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13【完】

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 結局、私はほんの少しの抜き差しで、喘ぎに喘がされ、少し前まで童貞だったクロームにくたくたにされた。

「お前を娶る効果的な作戦があるとしたら、どうする?」
「え……なに?」
 正直、もう呂律も回らずに、クロームの腕の中に抱かれて、とろとろと訊き返す。
 悔しいことに私の中でクロームはまだ硬さを保っている。
 童貞ならすぐに果ててしまえばいいのに……頑張るわね。

「お前がどんなに俺を拒んでも、子が出来たら、修道院にはいけないな」
 そう言いながら、ぐっと奥を押し上げる。
 蹂躙されているというのに、私の体は甘えるようにそれを奥の奥で抱きしめる。
 本当に、だらしなくて仕様の無い体……。
「明日の迎えは来ない。
 子が出来ているかもしれない娘を出家させられると思うか?」
「やだっ……そんなの、だめ……絶対にだめよ……」
 さすがに、どうにか体と体の間に手をついて、身を離して逃げようとする。
 周期的にそうそう妊娠するような頃ではないけれど、万が一のことがあったら今までのことが全て無駄になる。
 私が慌てて逃げようとするのを、何か良いものを観戦するような顔で見るのはやめて欲しい。
 私の情けない反抗をいなしながら、私の乱れた赤い髪に指を差し入れて、ゆるゆると梳いていく。
「ガーネット、まだ抵抗する元気があるのか?
 そろそろ俺で手を打て。
 お前が長いことかけて自分を押し殺して、俺を救ったように、俺は一生お前を守るから」
 少し肉杭が抜けたのを見計らって、甘やかすように優しく差し戻しクロームが最奥を撫でる。

「やっ、あっ……だから、それは私じゃないって……」
 弱い場所ばかりを刺激される甘い苦しみから逃れる為に腰を浮かす。
「お前が何者だろうが、何を考えていようが、どんな事を言おうが、人は為したことが全てだ。
 サファイアだってそうだ。
 何を思っていようが、俺に、妹に、お前に何をした?」
 離れた分だけまた突き入れられて、息を詰める。
 何度か目の脱出を試みるが、クロームの抜き差しを手助けしているみたいになってしまっている。
「……だめよ」
 何がダメって、こんな状態では、まともに物を考えられないということよ。
 クロームは私が愚かな事を口走るのを、罠を張って待ち構えているのだわ。

「お前は、ガーネットを演じて何をした?
 仲違いをしていた王子達を正し、国の未来を安泰にしたな。
 押し潰される寸前の騎士を救った。
 あれは単騎でも国を滅ぼすほどの力だ。
 利己的な力しか持たないあれを、自分のものにするでもなく国が使える戦力にしたのは他でもないお前だ。
 お前の兄はどうだ?
 お前の為だったら、この国どころか海の外にまで流通の糸を張り巡らせるつもりだぞ」
 またクロームのペースで私の弱い所ばかりを焦らすように試すように揺すられる。
「わかったわよ。
 わかったけど、もうほんとうにしゃべるのをやめて!
 がくがくと奥まで突き入れられて、戯言を聞かせられるのって、想像以上に苦しいのを知っていて!?」
 クロームは涙目の私を見て笑う。
 クロームが笑うことなんて珍しいことだけど、今はそれどころではない。
「あの薬の開発を支援したのも、偶然ではないのだろう」
 抱きすくめられて、耳を食まれながら直接脳を壊すみたいに尋問の声は続く。
「やっ、もうやめて!!
 そんなのは私にとって、何も意味の無いものだわ。
 その方が私が面白いからそうしただけよ」
 私じゃない何かになってみたいと思うことだって、あったのかもしれないわ。
 でもそれは私が楽しむ為。
「誰の為でも……クロームの為なんかじゃない」

 クロームはまた表情を隠して、ため息をつく。
 私の答えがお気に召さなかったようね。
 でも、こういう顔をしているときは何か悪いことを考えているときなのよ。
「中で出されたくなければ、今、誰か助けを呼べ。
 ここまでなら俺の罪はこれまでと何も変わらない。
 強姦しただけだ。
 孕ませたとなるとまた罪状が変わるぞ……」
 まただわ。
 クロームは自分が人質として有効だと味をしめたようね。

「いやよ、これ以上、もう私に入ってこないで」
 私の柔らかいところに踏み込んでこないで。
「ガーネット、お前が素のままでいられる場所を用意するから……」
 クロームの言葉はまるで毒のよう。
「誑かすようなこと言わないで」
 どうしてこんなにもしつこいのかしら。
 私が童貞を奪ってしまったから、懐いてしまったの?
「まぁ、俺が嫌いでも俺以外の所に嫁にはいけないが、お前のしてくれたことには報いるつもりだ」
 こんな結末を望んでいなかった。
 うまく立ち回ってこの人の前から消えればよかったの。

「お前を愛している。お前が誰でも。
 頼むから絆されてくれ」
 胸が苦しい。
 つい、きゅっと膣を収縮させてしまって、羞恥すると、甘い口付けをたっぷりと与えられる。
 こ……このままでは本当に籠絡されてしまうわ。

