上 下
60 / 166

60. 騙されやすい男

しおりを挟む
 
「ウオォォォーー! これがトンコツチャーシューメンかよ!」

 塩太郎は衝撃を受ける。

 食欲をそそる、美味そうな匂いがする乳白色のギトギトのスープ。
 タケノコの煮物ぽいのと、見た事のない柔らかそうな丸く切られた物体が、お椀を囲むように10枚並べられている。

 食べる前だというのに、塩太郎の口からヨダレが止まらない。

「どう?美味しそうでしょ? 早く食べてみなさいな」

 シャンティーが、ニヤニヤしながら塩太郎に進める。

「おお。それじゃあ、頂きます」

 塩太郎は、奢ってくれてありがとうの意味も込めて、シャンティーとチャーシューメンに、神妙に手を合わせ感謝を込めて、頂きますをする。

「どういたしまして。うふふふふ」

 なんか、よく分からないが、シャンティーはとても嬉しそうだ。

「それじゃあ、スープから飲むぞ!」

「ええ、どうぞ!」

 塩太郎は、レンゲでスープをすくい、口に持って行く。

「なんじゃ、こりゃーー!!」

 塩太郎は、絶叫する。

 乳白色でギトギトで、くどいそうに見えるスープは、見た目よりもアッサリしているが、深く濃厚な味を醸し出している。

「このスープの出汁は何だ?今まで飲んだ事の無い味がする……煮干しじゃねーし……昆布でもねーな……鰹節はちょっと入ってる気がするが、鰹節じゃ、こんな濃厚な出汁は取れねーし……」

「アンタ、ラーメンもスパゲティもオムライスも知らなかった癖に、ヤケに専門的な料理の批評をするのね?」

 シャンティーが、意外そうな顔をしている。

「お前、俺を舐めてんのか? 俺は、毛利様が治める、長州藩出身なんだよ!
 長州の殿様は、京都の食事を司る大膳大夫の役職を、代々受け継がれてんだよ!
 即ち、長州藩の食事は、京の都と殆ど、同じ食事が出てくるんだ!
 その京の都と同じ食事を、普段から食ってきた長州藩出身の俺が、舌が肥えてない訳ねーじゃねーか!」

「ふーん。そうなんだ……そしたら、そのチャーシューの批評をしてみて」

 シャンティーは、全く興味なさそうに指示を出す。

「てめー……やっぱり舐めてんな……」

 塩太郎は、そう言うと、チャーシューを1つ箸で取り、パクリと口にする。

「な……なんじゃこりゃ~!」

 今日2度目の、なんじゃこりゃ~。
 塩太郎は、、再び衝撃を受ける。

「分厚く噛みごたえが有ると思ってたんだが、軽く噛んだだけで噛みきれ、口の中でトロけやがる。
 もしかして、高級魚のクエか? しかしクエは、もっとアッサリしてるしな……。
 この脂身があり、醤油味が染み込んだヤケに美味い物体……。
 一度食べたら病みつきになる味……。
 俺も、高杉について、全国の高級料亭を食べ歩いて来たが、これほど美味い脂が乗った魚など、食べた事がねーぜ!」

 幕末出身の塩太郎は、知らなかった。
 四足動物の肉の味を。
 そして、アマイモンから貰った、【全言語理解】スキルが、意外とポンコツだとは、思いもしなかったのだ。
 勿論、チャーシューが、四足動物の豚の肉だとは、食べた事が無い、幕末出身の塩太郎には、知る由が無かったのである。

「どう?美味しいでしょ?」

 自分の悪巧みが見事達成されたシャンティーは、ニヤニヤしながら満足そうに聞いてくる。

「ああ! うめー! 箸が止まらん!
 そして、この腰がある細麺も、相当うめー!」

 塩太郎は知らない。
 シャンティーが、善意で人にモノを奢る事など絶対に無い事を。
 シャンティーと付き合いが長い者なら、確実に警戒するが、塩太郎とシャンティーの付き合いは、濃厚だが、如何せん、まだ、付き合いが短いのである。

 塩太郎も、シャンティーが、腹黒だと分かっているのだが、まだ、付き合いが短過ぎる為、優しい一面が有るのかもと、勘違いしてしまったのだ。
 まあ、財布に必ず1万マーブル入れてくれてる事が、善意だと思ってるくらいなので、しょうが無い事なのだけど。

 そして、チャーシューメンのスープの一滴まで残さずに飲んだ塩太郎が、豚の骨からダシを取り、チャーシューも、豚肉だと気付いくのは、まだまだ先の話。

 ーーー

 面白かったら、いいね! 評価ボタン、ポチッとしてね!
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...