運命なんていらない

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「久しぶりの下界だな」

誰も聞いてないが、思わず呟く。

明るいうちに外に出たのは何ヵ月ぶりか。

ちょっと、日差しがクラクラする。

外に出る必要がない生活を送っているが、運動不足にもなるので夜はちょこちょこ出歩いている。
散歩程度の距離を歩き、たまに外食をし、また歩いて戻る。

……蒼も一緒に。
不本意だ。
もちろん。

だが、一人で外出するのはヒートも不安定だから心配だと何度も言われ、このままだとボディガードまで雇われそうだったから折れた。

外出するのは蒼と一緒の時のみ。
人目を気にして、俺が自主的に夜にしている。


そんな俺が明るいうちに外出したのは、仕事のためだ。

いつものようにオンラインで打ち合わせをしていると、担当さんが突然頭を下げた。

「奏先生!次の打ち合わせを対面でお願いできませんか!!」
「え?」

突然で驚いた。

担当さんはもちろん俺がΩで、ヒートが不定期だから外出したくないのを知っている。

「それは……どうしたんですか?」

きっと、何か理由があるんだろうと思った。
言い出しにくそうだから、きっと上の人に言われたんだろうな……

「あの……先生がイラストを担当している小説の作家先生が、どうしても一度お会いしたいと……」
「あぁ」

確かに連載前に一度軽く打ち合わせを打診されたが、断っていた。
担当さんとしても、何度も作家先生に断りにくいのだろう。
今回、雑誌連載をまとめて単行本にすることになり、そのままイラストを担当することになった。

正直、ありがたい。

知名度もなく、こうやって雑誌連載やら単行本やら展開していく仕事はめったにこない。

才谷海里さいたにかいり……名前しか知らないが、小説が何作もドラマ化や映画化されている人気作家。

イラストを、と言われた時はなぜ俺が!?と思った。

なんでも、同じ雑誌の短編小説に描いたイラストが目に止まったらしい。

「先生がΩであることもヒートが不定期であることもお話ししてないんです。個人情報ですし。もし、先生から許可を頂ければお話ししてお断りすることも……」

「いーですよ」
「えっ!?」

めちゃめちゃ驚いた顔してるな……ちょっと笑えた。

「ヒートきたばかりだから大丈夫だと思うし、短時間でいいなら」
「……ありがとうございます!」

何度も頭を下げられる。
あー、けっこう気にしてくれてたんだなぁ……ありがたい。

「また日時決まったら、連絡して下さい」

……接続を切り、ふーっと息を吐く。

担当さんの手前、軽く了解したが、初対面の相手と打ち合わせ……嫌すぎる。

人見知りの陰キャだし。

でも、そんなこと言ってられない!

担当さんも同席してくれるし、まぁ、なぜそんなに対面にこだわるのかよく分からないが、自分に大切な小説のイラストをまかせてもらってるんだから、ちゃんと実のある打ち合わせにしないと!

あ、何着て行こう……最近服買ってないからちょっとネット見てみようかな……

手土産とかあった方がいいのか?
担当さんに聞いてみようかな……と打ち合わせについて考えていると、あ、と思考が止まる。

蒼……話さないとまずいよな……

めんどくせー!!

黙ってればいいかな?
でも、たまたま来て俺がいなかったら警察沙汰になりそうだしな……
予定だけ確認して黙ってようかな……そうしよ。




「蒼、今度の火曜ってウチ来る?」

「……なんで予定なんか聞くの?」

「えっ……別に」

「いつも僕が勝手に撮影の予定とか言うくらいで、カナが聞いてきたことなんかないよね?」

目が泳いだ。

「誰か来るの?……もしかして、外で誰かと会う?」

早速、バレた。
蒼は真顔だ。

そこからは、もう上手く追及をかわせずに全部話した。

「ダメだよ。心配」

即答。

「いや、お世話になってる担当さんが何度も頭下げてんだぞ!」

「ダメ」

「おい!」

「……なんで直接対面?オンラインじゃダメなの?」

「それは……俺も思ったけど……でも、空気感とかさ、なんかいろいろあるんじゃないのか?しらねーけど。向こうにはΩとか言ってないから、そこまで対面嫌うってのも分からないんじゃねーの」

「じゃあ、伝えて断ればいいじゃない」

「……Ωだとか、言いたくない。言わなくてすむなら、その方がいい……」

ちょっと声が小さくなってしまった。
自分の弱さにイラつく。

「とにかく!」

いつの間にか俯いていた顔を上げ、蒼を睨んだ。

「外で会うのはもう決めた!お前に言っとかないとうるせーから言っただけで、別に許可なんかいらないだろ!」

「……最初、誤魔化そうとしたよね?」

うっっと言葉に詰まる。

「黙っておけばいいとか思ってたよね?」

「そ、れは……」

言い当てられてバツが悪い。

「じゃあ、僕も行く」

「それはダメだ。ガキじゃないんだよ!仕事なんだから付き添いなんかいらねー」

この話になったら、絶対に言うと思っていた。
映画の公開がせまっていて、連日取材やプロモーションで忙しいのに、休みを取らせる訳にはいかない。

そんな忙しい合間をぬって、モーニングコールやこうして家に来たりしている……これ以上、負担を増やしたくない。

「心配で仕事どころじゃないよ……」

「何の心配だよ!ヒートは終わったばっかだし、ちゃんと抑制剤も飲む。緊急用の強めのも持っていく。これでいいだろ?」

はぁっ。
ため息をつかれた。

蒼も俺が意思を曲げないと思ったのか、今までの『お願い子犬モード』から『屈服させよう獅子モード』にシフトチェンジしてきた。

さっきまでと、圧が違う。

「密室にその初対面の小説家と二人で本当に大丈夫だと思ってるの?」

「担当さんもっ、いる、し…」

「いつ席をはずすか分からないよね?そもそも、担当もグルだったらどうするの?」

「そんなことしない!」

カッとなって怒鳴った。
蒼は平然とし、目を細めた。

「信用したら甘いんだから……。で?まさか本当に出版社の会議室で会おうとか思ってないよね?人気作家に忖度するような場所で会うのは許さないよ。絶対に」

ぐっと、身体にかかる重力が増したような、そんなαの圧を感じる。

蒼は基本的に温和だし、俺に甘いから、こんなにαの圧をかけることはない。

少し、身体が震える。

「場所はカナが指定した所。もちろん、僕が選ぶ。時間も長くはダメ」

「なんでっ!なんで……お前にそんなことまでっ」

「……あんなことがあったのに?」

蒼の……怒気を含めた声。
血の気がひいた。

フラッシュバックするあの日の……身体がガタガタ震えだす。
蒼がはっとして、顔色を変えた。

「カナ、ごめん、強く言いすぎた」

ぎゅっと強く蒼に抱き締められる。

「お…れも……ごめっ……」

「カナは何も悪くないよ。でも、心配してるのは忘れないで。心配、させて」

蒼の肩口に顔を寄せながら、何度か頷く。

俺の頭を優しく撫でながら、さっきよりも幾分優しい声音で問いかける。

「その作家はなんて名前?ちゃんと聞いてなかった」

「……才谷海里。小説が、また今度映画化になるって……」

「なんだ、海里か!」

「へ?」

顔をあげると、いつもの蒼のいつもの笑顔。

「海里なら、大丈夫だよ!彼はΩだから」

……何でそんなこと……知ってるんだ…
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