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26話 覚醒と別れ
しおりを挟むソウタは、予期せぬ事態に激しく焦った。
(こんな展開……原作には、なかったはずだ……!)
その瞬間、会場の天井が大きく崩れ落ち、瓦礫と共に、おぞましい魔物たちが、次々と侵入してきた。
「ぎゃああああ!」
「魔物だ!」
貴族たちは悲鳴を上げ、パニックに陥った。
しかし、近衛兵や一部の貴族たちは、すぐに剣を抜き、魔物たちと戦闘を開始した。
会場は、一瞬にして地獄と化した。
ソウタは、混乱する人々を守るため、咄嗟にシールドを全力で発動した。
彼の周囲に、強固な魔力の壁が展開され、魔物たちの攻撃を受け止める。
「みんな! このシールドの中に!」
ソウタは、声を張り上げ、貴族たちをシールドの内側へと誘導した。
しかし、大人数、しかも様々な方向から襲い来る魔物の攻撃を受け止めるシールドを、一人で維持するのは至難の業だ。
ソウタの魔力はみるみるうちに消費され、その場から一歩も動けなくなった。
その間にも、魔物たちは容赦なくシールドへと攻撃を仕掛けてくる。
ドオン! ドオン! という衝撃音と共に、シールドは歪み、ひび割れ始め、今にも破られそうになっていた。
「このままでは、シールドが持たない! 俺が囮になろう!」
その時、近衛兵のレオ・ロウが、ソウタの隣で声を上げた。
彼の顔には、死を覚悟したような表情が浮かんでいる。
レオ・ロウは、先ほどの混乱で負傷しており、この状況で囮になれば、勝てる見込みはほとんどないことを、ソウタは知っていた。
「いえ、私が行きます!」
レオ・ロウの言葉に、ルースが名乗り出た。
彼の顔には、迷いは一切ない。
ソウタは、ルースの言葉に息を呑んだ。
ルースを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
その瞬間だった。
ソウタがルースに、トーナメントの優勝賞品として贈った、あの美しい短剣が、真っ赤に輝いた。
それは、まるでルースの血潮を映し出したかのように、妖しく、そして力強く光を放っていた。
その光景を見たレオ・ロウと、彼の相棒であるもう一人の近衛兵は、目を見開いた。
そして、驚きと畏敬の念が入り混じった表情で、その場に跪いた。
「皇太子殿下……!!」
二人の近衛兵の声が、会場に響き渡った。
その言葉に、ソウタも、そしてルースも、驚いて目を見開いた。
ソウタは、ルースが皇太子であることを知っていたが、彼らが目の前で跪いたことに、改めて現実を突きつけられたようだった。
「この短剣は、不思議な力を持っています。
古来より、皇帝の血を引く者の手に渡ると、赤色に光ると伝えられています……!まさか、殿下が、このような形で……!」
もう一人の近衛兵が、ソウタに、短剣の秘密を説明した。
ソウタは、その言葉を聞き、膝から崩れ落ちそうになった。
「そんなつもりで、ルースに渡したんじゃない……!ただ、喜んでほしくて渡しただけなのに……!」
ソウタは、自身の行動が、結果としてルースの正体を暴き、危険な目に遭わせたことに、深く後悔し、嘆いた。
(これは、原作にない展開だ……!僕がオリオンを助けようと、余計なことをして出しゃばったから……ルースが、こんな危険な目に……!)
