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92 穢された胡蝶、悔恨の狼
しおりを挟む「…さあ、ワシの魔羅を舐めて綺麗にしておくれユンファ…、たっぷりと感謝を込めるんだぞぉ……」
「……はい、旦那様…、ん……」
寝そべったままに顔を横へ向けたユンファ様は、目の前にボロンと垂れた男根に手を添え、赤い舌を伸ばしてぺろぺろと、…白濁まみれのソレを根元まで舐め、綺麗にする。そして――先ほど教え込まれた通りに咥え、残滓を吸い取ってまで丁寧に、ジャスル様の男根を綺麗にした。
「…金玉と毛もだ」
「ん…、はい…、…」
そう言われればユンファ様は、また従順にもジャスル様の陰毛に鼻を埋めて付着したものを舐め取り、そしてそれは、黒ずんだ玉袋にまで及んだ。
そうして――一通り舐め取ったユンファ様の、乱れた髪を撫でているジャスル様。
彼の口の周りこそ陰毛や白濁まみれでも、それきりパタンと力なく床に転がったユンファ様は、もはやそれらをどうにかする気力さえないらしい。
そして、彼の肉厚な赤い唇に、また猛りかけているソレをぐりぐりと押し付け、自らの体液を塗り込んでいるジャスル様は、この美しい人を穢し切ったことに満足しているようだ。――邪悪なほど満面の笑みで、人形のように無抵抗なユンファ様の上体を抱き起こしては、そのベタベタと汚れ切った唇に口付けている。
「んう…んんん…、可愛いユンファよ、ワシの可愛い蝶…気持ち良かったなぁ…? んん…」
「………、…」
「…………」
――不甲斐ないことである。
ただユンファ様が犯され、嬲られ、果てには意に反して絶頂する様を…――俺はただ感情を噛み殺し、ただ悔しく見ているしかできなかった。
いっそ死にたいくらいだ。――何が“永恋の誓い”だと、俺は昨夜の自分を、何度も何度も頭の中で殴り付けていた。
それと同時に――何度も、何度も、何度も。
ユンファ様を暴き犯している男たち、ジャスル様を含めたこやつらを、何度も頭の中で斬りつけていた。
今まではそうも思わず、淡々と、この汚辱にまみれた“婚礼の儀”をぼんやり眺めていたような俺が――。
彼らの側、呆然と立ち竦む俺――はたと、ジャスル様が俺へ振り返る。
「おいソンジュ。…こっちに来い」
「は、…はい。…」
不意に名を呼ばれ、俺はジャスル様へ何歩か歩み寄り、…そしてその人の側にしゃがみこんで片膝を立て、頭を垂れた。
しかし、やけにジャスル様はニマニマとしながら俺を、上から下、下から上と舐め回すようにいやらしく見ている気配がする――チラと見れば――それから、目は薄く開いていながらも、ぼーっと死んだような無表情のユンファ様を、満足げに見下ろしたその人は。
「コレを見よソンジュ」
「…はい…、…」
「見よ、この艶姿を…、どうだ…?」
俺は命じられたままに、ユンファ様を見た。
彼は、心ここに在らずの様子で息を切らしているだけで、俺に見られていてももう然程、何の反応もしなかった。――ただぼんやりと天井を見上げているのは、その無気力にゆるんだ切れ長のまぶた、潤みながらも翳る薄紫色の瞳。
「…はぁ…、はぁ……」
「………、…」
赤く染まったなめらかな肌に、かけられた精が早くも乾き、半透明になっているものもあれば、いまだ白濁してこってりと、彼の肌に留まっているものもある。
美しい裸体に違いない。…虚ろでも美しい顔に、引き締まった細い身体――大変に整った容姿であるとは思う。
きめ細やかな肌を染め、虚げになった表情は、確かに艶姿といっていい。
しかし、あれほどに純真な人だったのだ。
