上 下
81 / 166

81. 元剣聖のジジイ

しおりを挟む
 
「さあ! 次に、神道異界流の餌食になる奴は、どいつだ?」

 塩太郎は、剣呑な雰囲気を漂わせ、肩に木刀を担いだまま言い放つ。
 このまま一気に、ハラダ・ハナまで倒して、とっとと剣神の称号を奪いたいのだ。

 とか、調子に乗ってると、試合を黙って見てたツルッパゲのジジイが、ハラダ・ハナの元に歩み寄る。

「もう、これくらいでいいじゃろ?
 塩太郎殿は、本物の侍のようじゃ。ここにおる者達では、役不足じゃろうて」

 何やら、ジジイとハナが、二人で相談を始めた。

「ですが、お爺様……ハラダ家、ハラ家の主力は、『犬の尻尾Bチーム』『犬の尻尾Cチーム』『犬の尻尾Dチーム』に別れて、遠征に出て行ってますが……」

「しかしながら、これ以上、練習生と試合させても、塩太郎殿を侮辱する事となってしまうと思うが、それでも良いのじゃな?」

「それは……」

 ハラダ・ハナは口篭る。

「何か、聞き捨てならない話が聞こえてんだけど?」

 聞き耳を立ててた塩太郎は、思わず横槍を入れる。
 だって、練習生って……それは無いだろって。

「すみません。塩太郎殿。今まで塩太郎殿程の挑戦者が現れ無かったのです。
 基本、現在、剣帝までが、この道場の練習生が所持しており、本当の実力者達は、ベルゼブブ攻略レイドに向けて、未攻略ダンジョンに遠征に出て居るのです!」

「何だそれ?!」

 まさかの答え。確かにおかしいとは思ってたのだ。
 剣姫ハラダ・ハナの実力は、ガブリエルとのファーストインパクトで、化物級だという事は分かってる。
 それなのに、そのハラダ・ハナを輩出したハラダ家、ハラ家が弱過ぎたのだ。

「一応、これも配慮なんです。本当の序列で強い順に並べてしまったら、誰も剣王、剣帝を目指さなくなってしまいますので……。
 それぐらい、現在のハラダ家、ハラ家の実力は上がってるのです」

 なんか、ハラダ・ハナが大きく出た。
 この世界の侍の末裔の強さに、絶対の自信を持ってるようだ。

「何か、デカい事言うな。ハラダ家、ハラ家が、なんぼのもんじゃい!」

「ホホホホホ! お主も中々言いよるわい。
 そしたら、この老骨が少しだけ相手をして進ぜようかのう。
 これでも、若い時は、剣聖の称号を持ってたのじゃ。
 それで、本来のハラダ家、ハラ家、侍の末裔の本来の力をお見せしようかのう」

 ジジイが、笑いながらも剣呑な目付きをしながら提案する。

「フン。老いぼれジジイが俺様の相手になるのかい?
 俺は、正真正銘、現役侍だぜ」

 塩太郎は、やっと骨の有る相手と試合できると、ニヤリと笑う。
 だって、本当に、今までの練習生、弱っちかったし。

「小僧。舐めるなよ。我らハラダ家、ハラ家の侍は、異界の悪魔サルガタナスを倒す為に、350年間研鑽を積み重ねて来たのじゃ」

「猿型のナス?」

「違う! サルガタナスじゃ!」

「で? その猿型ナスがどうしたって?」

「我らと同じ流派の剣術を使う、ベルゼブブの家来の異界の悪魔じゃ。
 その悪魔に、我らの祖先は何百人も殺されている」

「異界の悪魔に、侍まで居るのかよ!」

「そうじゃ……」

 ジジイは憂いを帯びた、悲痛の表情をして呟く。

「つまり、アンタらは、その猿型ナスを殺して、仇討ちしてーわけだな?」

「そうじゃ。それがハラダ家、ハラ家の悲願」

 ジジイは目を瞑り、心穏やかに、だけれどもハッキリと言う。

「そうか、それなら頑張れよ!俺は仇討ちに横ヤリを入れる無粋な事なんかしねーしな」

「でじゃ。そのサルガタナスを倒すのには、聖剣が居るのじゃ」

 突然、ジジイが聖剣の話を切り出す。

「そうなのか?」

「そうじゃ。異界の悪魔は、聖剣でしか斬れないのでな」

「じゃあ、聖剣で斬ればいいじゃねーか?」

「そうじゃ。しかしながら聖剣が足りん。
 残念な事に、この世界に聖剣は、5振りしかないのじゃ……。
 ガブリエル姫様が所有する草薙剣。ブリトニー殿が所有するスキルスッポンソード。現在、ハナが所有してるハラダ家の政宗。そしてお主が持ってる村正。それから現在、行方不明中のエクスカリバー。
 エクスカリバーが見付け出せれば良いのじゃが、如何せん、350年間探しても、どうしても見付ける事が出来んかった。
 それでじゃ、お主の村正をワシに譲ってくれぬか?」

 ジジイが、突然、訳の分からな事を言っくる。

「爺さん、急に何言ってんだ?」

「ワシは、もう一度、サルガタナスと戦いたいのじゃ!
 しかしながら、政宗はハナに譲ってしもうた……。ワシよりハナの方が実力が上なので仕方が無い事なのじゃが、ワシはどうしても、ワシの両親と息子。そして、ハナの母親を殺したサルガタナスと戦いたいのじゃ!」

 ジジイは、とても思い詰めた、悲愴な表情で言ってくる。

「そんなの嫌に決まってんだろ! 俺にだって、約束があんだよ!
 シャンテーと、ガブリエルに、異界の悪魔ベルゼブブだったけか?そいつらを倒すと約束してんだからな!」

「分かっておる。分かっておるのじゃ。姫様の悲願も……。
 しかしながら、わしは諦める事が出来んのじゃ」

「諦められんって、俺にも事情があんだよ!
 俺は、とっととベルゼブブを倒して、元の世界に帰らねーといけねーんだ!
 アホな高杉が待ってるからな! アイツ、弱っちいから、俺が守ってやらねーといけねーんだよ」

 そう。塩太郎にも戦う理由があるのだ。
 塩太郎の中では、まだ幕末での戦いが終わってないのである。
 塩太郎の中では、現在、長州藩は、蛤御門の変で敗れ絶対絶命の状態。
 本当は、すぐにでも戻って、仲間の為に戦いたいのである。

「タダでとは言わん。このワシが所有する白蜘蛛と交換でどうじゃろうか?」

 ジジイは、自分の魔法の鞄の中から、業物と思われる白蜘蛛を取り出す。

「だから、駄目だって!」

「そしたら、お主を倒して奪い取るだけ」

「ん?ただ、試合するだけじゃ無かったのかよ?」

「悪いが、お主を見たら欲が出てしまってな。
 もう一度、サルガタナスと死合できるんじゃないかとな」

 ジジイは、剣呑な目付きをして、塩太郎を値踏みするように睨みつける。

「その前に、俺と死合ってか? 俺は、簡単殺られるほど、弱くわないぜ!ロートルの爺さんよ!」

 塩太郎は、気持ちを切り替え人斬りモードに移行する。

「まだまだ、若い者には負けんよ。お主こそ、先達の技と経験を思い知るがよい!」

 ジジイの体から、洗練された、だけれども猛々しい闘気が溢れだす。

 こうして、塩太郎は、元剣聖ハラダ・スエキチと死合する事となった。
 虎子に、村正をレンタルしてる事を、すっかり忘れて。

 ーーー

 面白かったら、お気に入りにいれてね!
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...