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第3章
第28話、女神リア
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俺の記憶にはヴィクトリアさんの記憶が今もある。
でも消滅って綺麗に無くなる、存在が元から無いものになるとかだと思うから、思い出す事すら出来ないとかじゃないのかな?
そこで現在のヴィクトリアさんである七番目と呼ばれる存在から、ある可能性が伝わってきていた。
——これって。
『あぁ、その通りだ。ヴィクトリアは生きている。
消滅だけはなんとか免れた。
ただし崖っ淵の限りなくギリギリのところで僅かに引っかかっている形ではあるのだがな』
ヴィクトリアさんが、生きている!
ただそれだけで身体に温もりが戻ってくる。
『まぁギリギリと言っても猶予は過分にあるでの、そこは安心するがよい。
ゆえにまずは先にアレを始末するから協力せぬか』
いいですけど、どうすれば良いんですか?
真琴の時は呼吸を合わせるのにかなり苦労した思い出がある。
すると俺の考えを嘲笑うかのような感情が伝わってきた。
『至極造作の無い事。
我が道を示すがゆえ、ユウトはそれに応えるのみで良い』
えーと、それはつまり、俺に合わせてくれるって事、ですよね。
でもそれだと、真琴の時みたいに痛みが走ってうまくいかないのでは?
『我を他の者と同列に考えない事だ。
それにヴィクトリアほどうまくいかないにしても、あれは我が一部でもある。
アレが自信満々にできるという事を、我が出来ない道理はない』
わっ、わかりました。
それでは支持をお願いします!
『——うむ、我が合図をしたら、この部屋全ての空気が炎に包まれるイメージをするがよい。
ただそれだけで良い』
それなら簡単ですけど、もちろん真琴たちは巻き込まないですよね?
『当然だ。あとの細かな調整は我が行うゆえ心配するな』
そしたら掛け声はどうします?
『例のやつで構わん』
わかりました!
『では行くぞ! 』
はい!
そこで声がハモる。
『『いっせーの、せい! 』』
言い終わると同時に、頭の中に電流が駆け巡った。
その際、あろう事か七番目さんが意識を失っちゃった!?
と言うか、俺の方もあまりの痛みに意識が朦朧とし、舌先を中心に口内が痺れる。
痛みは首筋から脊髄にかけても走り強制的に身体を仰け反らせてしまっている。
そして結果はというと、炎は出なかった。
つまり失敗して——
とそこで気がつく。
俺たちが自由落下を始めている事に。
このままだと地面に激突!?
ヴィクトリアさん、しっかりして下さい!
ヴィクトリアさん、七番目さん!
そこで上下逆さまになっている俺たちの足首に何かが巻きついた。
これは鎖!
宿屋で俺の動きを制限した時の鎖が、同じように空間から生えるようにして現れ、ジャラジャラと音をたて落下のスピードを落とし最後には宙ぶらりんの状態で静止させた。
たっ、助かった。
しかし次の瞬間、まるで四肢がバラバラに引きちぎられるような程の激痛と共に脚が強制的に大きく動く。
七番目さんが力の限り脚を動かし、鎖を引きちぎった勢いそのままで縦回転をして地面へスタリと降り立ったのだ。
その時俺はと言うと、あまりの激痛に声を出せずにいた。
この痛みは鎖を引きちぎったからではない。
七番目さんが俺とバラバラの動きを行った事による痛みだ。
そして俺がこれだけの痛みを感じているという事は、七番目さんは途方もない痛みを感じているはずなのに——
七番目さんは獰猛な笑みを浮かべていた。
そして次の瞬間、ヴィクトリアさんの目が座る。
今度は右手が激痛と共に頭上高く挙げられた。
またその身体から今にも飛びかかりそうな勢いでドス黒い闘気のようなモノが溢れ出し、また同じようなドス黒い感情が俺の方へと流れ込んでくる。
はぁはぁ、七番目さん、俺を完全に無視している!?
それって、真琴やアズたちも危ないのでは!?
