白髪、老け顔、草食系のロマンスグレーですが、何でしょうか、お嬢さん?~五十路男、執事喫茶で無双始めました~

だぶんぐる

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50話 自慢男、驕る★

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【横河琉偉視点】


九月二日。


俺は最高の気分で準備を始める。

昨日、南詩織から連絡があった。
昨日の事件についてだ。俺の出した条件はシンプル。

『一日、俺に付き合う事』

それだけだ。その条件を守ってくれれば、何も必要なかった。
だが、南詩織はこっちが言ってもいないのに、オーナーを辞任することを震える声で伝えてきた。

馬鹿な女だ。だが、都合がいい。このまま店まで俺が貰ってやろう。
渡さなければ、渡したくなるまで付き纏ってやるだけだ。
店も、詩織も。

まあ、詩織に関しては、時間の問題だ。

「一日っていうのは、本当に丸一日って事だからなあ」

言ってはない。だが、アイツは条件を呑んだ。
あとは、いつも通り。うまくやる方法なんていくらでもある。

人生なんてチョロい。
金と権力、そして、力があれば、大抵の事はなんとかなる。

「おい、琉偉。また、出かけるのか」

親父が話しかけてくる。折角いい気分だったのに。
だけど、親父は使える。逆らうのは勿体ない。

「ああ、出かけてくるよ。ちょっとイイ女が居てね。今日ようやくデートにこぎつけたんだ」
「なんでもいいが、余りやりすぎるなよ。後片付けが面倒なことにはするな」

コイツも腐ってる。女に対し、後片付けなんて言うんだから。
まあ、母親の事を考えれば、そんなもんか。
それに、流石親子と言うべきか。俺は賛成だ。女なんて消耗品だ。
だけど、今回ばかりは長く遊べそうだ。

南詩織。

綺麗な黒髪、女優になれるレベルの美貌。極上のスタイル。
ずっとモノにしたいと大学時代思っていた。
だが、うまくいかなかった。アイツの家も結構過保護で学生時代はガードが固く、手が出せなかった。
それから十年近くたってまさかこんなチャンスが転がり込んでくるとは。
久しぶりに会った時には、マジでテンション上がった。
あの頃と変わらない美人のまま、色香だけが激増してた。

あのジジイに邪魔された時は、はらわた煮えくりかえりそうだったが、一也と公太が知り合いだったのはラッキーだった。
あのジジイも蹴落として、詩織を手に入れる。

俺なら、出来る。

人生勝ち組で良かったとつくづく思う。

ニヤつく顔が鏡に映る。
いかんいかん、あの女が自分のものになると言っても、イメージは大事だ。

スマホが鳴る。
一也が来た。
さあて、行くか、詩織を迎えに。


**********



「見たか、あの執事共の顔、ケッサクだった!」

【GARDEN】に立ち寄り南を迎えに行った時、かっこつけた執事共が驚く様子はマジで笑えた。
あのジジイなんて詩織に行かないでくれと縋ってた。ウケる。

「おい、一也、聞いてるのか?」
「あ、はい。そうですね」

最近一也が馬鹿になったのかリアクションが薄い。
落ち目のコイツに俺が金をやってるのになんだその態度は。
腹が立ったので、蹴った。

「ちょっと!」

詩織が止めに入ろうとする。

「いいんだよ、コイツはこの位で。それにキョーイクだよ、キョーイク。……で、詩織の言ってたカフェってどのあたり?」
「あ、えと、確か……こっちよ」

自分で行きたいと言ってたカフェなのにうろ覚えらしい。
でもまあ、その辺りもカワイイもんだ。
しかも、芸能人御用達の個室カフェらしい。

やべえ、顔がにやけて止まらない。個室だぞ個室。

そんな場所ならちょっと歩くくらい気にならない。

辿り着いたそのカフェはマジでお洒落で金がかかってそうで、一流芸能人が使ってそうな所だった。

「ここで、【GARDEN】の予約までは時間潰しましょう」
「良い所知ってるな。流石、詩織。おい、一也、お前は出とけ」
「え? あ、はい」

個室だぞ。空気読めない奴だ。
一也は、慌てて出ていく。

二人きりだ。

「なあ、詩織。個室のカフェにわざわざ来たんだ。意味分かって」
「失礼します。お水お持ちしました」

ち。店員のタイミングが悪すぎる。
すぐさま詩織が手をぎゅっと胸元で抑え、距離をとり、店員に注文し始める。
急ぎ過ぎたか。というか、自分の立場をもう少し分からせてやるべきか。

