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21. 蜥蜴の尻尾女

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「私の物にならないのなら、エリス共々、ここで死になさい」

 腰に届くほどの真っ赤な髪を、その禍々しい巨大な魔力でうねらしながら、ガブリエルが塩太郎に向かって冷たく言い放つ。

「姫ちゃん! 考え直して! 塩太郎君をこの世界に召喚する為に、何百年掛かったと思ってるの!
 それに、カレン・ロマンチック以来の剣姫が、350年振りに、配下のハラダ家に産まれたんだよ!
 このタイミングを逃せば、今後、絶対に、ベルゼブブを倒せる機会なんか訪れないんだから!」

 アンが、必死に、ガブリエルを説得しようと試みる。

「塩太郎は、エリスを選んだ。私のものにならないのなら、殺した方がまし!」

 しかし、ガブリエルは、全く耳を貸さない。

「塩太郎君は、『犬の尻尾』に入らなくても、ベルゼブブを倒すのは、協力するって言ったじゃない!」

「それでも、塩太郎がエリスのものになるのが、絶対に許せない!」

 塩太郎は、一言もエリスのものになると言ってないのに、ガブリエルは、完全に言葉を履き違えている。

 塩太郎が、『犬の肉球』に入ると約束したのもシャンティーだし、多分、ポーションを掛けて生き返らせてくれたのもシャンティーだろう。
 しかも、ガブリエルから塩太郎を強奪しようと考えたのもシャンティー。
 全て、腹黒の二つ名を持つ、シャンティーの仕業であった。

「畜生ー!! 全く、意味が分かんねーよ!
 勝手に、この世界に呼び寄せて、しかも、勝手に勘違いして殺そうとするんじゃねーよ!
 一体、どんな教育を受けたら、そんな風に育つってんだ!」

 塩太郎はヤケクソになり、知らずに、ガブリエルには絶対言ってはいけない、禁句を言ってしまう。

「私を救って、育ててくれたのはマスター……。
 マスターを侮辱する者は、何人たりとも許さない」

 ガブリエルの体から、禍々しい赤黒い魔力が再び、大量に溢れ出す。
 そして、どこから出したのか、少し古ぼけた、多分、日本のものと思われる両刃の刀を取り出した。

「姫ちゃん! その刀だけは使っては駄目だよ!」

 アンは、両刃の刀身から、なにやら冷気?妖気?のようなものを放つ、どう見ても普通じゃない日本刀?を見て、ガブリエルを必死に止めようとする。

「五月蝿い。もう二度と復活も転生も出来ないように、魂ごと破壊してやる」

 ガブリエルは、そう言うと、ゆっくりと、そのヤバそうな刀を振りかぶる。

「チッ! 何で動けねーんだ!魂まで消滅って、あいつ、ヤバ過ぎだろうがよ!」

 塩太郎は、避けようとするが、どういう訳か、全く動けない。
 塩太郎は、こう見えて幕末伝説の人斬り。ビビって足が竦んだ事など、一度たりともないのだ。
 ビビった時点で、幕末京都では死を意味する。
 どんな時でも、冷静に仕事をこなす。
 それが、塩太郎が、幕末伝説の人斬りと言われた所以。

「ていうか、ビビって、体が動かねー訳じゃねーか……体が地面に埋もれてやがる……」

 塩太郎は、少しだけ安堵する。
 敵を前にして、ビビって動けないとあっては、長州男児の名折れ。
 埋まって動けないなら、言い訳は立つ。

「姫ちゃん! ダメ!!」

「五月蝿い」

 バキッ!!

 アンが、塩太郎とガブリエルの間に割って入ろうとしたが、塩太郎の動体視力を持ってしても見えない何かに、吹っ飛ばされてしまう。

「エリス共々、死ね」

 ガブリエルは、無表情のまま、妖気?冷気?で肥大化した両刃の刀を、塩太郎とエリスに向けて振り落とす。

「糞っ!俺は、何しに、この世界に来たんだよ!!
  とっとと、ベルゼブブとやらを倒して、高杉を助けに、元の世界に戻らなきゃならなかったのに!
 畜生め! 魂まで消滅されちまったら、高杉を助けに行けねーじゃねーかよ!」

 塩太郎は、目を開いたまま死ぬと、この世に未練アリアリのように思われてしまうのが嫌なので、しっかり目瞑る。武士は、死に様が大事なのである。

 だがしかし、何時まで経っても、意識が途切れない。

「少々、おいたが過ぎたようじゃのう。妾は、エリスに手を出してはならぬと、散々、言っていた筈じゃが?」

 近くというか目の前辺りで、妖艶そうな女の声が聞こえる。

 目を開けると、塩太郎の前には、ガブリエルのような腰まで伸びた赤髪に、蜥蜴のような尻尾?が生えた、女の背中が目の前に現れた。

「アリエッタさん!」

 先程、ガブリエルに吹き飛ばされたアンが、蜥蜴尻尾女に駆け寄る。

「アン。遅れてすまんかったのう。何せ、西の大陸の龍の巣からじゃから、時間が掛かってしもうたわ」

 見た目は、若い女性の姿だが、年寄り臭い喋り方の蜥蜴の尻尾女が、アンに話し掛ける。

「本当、遅いですよ! もう少しで、やっと召喚に成功した塩太郎君と、エリスさんが、姫ちゃんに殺されそうだったんですから!」

 なんかよく分からんが、滅茶苦茶 強敵のガブリエルを前にして、蜥蜴の尻尾女は、余裕の雰囲気を漂わせている。
 というか、圧力だけで、ガブリエルを黙らせている。

 とかやってると、

「あ?! アリエッタちゃん!」

 殆ど、何もせずに、速攻で目を回して伸びていたエリスが目を覚ます。

「おっ! エリス。来てやったのじゃ! 約束の魔力を吸わせてたもれ」

 アリエッタとかいう蜥蜴の尻尾女は、うねうねしだす。

「あの……アンさん……あのキモイ動きの人誰ですか?」

 塩太郎は、恐る恐る、隣に立っていたアンに聞いてみる。

「ああ。彼女は赤龍アリエッタさん!
 エリスさんとお友達契約してる龍で、この世界で2番目に強いと言われてる存在だよ」

「龍? どう見ても、蜥蜴の尻尾女なんだが?
 この世界の龍は、人に、蜥蜴の尻尾が生えてる奴の事を言うのか?」

「塩太郎君! それ、絶対に言っちゃいけない奴だよ!」

 アンは、慌てて、塩太郎の口を塞ごうとする。

「エッ? そうなのか?」

 塩太郎は知らなかった。
 異世界お約束。高位の龍種は、大体、人化出来る事を。
 そして、人化してる龍は、蜥蜴野郎とか、リザードマンとか言われる事を、滅茶苦茶 嫌う事を。
 令和日本人なら、誰しも知ってる異世界あるあるを、幕末出身の塩太郎は知らなかったのだ。

 勿論、この後、蜥蜴の尻尾女と言ってたのを、しっかり聞いていた赤龍アリエッタが、塩太郎をタコ殴りにしたのは、言うまでも無い事だった。

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