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45. 涙君サヨナラ

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「それでは塩太郎さん! 改めまして!
 私は、このドワーフ王国直営店の支店長をしております。ヨネン・ドラクエルです!
 以後、おみそれおきを!」

 改めて、ドワーフ王国直営店の支店長だというヨネン・ドラクエルが、塩太郎に頭を下げる。

「ドラクエルって、まさか?」

「ハイ! ドワーフ王国の王子で、塩太郎さんも会った事がある、アンは、私の姉になりますね!」

 まさかのアンさんの弟で、ドワーフ王国の王子様。

「塩太郎。ヨネンは、ドワーフ王国直営店、南の大陸総括部長で、ムササビ支店だけでなく、漆黒の森支店でも、支店長をしてる大物よ!
 本当は、アン同様に、『犬の肉球』に入れたかったんだけど、この子、冒険者になるより、モノ作りや、商売の方に興味が有るらしく拒否られちゃったのよね!」

 シャンティーが、端折って説明する。

「という事は、冒険者としても、『犬の肉球』に入るだけの実力はあったと?」

「勿論! なにせ、ドラクエルの息子なのよ!才能が無い訳ないじゃない!
 まあ、アンには全然、及ばないんだけどね」

 シャンティーは、わざとなのか、一々、ヨネンをディスってみせる。

「僕は、姉さんと違って、冒険より、モノ作りに興奮するタイプなので!
 というか、塩太郎さん! その着物って、もしかしたら、シロさんの作品じゃないですか?」

 普通に、自己紹介というか世間話をしてたら、突然、ヨネンが、塩太郎が着ている着物に興味を持ち始めた。

「シロ?」

「そう! シロさんですよ! というか間違い無いです!
 その着物! シロさんの作品ですね!
 その、白蜘蛛印は、間違い無いですよ!」

 ヨネンは、塩太郎の着物のアチコチに隠されてるギミックというか、小さな白蜘蛛のマークを指差す。

「よく分からんが、この世界に来た時に、元々着てた服が、これに変わってたんだよな……」

「売って下さい!」

 ヨネンが、突然、懐から札束を出して、塩太郎に詰め寄ってきた。

「売れって、それ幾ら有るんだ?」

 塩太郎は、突然、札束を目の前に出されてドギマギする。

「塩太郎!そんな、はした金でビビッてんじゃないわよ!」

 シャンティーが、塩太郎とヨネンの間に割って入る。
 どうやら、塩太郎が、目の前で見せられた大金に、心を奪われてしまってないかと心配したようだ。
 まあ、単純に言うと、金儲けの勝機と思っただけなんだけど。

「勿論、これは前金ですよ!100億マーブル出します!」

「エッ!? 100億ですって!」

 なんか、強気な態度をとってた、シャンティーも、100億と聞いて、流石にビビって腰砕けになる。

「それは、シロさんの正真正銘の新作!
 今、この世界に居ないシロさんの作品には、トンデモないプレミアが付いてるんです!
 しかも、本来は出回らない筈の新作なんですよ!
 それも、珍しい着物! シロさんの作品の特徴は、新しければ新しいほど高性能になってくところです!
 なので、新しければ、新しいほど、爆発的に高くなるんです!」

 ヨネンは、熱を帯びて力説する。

「シロって、数年前、突然、現れて数々の聖級、神級の武器や防具、それから服を発表したアラクネの事よね?」

 シャンティーが、ヨネンに聞く。

「アラクネだとは、発表してない筈ですけど、なんで知ってるんですか?」

 ヨネンは、怪訝な顔をして、シャンティーに尋ねる。

「そりゃあ、鑑定アイテムや鑑定眼を持ってれば、分かるわよ!
 白蜘蛛の作品は、この世界に存在しない筈のアラクネの糸が使われてるって!」

「流石は、シャンティーさん! よく気付きましたね!
 シロさんは、神獣アラクネで間違いないですね!」

「アンタ、知り合いなら、前に頼んでた私の服を作らせなさいよ!」

 シャンティーは、ヨネンに詰め寄る。

「確かに、シロさんとは独占契約を結んでいましたけど、今となっては無理ですね! 
 シロさんも、シロさんのご主人のセドリックさんも、この世界に戻って来てないですから!
 アマイモンさんの話では、暫く、日本に滞在するって言ってましたから!」

 ヨネンからの、まさかの言葉が返ってきた。

「何で、白蜘蛛は、日本なんかに行ったのよ!」

 シャンティーが、納得いかないのか、再びヨネンに詰め寄る。

「それは、ガブリエル姫様に頼まれて、日本最強の侍と、聖剣になりうる刀を見つけて来てくれと、頼まれたからですよ!
 あの二人、相当な歴史マニアで、ガブリエル姫様のオーダー通り、キッチリ、最強の侍を異世界から探し出し、送り届けてくれましたからね!」

 ヨネンは、塩太郎の顔を見てニッコリ笑う。

「ああ! 蛤御門の前で会った、アマイモンの隣にいた二人な!
 全く、喋ってないが、よ~く覚えてるぜ!
 その二人が、俺の事を、日本最強の侍として、この世界に送り届けてくれたんだろ!
 本当に、全く喋ってないけど、あの二人、パッ!と見ただけで、出来る奴らだと思ってたんだよな!
 だって、この俺様の事を、最強の侍だと見抜いてたんだろ?
 あの時代、有名人だった新撰組の奴らや、北辰一刀流塾頭の坂本龍馬、神道無念流塾頭の桂さんより、俺の方が上って認めてくれたって事だろ?」

「塩太郎……アンタ、何、涙目になってんのよ……」

「エッ……何言ってんだよ……」

 塩太郎は、急いで涙を拭う。

「どう見ても、泣いてるじゃない?」

「違うちゅーの! これは、目にゴミが入ったからであって、絶対に泣いてない!」

「はい。はい。そういう事にしときましょ!」

 塩太郎は嬉しかったのだ。まあ、剣の腕は、あの時代、自分が最強だと自負してたけど、実際は、誰にも塩太郎の実力は知られてなかったのだ。

 唯一、塩太郎の実力を知ってるのは、塩太郎の仲間の高杉や伊藤などの、松下村塾出身者の面々だけ。

 まあ、日陰者の人斬り家業を職業にしてたので、仕方が無かったのだが、それでも塩太郎は、あの時代に、誰かに認めて欲しかったのだ。

 承認欲求じゃないのだけど、人斬り以蔵とか、人斬り半蔵とかのように、少しだけ有名になりたかったのだ。

 しかしながら、塩太郎にも、一流の人斬りとしての自負がある。
 誰にも知られずに、暗殺をし続ける事に意味があったのだ。

 そんな葛藤と戦ってた塩太郎に気付いた者達がいたのだ。
 それも、幕末日本の者じゃなくて、異世界から訪れたという二人。

 その二人は、異世界に数ヶ月籠り、そして、幾人もの凄腕の侍を調べあげ、塩太郎を、異世界に送る勇者候補と選んだのだ。

 嬉しく無いと言ったら、嘘である。

 ーーー

 次回、番外編! 始祖とアラクネの、塩太郎観察日記。

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