「あの、本当に今日一日付き合えば、昨日の事もなしにして、これまでみたいな嫌がらせはやめてくれるのよね?」
「あー、だけど、それはお前の今日の態度次第だぞ」
「……わかってる」

神妙な面持ちで頷く詩織。本当に分かってるようだな。
なら、問題はない。その悔しそうな表情が堪らない。

「ねえ、一つ聞いていい? 全部貴方の企んだことなの?」

屈辱に震えながらこっちを見てくるその顔をもっと歪ませたくて、俺は出来るだけ強く煽る。

「せいか~い♪ 俺が全部企んだ。まんまと引っかかってくれてありがとうな」
「やっぱり……! 最初から【GARDEN】を潰すつもりで? もしかして、蒼樹も?」
「だいせいか~い♪ いずれにせよ、お前は俺に従うしかないけどな。辞める宣言までしたんだ。もう今更だろ」
「そう、ね……もう戻れないわ」

弱り切ったその顔に興奮する。もう我慢が出来ない。

「分かってるならいい……! じゃあ、」
「失礼しまーす」

店員の間が悪すぎる。料理来るのはええな!
そして、その店は見た目の割に、最悪だった。

店員はいちいち小まめに料理持ってきたり、注文取りに来たりするし、他の客が間違えて入ろうとして来たりして、一向に詩織に触ることが出来なかった。
漸く静かになったと思ったら、

「琉偉さん、そろそろ……」

一也のヤツが来た。マジで空気読めない奴だ。馬鹿か。
馬鹿は、公太が教えてくれた南が好きだという薔薇の花束を持ってきてた。

出来るんだか出来ねえんだか。

「詩織、お前、薔薇好きなんだろ? ほらお前の為にこんだけの数用意したぜ」
「これって……何本?」
「何本? 知らねえよ。けど、集められるだけ集めたんだ。俺の気持ちだ」
「ありがとう。でも、荷物になっちゃうから……」

ち。やっぱ一也使えねえ。確かにこのタイミングじゃ邪魔になるだけだ。
しかも、この後ずっと持って歩いたら目立つ。
あとで、一也に持って帰らせるか。

うまくいかねえな、今日は。

そして、ツイてない日というのはとことんツイてない。




「なんで……誰もいねえんだよっ……!」

【GARDEN】に着いたものの、俺と詩織と一也以外誰も来ていなかった。

「おい、一也、連絡しろ。俺もかける」
「は、はい」

来てないってどういうことだ!?
アイツらふざけやがって……! 俺はスマホを乱暴に操作しながら電話をかける。

『も、もしもし』
「おい! ユーゴ、お前今どこにいやがる! 俺待たせるとはいい度胸してんな!」
『す、すみません。俺、いけないです』
「はあ!?」
『妹に泣かれて……とにかく、すみません! 今までのお金も返すので! すみませんでした!』

妹に泣かれてってなんでだよ! シスコン馬鹿が!
もういい。使えねー奴は切る。それだけだ。
一也の方の声が聞こえる。

「おい! テメエふざけんなよ!」
『先輩、すみませんっ! おれ、俺いけません! 俺、ばあちゃんを裏切ることはできないんですっ!』
「はあ!? ばあちゃんってお前!」
『俺、もう、真っ当になります! ばあちゃんに心配かけたくないんで!』
「おい! 森! 森!」

ちい! シスコン、ババコン、馬鹿ばっかりか!
だが、まだこいつらはマシだった。

「なんで来ねえんだよ!」
『いやあ、今すっげー可愛い子にお茶誘われて、すいませーん一也さん。金はいいんで。失礼しまーす!』

俺達より女を優先するとはほんと良い根性してる。
あとで絶対ぶっころす。

『先輩、先言っておきます。やっちゃいましたよ、先輩』
「はあ!? 何がだよ」
『俺、賢く生きたいんで。じゃあ、失礼します』

誰も、俺の言う事を聞きやしねえ。どういうことだ?
何が起きている? こんなこと今までなかった。

「ねえ、誰も来ないの?」

詩織がかわいそうなもんでも見るような目で見てくる。ふざけんな。

「まだ俺のコマはいくらでもいるんだよ!」
「その人たちって今まで【GARDEN】に来た人たち?」
「そうだよ! だからわかんだろ! まだ腐るほどいる!」
「あれ全部あんたの知り合いだったんだ」
「そうだ! だから黙ってろ!」

そこから十何人に電話かけたが全然つながりしねえ!

