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第3章

第16話、デートどうだった?

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 地面にめり込んだライトニングをそのままにして立ち去った日の晩、みんなで晩飯を摂ったあと、同室である真琴と宿屋の一室に戻っていた。
 因みにあとは寝るだけなので、俺と真琴は先日クロさんが購入してくれていた寝巻きに着替えている。

 ……しかし間が持たない。

 なにか会話のきっかけとなるものはないだろうか?
 壁のシミの数を数えていた俺は、ふらふらと窓の方へと流れていく。

 あっ!
 先ほどと違って、窓から見える外は満天の星空になっていた。

 よしこれだ!

「ほんと星って綺麗だよね、ずっと見ていても飽きがこない」

「うん」

「真琴もこっちにおいでよ」

「今は、いいかな」

 そう言うと真琴はポフッとベットに腰掛ける。
 そう、彼女は先程から元気がない。

 ついさっき、みんなでテーブルを囲んでの晩飯時は、そんな事はなかったのに。
 部屋に入ってからは、糸が切れた人形みたいに突然である。

 体調が悪い訳でもないらしい。
 しかし先程から話しかけても、今のようにすぐに会話が途切れてしまっている。

 これはやっぱりアズとデートをした事が原因、だよね。

 でもどうしよう?

 俺の中では真琴とアズ、二人を大切に思う決心がついた。
 そして出来るならば、二人を幸せにしたい!
 ただそれを今言うべきではない事は、なんとなく分かっている。
 分かってはいるのだけど、しかし俺も異世界に来ているため明日はどうなっているか正直分からない状態であると思う。
 だから悔いがないよう、やれる時にやって、言える時に言うと決めたのだった。

 つまり、要は伝え方、だと思う。

 もしかしたら真琴は、俺が彼女のことを理解していないと感じているかもしれないし、逆に俺の事も完全に理解していないのかもしれないから。

 ……言うぞ。
 そして俺が話しかけようとする直前、真琴が口を開いた。

「なんかごめんね。
 それに君が昨日、ずっと起きて看病してくれてたから、ボクは安心して静養する事が出来たんだ。
 そのお礼をまだ言ってなかったね。
 ……ありがとう」

「いや、大した事ではないよ」

 完全にペースを掴み損ねたため、相槌程度の返事しか出来なかった。
 そしてそこへ、真琴が核心を突く質問をして来る。

『それで、デートはどうだった? 』っと。

 適当に答えてはぐらかすのも、一つの手なのかもしれない。
 問題解決の材料として時間を使うわけだ。

 でも今回の根底にある問題は、完全にハッキリしておかないといけないと思う。
 そうしないと延々彼女を苦しめ続ける、毒となってしまう気がするから。

「真琴、俺は真琴が大切だ。でもそれと同じくらいに、アズも大切に思っているよ」

 沈黙。

 そしてそれを聞いた真琴の表情に変化はなかったのだけど、しばし遅れて真琴の表情に笑みが浮かんできた。
 悲しそうな、とても悲しそうな乾いた笑みが。
 そして真琴の瞳から、一雫の涙がこぼれ落ちた。

「ボクは身を引くよ」

「……え? 」

 血の気が一気に引くのがわかる。

「それはダメだ! 」

 即答した!
 怖くて怖くて、なにか話さないと思い即答した。

 するとベットに腰掛けていた真琴が、脚をベットの外に投げ出したままパタンと横に倒れ寝転ぶと、布団と自身の腕に伏したままピクリとも動かなくなる。

 ……このままでは最悪の状態になる。
 どうしよう?
 俺は世界中の誰よりも真琴を愛している。
 それは間違いない事実。
 それさえ伝われば、伝わりさえすれば!

