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79. 違う時代の侍

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 道場破りのやり直しが終わり、仕切り直し。

 実を言うと、塩太郎は、道場破りが庭を抜けて道場にまで入り込んで来た所を見た事ないのだ。
 だって、道場破りが現れたら、塩太郎は道場を駆け下り、いつも庭で道場破りと相対していたから。

「道場主をだせ!」と言ってくる相手に、「俺に勝てたら、案内してやるぜ!」と言って、速攻で瞬殺していたのである。

 まあ、塩太郎が居ない時に、道場まで上がり、塾頭の桂小五郎との勝負に漕ぎ着けた道場破りが何人かいたようだが、そいつらは全員、桂小五郎に瞬殺されたという話であった。

 桂小五郎は、逃げの小五郎と言われて、幕末時代、決して刀を抜かなかったのだが、木刀を持たせたら滅茶苦茶強いのだ。
 かの新撰組局長 近藤勇も、「恐ろしい以上、手も足も出なかったのが桂小五郎だ」と桂の剣術の腕前を評してるしね。

 兎に角、当時の練兵館のレベルは滅茶苦茶高かったのである。
 桂以外にも、当時において日本一の剣豪と名高い仏生寺弥助とかも居たし。

 その練兵館の中だけで、隠れ最強と言われていた佐藤 塩太郎の実力は、もう、幕末最強と言っても過言ではない。

 そんでもって、道場破りが練兵館に訪れ、有名な桂小五郎や仏生寺弥助と勝負しようとしたら、誰も名前も知らない下っ端、佐藤 塩太郎が出て来て、次々に倒されちゃうのだ。
 殆どの者が、練兵館レベルが高過ぎると勘違いして帰って行くのも無理の無い話だった。

 誰もが、練兵館最強の男が、自分の相手をしてたとは夢にも思わずに。

 ついでの話として、日本一の剣豪と言われていた仏生寺弥助が、自分より弱い桂小五郎を塾頭と認めていたのも、桂の同郷であった佐藤 塩太郎の存在があったから、誰しも、本物の化物を敵になど回したくないしね。

 てな事もあり、塩太郎は、道場破りが道場に乗り込んでからの後は、全く知らないのであった。
 塩太郎が道場に居たら、全て庭をで終わってしまうので。

 塩太郎が知ってる道場破りとは、所詮はこんなもの。自信満々に、道場破りの作法とか言ってたが、自分も中途半端にしか知らなかったのである。

 という事で、ここからはハラダ家、ハラ家の作法にのっとる事にする。豪に入れば郷に従えである。

「それでは、挑戦者 佐藤 塩太郎殿! 前へ!」

 どうやら道場主自らが審判をするのか、ハラダ・ハナが塩太郎に声をかける。

「やっと、戦えるぜ!」

 塩太郎は、自分が道場破りのやり直しがしたいと言ったせいで、試合が遅くなってしまった事など、すっかり忘れている。
 まあ、結局、本番は今からなので、道場破りのやり直しが本当に必要だったか謎だけど。

「対するは、剣王序列3位ハラダ ライゾウ前に!」

「ハッ!」

 ハラダ ライゾウなる若者は、ハラダ・ハナに一礼してから、塩太郎の前に立つ。

『中々、やりそうだが、敵じゃねーな』
 塩太郎は心の中で、ハラダ ライゾウを値踏みする。
 というか、ハラダ ライゾウより、猛者と思われる者達が、結構、居る事が気になってしまう。

「おい! ハナ! こいつより強そうな奴が、ゴロゴロ居る気がするが、気のせいか?」

 塩太郎は、気になったので、ハナに質問する。

「よく気付きましたね! 確かに、この道場には剣王、剣帝レベルはたくさん居ます。
 ですが、剣神、剣聖、剣帝、剣王は、冒険者の称号ですので、冒険者の者しか称号を得られないのです」

「そういう事か……」

 塩太郎は、納得いった。
 だって、目の前の若者より、どう考えても強い奴がたくさん居すぎるのである。

「それでは、もう質問ないですか?」

「ああ!」

「それでは、お互いに礼!」

 塩太郎と、剣王序列3位の若者が一礼する。

「試合、始め!」

 塩太郎は、試合同時に、一気に間合いを詰めて一閃。

 若者のコテを強く打つ。

 バキッ!

「クッ!」

 若者は、木刀を落とし顔を歪める。

「もっと、修行しな! そんなトロイ動きじゃ、江戸三大道場である、俺が習った練兵館じゃ、初目録レベルだぜ!」

 塩太郎は、涼しい顔で言ってのける。
 とは言っても、塩太郎も最初から結構、本気だ。
 だって、眼光鋭い、どう考えても目の前の小僧より強そうな奴らが、塩太郎の事を値踏みしてるから。

「勝者! 佐藤 塩太郎!」

 何故か、門下の者が負けたというのに、ハラダ・ハナは嬉しそうだ。

「こんなもんかい? この道場の実力は?
 見た所、俺の時代より古い時代から来た、侍の末裔のようだな!
 対人の戦い方てのを、どうやら分かってないようだしな!」

 塩太郎は、ここぞとばかり、講釈を垂れる。
 塩太郎的には、塩太郎の時代の剣術が一番洗練されていると思っているのだ。
 江戸時代260年。殆ど、戦争といわれる戦いなど無かった。
 そのせいもあって、剣術道場が隆盛を誇り、木刀、竹刀、防具を使った対人特化の練習をするようになったのだ。
 真剣を使った練習じゃないので、思い切った事もできる。
 いちいち、打たれたぐらいじゃ止まらないし、真剣を使った練習では到底出来なかったであろう技術革新も進んだ。

 そして、嘉永6年(1853)6月に、黒船が浦賀沖に来航する。

 黒船来航が切っ掛けで、水戸藩発祥の尊皇攘夷思想が日本中で席巻し、極限まで、研究されつくされた剣術が、また、攘夷の口実で実戦で使われるようになったのだ。

 そして、塩太郎のような天才的な人斬りが生まれた。

 塩太郎が思うに、ハラダ家、ハラ家の侍は、江戸時代初期の侍の末裔。
 木刀での訓練はするが、小手や面などの防具は使っていないようである。

 根本的に、塩太郎の時代の剣術とは違うのだ。
 まあ、魔物が居る世界なので、対人というより、対魔物の剣術として発展していったのかもしれないけど。

 とか、妄想してると、

「ハナ様。次は、私の番のようですね。
 闘気の発動の許可を、お願い致します!」

 次の対戦相手と思われる女剣士が、闘気発動の許可を、ハナにお願いする。

「いいわよ!」

 ハナの許可を取り付けると、女剣士は、塩太郎の事を、眼光鋭く睨みつけた。

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