15 / 38
本編
ルミレス・バロッキー
しおりを挟む
次に会いに行くのはルミレスだったが、ルミレスの提案で買い付けに同行する事になった。
「サリ、この間は市場に行ったんでしょ?
今日はもう少しハラハラしないで済むところに連れて行くよ。
関係者ばかりだから気楽についてきて。」
ルミレスと共に向かったのは、バロッキーと取引のある商家の倉庫だ。
到着した先はどう見ても倉庫には見えない、美しい漆喰が塗られた建物だった。
ルミレスが来ても市場で会った人々のような激しい反応が見られなかったので訊いてみると、そこで働いているのは、いくつもあるバロッキーの分家の者なのだと知れた。
こんな絵本に出てくる王子様の様な人が、配偶者探しに苦労するなんて、この国は不思議だ。
ルミレスは歳が近いこともあるが、気安い雰囲気があり話しやすい。
茶に近い濃い金髪を洒落た長さで整えて、流行りを取り入れた服を着こなす。
引き締まった体のシルエットは細いが上背があり頼りなさを感じさせないし、エスコートもソツ無くこなし、話も上手だ。
薄い茶色の睫毛が列を乱さずに取り囲んでいるのが、灰色に血の色を散らしたようなバロッキーの瞳でなければ、大抵の少女ならイチコロだろう。
尤も、私としてはもっと筋肉寄りの男性が好みだし、喋る時の軽薄さと、ぐいぐいと詰めてくる距離感は正直、苦手な感じだが。
「バロッキーの人達は何歳くらいから仕事を始めるの?」
私は、話しやすいのを良いことに、ルミレスに思い付く限りの質問を浴びせかけていた。
私のように学校を出る前から仕事を始めるのは稀な事のはずだが、バロッキー家では一番幼いラルゴでさえ仕事があるようだ。
市場では子供が働いているようなところは見られなかったので、やはり、バロッキーが特殊なのだろうが。
「できる仕事があればいつからでもさ。」
倉庫に続く小道を歩きながら話を続ける。
「僕たちがちょっと独特な感覚を持っているのは聞いたよね?
竜の血を持っていてもその濃さや感覚の違いで得意分野が違ってくるんだ。
それぞれ得意なものがあれば早くからそれを任される。」
「ラルゴもその感覚を活かした仕事をしているのね。」
「ラルゴは賢いから将来はおそらく事務方にまわると思うけど、今は掘り出した石の選別を手伝ったりしているよ。
金と黄鉄鉱を区別するくらいなら鑑定士を呼ぶまでもないから。」
愚者の黄金と呼ばれる黄鉄鉱は自然金を掘り当てたい採掘者にとっては厄介な鉱物だ。
金ではないと即座に鑑定出来るなら、子どもでも雇いたい。
「すごい能力ね。」
「ヒースのはもっと凄いよ。」
「そのようね。」
掘り出した物を見分けるのもすごいが、どこに埋まっているか分かるなんて、魔法のようだ。
「そんなだから、力があるバロッキーは仕事場に出るのが早いんだ。
遊びの延長でだったら、僕は六歳の頃から仕入れに参加していたよ。」
「そんなに早くからなのね。」
「特に僕の仕事は好きな物を選ぶだけっていう仕事だからね。
難しい事もなかったし。
美しいものを見つけたり、出来上がった製品の検品をしたり、そういう事には鼻が効くんだ。」
そんなことを話しながら倉庫に着いた途端、いきなり仕事が始まった。
ルミレスの美に対する感覚は鋭い。
商人の買い付けは度々目にしていたが、こんな買い付けの仕方は初めて見た。
ルミレスは彫刻や美術品が隙間なく展示されている通路を、脇目も振らずに目的の品まで歩く。
わりと早足で。
良し悪しをどうやって判断しているのは分からないけれど、瞬時に決めて紐付きの紙に何かを書きつけては、商品につけていく。
優美な髪留めをザクザクと袋に入れて……かと思えば、いくつか袋から取り出して傍に避ける。
「これは?」
ルミレスが取り出した髪留めを、手に取って眺める。
他のものと同じく繊細に細い金属で編み上げられた細工から細かい猫目石が連なって下がり、シャラ、と軽い音が鳴る。
「これは買わない。美しくないから。」
他のものとどう違うのかよくわからない。
素人目に石の品質も変わらないように見える。
ひっくり返して見てみるが、別におかしな所はない。
「作り手が違うんですよ。」
いつの間にか来ていた倉庫の管理者は、目を細めてルミレスの仕事ぶりを褒める。
「そもそも、規格に合わない物は置かないから、寸法が違うなんてことあるわけないんです。
でも、ルミレスさんにはわかるみたいで……ほら、ここに数字が書いてあるでしょう。」
買うと決めた髪飾りには、1と2と4の数字の印が、紐付けされた札に押されている。
片や、袋から出されたものは、全て3の印字がしてある。
3の作り手の物は気に入らなかったようだ。
