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54. カスタネット準男爵という男

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「カーク!! お前は、姫様に、死んで詫びろ!!」

 俺の父親、オドル・カスタネット準男爵は、怒髪天の勢いで怒り狂い、腰に差してた剣を抜いて、そのままカークに斬り掛かる。

「エッ?!」

 長男カークは、何が起こってるのか全く理解してない。

 俺は、慌てて腰に差してた十一文字権蔵を抜き、父親とアホなカークの間に割って入って、父親の強烈な剣激を受け止めた。

 別に、カークを助けたい訳じゃないよ。
 このまま父親がカークを殺しちゃったら、まだ幼い妹のリーナがトラウマになってしまうと思うから、仕方が無く。

 というか、俺の父親カスタネット準男爵の剣激は、メチャクチャ重い。
 どうやら、本気で、カークを殺す気だったみたいだ。

 やはり、俺の父親カスタネット準男爵という男は、騎士道を貫く為なら実の息子に対しても容赦がない人間であるようだ。

「貴方ーー!!」

 今更ながら、継母が慌ててる。

「カスタネット子爵……どいて下さい」

 なんか、父親の俺に対する呼び名が変わってて、むず痒く感じる。
 多分、貴族の上下関係に厳しいカスタネット準男爵は、実の親子であっても、形の上でカスタネット準男爵より偉くなった子爵の俺に対して、正当な呼び名で呼んでるのだろう。

「どかないよ」

 俺は、父親カスタネット準男爵に、冷静に言い返す。

「しかし、愚息カークは、姫様に対して、無礼を働いてしまいました。これは死んで償わらせなくてはなりません!」

 俺の父親……知ってたけど、どんだけ頭が固いんだよ……
 どうする……こんな状態じゃ、俺が何を言っても焼き石に水である。
 この場を収める事が出来る人物が居るとしたら、多分、王族であるサクラ姫だけ。

 俺は、サクラ姫に目配せする。
 すると、心得たとばかりに、サクラ姫は話し始めてくれた。

「今回の訪問は、王族として来た訳ではなく、ただ、婚約者の実家にお忍びで遊びに来ただけです。
 実際、家紋を外した馬車で訪れてますし、カークさんの罪は不問に致して貰えませんでしょうか?」

 サクラ姫が、機転を効かせて、カスタネット準男爵の説得をする。
 こういう時のサクラ姫は、本当に頼りになるのだ。

「はは! 姫様の仰せの通りに!」

 カスタネット準男爵は、ごねるかと思ったが、すぐさま剣を鞘にしまい、サクラ姫に対して、深く頭を下げた。
 やはり、王族の命令は、騎士道精神を貫くカスタネット準男爵的にとって絶対であるようだった。

 そして、長男カークはというと、腰を抜かしてオシッコちびってるし。よっぽど、怒髪天の勢いで怒ってた父親が怖かったのだろう。
 というか、俺の父親、思った以上に強かった。
 剣を持てば、剣豪になれるスキルを持ってる俺にでさえ、剣が物凄く重く感じたし。

 伊達に、毎日、重い模擬刀で素振りしていない。どんだけ戦争に備えてるんだよ……

 それにしても、この空気……なんとかしなきゃな……

「姫様も不問にすると言ってるから、みんないつも通り接してよ!」

 俺は、重過ぎる空気を払拭する為に、優しくみんな喋りかける。

 すると、すかさず、

「お兄ちゃんー!!」

 早速、いつものように妹のリーナが特攻して抱きついて来た。

「久しぶりだな」

 俺は、リーナの頭をヨシヨシしてやる。

「お兄ちゃん、会いたかったよー」

 リーナは涙目だ。どんだけ俺に会いたかったのだろう。
 リーナの事だから、俺に会いにいこうとしてた筈。だけれども、迷惑が掛かってしまうからと、多分、父親にでも止められてたのだろう。

「トトさん。私も会いたかったです」

 継母まで、便乗して、俺に会いたかったと言ってるし……
 絶対に、俺が、金の成る木だからだろうがよ!

 多分だが、リーナと継母は、何度も俺に会いに行こうと、王都に向かおうとしてた筈だ。多分、その度に、厳格過ぎる父に止められてたのだろう。

 俺は、フルート侯爵の養子という事になってるし、金の亡者の継母がフルート侯爵の家に乗り込んだら、フルート侯爵に迷惑を掛けてしまうと思ったに違いない。

「その子が、トト様の妹様でございますか? 本当に可愛らしい妹様でいらっしゃいますね」

 なんか、王女モードに入ってるサクラ姫が、穏やかな表情をして、俺とリーナに話し掛けてくる。

「ええと……姫様……お兄ちゃんが、お世話になってます……」

 一応、リーナも空気を読んで、恐る恐る挨拶する。
 流石に、王族に対して無礼な態度はしないようだ。
 まあ、目の前に王族に無礼な態度をして実の父親を殺されそうになった、アホな長男が居るからね。

「私は、トト様の婚約者。サクラ・フォン・マールと申します。正式にトト様と結婚したら本当の姉妹になる訳ですし、私の事はお姉ちゃんと呼んでくれれば、嬉しく思います」

 サクラ姫は、王族スマイルで、リーナに優しく語り掛ける。
 というか、サクラ姫は、リーナと同い年なのに、やはり、王族。貫禄がハンパない。
 それから、王族の敬語って、相当パンチ力がある。

 一般市民なら、一発でKOされてしまう破壊力だ。

 普段、俺に対しては甘えてるが、イザ、本気で人と接する時は、ビンビンに王族オーラを出すサクラ姫。
 これで、最初に上下関係を分からせるのだろう。

「ハイ! お姉様!!」

 リーナは、お兄ちゃん取るな!と、ごねるかもと思ったが、完全にサクラ姫の威厳に満ちたオーラにやられてしまったようである。

 本当に、俺の第一夫人は、物凄い。
 なんか、俺に話し掛けようとタイミングを伺ってた継母が、話し掛けれなくなってしまってるし。

 俺が継母に虐められてた事実を知ってるであろうサクラ姫も、お前は、喋り掛けるなオーラをビンビンに放ってるしね。

 サクラ姫は、本当に役立つ第一夫人であった。

 ーーー

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