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ヒュンッ。ヒュヒュンッ。
樫の木の木刀を振りおろしながら、ワキミズとエミィは口を開いていた。
「しかし、実家って言うか、一時帰国はしなくてもよかったの?」
「えぇ、報告だけなら電話一本で済む事ですし、今回はメィリオを帰らせましたので」
あの日の翌日、二人はこんな会話をしていたのだ。
「帰したって……
親御さんはエミィちゃんに会いたかったんじゃないの?」
「ん~、そうかもしれませんが――」
がつん、ごつん。
「ムダ口叩いてないで、集中しろー」
部活の鍛練中に会話をしていたことで、ユキシロから拳が二人の頭に振り落とされた。
「おぅい、ハク。
アンタさんの剣術の時間だろうが。
一年共がサボってたら、叱るもの仕事の内じゃねぇのか?」
そんな最中、一人ソワソワとしていたのはこの人。
「部長?」
突如声を掛けられ、全身の毛を逆立てながらぎくりとしたのは、部長ハク。
「あぁ……なんだ?」
平静を装う彼女だったが、その声は見事に裏返り、その場の全員に動揺していたことを軽々と見抜かれてしまっていた。
「いえ、あの、部活っていうか今日の鍛錬は終わりましたが」
「ん、そうか、それじゃあ解散……あぁ、そうだ、チョット待ってくれないか」
夕食の支度にとりかかろうとしていたワキミズとエミィに声を掛けたのはハクだった。
「ど、どうかな……?」
暫しの間を置いて、校門に呼びつけられていたワキミズとエミィの前に現れたのは部長ハクだった。しかし彼女にはそれまでとは大きく違っていた点があった。
「アレ……どうしたんですか?」
彼女の服装は今までの和服ではなかった。そう彼女は屋敷にいるときだけでなく、学園の校舎の中でも着物を身に着けていた。しかし、今は小花柄のワンピースにデニム生地の上着を着ているという、いかにも今風の女の子の服装であった。
「部長さん、いつもの着物も素敵でしたが、洋服も似合ってますねー」
「そ、そうかな?
自信はないんだけど、変じゃ……ないかな?」
女の子特有のキャイキャイとした雰囲気がエミィとハクの間で構築されて行く。
「全然!
変じゃないですよ~。
ねぇ、ワキミズさん?」
「うんうん、部長、ステキですよ」
普段とは違った一面を見せる身近な女性に素直に感嘆の意を表す。
(相変わらず、ムネ無いけど……)
ぼそりと呟いた、それこそ蚊の鳴く程の声に、ハクは目を光らせる。
ナンカイッタカ?
イーエ、ナンニモ。
「で、部長さん。私たちに用事ってなんですか?
わざわざオシャレをしてまで?」
「それは――だな……」
言葉を濁し、普段から決して多くはない口数は更に少なくなり、黙ったままで二人を引っ張っていった。その先は駅近くの喫茶店だった。
「あー、ここ、知ってますよ。
今時珍しい一軒家の喫茶店で、コーヒーショップとはちょっと違うんですよ。
ほら」
店の正面にはガラス張りのショーウィンドウがあり、中には年季の入った食品サンプルが飾られていた。
「ほんとだー、埃のかぶったトーストに、日に焼けたケーキ。日本独特の文化とは聞いていましたが、おもしろいですねー」
他にも時代を感じさせるサンプルが並ぶ中、その正統派の喫茶店の前で、扉に手を掛けながらもそれ以上先に進めない部長。彼女は振り返って二人に問うた。
「ど、どうだ。おまえら、こーひぃとか……飲みたくないか?」
「ハァ……部長、ここまで来てコーヒーですか?