「ルミレスさんの選別は、品質をあげるのに役に立ちます。
3の作り手は細工が早いのですが、何か別の問題を抱えているのかもしれません。
話を聞きに行ってみなくては。」
管理者は何かを帳面に書きつけて倉庫の奥に戻っていった。
「仕事はすぐ済むから、この後、散歩にでも行こうか。」
晴れ晴れとした声でルミレスが倉庫を去ろうとするが、私はこの仕事の行方に好奇心が抑えられないでいた。
「ルミレスが選んだ後、商品はどうなるの?」
「次はハウザーか、父さんが値段の交渉をしに来るよ。
今はハウザーが忙しいから父さんを呼ばなきゃならないかな。」
「ルミレスのお父さんて?」
「トムズさんの従兄弟で、ライアンていうオジサンだよ。
色々な所を旅して売りたいものを探す仕事をしている。
でも、あの人、女の子が大好きだから、サリは会っちゃダメだよ。」
わぁ、アクの強そうな御仁がまだ出て来るのね。
「それでもまだ……バロッキーの名を使った商売よね?
市場の様子を見る限り、商売相手を探すのも苦労しそうに見えたけれど?」
ルミレスは満面の笑みを浮かべる。
「市場に出るまでに、バロッキーを名乗らない分家を通すんだ。
幾重にもね。不自然にならない程度に分野を分けて。
バロッキーと名乗るのは本家と一部の分家だけで、竜の血が遺伝している者だけ。
竜の血が出なくなる所まで離れれば親子でもバロッキーの関係者と名乗る必要はなくなるんだ。」
「バロッキーと直接取引しているのはバロッキーの関係者だけってこと?」
「そう。今みたいな装飾品を作る人達もいるし、それを管理するのも分家の人達さ。
ヒースが宝石を掘る時に一緒に働くのも名を隠した分家の人たちだよ。」
「そういう仕組みなのね。
市場で一般の人達の反応を見てきたから、どうやって商品を末端まで流通させているのか不思議だったの。」
「まぁ、エミリア姉さん家はちょっと特殊だから例外ね。
おじさんが変わり者でさ。
この国の出身じゃないからかもしれないないけどさ、バロッキーに友好的なんだ。」
やはり、竜に対する拘りは、この国特有の物のようだ。
「仕事上での付き合いがあるのなら、分家からお嫁さんを迎えることは出来ないの?
血縁的にだいぶ遠い家もあるのでしょう?」
本家に迎え入れられれば、実家に有利な者もいるだろうに。
「分家はバロッキーから恩恵を受けている。
それは間違いないんだけど、バロッキーになりたいわけではないんだよ。」
ルミレスは何でもないように言う。
「彼らはね、バロッキーに労働力を提供して、十分な代金を受け取る代わりに、市井の人々から迫害されることを免れているんだ。
僕らが分かりやすく皆から嫌がられてあげているからね。」
なんだかもやっとする話だ。
「それに、分家も一枚岩ではなくてね。
バロッキーになりたくないけど、バロッキーの血を便利に使いたいっていう奴らもいる。」
「……ヒースに酷いことをしたのも分家の人?」
気になってしかたないから、きいてしまおう。
「え?ヒースから聞いたの?!」
まぁ、ヒースもいたけど。
「えーと、アルノから、かしら?」
「アルノかぁ。
……サリは何なんだろうね?面白いね。」
ルミレスは何かを見透かすように目を眇める。
「バロッキー家の生まれではないのに、誰よりも強く竜の特質を持っていたヒースを、分家の誰かが利用しようとしたというのは聞いたわ。」
「実際、使い方を間違えば国が傾くような力だからねぇ。」
バロッキーが国を離れる選択をすれば、国は間違いなく財政に問題を抱える事になるだろう。
「僕ら、その時は分家からのお嫁さんだって大歓迎だったんだ。
アルノの所は別だけど、分家と本家との婚姻はしばらくなかったから、血もだいぶ遠くなっているはずだしね。」
そうして少し苦い顔をする。
「でも、ヒースにあんなことがあって、やっぱり外から迎え入れる他ないな、って事になった。
ハニートラップの向かう先が僕とかだったら、そんなに問題にならなかったんだろうけどね。
ヒースを狙って来たとなれば本家の誰もが分家との婚姻に嫌悪感をもってしまう。」
狙われたのがヒースだったから、バロッキーは一丸となって分家を拒むことになったのだ、と聞こえて、なんだか笑ってしまう。
「バロッキーの人達は、ヒースの事になると冷静ではいられないみたいね。」
「竜の血が呼び合うんだろうね。
出所が不明でもヒースを本能で仲間だと思うし、ヒースが大好きなんだ。
君もヒースが好きになるよ。」
それはバロッキーの誰もが認める所のようだ。
なんだこれ、結局、惚気だった。
「みんなヒースに過保護でもあるわよね。」
「そう?」
え?それは自覚がないの?
