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53. 実家に帰省

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 俺は、王様から1週間に1度、サクラ姫を王様に合わせれば、どこに行っても良いという言質を取り、取り敢えず、実家があるカスタネット準男爵領に行く事にした。

 久しぶりに、可愛いい妹のリーナに会いたいし、一応、両親に子爵になったと伝えとかないといけないし。

 それから、サクラ姫やアマンダさんやナナミさんも、ウチの両親に挨拶に行きたというもんだから、本当は継母や長男のカークには全く会いたくないけど、実家に行く事に決めたのだ。

 でもって、歩きで行くにはカスタネット領は遠いので、どうしようか?
 という話をしたら、王族の馬車を使えば良いとサクラ姫が言い出し、だけど、王族の馬車は、ちょっと……と言うと、昔、クレア姫がお忍びでカスタネット領に来た時に使った、家紋が付いてない馬車があるから、それを使えば良いという事になったのだ。

「うん。椅子もフカフカ。振動を減らすサスペンションも悪くない。だけど、この程度の馬車なら、僕にも簡単に作れる」

 何故か、ナナミさんが、王家の馬車に対抗意識を燃やしてるし……
 そして、何故か、俺の事を、じっと見てるし……

「じゃあ、今度、俺達の移動用の馬車を作ってくれるか?」

 俺は、空気を読んで、ナナミさんに提案してみる。

「ウン!任せて! 僕は、おっととトト君の為に、世界に1台しかない馬車を作ってみせるよ!」

 ナナミさんは燃えてる。本当にモノ作りが大好きなのだろう。
 もう、31階層のパーティーハウスに帰って、早速、馬車製作を始めたそうだし。
 まあ、どこでも扉があるから、パーティーハウスで待っててもらっても良いのだけど。

 カスタネット準男爵に着いたら、どこでも扉を使ってナナミさんを呼びに行く事も出来るからね。

「工房があるパーティーハウスに帰っとくか? 
 カスタネット領に着いたら、どこでも扉を使って迎えに行くし」

「大丈夫。僕は我が主の妾。妾は旦那の傍に常にいるもの!」

「そういうものか?」

「ドワーフ族の駄目な旦那は、すぐに酒浸りになり働かなくなるから、新婚のうちは見張っとかなくてはならない」

 何か知らんが、ナナミさんは真剣な顔をして言う。

「俺、ドワーフじゃないんだけど……」

「おっととトト君の場合は、お酒は心配してない。ただ、僕の好みである、おっととトト君の顔を眺めてたいだけ。
 この席は、おっととトト君と対面の席だから、おっととトト君の顔がよく見れる」

 本妻であるサクラ姫は、当然のように俺の隣に座ってるが、妾であるアマンダさんとナナミさんは、俺と対面の席に座ってるのだ。

 まあ、アマンダさんは、自分が妾だと認識してるから、遠慮して、俺の隣ではなく対面に座ったと思うけど、ナナミさんの場合は、俺の顔をマジマジ見たかっただけのようであった。

 それにしても、やっぱり王家の馬車は早い。
 本来なら、カスタネット領まで馬車で丸1日掛かる距離なのだが、たったの5時間で、カスタネット領の俺の実家に着いてしまった。

「なんなの!? 王家の馬車って、どんだけ速いの!」

 初めて王家の馬車に乗ったアマンダさんが、おったまげている。

「私が作る、おっととトト号なら、計算上2時間で着ける。しかも、この馬車より揺れないし、お尻も痛くならない」

 対抗意識を燃やしてるのか、ナナミさんが、まだ作ってもないのに、ドヤ顔で話しだす。
 というか、おっととトト号と言うのは、ダサいので止めて貰いたい。

「うん。ナナミさんなら出来ると思うな!なんたって、お城のようなパーティーハウス建てちゃうくらいだし!」

 アマンダさんも、どうやらナナミさんなら、王家の馬車を越える馬車を簡単に作ってしまえると思ってるようだ。

「それなら、王家の馬車も、お父様に言って、ナナミさんに注文しようかしら?」

 サクラ姫も、本気で思案してるようだ。

「僕の作る馬車は高いよ。銀のカスタネット用の馬車は、僕も乗るからタダで作ってあげるけど、王家の馬車ともなると無駄な装飾とか付けないといけないから」

 小遣い稼ぎが趣味のナナミさんも乗り気のようだ。普段はポーカーフェイスのナナミさんの顔が、少しニヤケてるし。

「その辺は、お父様と相談します。でも、今の馬車よりお尻が痛くならないと言えば、2つ返事でOKが出ると思います」

 なんか知らんが、サクラ姫は、ナナミさんとアマンダさんに対する喋り方が、完全に変わってきてる。
 完全に、第一夫人として、威厳に満ちた態度で接してるし。
 俺に対してはタメ口なのに、ナナミさんとアマンダさんには丁寧な言葉になってるもん。

 本当に、この態度を、俺の継母にも見習わしたい。
 うちの継母なんか、一応、第二夫人であった俺の実の母親をイジメ抜いて、失踪に追い込んだんだぜ。
 俺も、自立できたら、すぐにでも家を出たかったし。

