鉱物そのものなのでは?
とその時、噴火を終え凹んで見えていた部分が、まるでその場所で蛇でも這いずり回っているのではといった感じで高速で光り始める。
そしてそれは一瞬で終わったのだけど、その直後にゴゴゴゴッと地響きみたいな音を立てて下から折り重なる屍がせり上がり、出来ていた穴を塞いでしまった。
そしてそれは唐突であった。
山の至る所が赤みを帯び始める中、その内の一つ、中腹付近で小規模噴火みたいのが起きた!
それによってその部分にあった屍数体の体がバラバラになりながらも横方向へ向け散弾銃のように散りばめられる。
そしてその内の一つ、一本の腕がクルクルと横回転しながら真琴とクロさんの間をすり抜けたのが目に入った。そして咄嗟の事でアズの隣で動けずにいる俺へ目掛け、まるで吸い込まれるようにして迫り——
やばい、あれもかなり重く硬いのでは!?
俺は手を前に出して飛来物を防ごうとするが、迫る腕が回転していたため綺麗に俺の手をすり抜けてしまう。
直後頭に走る重く鈍い衝撃。
斜めに持っていかれる視界。
そしてぐるんと世界が回った後、意識は千切れるようにして無くなってしまった。
◆
ん? ……天井が見える。
そこで意識が戻りよいしょと上体を起こすが、焦点が合わない。
俺はなにをしていたんだ?
薄暗い辺りを見渡す。
ここはダンジョン、のようだ。
そして一瞬、腕が回転しながら飛んで来る映像がよぎる。
……腕が回転?
焦点が合ってくる。
そして真正面に見えるのは、真琴とクロさんが降ってくる屍を躱す姿。
また床の至る所には屍がそこかしこに転がっていて——
一気に冴えわたる頭。
まだ戦闘中だ!
どれだけ意識が飛んでいたんだ!?
即座に白濁球を作り上げながら再度周囲を確認する。
この広い部屋の半分以上が屍で覆い尽くされており、左手側である部屋の奥には屍の山が依然鎮座している。
アズは右手側である入り口付近で障壁を張り、部屋の隅には傍観しているヴィクトリアさんの姿が。
兎に角いつの間にかみんなと離れすぎてしまっているから近付いておかないと!
そして真琴たちの方へ走りながらに気付く、真琴が時折床に転がる屍に向かって攻撃をしている事に。
……いた!
暗くてよくは見えないが、磯にいるフナムシや家庭に潜む生きている化石と言われる昆虫ぐらい素早い何かが、屍と屍の間を移動している。
大きさは丸型のお掃除ロボットぐらいはありそうだ。
しかし真琴、さっきからえらく後方であるアズの方を気にして戦っているけど——
そこで嫌な汗が出てくる。
もしかしてまた、アズが大怪我をしているのでは!
くそっ、下手に大きく移動するのは危険そうだから近かった真琴たちの後ろへ向かったわけだけど、判断ミスをしたのかもしれない。
兎に角聞かないと!
アズは痛みとかを表情に出さないし。
「アズ、どこか痛めてるなら言ってくれ! 」
しかしアズはなにも答えない。
それどころか完全に無視をされているような気さえする。
いや、険しい表情にひたいには汗が浮かんでいる事から、こちらに気を向ける余裕がないのかもしれない。
それならしらみ潰しに回復魔法を当てるのみ!
白濁球の飛来に驚きを見せるアズに対し問答無用でぶつけながら俺はアズの方へ駆ける。
「あんた、無事なの!? 」
アズが言った、自身の足元に向けて。
ん、どゆこと?
アズの足元に誰かいるの?
そして明かりが乏しいアズの足元、屍と屍の間から見知った脚が見え始めてくる。
真琴と一緒に買ったシンプルで無骨な黒のブーツと、学生ズボン。
これって……俺だよね?
仰向けに倒れていたのはまさかの俺だった。
見開かれた両の目の右側が真っ赤に染まり、その上である側頭部から流れる夥しい量の血が床を湿らしている。
ここっ、これって!?
「早く回復をされた方がよろしいかと」
パニックになりかけていた俺の頭が、その落ち着き払った控えめな言葉を受け冷静さを取り戻す。
そそっ、そうですね!
俺は感謝の念を込めながら声の主であるヴィクトリアさんに視線を向けた。
しかしヴィクトリアさん、いつものように誇らしげにこちらを見ながら眼鏡を扱うのではく、今回は俯き加減でそっぽを向いてしまう。
と言うか回復だった!
でも今の俺、幽体離脱してるみたいだから回復魔法を使えな——
って、今使ったばかりじゃないか!?