『天地の両界を焼き尽くす我が炎で、この場の全てを煉獄に導いて——』
そして七番目さんの声と共に、頭の中に映像が流れ込んでくる。
火柱をあげる、炎すら焼き尽くす別次元の世界の炎、黒焔が。
その黒焔が体内から漏れ出し、あとは意識を敵に向けるだけで——
『緊急時ですので、失礼致します』
頭に女性の声が響いた。
『グガッ! 』
そしてヴィクトリアさんの中にいる七番目さんの苦しそうな声が聞こえた。
ってこの、この声って!?
もしかしてヴィクトリ——。
『——いいえ、違います』
俺の言おうとした問いが先に答えられてしまった。
『……くくくっ』
そこで七番目さんの笑い声が聞こえた。
ただし既に怒りは収まっているようだ。
『ユウト、勘違いさせてしまってすまないな。……今した声は別物だ』
そこで七番目さんの意識が、ヴィクトリアさんの中で新たに現れた人格へと向けられる。
『我は冷静さを欠いておるでの——』
『わかりました』
そして新たに現れた人格が俺の方に意識を向けた。
『初めましてユウト様。
私はヴィクトリアであり、ヴィクトリアではない存在——
例えるなら、頭部を失ったヴィクトリアの身体が、新たに作り出したスペアの頭部と考えて頂いて問題ありません。
そしてその目的は、失った頭部を元どおりに復元させるためであり、私は呼び戻すための下地として使われる土台となる部位にあたります。
そのためヴィクトリアが有する今までの記憶はありませんけど、ヴィクトリアが戻れば綺麗に上書きされますので安心して下さい』
「そっ、そうなんですね」
『それとユウト様、僭越ながらこの場は七番目様の代わりに私がユウト様のお相手をさせて頂きます。
不束者ではありますが、よろしくお願い致します』
「わかりました、よろしくお願いします!
でもそしたら、呼び方はどうすればいいですか?
ヴィクトリアさんと呼んでも構わないですか? 」
「一時の間しか存在しない私には、七番目様の側に仕えるヴィクトリアの名は重すぎます。
ですので私の事は、……そうですね、リアとお呼び下さい」
「わかりました。リアさん、よろしくお願いします! 」
『それでは先ほどと同じように、掛け声と共に炎をイメージしてみて下さい』
「わかりました! 」
『イメージが出来ましたら、ユウト様の心の準備が出来次第行いますので、よろしければお声をかけて下さい』
「わかりました。——そしたらお願いします! 」
『それでは、参ります! 』
「はい! 」
『『いっせーの、せい! 』』
頭に発生した爽やかな風が、先ほどの電流と同じように脊髄を通り身体に拡散される。
『ふぅあっ』
リアさんが前髪を乱し心地良さそうな、それでいて艶やかな声を漏らした。
しかし先ほどとは打って変わり、多少ある痛みを完全に掻き消す程の爽快感が身体を支配した。
俺とリアさんは、ふわふわとした夢心地でなにも考えられなくなっていた。
それからどれくらいの時間が経過したのだろう?
意識が徐々に回復していく中、正面に捉えていた揺れる陰が、黒き焔に包まれた二面樹である事を思い出していく。
そして枝を揺らしツタを闇雲に動かしのたうち回っていた二面樹は、時折黒き焔と黒き焔の隙間から燃え上がる真っ赤な炎を鮮血のように吹き出しながら、凄まじい勢いで全てを焼かれやがて完全に動かなくなる。
そうして巨木は、静まり返ったダンジョン内にパチパチと揺れる炎に混ざりパキパキッと炎により幹や枝がはぜる音を鳴らした。
しかしここまで大きかったんだ。
このフロアにきた時は暗くてわからなかったのだけど、二面樹の枝は最初から湖の上にまで伸びていたようで、それらの枝にも炎が灯ることによりその事実に今気がついた。
しかし綺麗だな——
暗闇を照らす赤と黒の焔は、湖という名の鏡に映し出される事によって、ずっと見入ってしまう幻想的な光景を俺たちに見せてくれてた。
でも消滅って綺麗に無くなる、存在が元から無いものになるとかだと思うから、思い出す事すら出来ないとかじゃないのかな?