「それはそうとして、本家と分家については納得できるような、出来ないような……。」
市場で感じたバロッキーに対する激しい嫌悪や恐怖と、ここで働く分家の人々の穏やかなやり取りとが落差がありすぎてやはり、違和感を覚える。
「バロッキーにはバロッキーの誇りがあるんだ。」
その意図はまだよくわからない。
「竜はね、自分が好ましいと思う物がちゃんと手元にあれば、割といろんな事が気にならない質なのさ。」
目がキラリと光り、とびきりの笑顔で顔を上げる。
散歩と称して倉庫の周りを散策する。
母屋へ着くと、庭にお茶の用意がしてあった。
異国から来たのだろう、見事な花柄があしらわれた茶器には不思議な香りのお茶が温まっていた。
少し酸味があり、後味が甘い。
贅沢だな、と堪能していると、ルミレスは話を切り出した。
「あのね、サリの事は家族的な意味で大好きなんだけど、僕は子供を産んでもらう子は決めてるんだ。」
どっちにしろ、ルミレスがヒースが大好きと言った時点でこちらからもお断りだったが。
「恋人がいるの?」
お茶の銘柄が気になるが、ルミレスの話もきいてやらねば。
「うーん、恋人とはちがうかな。顔と体が美しいの。」
嬉しそうにニコニコと笑っているけど、言ってることは、下衆っぽくなかっただろうか?
「その子達に会ってくれない?」
「ええ?!」
私が驚いたのは、会ってくれと言ったそこじゃない!
今、その子『達』って言った!
「2人いるんだよねー」
もしかしたら、ルミレスは夫候補かもしれない。
「サリ、この間は市場に行ったんでしょ?
今日はもう少しハラハラしないで済むところに連れて行くよ。
関係者ばかりだから気楽についてきて。」
ルミレスと共に向かったのは、バロッキーと取引のある商家の倉庫だ。
到着した先はどう見ても倉庫には見えない、美しい漆喰が塗られた建物だった。
ルミレスが来ても市場で会った人々のような激しい反応が見られなかったので訊いてみると、そこで働いているのは、いくつもあるバロッキーの分家の者なのだと知れた。
こんな絵本に出てくる王子様の様な人が、配偶者探しに苦労するなんて、この国は不思議だ。
ルミレスは歳が近いこともあるが、気安い雰囲気があり話しやすい。
茶に近い濃い金髪を洒落た長さで整えて、流行りを取り入れた服を着こなす。
引き締まった体のシルエットは細いが上背があり頼りなさを感じさせないし、エスコートもソツ無くこなし、話も上手だ。
薄い茶色の睫毛が列を乱さずに取り囲んでいるのが、灰色に血の色を散らしたようなバロッキーの瞳でなければ、大抵の少女ならイチコロだろう。
尤も、私としてはもっと筋肉寄りの男性が好みだし、喋る時の軽薄さと、ぐいぐいと詰めてくる距離感は正直、苦手な感じだが。
「バロッキーの人達は何歳くらいから仕事を始めるの?」
私は、話しやすいのを良いことに、ルミレスに思い付く限りの質問を浴びせかけていた。
私のように学校を出る前から仕事を始めるのは稀な事のはずだが、バロッキー家では一番幼いラルゴでさえ仕事があるようだ。
市場では子供が働いているようなところは見られなかったので、やはり、バロッキーが特殊なのだろうが。
「できる仕事があればいつからでもさ。」
倉庫に続く小道を歩きながら話を続ける。
「僕たちがちょっと独特な感覚を持っているのは聞いたよね?
竜の血を持っていてもその濃さや感覚の違いで得意分野が違ってくるんだ。
それぞれ得意なものがあれば早くからそれを任される。」
「ラルゴもその感覚を活かした仕事をしているのね。」
「ラルゴは賢いから将来はおそらく事務方にまわると思うけど、今は掘り出した石の選別を手伝ったりしているよ。
金と黄鉄鉱を区別するくらいなら鑑定士を呼ぶまでもないから。」
愚者の黄金と呼ばれる黄鉄鉱は自然金を掘り当てたい採掘者にとっては厄介な鉱物だ。
金ではないと即座に鑑定出来るなら、子どもでも雇いたい。
「すごい能力ね。」
「ヒースのはもっと凄いよ。」
「そのようね。」
掘り出した物を見分けるのもすごいが、どこに埋まっているか分かるなんて、魔法のようだ。
「そんなだから、力があるバロッキーは仕事場に出るのが早いんだ。
遊びの延長でだったら、僕は六歳の頃から仕入れに参加していたよ。」
「そんなに早くからなのね。」
「特に僕の仕事は好きな物を選ぶだけっていう仕事だからね。
難しい事もなかったし。
美しいものを見つけたり、出来上がった製品の検品をしたり、そういう事には鼻が効くんだ。」
そんなことを話しながら倉庫に着いた途端、いきなり仕事が始まった。
ルミレスの美に対する感覚は鋭い。
商人の買い付けは度々目にしていたが、こんな買い付けの仕方は初めて見た。
ルミレスは彫刻や美術品が隙間なく展示されている通路を、脇目も振らずに目的の品まで歩く。
わりと早足で。
良し悪しをどうやって判断しているのは分からないけれど、瞬時に決めて紐付きの紙に何かを書きつけては、商品につけていく。
優美な髪留めをザクザクと袋に入れて……かと思えば、いくつか袋から取り出して傍に避ける。
「これは?」
ルミレスが取り出した髪留めを、手に取って眺める。
他のものと同じく繊細に細い金属で編み上げられた細工から細かい猫目石が連なって下がり、シャラ、と軽い音が鳴る。
「これは買わない。美しくないから。」
他のものとどう違うのかよくわからない。
素人目に石の品質も変わらないように見える。
ひっくり返して見てみるが、別におかしな所はない。
「作り手が違うんですよ。」
いつの間にか来ていた倉庫の管理者は、目を細めてルミレスの仕事ぶりを褒める。
「そもそも、規格に合わない物は置かないから、寸法が違うなんてことあるわけないんです。
でも、ルミレスさんにはわかるみたいで……ほら、ここに数字が書いてあるでしょう。」
買うと決めた髪飾りには、1と2と4の数字の印が、紐付けされた札に押されている。
片や、袋から出されたものは、全て3の印字がしてある。
3の作り手の物は気に入らなかったようだ。
「ルミレスさんの選別は、品質をあげるのに役に立ちます。
3の作り手は細工が早いのですが、何か別の問題を抱えているのかもしれません。
話を聞きに行ってみなくては。」
管理者は何かを帳面に書きつけて倉庫の奥に戻っていった。
「仕事はすぐ済むから、この後、散歩にでも行こうか。」
晴れ晴れとした声でルミレスが倉庫を去ろうとするが、私はこの仕事の行方に好奇心が抑えられないでいた。
「ルミレスが選んだ後、商品はどうなるの?」
「次はハウザーか、父さんが値段の交渉をしに来るよ。
今はハウザーが忙しいから父さんを呼ばなきゃならないかな。」
「ルミレスのお父さんて?」
「トムズさんの従兄弟で、ライアンていうオジサンだよ。
色々な所を旅して売りたいものを探す仕事をしている。
でも、あの人、女の子が大好きだから、サリは会っちゃダメだよ。」
わぁ、アクの強そうな御仁がまだ出て来るのね。
「それでもまだ……バロッキーの名を使った商売よね?
市場の様子を見る限り、商売相手を探すのも苦労しそうに見えたけれど?」
ルミレスは満面の笑みを浮かべる。
「市場に出るまでに、バロッキーを名乗らない分家を通すんだ。
幾重にもね。不自然にならない程度に分野を分けて。
バロッキーと名乗るのは本家と一部の分家だけで、竜の血が遺伝している者だけ。
竜の血が出なくなる所まで離れれば親子でもバロッキーの関係者と名乗る必要はなくなるんだ。」
「バロッキーと直接取引しているのはバロッキーの関係者だけってこと?」
「そう。今みたいな装飾品を作る人達もいるし、それを管理するのも分家の人達さ。
ヒースが宝石を掘る時に一緒に働くのも名を隠した分家の人たちだよ。」
「そういう仕組みなのね。
市場で一般の人達の反応を見てきたから、どうやって商品を末端まで流通させているのか不思議だったの。」
「まぁ、エミリア姉さん家はちょっと特殊だから例外ね。
おじさんが変わり者でさ。
この国の出身じゃないからかもしれないないけどさ、バロッキーに友好的なんだ。」
やはり、竜に対する拘りは、この国特有の物のようだ。
「仕事上での付き合いがあるのなら、分家からお嫁さんを迎えることは出来ないの?