不思議な感じだけど、俺は即座に白濁球を作り上げると倒れる俺の身体にぶつけていく。
傷は一瞬で治り、見開かれた両の目も自然と閉じられた。
あとは身体に戻ればいいのかな?
その時聞こえる、悲痛な声で俺の名を叫ぶ真琴の声を。
見ればクロさんと一緒に足元の敵を黒い霧に変えながらこちらまで後退してきていた。
そしてある程度まで下がると踵を返し駆けてくる。
「真琴、多分もう大丈夫だよ」
言って思う、この声って聞こえないのかもと。
あとこのままだと俺と真琴が激突するかもだけど、幽体みたいだからすり抜けるのかな?
なんて考えていると声が聞こえる。
「いけません、それはまだ早——」
珍しくヴィクトリアさんの焦った声。
そして幽体の俺に何も知らない真琴が接近して——
『バチィジィッ』
強烈な、電流のような物が身体中を駆け巡る。
思わず叫んでしまうが声にならない声。
そして俺は四つん這いになり痛みを必死に堪えていると、身体中が熱を帯びている事に気付くのであった。
そいつは、思わず目を背けたくなるような醜悪な姿のモンスターであった。
一見すると茶色く薄汚れた人という人が折り重なり山を作っているだけにしか見えないのだけど、ソウルリストが示すためこれがモンスターであることは間違いないようだ。
そいつらはだだっ広いこの部屋の天井に届くほどまで積み上がっており、ちょうど俺たちがいる入り口とは反対側の壁際にどっしりと鎮座している。
そしてこの山全体から先程のソウルリスト、借り暮らしの屍主と確認できる事から、この人で出来た山丸ごと一つで敵なのだろう。
しかし巨大で圧迫感を感じずにはいられない敵を前にしてだけど、居た堪れなくなってしまう。
だって実際目の前にあるこの屍は本当の意味の屍ではないのだろうけど、このようにモンスターとして具現化している以上、同じようなモノが過去の世に存在していたはずだから——
しかしこの部屋、妙に生暖かいな。
熱源はこの山なのだろうか?
「気をつけられて下さい、嫌な感じがします! 」
クロさんが叫んだ。
そこで山の一部、上の方の屍が赤みを帯び異様に盛り上がりをみせている事に気付く。
そして山全体が震え始めたかと思うと、次の瞬間その盛り上がり部分が斜め上方に向け盛大に弾ける!
その光景はまるで噴火をした火山。
しかし岩石やマグマの代わりに山から飛んでくるのは、人の屍。それらはこちらへ向け降ってくるが、高く上がりすぎた屍もありそれらは天井に激突している。
また元から四肢が無くバラバラのモノもあるので正確ではないが、それでもざっと数えて20体あまりが迫ってくる!
物理の法則に従って屍は人形のように、手足がブラブラと空気抵抗を受けながらに飛来。
真琴とクロさんは猛烈な落下スピードで迫る屍の雨に対し、斜め上方に向け構えを取る。
そしてアズは俺のほうをチラリと一瞬だけ見たあと、キッと同じく上方を睨みつけるようにして蜘蛛の巣状の障壁を展開。
俺はそのアズの意図を読み取り、障壁の下に逃げ込むように飛び込む!
直後、屍の雨がゴズゴズッと障壁や床に落下してくる。
かっ、間一髪、危なかった!
……あれ?
今聞こえた屍が床に落ちて来た音、えらく重そうな感じじゃなかったかな?
近くに落ちた屍をよく見てみると、落ちた拍子に足が膝からもげ更に上半身と下半身が真っ二つに分かれている。
ううぅん?
もげた足、切り離された体、共に断面が綺麗に分かれている!?
それこそ石などの鉱物みたいにパッカリと。
もしかしてこの屍、鉱物並みに硬い、もしくは鉱物そのものなのでは?
とその時、噴火を終え凹んで見えていた部分が、まるでその場所で蛇でも這いずり回っているのではといった感じで高速で光り始める。
そしてそれは一瞬で終わったのだけど、その直後にゴゴゴゴッと地響きみたいな音を立てて下から折り重なる屍がせり上がり、出来ていた穴を塞いでしまった。
そしてそれは唐突であった。
山の至る所が赤みを帯び始める中、その内の一つ、中腹付近で小規模噴火みたいのが起きた!
それによってその部分にあった屍数体の体がバラバラになりながらも横方向へ向け散弾銃のように散りばめられる。
そしてその内の一つ、一本の腕がクルクルと横回転しながら真琴とクロさんの間をすり抜けたのが目に入った。そして咄嗟の事でアズの隣で動けずにいる俺へ目掛け、まるで吸い込まれるようにして迫り——
やばい、あれもかなり重く硬いのでは!?
