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70 幸せなのだと、刹那の甘い声を出せ※
しおりを挟む「…忘れられるわけがないだろ、…馬鹿を言うな、…」
「…んぁ…っ!♡ あっ♡ ……そ、…っソンジュ、…」
本能の激しい動きに歪むその顔は、恍惚に虚ろとなる。
ぎゅっと顰められた黒の、端正な眉――黒々としたまつ毛に宿る涙の小さなしずくは、蝶の羽に付いた雨露の輝きを放ち、…やがて蜜を吸う蝶の羽のごとく、閉じられた白いまぶた。
「…ッ♡ …ッ♡ ふ…ッ♡ …んん…ッ♡」
しかし、赤い唇を固く引き結んで息を止め、声を出さぬよう努めるユンファ様に、俺は無性に腹が立つ。
「…俺は貴方となら死んでもいい、声を出せ、…思いっきり出せよ…っ!」
俺は死んでもよい。
このユンファ様と契ったことによって命を失うとて、俺はもはや構わぬ。――であるから俺は、この麗しき胡蝶の羽に触れたのだ。その手指についた鱗粉さえ舐めとるほどに、覚悟を決めている…はじめから、そのつもりであった。
何も、もはや何も恐れてはいない。
たとえ、この胡蝶の羽を濡らす雨露が朝日に照らされ、そしてその輝きがこの籠の外へともれようとも、もはや何も構わぬ。――どうせ死ぬのなら、このユンファ…俺のものとして、共に死にたい。
「…んん、ソンジュ…、…ソンジュ、違う、……」
しかし、ユンファ様はうっすらと目を開けると、淡い微笑みを浮かべ――その顔をふるふると、横に振った。
「……生きてほしい、…」
「……、は、…」
俺は眉を顰めつつ、目を瞠った。
「…僕、やっぱり…っソンジュに生きてほしい……」
泣きそうな顔をして笑い…――いや、泣いて、涙をこぼしながら、目元を歪めながら笑うユンファ様は、「生きてほしいんだ…」と繰り返し。
「……嬉しいけれど、…ソンジュがこれから幸せになれるほうが、嬉しい、僕…――僕、ソンジュに…生きて幸せになってほしい、…っ」
「……、…はぁ…、…はぁ…、…」
俺は、少し止まって考える。
…少しだけ考えて――俺は「ならば…」と、ほとんど、ユンファ様の目を睨み下げた。
「…ならば声を出してくれ…。俺は、今の幸せを殺されるほうが不幸だ」
「…はぁ…は…、…ソンジュ…でも、外に聞こえ…」
「聞こえたとしても、俺は生きる。――何としてでも生きるから、声を出してくれ、我がつがいよ…」
俺が低く、なかば脅すようにそう言えばユンファ様は、躊躇いながら――薄紫色の瞳を揺らし、迷いながらも、…こくりと頷いた。
「…わかった…。それが…ソンジュの幸せなら……」
「……、…――。」
俺の幸せは――刹那であろうとも、幸せだ。
たとえ嘘をつき、たとえ、誰よりも愛おしい我がつがいを騙していたとしても――それこそが、幸せなのだ。
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