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第2章 城塞都市グラードバッハ編

16. 手羽先名古屋食べ

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「それじゃあ、大食いチャレンジ始めるよ!いつもはマンモス肉チャレンジだけど、今日はチビっ子のお客さんだから、特別ルールで手羽先100個大食いチャレンジ!1時間で見事食べきったらタダ! 食べれなかったら料金2倍!伸るか反るか! さあ、張った張った!!」

 商魂逞しい女将は、大食いチャレンジの他にも、博打の元締めまでやるようである。
 どうやら、勝っても負けても儲かる仕組みになってるみたいだ。
 そりゃあ、直ぐに、大食いチャレンジ煽るよね。

「あんな小さい子に、あの量は無理だろ?」

「こんな分かりやすい賭け簡単だぜ! 俺は食べれない方に全財産賭けてやる!」

「いや、分からんぞ。あの子自信満々な顔してるしな」

「オイオイ! 俺、あの幼女、さっき冒険者ギルドで見たぜ!しかも、食事処で凄い量の食いもん平らげてたぜ!」

「本当かよ! だったら、食べれちゃうのか?」

「馬鹿言え! 食べたばかりなのに、すぐに食べれるかよ! それに手羽先だぜ」

「ああ。なるほど。大食いチャレンジは時間制限あるもんな。手羽先は食べるの糞面倒臭いもんな。しかも適当に食べると食べたとカウントされねーし!だから、誰も手羽先チャレンジやらんもんな。殆ど食べたとカウントされねーから」

「こりゃあ、やる前から勝負の行方は決まってんな」

 どうやら、殆どの客は、クロメが食べれない方に賭けてるようだ。

『クロメ』

「承知!!」

 クロメは、自分の全財産を、自分が勝ちの方に賭けた。
 俺は知ってる。クロメの胃袋がヤバい事を。
 だって、この街に来るまでに何匹シルバーウルフを倒して食べたと思う。
 大体、一食につき一頭食べてたんだよ。

 それが当たり前だと思ってたが、よく考えたら、それはトンデモナイ事だったのだ。
 だって、シルバーウルフって80キロぐらいの重さなのだ。それをペロリと食べてた訳だから、クロメの胃袋は底なし。

『クックックックッ。こりゃあ、一財産築けそうだぜ!』

 俺は、笑いが止まらない。

「じゃあ始めんよ! 制限時間1時間!手羽先100個チャレンジ、用意スタート!!」

「「ウオォォォォォーー!!」」

 女将さんの号令で、手羽先チャレンジがスタートする。
 誰もが、クロメが食べ切るのは無理だと思ってる。
 しかも、手羽先チャレンジには、トラップがある事を、この店の常連は、みんな知ってるのである。
 手羽先って、メッチャ食べにくいのだ。少しでも骨に肉が残ってると食べたとカウントされない。
 それも加味して、冒険者達の殆ど、95パーセントはクロメが食べきれない方に賭けている。

 しかし、そんな事は百も承知。クロメは俺を使って名古屋の手羽先二大勢力の店をチェックしてる時に、正しい手羽先の食べ方もチェックしていたのである。

「エッ?! 何だ、あの食べ方?」

 クロメは、軟骨部分をパキッ!と、折って、身の大い部分にむしゃぶりつき、ツルン!と、次から次に手羽先を食べていく。

「どうなってやがるんだ? あんなに綺麗に、手羽先って食べれるものなのか?」

 冒険者達は、衝撃を受けている。
 たかが、手羽先の食べ方に。
 まあ、この食べ方以外にも、名古屋人にはそれぞれの気に入った食べ方があるのだが、異世界人には理解するのが難し過ぎるだろう。

「オイオイ! 食い方に、ビビってる場合じゃないぜ!あの子の食べるスピード、どうなってんだよ!」

 そう、クロメは手羽先を1つ平らげるのに、5秒も掛かって無いのだ。
 ハッキリ言うと、クロメは相当な早食い。だって、食べるだけなら、80キロのシルバーウルフを20分で平らげちゃうんだぜ。

 これは、森の中で、1人っきりで生活してたから為せる業。
 凶暴な動物や魔物が居る森で生活してたら、ちょっとした気の緩みが命に関わるのだ。
 クロメなんか、この街に来る旅の道すがら、ずっと木の上で寝てたし。

 なので、食事中とか睡眠中とか無防備になる時間を少しでも減らさなければならなかったのである。

 クロメ以外に見張りが居れば、ゆっくり食べたり、寝たりもできたかもしれないが、クロメは子供の頃から一人っきり、だから、自分の命を守る為に、早食いが身に付いているのである。

 パクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパク。

「どうなってやがるんだ! あの嬢ちゃん!」

「もう、殆ど無くなってるぜ!」

「ウオォォォォォ! 俺の全財産が……」

「頼むから、もう勘弁してくれよーー!」

『順調! 順調! 俺のクロメは凄いんだよ!』

 俺は、もう、笑いが止まらない。
 こんなに簡単な賭けはない。
 だって、分かりきってたんだから。

 そして、クロメは1時間も掛からず、10分程度で手羽先100個を平らげてしまったのだった。

「こりゃあ、本当に凄いね……」

 流石に、これには女将も驚いている。
 100個食べた事より、綺麗に手羽先を食べてる事に。そして、女将もクロメの真似をして手羽先を食べる。

「本当に、簡単に食べれるんだね。うん。コレは勝機だよ!」

 今日を機に、『ミノタウルスの力こぶ亭』の新たな看板商品として、ビールにあう手羽先が加わったのは、また、別の話であった。

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