「それとも、誰か他に叶わぬ想いを寄せる男がいるのか?
 俺は何かの代わりか?」

 酷い。
 本当にひどいわ。
 クロームは、さっきから、私が達しそうなギリギリの所で動きを止める。

「ちが……」
 ごりごりと私が高く鳴き声をあげる所ばかりを突き上げる。
「それは妬けるな……」
 もう無理よ。
「ちがう……」
 本当に無理だわ。
 私はこの人から逃げられない。 
 一度ごちゅりと奥まで突かれて、次を望んでも与えてもらえない。

「まだか? まだ弄ばれたいのか?」
 浅いところと深いところを繰り返し、達しないように責め抜かれる。

「ちがうの……私……」

 こんなのひどい……。

「ああ、なんだ?」

「……私クローム以外の人の所になら、お嫁になんて行かなくてもいいの……」

 もう苦しすぎて、ぼろぼろと本音と涙が溢れる。

「……はっ、やっとか」

 クロームは、見たことのないくしゃくしゃの表情で私を抱きしめる。

「まって、嘘、嘘よ。
 ちがうの! 今のは無しよ。
 そうでもしないとあの快楽地獄から降ろしてくれなかったから……。
 だから、勘違いしないで!」
「そうだな……」
 宥めるように額に優しくキスをする。

「……嘘だと言うなら、強姦するのに、遠慮は要らないな」

「えっ?」

「俺の提案には乗らないから、力づくで奪えということだな」
「ちがっ……あっ、あっ、あっ、違う、の……やだぁっ……」
 クロームは本当に手加減をやめたようで、それまでの甘く溶かすような動きから、私を貫く激しい挿抜を始める。
「違うのか? 体は正直だなんて陳腐なことは言いたくないんだがな……」
「ひゃっ、だから……」
「それはつまり、俺が好きだという事でいいんだな……」
 体がクロームを欲しがってしまう。
 クロームの全てが欲しいときつく締め付ける。
 チカチカとまた絶頂の波が来ている。
「もう、なんだっていいわよ……」
 私は諦めてクロームの腰に足を絡めた。
「いや、言質をとりたい」
 またギリギリのところで私をいたぶり始める。
「なによ! わかるでしょ? 状況的にそうじゃない?!」
「そうって何なのか説明しろよ」
 急かすように至る所にキスを施されて、遂に私は全面降伏させられた。
「クロームが好きだから!
ずっと前から、好きなのよ!
あなたをサファイアから取り上げたくて、殺されたくなくて、こうまでしたの!
これで満足?」
「それで、俺の童貞を奪ってやろうと考えたのか?」
「私は退場する身だし、一つぐらい自分の願いを叶えてもいいじゃない」
「及第点だな……」

 結局、悪役令嬢ガーネットは、絶頂とともに中に大量に胤をまき散らされ、本懐を遂げたクロームによって雁字搦めに捕まることになるの。

 どう? 結末は予想通りだったかしら?
 この時点でもう既に、クロームは父に私との婚約を取り付けた後だったとしたらどうかしら?

 ひどい話ではなくて?
 いくら公爵家でも、相思相愛で、しかも子ができているかもしれないとまで言われたら、許可するしかないわ。
 きっとそれ以外の政治的な取引もあったのでしょうけれど。
 クロームは父に告げた嘘の既成事実の不足分を埋めに来たのね。
 不足分は私の心と体よ。
 すっかり大嘘の補填をさせられたわ。

*********

 そしてクロームはごくごく普通に私の婚約者として私の隣にいる。
 賠償も何も無しだ。
 父は、引く手数多だったクロームを娘婿に手に入れて得をしたと言われている。
 
 
 難しい顔をしてお茶を飲む横顔に話しかけてみる。
「ねぇ、クローム、一つだけお願いがあるの」
「なんだ?」
「ちょっと、私に優しく話しかけてみてくれないかしら?」

「はぁ?」

 どうしてクロームは、いつも眉間に皺を寄せて私に対応するのかしら。
 愛してると言ったのは冗談だった?
 嫌だわ、私、冗談を真に受けたのかしら……。
「……サファイアにはあんなに猫撫で声だったじゃない」
 急に萎んでしまった気持ちをどうしたらいいのかしら。

「ふっ……お前が、そんな事を……っ、くっくくく……」
 クロームは体をくの字にして笑う。
 ルチルの具合がよくなるのと比例して、クロームはよく笑うようになった。
 それにしても、何か変な事を言ったかしら?
「どうして笑うのよ?」
「お前は俺に優しくされたいのか?」
 逆に、ああまでされた人に優しくされたくないって、尋常ではないわ。
「そうよ。悪い?」
 方眉をあげ、検分するように私を見る。
「一つだけの願いがそれか?」
 なるほど、サファイアのお願いと比べようというのね。
 なんだか初心なことを言ったみたいで恥ずかしい。
「……はっ、違うわ、嘘よ。
 嘘、嘘。
 一つではないわ。まずはええと……」
 言い終わらないうちに、あっという間に膝の上に抱き上げられる。
「ガーネット、お前はなんだかんだで可愛いよ」
 抱き込まれた頭の上から、私の望んだ甘い声が降ってくる。
「……そんなことないわよ」
「そんなことないなら、なんだかんだで可愛くないな」
 次は突き放したような冷たい声が降ってくる。
「そんなことないでしょ?!」
 その次は、それはもう容赦のない執着めいたキスが降ってくるのよ。

 これはもう、ハッピーエンドと言っていいのではなくって?


 End

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