俺に渡された林檎一つに喜び、俺の下手くそな笑顔に喜んで――“「……ぁ、ありがとう、ございます……」”…そう嬉しそうに笑って、あの林檎をあまりにも大切にしては、よほど食べられぬと笑った人。
林檎一つを、生まれて初めての贈り物だから、慕った俺からの贈り物だからと、もったいなくて食べられぬと言って――昼まで少し眠った際も、その赤い林檎を片手に握ったままに、鼻先でその甘い香りを嗅ぎながら眠っていた人。
“「……ごめんなさい、どうしても貴方がよかった……」”
うなだれて顔を覆い、ぽたぽたと涙をこぼして泣きながら、小さな震えた声で、こう言った人。
“「……これでもう…これで僕の、生まれて初めての接吻相手は――ソンジュ様になった……」”――たったそれだけでもう満足だと、もうこれ以上は何も求めないからと。
初めての接吻は――好いた俺としたかったと、口付けてきた人。…その接吻を、俺に忘れろと言った人。
俺の頭の中に――昨夜の一瞬一瞬がぶつ切りになって、悔しく悔しく蘇ってくる。
“「明日になれば、僕はもう二度と、貴方様のものにはなれないのです、…ソンジュ様、お願いします…どうか慰めに…――今宵のうちに、もっと素敵な一夜の夢を、僕に見させてくださいませ……」”――俺に組み敷かれて赤らんだ顔、広がる艶美な黒髪、涙目で微笑む、美しき胡蝶の愛おしさ。
“「…はぁ、…今宵…ソンジュのものになれて、……本当に嬉しい……」”――俺の後ろ頭を撫でたそのやさしい手、儚く掠れた小さな声。
“「…しあわ、せ……」”――その透き通った薄紫色を白いまぶたに隠し、幸せそうに微笑んでいた美青年。
“「……嬉しいけれど、…ソンジュがこれから幸せになれるほうが、嬉しい、僕…――僕、ソンジュに…生きて幸せになってほしい、…っ」”――涙をこぼしながら、目元を歪めながら笑った、悲痛な笑顔。
“「…俺の魂がつがい合うのは、これよりは貴方様だけ。俺は、何度も何度も必ずや貴方様を見つけ出し、何度も何度も貴方様に恋をして、何度生まれ変わろうとも必ず、俺はユンファ様と結ばれる。――この“永恋の誓い”、どうぞご承諾くださいませ。…我ら、永久なるつがいとなりましょう。」”
“「……はい、…ぉ、お受け、いたします……」”――ぽうっと幸せそうな顔、その切れ長の目からはらりとこぼれた透明な涙は、やさしい月明かりに照らされていた。
“「…そう…。そうだったのか。――何でも知っているんだね、凄い。ソンジュは物知りだ。」”――何でもないことを教えてやれば、凄い、凄いとニコニコして、無垢に顔をほころばせたその人。
“「……ソンジュ…明日の“婚礼の儀”で、たとえ僕がどうなってしまったとしても、何があってもソンジュは、止めになんか入らなくていいよ。――どうなっても、僕は絶対にソンジュを恨まない。…ジャスル様が言うままにして、どうか自分を守っておくれ。…ソンジュ…先に教えてくれて、本当にありがとう。」”――あまりにも、…あまりにも、身も心も美しい、その人の…寂しげな微笑。
「……、…――。」
痛ましい、姿だ。
あんなに無垢であったこの人が、このように穢され、ボロ雑巾のようになっていては。
俺はただこのユンファ様が哀れで仕方なく、己が不甲斐なく、…この場に居る者ども全員が忌々しく、憎々しく、切り捨ててやりたいと――顔を顰めてしまった。
「…おぉソンジュ…ソンジュよ、やはりお前は裏切らぬなぁ」
「………、…」
はたと見れば、ジャスル様はニヤリと俺の目を見て、思惑有りげに目を細めた。
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