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本編
リリィとリリア
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「ルミレス、久しぶりねー。」
私は娼館に来ている。
もちろん娼館に足を踏み入れるのは初めてだ。
「リリア、元気だったかい?リリィも美しいね。」
そして、美しい双子の姉妹に囲まれている。
二人とも同じ髪型で同じ服を着ているのでどちらがどちらだかわからない。
「まぁ、その子が?」
私より少し背が高い二人に囲まれて、まじまじと観察される。
私がなんだというのだろうか。
「そうだといいなーって。」
ルミレスが含みのある言い方をしてくる。
私はいったい何のために連れて来られたのかわからないままに、娼館という異空間で値踏みされる不思議体験をしている。
私の戸惑いを知ってか知らずか、ルミレスは、将来の子どもの生みの母だと、リリィとリリアを私に紹介した。
それから、他の子にも挨拶をしてくると言って、移動中かけていた色眼鏡をかけなおすと、部屋を出て行ってしまう。
小さい頃から娼館に出入りしていた、というのは伊達では無いのね。
置いていかないで欲しい。
私は双子と一緒に娼館の一室に残された。ど、どうしろと?
そもそも、どっちがどっちだか分からない。双子の妹を持つ姉としては、二人で一人みたいな扱いはもっての外だ。
「あの、失礼でなければお二人を見分ける方法はありますか?
何の目印も無くあなた達を見分けるのは私にはむずかしくて。」
ちょっと待って、と双子は向かい合ってお互いを観察する。
「私の方がリリィより奥二重気味かしら。」
「私の方がほんの少しリリアより背が高いわ。」
二人は見つめ合ってその差異を告げる。
「……そ、そうですか。」
さっぱりどう違うかわからない。
「双子だとわかると、倒錯した趣味のお客さんに狙われるからって、同じ服をきて別々に部屋を出るようにしているの。
ルミレスは分かってくれるから、私たちはどっちでもいいとおもっていたんだけど。
不便かしら?」
じゃぁ、こうしましょう、と煙水晶と蛋白石のネックレスを出してきた。
リリアが煙水晶、リリィが蛋白石のものを首にかける。
赤と青とかだったら分かりやすかったのに、とは思ったが、付けてみると不思議と二人に似合う。
この内面まで象徴するような宝石の選び方を見ると、ルミレスが贈ったものに間違い無いだろう。
「私たちは、時期が来たらここを出るつもり。
ルミレスに赤ちゃんを産んであげてからね。
二人分の身の上を買い取って、残りの資金を元手に商売を始めるの。」
リリィが、話し始めた。
とても甘い声が耳に快く響く。
「私たち二人は小さい頃にここに売られてきて、ここで育ったわ。
ルミレスに会ったのはルミレスがまだ子供の頃よ。
リリィが病気でね、死にかけていたの。
まだお客を相手にすることもできないし、雑用しかできないから、薬が買えなくてね。
そんな時にルミレスが助けてくれたの。」
凛とした声でリリアが続く。
宝石のお陰だろうか、見分けがつかなかったのが嘘のようだ。
声の違いまでわかる気がする。
「「ルミレスはずっと私たちを贔屓にしてくれていて。大事なお客様なのよ。」」
左右から聞こえる澄んだ声に妹達を思い出してしまって、鼻の奥がツンとする。
「まだ、七つとかそのくらいの頃だったかしら?」
リリィが始めて、
「そう?私たちが八つになったばかりだったから、ルミレスは六歳くらいの時よ。」
リリアが繋ぐ。
「仕事を始めたばかりなのに、月極で全部私たちに注ぎ込んでくれてね。」
「呆れるでしょ。
私たちの帳簿には、あの時からずっとルミレスの名前しか載ってないのよ。
いくら注ぎ込んだのかしら。」
「でも、毎月会いに来てくれるのが嬉しくて、嬉しくて。」
二人は見つめ合ってふふふ、と笑う。
「「ルミレスが会いに来られなくなる時がくるのが苦しくて、私たち、自分たちをバロッキーに売ることにしたの。」」
二人ともルミレスの事が大好きなのだろう。
ルミレスだってそうではないのだろうか?
