104 / 163
104 ささやかな幸せ
しおりを挟むそんな淫蕩な日々を過ごし――年が明け、幾月か。
はじめのほうこそ、ジャスル様の寝台で眠ることもあったユンファ様…それこそ身を清めるにしても、ジャスル様の部屋に付いた浴室でその人と共に湯浴みをしては、浴室でもまぐわいあっていた彼らだが。
しかし次第にユンファ様は、夜にたっぷりとしこたま犯されたのち、彼自身の部屋へ帰されるようになった。
するとユンファ様は、元より足腰がそう強くないのもあってか、しこたま犯されたあとではガクガクと歩くのもままならず、結局――俺は何度も、何度も何度も――ユンファ様の体を、ただその人の部屋の浴室で清めてやった。
「大丈夫、自分でできるから…、大丈夫だよ、迷惑はかけられない……」――毎日のようにそればかりを力なく言って、ユンファ様はもう、それ以外俺と話してくださることはなくなっていた。…それどころか、ジャスル様に命じられたとき以外、俺とはもう目も合わせてくれぬ。
しかし俺が強行すれば、彼はただ黙って、俺にあの日のようにその身を洗われた。――気持ちばかり俺に安心して身を預けてくれているような、そんな気はするのだが。
そして、身を清めたあとのユンファ様は――朝に、自分の部屋の寝台で眠った。
俺には、ささやかな幸せがあった。
…おそらくユンファ様は意図的に、俺の目を見てはくれない。また意図的に、俺とは話さない。――しかし疲れからか――寝台に横向きで寝かせ、掛け布団を肩までかけてやるその瞬間…そのときばかりは、気が抜けているのか。
ユンファ様は、いつも俺の姿を盗み見ていたのだ。
「…………」
「……、ユンファ様……」
ほんの一瞬ばかり――目が合う。
とろりと、ぽうっとした薄紫色の瞳と、俺の目がかち合う。…しかし、見つめ合えることはなかった。――視線が一瞬ばかり絡み合うと、その人はまぶたをさっと伏せてしまうからだ。
「……ユンファ様…おやすみなさいませ」
「………、…」
これにも、何も言葉は返ってはこない。
しかしユンファ様は、するといくらか幸せそうな顔をする。…ぱっと頬を染めて、じわりと目を潤ませて。
さっとまぶたを閉ざして――きゅ、と、切ない顔をする。
そのまま体を小さく丸めて、ユンファ様は幼子のように眠る。――俺が一度だけ、さっとその絹の黒髪を撫でてやると、ユンファ様は…少しだけ、赤い唇の端を上げるのだ。
これが俺の――ささやかな、幸せだ。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる