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第4章

第4話、戦闘訓練

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「センジュちゃん、ありがとうございます」

 クロさんだ。センジュからはメス猫呼ばわりされているのに、きちんとお礼を言えるのはやはり出来た人なんだと思います。

「これくらい朝飯前」

「私も負けられませんね」

そうか、クロさんも索敵能力があるんですよね。

「クロさんも索敵良いんですか? 」

「はい、ただ私、探索用の魔法は魔力に応じて索敵範囲に大きく違いが出るそうですし、なにより展開中は肉体と連動し辛くて咄嗟に動かないそうなので、覚えていないのです。その代わり一方向限定、前方だけなら集中でカバー出来るので任せて下さい! 」

 そう言いながらクロさんがスカートの中から、二本のナイフを抜き取る。
 俺も用心のベイヴベェを唱えておく。

 そうして俺たちはフロアボス探索を再開させる。
 因みに俺たちの隊列は、壁役の俺が先頭で次に前方索敵役のクロさん、真琴にアズときて、最後尾にリアさんとセンジュが並んで歩いている。

「ユウトさん、前方に敵、複数です! 」

 今度は、俺もやるんだ!
 無様な姿を見せたくない、俺はやるんだ! 俺がやるんだ!

「御主人様、後ろからも来てる」

 なっ、このタイミングでいきなり挟み撃ちだと!?

 いや、ここは仲間を、センジュを信じるんだ。背後は大丈夫!
 それに無様な姿を見せたって良いじゃないか!
 俺はみんなが無事なら、それでいいんだ。
 血反吐を吐こうが、俺がみんなを守る!

 そして目視で分かる距離の地面や通路の側面に、複数の陰が迫るのが見える!
 くっ、想像以上に早い!
 もう目と鼻の先にまで接近した鎧蜘蛛達にむかいツタを伸ばす。が早くて当てられない!?
 とそこでクロさんが俺と敵の間に割って入ってきた。

「硬いです! 」

 ナイフの刃が少しだけ鎧蜘蛛の胴体に突き刺さる。
 それでもクロさんは何度も振りかぶり、串刺しにして敵を霧散させる。
 敵はまだ二匹いる!
 せめてもう一匹は俺が抑えないと。それにはなんとしても動きを止めなくては!
 ならっ!

「ユウト! 」

 真琴の叫び声が聞こえる中、緑色の籠手を前面に出して突撃、飛びかかって来た敵の攻撃を受け止める!
 重い、危うく後ろに転びそうになった。
 でもやった、受け止めた、動きを止めたぞ!
 それにこの至近距離なら!

 籠手から飛び出したツタの一本が、鎧蜘蛛の一匹を貫く。ついでにクロさんが攻撃を加え足止めしている敵もズドンと串刺しにする。

 よし、倒したぞ! そして改めて実感、凄い攻撃力。
 そうだ、センジュが出来る攻撃は緑色の籠手でも出来て当然なんだ。それが出来ないのは俺の練度が低いせい。
 でもこの戦法は危険すぎるから、他の方法、早く攻撃を当てられるようにならないと。
 
 いやまてよ、考えるんだ!
 俺の攻撃は剣でいえば突き。攻撃範囲を広げるには、ムチのように扱えば!?
 それを三本に増やせばどうなる?

 そこで遅れて一匹が奥から現れた。
 こいつで試してみるぞ!
 腕を振ると同時にツタを五メートル程生やし、薙ぐように操作。
 その攻撃が直撃し、転倒し裏返る鎧蜘蛛。そこへ突撃し、腕と一緒に伸ばしたツタで近距離から串刺しにし撃破する。

 ふー、終わった。
 しかも白濁球を一つも消費せずに勝っただなんて。
 そこで後方を確認し、センジュの方も終わった事に気がつく。
 おっと、戦いが全部終わった事を確認する前に安堵してしまっていた。これは反省点だ。これからはもっと気を引き締めて行こう!

 しかし分かった事がある、俺も戦えると!

