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11. エドソン・グラスホッパー

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『ご主人様、なんか儲かった気がしませんね……。
 公爵芋と寄木細工のカラクリ箱が530万マーブルもの大金で売れたのに、手元のお金は1万マーブルなんて……どうも、僕は騙されてる気がするんてすけど?』

 鑑定スキルが、帰りの道すがらヨナンに話し掛けてくる。

「そうか?俺はいい買い物出来たと思うけど。この魔法の鞄、無制限に物が入るんだぜ! しかも入れた物は、入れた時の状態で保持されるんだぞ!
 アスカさんの話だと、出来たての暖かい料理を入れておくと、そのままのアツアツの状態で、いつでも取り出せるんだぜ!」

『確かに、その魔法の鞄は凄いですけど、200キロ位の容量の魔法の鞄で十分だったんじゃないですか?
 そしたら、300万マーブル以上、手元にお金が残った筈ですし……』

「別にいいだろ? 投資だよ! 投資! これから幾らでも公爵芋と、寄木細工のカラクリ箱が売れるんだし! すぐに、元なんて取り返せるだろ!」

『僕は、あのアスカとかいう鑑定員が、どうしても好きになれないですね。
 どう見ても、ご主人様の足元を見て商売してますよ!
 最初の対応も、タメ口だったですし、ご主人様が良い商品を持ってると分かったら、コロッと態度を変えて!』

「誰しも、そんなもんだろ? 俺だって、金持ってない奴と相手するのなんか嫌だよ!
 あの対応が、普通の人間の対応だって!
 それに、エリザベスと比べたら優しいもんだよ!
 だって、素手で男爵芋掘れとか言わないし」

『あの……エリザベスと比べたら、誰しも優しい人間になってしまいますよ……ご主人様は、人の悪意に鈍感過ぎるんですよ。基本、人って嘘つきばかりですから』

「でも、お前は嘘は言わないんだろ?」

『僕は鑑定スキルですから、本当の事しか言えない設定てすので。アスカさんが好きになれないというのも、本音ですから!』

「ていうか、お前。スキルの癖して、主人を心配し過ぎじゃないのか?」

『そりゃあ、そうですよ! ご主人様が、何かの拍子に死んじゃったら、ご主人様のスキルの僕も消えちゃう訳で、折角、自我を持ったばかりだというのに、このまま死んで消えてしまうのは嫌なんです!』

「お前、どんだけ人間的なんだよ……」

 ヨナンは、鑑定スキルのあまりの人間臭さに呆れる。

『兎に角、世の中、ご主人様やエドソンさんみたいに、お人好しばかりじゃないんです!
 そこんとこ、本当に気を付けて下さいよ!
 僕と、ご主人様は運命共同体なんですから!』

「ハイハイ。分かったよ。そしたら、人に騙されて死なないように注意するよ!」

『ご主人様! 何言ってるんですか! 死ぬとか、フラグになるような事、絶対に言わないで下さいよ!』

「ん? フラグって何だ?」

 ヨナンは、聞きなれない言葉に聞き返す。

『フラグは、フラグですよ!僕のデータベースには、フラグは、フラグとしか書いてませんから!』

「やっぱり、お前の鑑定スキルって、大概ポンコツだよな……」

 ーーー

 結局、ヨナン達は、夕方6時頃にグラスホッパー領に到着した。

 まあ、歩きだと片道1日掛かる所が、荷馬車だと片道4時間ほどしか掛からないので、結局、エドソンから荷馬車を借りる方が正解だという事に落ち着いて、エドソンに1万マーブルを渡すのは無しにして、次に荷馬車を借りる時のレンタル料に回す事にした。

「おい! 寄木細工の箱は売れたか?」

 家に入ると、相変わらず、エドソンが廊下で話しかけてくる。
 というか、ずっとヨナンが心配で、何度も外に出て、ヨナンが帰ってくるのを待ってたようである。
 だって、エドソンが外で、荷馬車が帰ってくるのを待ってるの見えてたし。
 そして、荷馬車を確認すると、急いで家の中に入っていくのも見えたし。

 そんでもって、何食わぬ顔をして、たまたま廊下でヨナンと、すれ違った体を装っているのだ。

「ああ。全部売れたよ! 売り上げ金は、10キロ入る魔法の鞄を買うのに使ったけど、次に荷馬車を借りる為の1万マーブルは、使わず取ってるから!」

「そうか。売れたか。そいつは良かったな!」

 エドソンは、よっぽど嬉しいかったのか、少し涙目になっている。

「今回は、魔法の鞄を買っちゃったからお土産無いけど、次にトップバリュー領に行ったら、何かお土産買ってくるよ!
 何がいい?遠慮なく言ってよ!」

「お前……そんなに父さんに気を使うんじゃねーよ。気持ちだけで十分だし、次からは、しっかり荷馬車のレンタル料まで貰うんだから、本当に気持ちだけで……」

 エドソンは、ヨナンの成長と、お土産を買ってきてくれると言われたのが相当嬉しかったのか、途中で涙が止まらなくなり、言葉に詰まってしまう。

「ええと……まあ、そういう事だから、今度、トップバリュー領に行ったら、高そうなお酒か、何かを買ってきてやるよ!」

 ヨナンは、エドソンの思わぬ涙に気が動転してしまい、その場をそそくさと離れようとする。

「ヨナン……お前って奴は……学校にも行かせてやれないし、親らしい事を何もしてやれない俺に対して、要らない気なんか使うんじゃねーよ」

 しかし、逃げようとするヨナンに、エドソンが話し掛けてくる。

「本当に、気なんか使ってないから! そんな事より、ここまで他人の俺を育ててくれて、ありがとうな」

 なんかよく分からないが、ここでエドソンにお礼を言わなければ、一生お礼を言えないような気がして、ヨナンは、エドソンに感謝の気持ちを伝える。

「お前……俺を泣かしたって、何も出ないぞ!」

「知ってる。お小遣い3万マーブルだもんね!
 しかも、、俺の大工道具を買う資金が足りなくて、エリザベスから1万マーブル前借りしてるでしょ!」

「何だ……お前、知ってたのか?」

「まあね。リビングで、エドソンとエリザベスが言い争ってるの聞こえちゃったから……だから、酒代くらい俺に出させてよ!」

「お前って奴は……トコトン、俺を泣かせやがる。本当にお前は、本当の父親に似て良い奴だよな」

「その言葉、そのままエドソンに返すよ」

「言ってろ!」

 エドソンは涙と鼻水を啜りながら、リビングの方に消えて行ったのだった。

『ご主人様。本当にエドソンって、良い人ですよね』

 エドソンが、廊下から完全に消えたのを確認してから、鑑定スキルがヨナンに話し掛けてくる。

「まあな。まあ、エドソンが居なかったら、エリザベスの仕打ちに耐えられんだろ?
 エドソンの顔を立てる為に、エリザベスにどんなに嫌がらせされても、嫌な顔一つせずに従ってる所もあるんだけどな」

『エドソンの養子になってなかったら、エリザベスの嫌がらせを受けずに済んだとも言えますけどね!』

「そしたら、男色の変態男に売られて、今頃、俺のケツの穴が拡がってたな」

『それはそれで嫌ですね……ご主人様のケツの穴が、拡がってるのって……僕も、そんなケツの穴が拡がってるご主人様に、きっと、掛ける言葉が無かったと思います……』

「そしたら、今の状態が一番良かったんだよ」

「ですね」

 自我を持ち、人の心の機微を知るようになった鑑定スキルは、深くヨナンの言葉に頷いた。

 ーーー

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