いや、良いんですけど」
頭上に疑問符を浮かべながら部長の提案に是と答える。
「えぇ、良いデスヨ。
さ、中に入りましょうか」
エミィは何かを感じ取ったように部長の背を押す。
部長は部長でガラス越しに中をちらちらと伺い、意を決したように深呼吸で呼気を整え、扉を押す手に力を加えた。
カラカラリン。ドアベルが軽すぎず、さりとて重すぎず来客を知らせ、店の中ではカウンターの向こう側より声がかかる。
樫の木の木刀を振りおろしながら、ワキミズとエミィは口を開いていた。
「しかし、実家って言うか、一時帰国はしなくてもよかったの?」
「えぇ、報告だけなら電話一本で済む事ですし、今回はメィリオを帰らせましたので」
あの日の翌日、二人はこんな会話をしていたのだ。
「帰したって……
親御さんはエミィちゃんに会いたかったんじゃないの?」
「ん~、そうかもしれませんが――」
がつん、ごつん。
「ムダ口叩いてないで、集中しろー」
部活の鍛練中に会話をしていたことで、ユキシロから拳が二人の頭に振り落とされた。
「おぅい、ハク。
アンタさんの剣術の時間だろうが。
一年共がサボってたら、叱るもの仕事の内じゃねぇのか?」
そんな最中、一人ソワソワとしていたのはこの人。
「部長?」
突如声を掛けられ、全身の毛を逆立てながらぎくりとしたのは、部長ハク。
「あぁ……なんだ?」
平静を装う彼女だったが、その声は見事に裏返り、その場の全員に動揺していたことを軽々と見抜かれてしまっていた。
「いえ、あの、部活っていうか今日の鍛錬は終わりましたが」
「ん、そうか、それじゃあ解散……あぁ、そうだ、チョット待ってくれないか」
夕食の支度にとりかかろうとしていたワキミズとエミィに声を掛けたのはハクだった。
「ど、どうかな……?」
暫しの間を置いて、校門に呼びつけられていたワキミズとエミィの前に現れたのは部長ハクだった。しかし彼女にはそれまでとは大きく違っていた点があった。
「アレ……どうしたんですか?」
彼女の服装は今までの和服ではなかった。そう彼女は屋敷にいるときだけでなく、学園の校舎の中でも着物を身に着けていた。しかし、今は小花柄のワンピースにデニム生地の上着を着ているという、いかにも今風の女の子の服装であった。
「部長さん、いつもの着物も素敵でしたが、洋服も似合ってますねー」
「そ、そうかな?
自信はないんだけど、変じゃ……ないかな?」
女の子特有のキャイキャイとした雰囲気がエミィとハクの間で構築されて行く。
「全然!
変じゃないですよ~。
ねぇ、ワキミズさん?」
「うんうん、部長、ステキですよ」
普段とは違った一面を見せる身近な女性に素直に感嘆の意を表す。
(相変わらず、ムネ無いけど……)
ぼそりと呟いた、それこそ蚊の鳴く程の声に、ハクは目を光らせる。
ナンカイッタカ?
イーエ、ナンニモ。
「で、部長さん。私たちに用事ってなんですか?
わざわざオシャレをしてまで?」
「それは――だな……」
言葉を濁し、普段から決して多くはない口数は更に少なくなり、黙ったままで二人を引っ張っていった。その先は駅近くの喫茶店だった。
「あー、ここ、知ってますよ。
今時珍しい一軒家の喫茶店で、コーヒーショップとはちょっと違うんですよ。
ほら」
店の正面にはガラス張りのショーウィンドウがあり、中には年季の入った食品サンプルが飾られていた。
「ほんとだー、埃のかぶったトーストに、日に焼けたケーキ。日本独特の文化とは聞いていましたが、おもしろいですねー」
他にも時代を感じさせるサンプルが並ぶ中、その正統派の喫茶店の前で、扉に手を掛けながらもそれ以上先に進めない部長。彼女は振り返って二人に問うた。
「ど、どうだ。おまえら、こーひぃとか……飲みたくないか?」
「ハァ……部長、ここまで来てコーヒーですか?
いや、良いんですけど」
頭上に疑問符を浮かべながら部長の提案に是と答える。
「えぇ、良いデスヨ。
さ、中に入りましょうか」
エミィは何かを感じ取ったように部長の背を押す。
部長は部長でガラス越しに中をちらちらと伺い、意を決したように深呼吸で呼気を整え、扉を押す手に力を加えた。
カラカラリン。ドアベルが軽すぎず、さりとて重すぎず来客を知らせ、店の中ではカウンターの向こう側より声がかかる。
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