 やはり、サクラ姫は、マール王国のお姫様。
 第二夫人、第三夫人の接し方もエレガントなのである。

 王家の馬車が、俺の実家の前に止まると、外で庭仕事をしてたカスタネット準男爵家の使用人が気付いて、慌てて屋敷に入って行くのが見えた。

 多分、家紋は消してあるけど、どう考えても高貴な身分が乗る馬車だと分かるので、慌てて、俺の両親に伝えに言ったのだろう。
 まあ、乗ってるのは、残念な事に息子の俺なんだけど。

 俺達が見計らって、馬車から下りる頃には、カスタネット準男爵家の使用人やらが勢揃いして、ビシッ!と並んで頭を下げていた。

 そして、少し遅れて、父オドルや、いつもなら、俺が家に帰って来たぐらいでは、絶対に出てこない継母と、妹のリーナと、それからカークが家から出て来た。

「なんだ。誰かと思ったらトトかよ!
 高位貴族が来たから、急いでお迎えしないといけないと聞いてたのに、トトならお迎えする必要ないだろ!」

 ぞんざいな態度で、アホなカークが、アホな事を言っている。
 確かに、俺だけならお迎えしなくても良いけど、俺と一緒に、この国の第2王女であるサクラ姫も訪れて居るのだ。
 お迎えしなくて良い訳ないのに、本当にアホなのか?

 この国の王族が銀髪なのは、普通の教育を受けた貴族子息なら誰でも知ってる常識の筈なのに……

 まあ、俺は知らなかったけど、それは、俺が貴族としての教育を受けてなかっただけで、井戸掘りばかりしていたからで、長男のカークは、一応、マール王立学園に入れて貰ってた筈なんだけど……

 流石に、半年で辞めたとしても、知ってて当然だと、俺は思う。

 だって、サクラ姫の兄であり、王位継承権第1位のエドワード・フォン・マールと、長男カークは同い年なのだから。

 エドワード王子とは、クラスが違ってたとしても、一度くらいは銀髪の王子様を見た事あるだろ……

 というか、そんな事より、物凄く不味い状態になってる。

 貴族の上下関係にとても厳しく、古き良き騎士道精神を貫いてる俺の父親。カスタネット準男爵が、怒りの頂点に達してしまってるのだ。

 王族が居る前で、カークの発言は、俺が攻撃的なスキルを得られなかっただけで、俺をカスタネット準男爵の人間と認めなくなったオドル・カスタネット準男爵が、絶対に許す訳ない。

 だって、攻撃的スキルが無いだけで、貴族の子息だと認めない父親だぜ。

 なんか、拳を握り締め、青筋立ててプルプル震えてるし……

 そして、全く空気が読めてない、アホなカークが、トドメを刺してしまう。

「俺、もう部屋に戻るから! 何で俺が、無能のトトのお迎えなんかしないといけねーんだよ!」

 終わった……

 サクラ姫は、その無能な男の婚約者なのだ。俺と、銀髪の少女が一緒に居る時点で、気付けよ。

「カーク!! お前は、姫様に、死んで詫びろ!!」

 サクラ姫が王族だと、最初から気付いてたオドル・カスタネット準男爵が、怒髪天の勢いで怒り狂い、腰に差してた剣を抜いて、そのままカークの頭上に振り上げる。

「エッ?!」

 カークは、何故、父親が怒り狂ってるか、全く理解出来ていないみたい。

 カークは、継母に甘やかされて育てられて来たのだ。
 そして、オドル・カスタネットという人は、子供達の教育については、全て継母に任せ、全く口を挟まない昔ながらの人間なのである。

 俺やニコル兄は、オドル・カスタネット準男爵という人の本質を、何となく分かってる。
 俺が継母に嫌がらせされてても、全く助けようとしない時点でね。

 簡単に言うと、オドル・カスタネット準男爵は、頭が物凄い固い、昔ながらの糞真面目な人物なのだ。

 家の事は全て本妻に任せ、自分自身は戦争に備え、いつ、王家から招集が掛かっても良いように、自らを律し、毎日欠かさず、剣の修練に励んでるような人なのである。

 今は、全く戦時中でもないのにね。

 そんな訳で、俺のように、戦争に役立たない攻撃的なスキルを授からなかった者は、貴族と認めなのだ。戦争で、使い物にならないからね。

 貴族とは、主である王族に忠誠を誓い、仕える王の命令であれば、自らの命を捧げる覚悟がなければならないと、本気に思ってる、頭の固い人間なのである。

 そして、その王族に無礼を働いたら、分かるよね。

 カークは、オドル・カスタネット準男爵という人物を、優しいお父さんと勘違いしているのだ。
 カークが家で悪さしても、家の事は全て正妻の継母に任してるので、全てノータッチなだけだったのに。

 叱らないじゃなくて、悪さした子供を叱るのは、家を任してる正妻の仕事だと思ってるだけ。

 アホなカークは、そんな事も理解出来ないのであった。

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