そこで現在のヴィクトリアさんである七番目と呼ばれる存在から、ある可能性が伝わってきていた。
——これって。
『あぁ、その通りだ。ヴィクトリアは生きている。
消滅だけはなんとか免れた。
ただし崖っ淵の限りなくギリギリのところで僅かに引っかかっている形ではあるのだがな』
ヴィクトリアさんが、生きている!
ただそれだけで身体に温もりが戻ってくる。
『まぁギリギリと言っても猶予は過分にあるでの、そこは安心するがよい。
ゆえにまずは先にアレを始末するから協力せぬか』
いいですけど、どうすれば良いんですか?
真琴の時は呼吸を合わせるのにかなり苦労した思い出がある。
すると俺の考えを嘲笑うかのような感情が伝わってきた。
『至極造作の無い事。
我が道を示すがゆえ、ユウトはそれに応えるのみで良い』
えーと、それはつまり、俺に合わせてくれるって事、ですよね。
でもそれだと、真琴の時みたいに痛みが走ってうまくいかないのでは?
『我を他の者と同列に考えない事だ。
それにヴィクトリアほどうまくいかないにしても、あれは我が一部でもある。
アレが自信満々にできるという事を、我が出来ない道理はない』
わっ、わかりました。
それでは支持をお願いします!
『——うむ、我が合図をしたら、この部屋全ての空気が炎に包まれるイメージをするがよい。
ただそれだけで良い』
それなら簡単ですけど、もちろん真琴たちは巻き込まないですよね?
『当然だ。あとの細かな調整は我が行うゆえ心配するな』
そしたら掛け声はどうします?
『例のやつで構わん』
わかりました!
『では行くぞ! 』
はい!
そこで声がハモる。
『『いっせーの、せい! 』』
言い終わると同時に、頭の中に電流が駆け巡った。
その際、あろう事か七番目さんが意識を失っちゃった!?
と言うか、俺の方もあまりの痛みに意識が朦朧とし、舌先を中心に口内が痺れる。
痛みは首筋から脊髄にかけても走り強制的に身体を仰け反らせてしまっている。
そして結果はというと、炎は出なかった。
つまり失敗して——
とそこで気がつく。
俺たちが自由落下を始めている事に。
このままだと地面に激突!?
ヴィクトリアさん、しっかりして下さい!
ヴィクトリアさん、七番目さん!
そこで上下逆さまになっている俺たちの足首に何かが巻きついた。
これは鎖!
宿屋で俺の動きを制限した時の鎖が、同じように空間から生えるようにして現れ、ジャラジャラと音をたて落下のスピードを落とし最後には宙ぶらりんの状態で静止させた。
たっ、助かった。
しかし次の瞬間、まるで四肢がバラバラに引きちぎられるような程の激痛と共に脚が強制的に大きく動く。
七番目さんが力の限り脚を動かし、鎖を引きちぎった勢いそのままで縦回転をして地面へスタリと降り立ったのだ。
その時俺はと言うと、あまりの激痛に声を出せずにいた。
この痛みは鎖を引きちぎったからではない。
七番目さんが俺とバラバラの動きを行った事による痛みだ。
そして俺がこれだけの痛みを感じているという事は、七番目さんは途方もない痛みを感じているはずなのに——
七番目さんは獰猛な笑みを浮かべていた。
そして次の瞬間、ヴィクトリアさんの目が座る。
今度は右手が激痛と共に頭上高く挙げられた。
またその身体から今にも飛びかかりそうな勢いでドス黒い闘気のようなモノが溢れ出し、また同じようなドス黒い感情が俺の方へと流れ込んでくる。
はぁはぁ、七番目さん、俺を完全に無視している!?
それって、真琴やアズたちも危ないのでは!?
