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159 月明かりの下舞い踊る
しおりを挟むしばらく花火に見惚れていたユンファ様に、もう少しそれをゆっくり見せてやりたい気持ちはあったのだが――朝になれば、きっといよいよ気付かれる。
あの部屋に転がった英雄の亡き骸、もぬけの殻となったあの部屋――花火が打ち終わるまで見せてやりたい気持ちはあったが、追っ手に捕まっては元も子もないことだ。
そうして俺は、馬を引き…――宛もなく、ただ宛もなく、丘を下り歩いた。
朝になる前に、少しでも遠くへ逃げなければならぬ。
…朝が追いかけてくる前に。朝になり、人々の目が覚める前に…夢を追いかけ、追いかけ、夢を追いかけて――俺たちは、走り続けねばならぬ。
胡蝶の夢を――追いかけ続けよう。
丘を越えた先――俺はまた馬に乗って、走った。
頭からはまた白い布をかぶらせ、ユンファ様を前に抱えるようにして馬を走らせては、ひらひらとそれがはためき、――走らせ、馬を走らせ、走せて――目的地が定まっているでもないのだが、…とにかく俺は、馬を走らせた。
いまだ眠りに沈み込み、静まり返った町を抜け――人気のない町外れの村へ――その村の裏にある、森へ。
俺たちはその森の中に入り――水の音に引き寄せられた先、森の中にあった泉まで来て、俺はやっと馬の足を止めた。
さすがに走り通しでは、馬も持たない。
それに、ユンファ様もまたお疲れであろうと、この泉でしばし休憩することにした。――しかし、とにかくこのノージェスからは出なければ始まらないと、休憩したのちはまた延々走らねばならぬことだろう。
ユンファ様は、いつの間にやら頬を赤らめていた。
興奮したのだろう。――白い布越しとはいえ、初めて見たものがたくさんあり、また、今俺たちがいる森にしろ、この泉にしろ、部屋の中に幽閉されていたユンファ様にとってはすべて、物珍しい光景なのである。
「…わあ凄い、凄く綺麗だ…、凄い……」
また白い布を捲ってはうなじからかけ、ユンファ様は体を返してまで辺りを見渡し、無垢に瞳をキラキラさせていた。
惚れ直すほどに可愛らしい――彼が体を返すたび、ひらはら、はらはら…ふわりとその、白く透けた布が華麗に舞い踊り、青い月明かりに光る。
それに合わせて、チラチラと光る蛍が舞う…いや、この季節に蛍なのか、そうではないのか。――わからぬが、とにかく無数の小さな黄色い光が薄暗い森の中、泉の水面の上を、木の幹のあたりを、空をふよふよ、ふわふわと舞い踊っている。
幼子のようにはしゃいでいるユンファ様は、四方八方に顔を向けて、目をキラキラとさせながらこの鬱蒼とした森を、この青く透き通った大きな泉を、眺めていた。
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