「あの、ルミレスと結婚するという選択肢はないのですか?」
私の考えは安易なものなのだろう、しかし問わずにはいられない。
「私たちはとてもじゃないけどバロッキーの妻にはなるような強さはないわ。
それに、卑下するわけじゃないけど、娼館で育った私たちが商売の役に立つとは思えないし。
私たちが子どもを育てるのだって不安だわ。」
「それに、ルミレスはこれは恋ではないから、って言うの!」
「僕は美しいものが好きなだけだからって。」
そしてまた二人で視線を交わし、晴れ晴れと言う。
さらりと言い切れる様になるまでの時間を見るようで、胸が痛む。
「それはもう、頑ななんですもの。」
「どうあっても私たちを美術品か何かみたいにしておきたいみたいでね。」
コロコロと声を立てて笑う。
「大丈夫よ。私たちは自由になるのにお金が要って、ルミレスは私たちの顔が気に入った。
健康な子を産むところまでは協力できるけど、バロッキーに婚いでその子の母になるつもりはない、という所で話がついたの。」
そういう選択もあるのだろうと思う。
何が正しいかではなく、何を優先させたいか、という選択だ。
「サリには分からないかもしれないけれど、私たちにとってこれが最良の選択なのよ。
ここを出て、新しいことを始められるわ。
ルミレスは怖くないけど、私たち、やっぱりバロッキーに近づくのは怖いの。」
「ただいま。」
しばらくして、ルミレスが部屋に帰ってくるなり、二人は頷き合って、
「「サリがいいわ。」」
とルミレスに告げた。
これは、何か、もう、困ったな。
「サリは私たちの子を可愛がってくれるかしら?子供は好き?」
つまり、バロッキーに産んだ子ども達を預けるにあたって、母親役が務まるかどうかの面接なわけですね。
私、すぐ居なくなる予定なんですけど……。
「ええと、私の妹たちも双子なんです。
ちっとも似てない双子だから見分けるのは簡単ですけど。
私、あの子達の為に生きてきたから……あなた達の言うことがわかります。
チャンスがあるなら何にでも賭ける気持ちも。」
リリィとリリアは、いつ切れるかも分からないルミレスとの今の関係より、ただ一度の大きな繋がりを欲したのだろう。
ルミレスに何か残し、去る事を決めたのだ。
「私はまだ誰に嫁ぐかわからないので約束はできませんが、バロッキーには心配のない母がいます。
イヴさんは大きな愛でみんなを包んでいて、きっとあなた達の子も寂しい想いなんてちっともさせないはずです。
ハウザーと結婚が決まったエミリアさんもバロッキーをよく理解している人のようですから心配ないかと。」
子ども達は健やかに育つだろう。
ヒースのように皆に愛されて。
呑気で人の良いバロッキーの子どもになるのだろう、でも……。
「あの……でも、差し出がましい事かもしれないのですが、出来れば時々母になりに来ることは出来ないでしょうか。
別の人と結婚して家庭を持つなら複雑になっちゃうから無理かもしれないけれど。
今はこの国でバロッキーの子供を育てるのは大変な事だから、それが出来るところに託すのは仕方ないとして……。
子ども達に、望まれて生まれたことを時々伝えに来てくれたら、きっとその子たちだって心強い。
良い影響を与えるものならバロッキーは拒まないのではないでしょうか?」
双子とルミレスは驚いた顔で私を見る。
三人ともちょっといないくらいの美しい顔だから、ちょっと圧がすごい。
「サリ、あなた……子供と会わせてくれるつもりでいるの?」
リリアが手をバタバタとさせる。
「だめでした?」
「だめでしょ?普通は。」
ルミレスが髪を掻き乱して困惑した声をあげる。
「でも、自分で産んだ子なら、気になりません?」
この人達は、子育てなんて無理って言っていたが、姉の私でさえ妹達を育てられたのだから、それなりにどうにかなると思うのは甘いだろうか。
「「気になるわよ!だってルミレスの子よ!」」
あーハイハイ、ルミレス愛されてるのね。
「「可愛くないはずがないじゃない。」」
この双子、よくハモるわ。
「まだ生まれてもいないんだけどなぁ。」
ルミレスが目をキラキラさせて小声で照れるが、私はさっきからずっと熱愛カップルの茶番劇に参加させられているようで、たいへん居心地が悪い。
もう、三人で話し合えば良いのでは?
「普通、婚外子として産んでもらう時は、バロッキーの子を産むそのこと自体を隠してこっそり産むのがほとんどなんだ。
口外しないように契約する。
その時にその子を自分の子だと主張する権利も買い取ってしまうんだ。
そんな権利欲しがらない人がほとんどだろうけど。
バロッキーに引き渡した後は、もう母だとは名乗れない。」
「契約を変えたらいいんじゃない?
どうせ後から追加で金銭を請求されるのを防ぐとか、誘拐されたりするのを防ぐため、とかそういう理由なんでしょ?」
「そ、そうなんだけどさ。」
「リリアとリリィにそれを危惧するような所は無いじゃない?
それとも慣習とか伝統とかが大事?」
「……わからない。
今までリリアとリリィと僕みたいな関係で生まれてきた子がいないから。」
「商売を起こしてもバロッキーが絡んでいるとなると自由な事はできなくなるだろうから、繋がりを隠すことは必要なのだとしても、母親である事まで全部手放すことは無いのではないですか?
一緒にいなくても母だと言って悪いとは思えません。」
思案顔の三人に、これに巻き込まれては迷惑だと、大人に丸投げをしておくことにした。
「ルミレスは、この事をまだ誰にも言ってないんでしょ?
もう少し周りと相談したほうがいいんじゃない?
たぶん、あなたのお父さんとか?イヴさんの旦那さんとか?
その、バロッキーの恋愛感とか、結婚観に詳しくて……。」
端的に言えば、性的なことは大人と話し合ってくれと言うことなのだが。
正直、しんどい。
リリアが意図を察したのか、
「ルミレス、そういえば仕事の途中だったのではないの?」
話を切り上げようとして、
「詳しい話はまた別の機会にしましょうか。」
リリィが繋ぐ。
え?いいの、このままで?
ルミレスのこの感じ、放置していいの?
視線で尋ねると、二人は大丈夫だと頷く。
私が言えた義理じゃないけど、ハウザーもルミレスもどうして一人で抱え込むばかりで、こんなに拗れさせてるの?
私は、帰っていいかな。
私は娼館に来ている。
もちろん娼館に足を踏み入れるのは初めてだ。
「リリア、元気だったかい?リリィも美しいね。」
そして、美しい双子の姉妹に囲まれている。
二人とも同じ髪型で同じ服を着ているのでどちらがどちらだかわからない。
「まぁ、その子が?」
私より少し背が高い二人に囲まれて、まじまじと観察される。
私がなんだというのだろうか。
「そうだといいなーって。」
ルミレスが含みのある言い方をしてくる。
私はいったい何のために連れて来られたのかわからないままに、娼館という異空間で値踏みされる不思議体験をしている。
私の戸惑いを知ってか知らずか、ルミレスは、将来の子どもの生みの母だと、リリィとリリアを私に紹介した。
それから、他の子にも挨拶をしてくると言って、移動中かけていた色眼鏡をかけなおすと、部屋を出て行ってしまう。
小さい頃から娼館に出入りしていた、というのは伊達では無いのね。
置いていかないで欲しい。
私は双子と一緒に娼館の一室に残された。ど、どうしろと?
そもそも、どっちがどっちだか分からない。双子の妹を持つ姉としては、二人で一人みたいな扱いはもっての外だ。
「あの、失礼でなければお二人を見分ける方法はありますか?