俺は手を前に出して飛来物を防ごうとするが、迫る腕が回転していたため綺麗に俺の手をすり抜けてしまう。
直後頭に走る重く鈍い衝撃。
斜めに持っていかれる視界。
そしてぐるんと世界が回った後、意識は千切れるようにして無くなってしまった。
◆
ん? ……天井が見える。
そこで意識が戻りよいしょと上体を起こすが、焦点が合わない。
俺はなにをしていたんだ?
薄暗い辺りを見渡す。
ここはダンジョン、のようだ。
そして一瞬、腕が回転しながら飛んで来る映像がよぎる。
……腕が回転?
焦点が合ってくる。
そして真正面に見えるのは、真琴とクロさんが降ってくる屍を躱す姿。
また床の至る所には屍がそこかしこに転がっていて——
一気に冴えわたる頭。
まだ戦闘中だ!
どれだけ意識が飛んでいたんだ!?
即座に白濁球を作り上げながら再度周囲を確認する。
この広い部屋の半分以上が屍で覆い尽くされており、左手側である部屋の奥には屍の山が依然鎮座している。
アズは右手側である入り口付近で障壁を張り、部屋の隅には傍観しているヴィクトリアさんの姿が。
兎に角いつの間にかみんなと離れすぎてしまっているから近付いておかないと!
そして真琴たちの方へ走りながらに気付く、真琴が時折床に転がる屍に向かって攻撃をしている事に。
……いた!
暗くてよくは見えないが、磯にいるフナムシや家庭に潜む生きている化石と言われる昆虫ぐらい素早い何かが、屍と屍の間を移動している。
大きさは丸型のお掃除ロボットぐらいはありそうだ。
しかし真琴、さっきからえらく後方であるアズの方を気にして戦っているけど——
そこで嫌な汗が出てくる。
もしかしてまた、アズが大怪我をしているのでは!
くそっ、下手に大きく移動するのは危険そうだから近かった真琴たちの後ろへ向かったわけだけど、判断ミスをしたのかもしれない。
兎に角聞かないと!
アズは痛みとかを表情に出さないし。
「アズ、どこか痛めてるなら言ってくれ! 」
しかしアズはなにも答えない。
それどころか完全に無視をされているような気さえする。
いや、険しい表情にひたいには汗が浮かんでいる事から、こちらに気を向ける余裕がないのかもしれない。
それならしらみ潰しに回復魔法を当てるのみ!
白濁球の飛来に驚きを見せるアズに対し問答無用でぶつけながら俺はアズの方へ駆ける。
「あんた、無事なの!? 」
アズが言った、自身の足元に向けて。
ん、どゆこと?
アズの足元に誰かいるの?
そして明かりが乏しいアズの足元、屍と屍の間から見知った脚が見え始めてくる。
真琴と一緒に買ったシンプルで無骨な黒のブーツと、学生ズボン。
これって……俺だよね?
仰向けに倒れていたのはまさかの俺だった。
見開かれた両の目の右側が真っ赤に染まり、その上である側頭部から流れる夥しい量の血が床を湿らしている。
ここっ、これって!?
「早く回復をされた方がよろしいかと」
パニックになりかけていた俺の頭が、その落ち着き払った控えめな言葉を受け冷静さを取り戻す。
そそっ、そうですね!
俺は感謝の念を込めながら声の主であるヴィクトリアさんに視線を向けた。
しかしヴィクトリアさん、いつものように誇らしげにこちらを見ながら眼鏡を扱うのではく、今回は俯き加減でそっぽを向いてしまう。
と言うか回復だった!
でも今の俺、幽体離脱してるみたいだから回復魔法を使えな——
って、今使ったばかりじゃないか!?
不思議な感じだけど、俺は即座に白濁球を作り上げると倒れる俺の身体にぶつけていく。
傷は一瞬で治り、見開かれた両の目も自然と閉じられた。
あとは身体に戻ればいいのかな?
その時聞こえる、悲痛な声で俺の名を叫ぶ真琴の声を。
見ればクロさんと一緒に足元の敵を黒い霧に変えながらこちらまで後退してきていた。
そしてある程度まで下がると踵を返し駆けてくる。
「真琴、多分もう大丈夫だよ」
言って思う、この声って聞こえないのかもと。
あとこのままだと俺と真琴が激突するかもだけど、幽体みたいだからすり抜けるのかな?
なんて考えていると声が聞こえる。
「いけません、それはまだ早——」
珍しくヴィクトリアさんの焦った声。
そして幽体の俺に何も知らない真琴が接近して——
『バチィジィッ』
強烈な、電流のような物が身体中を駆け巡る。
思わず叫んでしまうが声にならない声。
そして俺は四つん這いになり痛みを必死に堪えていると、身体中が熱を帯びている事に気付くのであった。
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