ソウタの心は、自責の念でいっぱいになった。
短剣は、今もなお、赤く輝いている。
その輝きに導かれるかのように、ルースは、魔物たちが渦巻く方向へと、ゆっくりと歩みを進め始めた。
彼の瞳には、迷いはない。
「行かないで、ルース!」
ソウタは、シールドの維持に力を振り絞りながら、叫んだ。
「君は……ずっとそばにいてくれるって、言っただろう!?」
ソウタの声には、ルースを失いたくないという、強い願いが込められていた。
ルースは、ソウタの言葉に、足を止めた。
彼の顔に、少しだけ迷いの表情が浮かんだが、すぐにそれは消え去った。
ルースは、振り返り、ソウタに向かって、優しく微笑んだ。
その笑顔は、別れを告げるかのように、ソウタの目に焼き付いた。
「ありがとう、ソウタ。必ず戻るから。
敵を全部倒したら、迎えに行くから」
ルースは、そう言って、ソウタの頬を、愛おしそうに撫でた。
彼の指先が、ソウタの頬に触れる。
その温かさが、ソウタの心に、深く刻み込まれる。
そして、ルースは、迷うことなく、魔物たちへと向かって、走り出した。
その手には、赤く輝く短剣が、力強く光を放っている。
ソウタは、轟音と、ルースが魔物たちへと向かう先に広がる、赤い閃光が光る場所を、ただ見つめることしかできなかった。
シールドを維持する魔力も、もはや限界だ。
「ルース……」
ソウタは、ルースの名を呟きながら、意識を失い、その場に倒れ込んだ。
彼の体は、限界を超えていた。
――
フランゼ侯爵邸。
視界が、ゆっくりと開いていく。
ソウタは、まぶたの重さに抗いながら、ぼんやりとした意識の中で、白い天井を見上げた。
どこかで嗅ぎ慣れた、上品な香りがする。
(ここは……どこだ……?)
体を起こそうとするが、全身が鉛のように重く、まるで自分の体ではないようだった。
最後に見たのは、激しい揺れ。魔物の咆哮。そして、赤い閃光の中に消えていった、ルースの背中。
その光景が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
「ソウタ様!!」
その時、意識の混濁を破るように、喜びと安堵が入り混じった声が飛び込んできた。
視線を向けると、そこには侯爵家の執事が立っていた。
彼の顔には、心からの喜びが浮かんでいる。
「やっとお目覚めになられましたか! ご心配いたしました、ソウタ様!」
執事は、ソウタの手をそっと取り、その無事を心から喜んだ。
その言葉と執事の姿から、ソウタはここが侯爵邸のベッドの上だと理解した。
だが、頭の中は、一つの疑問でいっぱいだった。
「……ルースは……皇太子は、無事なのか?」
掠れた声で、ソウタは問いかけた。
あの後、彼がどうなったのか、それだけが気がかりだった。
執事は頷いた。
その仕草は、心からの安堵を伝えてくるようだった。
「はい! ご安心ください、ソウタ様。皇太子殿下は、倒れていらっしゃるところを発見され、無事保護されました。そして、数日前に、ようやくお目覚めになられました」
その言葉を聞いた瞬間、ソウタの胸に、大きな安堵の波が押し寄せる。
ルースが無事だった。
その事実だけで、ソウタは深く息を吐き出した。
だが次の瞬間、執事の表情に、言いにくそうな色が浮かぶ。
「しかし……一つ、申し上げにくいことがございまして……。皇太子殿下は、今回の件で、軍事学校でのことや、今まで平民として生活していらっしゃった間の記憶を、全て失っておられるようです……」
その言葉が耳に届いた瞬間、ソウタの顔から血の気が引いた。
胸の奥が、強く痛む。
それは、まるで大切なものを根こそぎ奪われたような、どうしようもない喪失感だった。
(嘘だろ……? 皇太子に戻ったとしても、僕たちの記憶は残るはずだと思っていたのに……)
ルースとの間に築いてきた絆。
その記憶だけは、皇太子という立場に戻ったとしても、消えることはないと、そう信じていた。それが、唯一の希望だった。
だが、その希望はあっけなく打ち砕かれた。
(僕のこと……忘れてしまったのか……)
ソウタは目を閉じ、小さく呟く。
その胸の奥には、言いようのない寂しさと、深い悲しみが満ちていた。
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