『天地の両界を焼き尽くす我が炎で、この場の全てを煉獄に導いて——』
そして七番目さんの声と共に、頭の中に映像が流れ込んでくる。
火柱をあげる、炎すら焼き尽くす別次元の世界の炎、黒焔が。
その黒焔が体内から漏れ出し、あとは意識を敵に向けるだけで——
『緊急時ですので、失礼致します』
頭に女性の声が響いた。
『グガッ! 』
そしてヴィクトリアさんの中にいる七番目さんの苦しそうな声が聞こえた。
ってこの、この声って!?
もしかしてヴィクトリ——。
『——いいえ、違います』
俺の言おうとした問いが先に答えられてしまった。
『……くくくっ』
そこで七番目さんの笑い声が聞こえた。
ただし既に怒りは収まっているようだ。
『ユウト、勘違いさせてしまってすまないな。……今した声は別物だ』
そこで七番目さんの意識が、ヴィクトリアさんの中で新たに現れた人格へと向けられる。
『我は冷静さを欠いておるでの——』
『わかりました』
そして新たに現れた人格が俺の方に意識を向けた。
『初めましてユウト様。
私はヴィクトリアであり、ヴィクトリアではない存在——
例えるなら、頭部を失ったヴィクトリアの身体が、新たに作り出したスペアの頭部と考えて頂いて問題ありません。
そしてその目的は、失った頭部を元どおりに復元させるためであり、私は呼び戻すための下地として使われる土台となる部位にあたります。
そのためヴィクトリアが有する今までの記憶はありませんけど、ヴィクトリアが戻れば綺麗に上書きされますので安心して下さい』
「そっ、そうなんですね」
『それとユウト様、僭越ながらこの場は七番目様の代わりに私がユウト様のお相手をさせて頂きます。
不束者ではありますが、よろしくお願い致します』
「わかりました、よろしくお願いします!
でもそしたら、呼び方はどうすればいいですか?
ヴィクトリアさんと呼んでも構わないですか? 」
「一時の間しか存在しない私には、七番目様の側に仕えるヴィクトリアの名は重すぎます。
ですので私の事は、……そうですね、リアとお呼び下さい」
「わかりました。リアさん、よろしくお願いします! 」
『それでは先ほどと同じように、掛け声と共に炎をイメージしてみて下さい』
「わかりました! 」
『イメージが出来ましたら、ユウト様の心の準備が出来次第行いますので、よろしければお声をかけて下さい』
「わかりました。——そしたらお願いします! 」
『それでは、参ります! 』
「はい! 」
『『いっせーの、せい! 』』
頭に発生した爽やかな風が、先ほどの電流と同じように脊髄を通り身体に拡散される。
『ふぅあっ』
リアさんが前髪を乱し心地良さそうな、それでいて艶やかな声を漏らした。
しかし先ほどとは打って変わり、多少ある痛みを完全に掻き消す程の爽快感が身体を支配した。
俺とリアさんは、ふわふわとした夢心地でなにも考えられなくなっていた。
それからどれくらいの時間が経過したのだろう?
意識が徐々に回復していく中、正面に捉えていた揺れる陰が、黒き焔に包まれた二面樹である事を思い出していく。
そして枝を揺らしツタを闇雲に動かしのたうち回っていた二面樹は、時折黒き焔と黒き焔の隙間から燃え上がる真っ赤な炎を鮮血のように吹き出しながら、凄まじい勢いで全てを焼かれやがて完全に動かなくなる。
そうして巨木は、静まり返ったダンジョン内にパチパチと揺れる炎に混ざりパキパキッと炎により幹や枝がはぜる音を鳴らした。
しかしここまで大きかったんだ。
このフロアにきた時は暗くてわからなかったのだけど、二面樹の枝は最初から湖の上にまで伸びていたようで、それらの枝にも炎が灯ることによりその事実に今気がついた。
しかし綺麗だな——
暗闇を照らす赤と黒の焔は、湖という名の鏡に映し出される事によって、ずっと見入ってしまう幻想的な光景を俺たちに見せてくれてた。
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