何の目印も無くあなた達を見分けるのは私にはむずかしくて。」
ちょっと待って、と双子は向かい合ってお互いを観察する。
「私の方がリリィより奥二重気味かしら。」
「私の方がほんの少しリリアより背が高いわ。」
二人は見つめ合ってその差異を告げる。
「……そ、そうですか。」
さっぱりどう違うかわからない。
「双子だとわかると、倒錯した趣味のお客さんに狙われるからって、同じ服をきて別々に部屋を出るようにしているの。
ルミレスは分かってくれるから、私たちはどっちでもいいとおもっていたんだけど。
不便かしら?」
じゃぁ、こうしましょう、と煙水晶と蛋白石のネックレスを出してきた。
リリアが煙水晶、リリィが蛋白石のものを首にかける。
赤と青とかだったら分かりやすかったのに、とは思ったが、付けてみると不思議と二人に似合う。
この内面まで象徴するような宝石の選び方を見ると、ルミレスが贈ったものに間違い無いだろう。
「私たちは、時期が来たらここを出るつもり。
ルミレスに赤ちゃんを産んであげてからね。
二人分の身の上を買い取って、残りの資金を元手に商売を始めるの。」
リリィが、話し始めた。
とても甘い声が耳に快く響く。
「私たち二人は小さい頃にここに売られてきて、ここで育ったわ。
ルミレスに会ったのはルミレスがまだ子供の頃よ。
リリィが病気でね、死にかけていたの。
まだお客を相手にすることもできないし、雑用しかできないから、薬が買えなくてね。
そんな時にルミレスが助けてくれたの。」
凛とした声でリリアが続く。
宝石のお陰だろうか、見分けがつかなかったのが嘘のようだ。
声の違いまでわかる気がする。
「「ルミレスはずっと私たちを贔屓にしてくれていて。大事なお客様なのよ。」」
左右から聞こえる澄んだ声に妹達を思い出してしまって、鼻の奥がツンとする。
「まだ、七つとかそのくらいの頃だったかしら?」
リリィが始めて、
「そう?私たちが八つになったばかりだったから、ルミレスは六歳くらいの時よ。」
リリアが繋ぐ。
「仕事を始めたばかりなのに、月極で全部私たちに注ぎ込んでくれてね。」
「呆れるでしょ。
私たちの帳簿には、あの時からずっとルミレスの名前しか載ってないのよ。
いくら注ぎ込んだのかしら。」
「でも、毎月会いに来てくれるのが嬉しくて、嬉しくて。」
二人は見つめ合ってふふふ、と笑う。
「「ルミレスが会いに来られなくなる時がくるのが苦しくて、私たち、自分たちをバロッキーに売ることにしたの。」」
二人ともルミレスの事が大好きなのだろう。
ルミレスだってそうではないのだろうか?
「あの、ルミレスと結婚するという選択肢はないのですか?」
私の考えは安易なものなのだろう、しかし問わずにはいられない。
「私たちはとてもじゃないけどバロッキーの妻にはなるような強さはないわ。
それに、卑下するわけじゃないけど、娼館で育った私たちが商売の役に立つとは思えないし。
私たちが子どもを育てるのだって不安だわ。」
「それに、ルミレスはこれは恋ではないから、って言うの!」
「僕は美しいものが好きなだけだからって。」
そしてまた二人で視線を交わし、晴れ晴れと言う。
さらりと言い切れる様になるまでの時間を見るようで、胸が痛む。
「それはもう、頑ななんですもの。」
「どうあっても私たちを美術品か何かみたいにしておきたいみたいでね。」
コロコロと声を立てて笑う。
「大丈夫よ。私たちは自由になるのにお金が要って、ルミレスは私たちの顔が気に入った。
健康な子を産むところまでは協力できるけど、バロッキーに婚いでその子の母になるつもりはない、という所で話がついたの。」
そういう選択もあるのだろうと思う。
何が正しいかではなく、何を優先させたいか、という選択だ。
「サリには分からないかもしれないけれど、私たちにとってこれが最良の選択なのよ。
ここを出て、新しいことを始められるわ。
ルミレスは怖くないけど、私たち、やっぱりバロッキーに近づくのは怖いの。」
「ただいま。」
しばらくして、ルミレスが部屋に帰ってくるなり、二人は頷き合って、
「「サリがいいわ。」」
とルミレスに告げた。
これは、何か、もう、困ったな。
「サリは私たちの子を可愛がってくれるかしら?子供は好き?」
つまり、バロッキーに産んだ子ども達を預けるにあたって、母親役が務まるかどうかの面接なわけですね。
私、すぐ居なくなる予定なんですけど……。
「ええと、私の妹たちも双子なんです。
ちっとも似てない双子だから見分けるのは簡単ですけど。