血縁的にだいぶ遠い家もあるのでしょう?」
本家に迎え入れられれば、実家に有利な者もいるだろうに。
「分家はバロッキーから恩恵を受けている。
それは間違いないんだけど、バロッキーになりたいわけではないんだよ。」
ルミレスは何でもないように言う。
「彼らはね、バロッキーに労働力を提供して、十分な代金を受け取る代わりに、市井の人々から迫害されることを免れているんだ。
僕らが分かりやすく皆から嫌がられてあげているからね。」
なんだかもやっとする話だ。
「それに、分家も一枚岩ではなくてね。
バロッキーになりたくないけど、バロッキーの血を便利に使いたいっていう奴らもいる。」
「……ヒースに酷いことをしたのも分家の人?」
気になってしかたないから、きいてしまおう。
「え?ヒースから聞いたの?!」
まぁ、ヒースもいたけど。
「えーと、アルノから、かしら?」
「アルノかぁ。
……サリは何なんだろうね?面白いね。」
ルミレスは何かを見透かすように目を眇める。
「バロッキー家の生まれではないのに、誰よりも強く竜の特質を持っていたヒースを、分家の誰かが利用しようとしたというのは聞いたわ。」
「実際、使い方を間違えば国が傾くような力だからねぇ。」
バロッキーが国を離れる選択をすれば、国は間違いなく財政に問題を抱える事になるだろう。
「僕ら、その時は分家からのお嫁さんだって大歓迎だったんだ。
アルノの所は別だけど、分家と本家との婚姻はしばらくなかったから、血もだいぶ遠くなっているはずだしね。」
そうして少し苦い顔をする。
「でも、ヒースにあんなことがあって、やっぱり外から迎え入れる他ないな、って事になった。
ハニートラップの向かう先が僕とかだったら、そんなに問題にならなかったんだろうけどね。
ヒースを狙って来たとなれば本家の誰もが分家との婚姻に嫌悪感をもってしまう。」
狙われたのがヒースだったから、バロッキーは一丸となって分家を拒むことになったのだ、と聞こえて、なんだか笑ってしまう。
「バロッキーの人達は、ヒースの事になると冷静ではいられないみたいね。」
「竜の血が呼び合うんだろうね。
出所が不明でもヒースを本能で仲間だと思うし、ヒースが大好きなんだ。
君もヒースが好きになるよ。」
それはバロッキーの誰もが認める所のようだ。
なんだこれ、結局、惚気だった。
「みんなヒースに過保護でもあるわよね。」
「そう?」
え?それは自覚がないの?
「それはそうとして、本家と分家については納得できるような、出来ないような……。」
市場で感じたバロッキーに対する激しい嫌悪や恐怖と、ここで働く分家の人々の穏やかなやり取りとが落差がありすぎてやはり、違和感を覚える。
「バロッキーにはバロッキーの誇りがあるんだ。」
その意図はまだよくわからない。
「竜はね、自分が好ましいと思う物がちゃんと手元にあれば、割といろんな事が気にならない質なのさ。」
目がキラリと光り、とびきりの笑顔で顔を上げる。
散歩と称して倉庫の周りを散策する。
母屋へ着くと、庭にお茶の用意がしてあった。
異国から来たのだろう、見事な花柄があしらわれた茶器には不思議な香りのお茶が温まっていた。
少し酸味があり、後味が甘い。
贅沢だな、と堪能していると、ルミレスは話を切り出した。
「あのね、サリの事は家族的な意味で大好きなんだけど、僕は子供を産んでもらう子は決めてるんだ。」
どっちにしろ、ルミレスがヒースが大好きと言った時点でこちらからもお断りだったが。
「恋人がいるの?」
お茶の銘柄が気になるが、ルミレスの話もきいてやらねば。
「うーん、恋人とはちがうかな。顔と体が美しいの。」
嬉しそうにニコニコと笑っているけど、言ってることは、下衆っぽくなかっただろうか?
「その子達に会ってくれない?」
「ええ?!」
私が驚いたのは、会ってくれと言ったそこじゃない!
今、その子『達』って言った!
「2人いるんだよねー」
もしかしたら、ルミレスは夫候補かもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる