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第2章

第33話、揺れるヴィクトリア

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 先頭を行くクロネディアさんが、邪魔な小枝を手刀で斬り落とし、同じく邪魔な背の高い雑草は踏み折って駆けて行きます。
 そんな彼女の後を、真琴さんを背負うユウト様は息を切らしながらもペースを落とす事なくついて行っています。

 今回ユウト様たちは、魔術師の洋館のダンジョンを攻略後、その崩壊に立ち会うことなくすぐにその場を離れました。

 それはこの星の神から権限を奪った者たちが、ダンジョン崩壊を知れば高確率でその場に集まってきてしまうからです。
 あちらは一人欠けた事により、残された列席者たちの心に乱れが生じています。そのため中には当初の目的を後回しにしてまで仲間を消滅させた者、すなわち私たちを探し出そうと躍起になっている者たちも出ています。

 ただ現在、私の縛りの副産物として、真琴さんとダークネスさんの気配はかなり接近をゆるさない限り察知される事はないでしょう。
 また気配を虚ろにしている私は、二人以上に察知される事はなく、ユウト様に至っては真琴さん以外、目視しない限り見つけ出すのは宇宙に漂う砂つぶを見つけ出すくらい難しいはず。

 しかし、それでも巡り合わせとは起きてしまうもの。
 現にこのままのスピードで真っ直ぐ進めば列席者の一人と5分19秒後に、助言をして進路変更をはかってみても9分以内には遭遇してしまうでしょう。

 ……この相手、実質ダークネスさん一人の戦力では高確率で全滅してしまうでしょう。
 かと言って、ダークネスさんとユウト様が合体をしたとしても、真琴さんとの合体以上に動けないまま終わってしまいますし。
 とにかくこのまま行けば、遅かれ早かれユウト様はまた転生をする事になるわけですが、そうなると必然的に彼女たちは消滅をしてしまうわけで——

 ……?
 おかしいです。
 先程からの私、そうなる自体を避けようと思考を巡らせています。
 それに私は、この私が迷っているというのでしょうか?
 傍観者であると決めたはずのこの私が。

 ユウト様は時には大往生で眠りにつき、時には戦さ場で命を落とし、時には人を逃して代わりに犠牲になるなどして天寿を全うしてきました。
 そんなユウト様の数多の死を見届けてきた私は、今まで通り今世のユウト様が亡くなればまた転生された姿を見続ける、ただそれだけのはずなのに。

 ……しかし改まって考えてみると、ただ見ていると言うのはなんだか面白くないと考える私も居たりします。

 なぜ私はこんなにも考えを巡らせてしまっているのでしょうか?
 少し検証をしてみましょうか。
 今までと今回の相違点を考えてみると、今回初めてユウト様本人と接触を行いました。
 確かにこの事実は、私にかなりの影響をもたらしていると思われます。
 ただそれだけで、こんなにも揺らいでしまうものなのでしょうか?

 いえ、それだけではありませんでした。
 私と似通った存在である彼女ら、ダークネスさんの前へ進もうとする貪欲な生き方、そして真琴さんの一途な生き方を間近で見て、それで少しばかり揺れているのです。
 私の考えが……いえ、心が。

 私もそんな風に共に時間を過ごしてみたい、のでしょうか?
 しかしそれは——

 ユウト様の少し前を、楽しそうに疾走するダークネスさんが目に入ります。
 この状況を楽しんでいるようで、その姿があの方の姿とダブって見えます。
 そう、彼女はまだまだ幼いですが、我々の中でも特異な存在であり、時が経てば必ずや我々と同等にまで昇り詰める存在でもあります。
 私は依然、ダークネスさんにあるがままに存在する事を、生きる事を伝えましたが、それは以前私があの方に言われた言葉でもあります。

 その言葉があったからこそ、私はあの方たちを理解するため、同じステージにいつか上がるために、ユウト様を見続ける選択を己が使命と判断しました。

 そうです。長い時の中で思い出す事をせず忘れていましたが、私は誰に強制されるでもなく、自身の意思で傍観者となっていたのです。
 つまりここでユウト様たちを助けるか助けないかは、私の自由なのです。

 ただここで行動を起こしてしまっても、私が真似て編み出したこの縛りが、こちらのお借りしている御身体に牙を剥く事になります。
 それは絶対に許されない事。
 しかしこのままでは、私の目の前で皆さんが——

『かまわんよ、お前が好きなようにするがいい』

 荒々しくも精彩を放つ、それでいて美しい音色の調べのような声が頭の中で響きました。

「……お目覚めでしたか」

『ああ、先程からお前の思考が激流の如く流れ込んで来てたからな』

「気付かなかったとはいえ、失礼いたしました」

『くくっ、お前は本当に真面目だな。
 そしてそんなお前がいるからこそ、私は七番目として存在できるのだ』

「勿体無いお言葉です」

『それよりヴィクトリア、お前はどうするのだ?
 ユウトたちを助けるのか?
 今お前に与えている身体は、我のほんの一部に過ぎぬ。
 仮に消滅する事があったとしても、我は蚊程も痛くないが? 』

「ですが……それでは——」

 そこで私の身体が、星の重力で押し潰されそうな程の負荷を感じ始めます。
 この力は七番目様……。
 そして実際に私は前方へと盛大にこけてしまっていました。
 そのためお借りしているお身体が泥まみれになってしまっています。

『ヴィクトリア、我はお前の本心を聞いているのだ!
 つまらん遠慮なんぞするならば、例え我が半身であるお前でも容赦はせんぞ! 』

「ヴィクトリアさん! 大丈夫ですか!? 」

 ユウト様が脚を止めこちらに引き返すと、うつ伏せに倒れてしまっている私に向け手を差し伸べてくれます。
 私はそこで、心の底から心配そうにしているユウト様の手を握ると起き上がります。

「七番目様、私は……助けたいです。
 例え私が縛りを受けたと同時に耐えきらず、消滅してしまう事になったとしても。
 皆さんの今の輪を崩したくはありません」

『大元の自我が消滅する可能性が高い事もわかった上での決断か。
 くくっ、わかった。
 仮にお前が消滅したならば、われがヴィクトリア、お前の後を引き継いでやろうではないか』

「よろしいのですか? 」

『あぁ、お前が我に意見するのは今回で二度目だが、お前はその間もしっかりと役目を果たし続けてくれているからな。
 それに確かにお前を取り込みはしたが、今では我はお前であり、お前が我でもあるのだ。
 故にお前が自由に動きたくなる衝動は、我の影響なのかもしれん』

 そこで七番目様の切れ長で美しい瞳が、ユウト様の背中を見据えたところで固定されます。

『お前もわかっている通り、我らが誕生する遥か昔、ユウトが破滅の象徴である三番目になろうとする存在を身を呈して救いシステムとして今もなお、一つの例外なく全ての大宇宙に干渉し続けていなければ、三番目に近しい属性の我は七番目の超越者と至るどころか、恐らく消し去られていただろう。
 つまりあいつには、我も大恩があるのだ』

「……お礼申し上げます」

 ユウト様たちと共に走り出していた私は、そこで念話を使いユウト様に語りかけます。

『ユウト様、急用が出来ましたので、少しばかり退席させて頂きます』

「え? あの、ヴィクトリアさん? 」

 そうして私は転移を行いました。

 そして転移先、カザラク街道を一人疾走していた男が突然現れた私に気がつくと同時に、腰の長剣を抜き放ち私に対して斬りつけてきました。
 私はそれに対して、ユウト様の白濁球と同じような形状である、最小版の蒼の世界を自身の前に展開。

 そのため蒼の世界に触れた男の長剣は、その全てが溶けて無くなりました。
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