私、あの子達の為に生きてきたから……あなた達の言うことがわかります。
チャンスがあるなら何にでも賭ける気持ちも。」
リリィとリリアは、いつ切れるかも分からないルミレスとの今の関係より、ただ一度の大きな繋がりを欲したのだろう。
ルミレスに何か残し、去る事を決めたのだ。
「私はまだ誰に嫁ぐかわからないので約束はできませんが、バロッキーには心配のない母がいます。
イヴさんは大きな愛でみんなを包んでいて、きっとあなた達の子も寂しい想いなんてちっともさせないはずです。
ハウザーと結婚が決まったエミリアさんもバロッキーをよく理解している人のようですから心配ないかと。」
子ども達は健やかに育つだろう。
ヒースのように皆に愛されて。
呑気で人の良いバロッキーの子どもになるのだろう、でも……。
「あの……でも、差し出がましい事かもしれないのですが、出来れば時々母になりに来ることは出来ないでしょうか。
別の人と結婚して家庭を持つなら複雑になっちゃうから無理かもしれないけれど。
今はこの国でバロッキーの子供を育てるのは大変な事だから、それが出来るところに託すのは仕方ないとして……。
子ども達に、望まれて生まれたことを時々伝えに来てくれたら、きっとその子たちだって心強い。
良い影響を与えるものならバロッキーは拒まないのではないでしょうか?」
双子とルミレスは驚いた顔で私を見る。
三人ともちょっといないくらいの美しい顔だから、ちょっと圧がすごい。
「サリ、あなた……子供と会わせてくれるつもりでいるの?」
リリアが手をバタバタとさせる。
「だめでした?」
「だめでしょ?普通は。」
ルミレスが髪を掻き乱して困惑した声をあげる。
「でも、自分で産んだ子なら、気になりません?」
この人達は、子育てなんて無理って言っていたが、姉の私でさえ妹達を育てられたのだから、それなりにどうにかなると思うのは甘いだろうか。
「「気になるわよ!だってルミレスの子よ!」」
あーハイハイ、ルミレス愛されてるのね。
「「可愛くないはずがないじゃない。」」
この双子、よくハモるわ。
「まだ生まれてもいないんだけどなぁ。」
ルミレスが目をキラキラさせて小声で照れるが、私はさっきからずっと熱愛カップルの茶番劇に参加させられているようで、たいへん居心地が悪い。
もう、三人で話し合えば良いのでは?
「普通、婚外子として産んでもらう時は、バロッキーの子を産むそのこと自体を隠してこっそり産むのがほとんどなんだ。
口外しないように契約する。
その時にその子を自分の子だと主張する権利も買い取ってしまうんだ。
そんな権利欲しがらない人がほとんどだろうけど。
バロッキーに引き渡した後は、もう母だとは名乗れない。」
「契約を変えたらいいんじゃない?
どうせ後から追加で金銭を請求されるのを防ぐとか、誘拐されたりするのを防ぐため、とかそういう理由なんでしょ?」
「そ、そうなんだけどさ。」
「リリアとリリィにそれを危惧するような所は無いじゃない?
それとも慣習とか伝統とかが大事?」
「……わからない。
今までリリアとリリィと僕みたいな関係で生まれてきた子がいないから。」
「商売を起こしてもバロッキーが絡んでいるとなると自由な事はできなくなるだろうから、繋がりを隠すことは必要なのだとしても、母親である事まで全部手放すことは無いのではないですか?
一緒にいなくても母だと言って悪いとは思えません。」
思案顔の三人に、これに巻き込まれては迷惑だと、大人に丸投げをしておくことにした。
「ルミレスは、この事をまだ誰にも言ってないんでしょ?
もう少し周りと相談したほうがいいんじゃない?
たぶん、あなたのお父さんとか?イヴさんの旦那さんとか?
その、バロッキーの恋愛感とか、結婚観に詳しくて……。」
端的に言えば、性的なことは大人と話し合ってくれと言うことなのだが。
正直、しんどい。
リリアが意図を察したのか、
「ルミレス、そういえば仕事の途中だったのではないの?」
話を切り上げようとして、
「詳しい話はまた別の機会にしましょうか。」
リリィが繋ぐ。
え?いいの、このままで?
ルミレスのこの感じ、放置していいの?
視線で尋ねると、二人は大丈夫だと頷く。
私が言えた義理じゃないけど、ハウザーもルミレスもどうして一人で抱え込むばかりで、こんなに拗れさせてるの?
私は、帰っていいかな。
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