 そこで横になり顔を伏している真琴が、微かに震えている事に気付く。
 声に出して泣くのを、どうにかこうにか抑えているってかんじだ。

 その姿を見て、胸に痛みが走ると共に、血が上っていた頭が一気に冷めていく。

 真琴をこんな目にあわせたのは、いったい誰だ?
 それに俺はなに自分勝手な考え方をしているんだ?
 真琴が目の前で悲しんでいるのに。

 真琴は正常な精神状態ではない。
 しかし俺が今から言おうとしていた事は、そんな聞く態勢が出来ていない真琴に対して、一方的に愛してるよと無理矢理押し付けようとしていた、である。

 これではニュースで放送される事件やサイコ映画などに出てくる、アイドルの狂ったファン、ストーカー達と一緒じゃないか。
 愛さえ伝えれば、本気で相手は俺を好きになってくれると思い込んでいる。
 だから違った反応を示すアイドルに裏切られたと腹を立てて犯行に及んでしまう。

 そんな伝え方は自分だけが気持ちよくなる、単なるマスターベーションなのに。

 真琴は今、俺の考えを聞きたいわけではない。
 現にこうして悲しんでいるのだから、本人が自覚してなくても、一番はその悲しみから逃れたいはずなんだ。
 俺はその悲しみ、苦しみを和らげてあげたい。

 それにはやはり、真琴の話を聞いてみないと。

「その、怒鳴ってごめん。
 あと隣に座っていい? ……座るよ」

 返事がないので許可なく、倒れた真琴のお尻側のベットに腰掛ける。

「真琴、話をしようよ」

 そして沈黙の後、真琴がボソリと呟く。

「ボクの事、嫌いになっちゃったんだよね? 」

 その声は今にも消えてしまいそうなくらい、小さな声だった。

「なんで、そう思うの? 」

「だって最近の君は、なんだかボクだけ扱いが雑な気がするんだ。
 ダンジョンでも、街の中でも」

 たしかに思い当たる節はある。
 でもそれは——

「……そんな風に感じていたんだ、今までごめんね。
 真琴が雑に感じたのは、俺が真琴を特別な存在だと思っているから。
 だから知らず知らずのうちに、素の状態の自分を見せてしまっていたんだと思うんだ。
 それと街の中って今朝の事、だよね?
 その、真琴にどんな風に接したらいいのかわからなかったんだ。
 結果距離をとってしまって不安にさせてしまったんだね」

 そこで俺は立ち上がると、未だ布団に顔を埋めている真琴の頭の方へ座り直す。
 そして真琴の頭を優しくゆっくりと撫でながら話を再開させる。

「俺はただ真琴と一緒にいるだけで楽しかった。
 真琴と別れることを想像するだけで、悲しくて、苦しくて、胸が痛い。
 俺はこれから先もずっと、真琴と一緒にいたいし、いつかは結婚して子供もたくさん欲しい。
 あと歳とっても、一緒に日向ぼっこをしたい。
 だから考え直して欲しい、……俺を捨てないで欲しい」

 そこで真琴が自身の腕枕から顔を僅かに上げ俺の方を見る。
 それは初めて見る、今までで一番不安げで弱々しい涙で濡らした真琴。

「ボクが君を捨てるわけないの、知ってるでしょ」

 俺は床に膝立ちになる。
 そして横になる真琴の顔の前に来ていた手を握ると、顔を寄せ微かに触れるくらいの優しいキスをした。

「よかった」

 キスの後、顔が触れる距離でそう言った。
 すると真琴は寝返りをうち、俺に背中を向けた状態で布団を被る。

「……ギュッてして欲しい、かな」

「わかった」

 真琴の後ろから布団に入り横になると、心地よい暖かさがする真琴の背中に密着する。
 そこから真琴の首と枕の間から腕を回すと、真琴の首の上を経由して上にきているほうの肩を掴んだ。
 そしてもう片方の腕を、身体の上から回すようにして真琴の下にきているほうの肩を掴もうとしたのだけど……。

 ぷにっ。

「っん」

 あれ、この感触は——!?
 俺の手が幸せな感触を掴み取ると、真琴が声を漏らした。
 いや、今はエッチな事はしないほうが良いと思う!
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