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48 恋心に罪を覚える
しおりを挟む「…っ何を、頭を上げてくださいませソンジュ様、…」
突然土下座した俺に、ユンファ殿は慌てた様子である。
床近くまで下がった俺の肩を、なんとか持ち上げようとしている彼だが、――極まった俺の感情にも増して、狼の俺の力強さに、ユンファ殿の力が敵うはずもない。
「…いいえ、先ほどの俺の失言、誠に申し訳ございませんでした、…っ貴方様は決して淫乱でも、淫蕩でもございませぬ、…」
「……、ソンジュ様、しかし…」
「…っむしろ貴方様は、それらの対極にいるようなお人ではないか、…俺は、…俺とて本当は――貴方様が、俺を誘ってなどいないこともわかっておりました、どれもこれも、本心で言ったことでありませぬ、…っただ……」
するとユンファ殿は――俺の荒立ったこの声を、ふんわりと包み込むような優しい声で、…制止した。
「…もう結構でございます、ソンジュ様…。はは、それが聞けただけ…ソンジュ様があのときの、僕のことを覚えていてくださっただけで…もう…僕はもう、十分幸せです……」
「……っ、…っ」
何が――何が、“淫蕩の罪”だというのだ。
俺はこれほど無垢な人を知らぬ。…これほど穢れのない、その魂までもが清らかで美しい人を、誇張でもなんでもなく俺は、たったの一人も知らぬ。――俺はとても恥ずかしくて、頭を上げられない。…あれほどその人を侮辱した俺を、その人を大いに傷付けてしまった俺を、…優しい声で許すよう、俺の全身をふわふわとした優しいもので包み込んでくるこのユンファ殿のほか、俺はそうして無垢な人を知らぬ。
「…ソンジュ様は、ただ優しいお気持ちで、僕に林檎をくださった…。ちょっとした気遣いで、あの林檎を…――貴方様にとってのあれは、ただの…この部屋に元よりあった、ただの林檎……」
ユンファ殿は、しみじみとそう言った。
俺はなぜか、それを否定したくてたまらぬが――次にもユンファ殿は、その軽やかな声で、土下座する俺の背をなだめ、さする。
「…しかし、僕にとってあれは、ただの林檎をなんかじゃありません…。だって…――だって、一目見たときからお慕いしていた、貴方様に…ソンジュ様にいただけた、唯一無二の林檎なのです……」
「……、…っ、…ユンファ殿、…」
あのときの俺にとっては、本当にただの林檎だった。
…本当に、ちょっとした気遣いの林檎であった。――しかし、いまの俺にとってはどうだ。どうだ、…そのときよりもあの林檎が、同じあの真っ赤な林檎が、一つ、何かやけに誇らしいものになっていやしないか。
ユンファ殿は、柔らかい笑みを含ませて、こう言う。
「…構わぬのです…。しかし、構わぬ…――ソンジュ様にとって、あれが単なる林檎であろうとも…僕は、それでなんら構いません……」
「………、…」
明日――これほどに清廉なユンファ殿が。
…あの“婚礼の儀”で――ジャスルに、犯される。
そう思うと憎悪に近い感情が、俺の中で芽を出す。
「…あの優しい抱擁、ソンジュ様との接吻…、あの林檎も、貴方様の、優しい微笑みも…――僕の中に、一夜の夢としてあればよい…」
「……ユンファ殿…、…」
俺の背を優しく撫でていたはずの、ユンファ殿の声は、いまに俺の背をグサグサと刺してくる。――俺は床に手を着いたまま、おもむろに頭を上げた。
「…明日、僕の全てがジャスル様のものとなろうとも…僕は、きっとこの夜の夢があれば、生きてゆけます…――ありがとうございました、ソンジュ様……」
「……、…っ、…っ」
俺は、ユンファ殿のその美しい微笑みの前、嗚咽した。
「…ごめんなさい…。僕は恐れ多くも、ソンジュ様に、恋をしてしまったのです。…本当にごめんなさい……」
そう、震えた小さな声で俺に謝ったユンファ殿は、ふ…とやさしげに目を細めて淡く微笑み、ほろりとまた涙を、その美しい切れ長の目からこぼした。――それから俺へ、また深く頭を下げたのだ。
「…お忘れください…、どうぞソンジュ様は…――今宵に起こったことは全て、どうぞ全て、お忘れくださいませ……」
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