「出ろよ! おい! なんででねえんだよ!」
「ねえ、もう入らないと、時間だけど?」
「分かってんだよ! ん?」

今日来る予定の鈴木から連絡だ。やっとかけてきやがった。

「おい! ふざけんなよ! 鈴木ぃい!」
『す、すみません、か、代わりの人が行くんで。勘弁してください!』
「代わり?」

代わり用意するだけまだマシか。

「ち! 分かったよ! ソイツにさっさと来いって伝えとけ!」

くそ! ついてない! 今日は、詩織をものにして最高の日になるはずが……まあいい。
執事共を煽ってストレス解消するか。

「お嬢様お坊ちゃん、本日は三名様でよろしいですか?」
「……あとから、もう一人来る」
「かしこまりました」

心なしか、受付の執事が馬鹿にしているように見える。
が、俺が声を掛けようとする前に案内が来る。今日は本当に、間が悪い。
しかし、隣に詩織が居て、これから負け犬執事共に会えると思うと気分はアガってきた。
ホールにつくと、執事共が一斉にこちらを見る。
あのジジイもいる。

「おい! 白髪執事! この花束、コイツがいらねっていうからよ。適当に捨てといてくれ」
「かしこまりました。捨てるのは忍びないですし、こちらで頂いても?」
「勝手にしろ!」

白髪に思いっきりぶん投げてやったが簡単に受け取りやがった。
つまんねえ。
しかも、今日は心なしか、執事共が大人しい。いつもならもっとガン飛ばしてくるヤツもいるのに。

なんだ、もう諦めムードか?

なら、今日はのんびりコイツ等のツラを眺めながら美味しく飯食うか。

「おい、ジジイ。飯だ」
「かしこまりました。ランチセットでよろし」
「ああ、さっさと持って来いよ。のろま」
「では、お持ちします。3つですか?」
「あ、私は……さっき食べすぎちゃったので……飲み物だけで」

さっきの個室カフェで確かに詩織は大分食べていた。子供みたいなところがまたそそる。

「おい、詩織。酒飲もうぜ」
「私は……珈琲だけで」
「なんだよ、遠慮するなよ、詩織」
「いや……でも……」
「うるせえ、俺に従うんだろ。……酒、飲めよ」
「分かり、ました……」

詩織が俺に負けて、力なく頷く。

これだよこれ。

この気分が味わいたくて、俺は生きている。そう、これは勝ち組だけが味わえる特権だ。
もっと追い詰めようと詩織に迫った瞬間、またあのジジイがやってくる。

「お連れ様が来られました」
「ち! さっさと連れて来い」

なんでこう今日は空気を読めない奴らばっかりなんだ。
なんだ、取り決めでもしてんのか? まったく使えねえ奴らだ。
俺が鈴木の代わりをサンドバッグにしてやろうと待っていたらすぐにソイツはやってきた。

「よ~お、さっさと来いって言われたからさっさと来たぜ」
「は?」

誰だ、そんな生意気なクチを利くやつは、と振り返ったが、そこにいたのはスーツに身を包んだ黒髪オールバック。俺が良く知る人物だった。そして、今、会いたくない人だった。

「あ、明羅先輩?」
「おう、久しぶりだなあ。琉偉」

……なんで、コイツがいるんだ。訳が分からねえ。目を擦るがそんなことで人が変わるはずもなく俺が固まっていると、一也が話しかけてくる。

「誰っすか? 年上っぽいですけど」
「高校ん時の、俺の二つ上の先輩だ。東雲明羅しののめ あきら……おい、絶対、あの人に逆らうんじゃねえぞ……! あの人にかかったら俺らなんて一瞬で潰される」

【狂犬】と呼ばれた男が俺の二つ上にいた。
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久しぶりに見た狂犬は、あの頃と変わらず凄みがあったし、体つきはあの頃よりもよっぽど締まって強そうだ。
ぶっちゃけ、喧嘩なら、俺は百パー負けるだろう。なのに、

「福家さ……白銀さん、ご無沙汰してます」
「明羅さん、お元気そうで何よりです」

なんで……あの【狂犬】明羅が、あのジジイと仲良く笑ってんだ?
なんだ……なんなんだよ! 今日は! 何が起きてるんだ!

そして、九月二日が俺にとって最高の日どころか最低最悪の日だったことを、この後、俺は知る。
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