 そこから通路を進むと、すぐに開けた場所へと出てきた。
 うげっ、ここはモロ敵の根城って感じ。
 そう、その開けた場所の至る所に蜘蛛の巣が、カーテンのように張り巡らされていたのだ。蜘蛛の巣が何重にもなっている箇所は、その向こう側が見えない。

 そして鎧蜘蛛の姿もチラホラ見える。
 今のところこちらに気付いていないのか、その場から動こうとはしない。
 あのフロアボスはここにはいないのかな?
 仮に奥にいるなら、探し回らないないといけないんだろうけど。
 そだ、リアさんに聞いてみよう。

「リアさん、ここにフロアボスはいますか? 」

「いえ、ここには居ないようです」

 その言葉に俺と真琴は胸を撫で下ろす。

「そですか」

 でも今のところ戦闘は避けられないから、遅かれ早かれ対面するんですよね。まぁここは鎧蜘蛛相手に、戦闘訓練の続きをやったほうが良いかな。
 そして蜘蛛の巣を払いながら進み、襲ってくる鎧蜘蛛がいればツタを鞭のように扱い転がしてから串刺しにしていく。

 そして何匹か敵を倒して進んでいると、不意に袖を引っ張られる。センジュだ。

「御主人様、センジュの扱いがてんでだめ」

「やっぱりそうだよね。フルに力を使えなくてごめん」

「大丈夫、これから訓練、センジュ手伝う」

「えっ、いいの? 」

「センジュと御主人様の仲じゃないか」

「ありがとう、それで具体的にはどうするの? 」

 そこでセンジュが俺の左腕に腕を回してくる。

「センジュが本体に戻る」

 すると次の瞬間には、人型のセンジュが緑色の籠手に吸い込まれるようにしてその場から消えた。
そこで頭に声が響く。

『チャラララチャンランラン。射程が5メートルから20メートルにアップした。生やせる本数が5本から10本に変わった』

「説明ありがとう」

『早速練習練習、まずはアレを狙う』

声と同時に、緑色の籠手を構えた腕が一番近くの鎧蜘蛛へと向けられる。

「よし来た! 」

 その距離、約10メートル。そして攻撃をするが外してしまう。
 やっぱり狙い通りに動かすのは難しい。
 俺が狙った鎧蜘蛛は、そこでこちらに気付き迫ってき出す。

『お手本みせる』

 センジュが動かした。その反動で左腕が持っていかれそうになってしまうが、一撃で見事に霧散させる。
 なるほど、今のって——

「途中で軌道修正をしていたよね」

『そう、途中で曲げたら曲がる』

 続けて新手にもう一撃。
 おっとっと、今のは大きく体勢を崩してしまった。

『御主人様、腕だけでは駄目。身体全体で踏ん張る』

「わかった! 」

『体重移動も大切』

「なるほど! 』

 そして何匹か倒していると、リアさんから声がかかる。

「ユウト様、フロアボスです」

 その報告に、心臓がドキリと高鳴る。
 蜘蛛の巣越しにその巨大なシルエットが映る。
 そして蜘蛛の巣が薄い場所からその姿が断片的に見え始める。

 こんな姿をしていたのか。巨大な女性の顔に四対八本の蜘蛛の脚が生えた化け物。
 いや、正確には背中からお尻にかけてが人面になっている、巨大な蜘蛛の化け物。

『来る』

 人面の窄めた口の部分から、糸がこちらへ向け飛び出す。
 それを腕に引き摺られる形で回避。センジュが引っ張ってくれたのだ。

「あ、ありがとう! 」

『まだ次から次に来る』

 そのセンジュの言葉の通り、鬼姫は人面の口から糸を何度も吹きかけてくる。
 そしてその都度、左腕にいるセンジュが重心移動をして躱してくれているのだけど、完全に自身が予測する方向でないため首がゴキンゴキン音を立ててしまっています。
 腕の動きに神経を集中して、自身の身体を動かさないと。

『反撃をする』

「わ、わかった」

 そうして飛び上がった俺は、ターザンのようにツタを操る。そして糸攻撃を躱しながら、なんとか無事に鬼姫の頭上まで移動。
 そこで伸びていたツタが緑色の籠手に戻る事により自由落下を始める。そして左腕が鬼姫に向けられたため、右腕を左腕に添える。
 今から攻撃をするのだ!
 いくぞ必殺、……なんだろう?

「どりゃー」

 緑色の籠手から飛び出したMAX10本のツタ攻撃。その全てが鬼姫に直撃、串刺しにする!
 破裂音と共に黒き粒子に変わる鬼姫。と同時に、扉程の穴が現れ、その穴の部分が七色に移りゆく。
 これが噂のゲートか!

 そしてやった、撃破したぞ!
 まだ自身の力で全然動けていなかったり、必殺技の名前が決まっていない課題が残されたが、なんとかダンジョンを脱出する事が出来るぞ!
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