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45. 出発

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 エリザベスが、最高級ワインを持って、グラスホッパー騎士爵の寄親でもあるイーグル辺境伯領に出張すると言ってから、1ヶ月が経った。

「それじゃあ、グラスホッパー領の警備を頼むぞ!」

 エドソンが、元、『熊の鉄槌』のメンバーである、ゴンザレスとリサリサとハヤブサにお願いする。

「おお! 大船に乗ったつもりで、行ってこい! ワシらが居たら、グラスホッパー領も安泰じゃ!」

「新たに雇った私兵も、私が直々に鍛えてあげたから、その辺のB級冒険者辺りなら負けないんだから!」

「……」

 ゴンザレスと、リサリサと、ハヤブサはそれぞれ、エドソンに言葉を返す。

「そうね! みんなが居てくれたら安心ね!」

 元『熊の鉄槌』のリーダーのエリザベスが、リーダーらしく居残り組を鼓舞する。

 でもって、出張組は、エドソンと、エリザベスと、コナンと、シスと、セバスチャンと、エリスと俺。

 最初、エリスも居残り組だったのだが、騎士が主の元を離れる訳にはいかないと、タダを捏ねたのだ。

 話によると、プライド高いエルフが、人間の騎士になるのは、とても珍しい事であるらしい。
 まあ、騎士と言っても、本当は弓使いなんだけどね。

 てな感じで、グラスホッパー騎士爵家としては、イーグル辺境伯の寄子になった挨拶として。
 グラスホッパー商会としては、新たに設立する予定の、グラスホッパー商会イーグル辺境伯支店の開店準備の為に。

「ヨナン君。気を引き締めるのよ!
 私がイーグル叔父様に、飲んだ事もないようなワインをお土産に持ってくると言ったら、『それなら、ワインの品評会も一緒にやるぞ!』ていう話になって、カララム王国全土から、有名シャトーが勢揃いして、ワインの大品評会をやる事となったから!」

「なんじゃと! それは本当か! ならばワシが、イーグル辺境伯領に行かねばなるまい!」

 エリザベスの話を聞いていた、ゴンザレスがイキナリ立候補してくる。

「オイオイ! それは困るぞ! お前までついてきちまったら、グラスホッパー領の警備が手薄になっちまうだろうがよ!」

 エドソンが、慌てて、ゴンザレスを止めに入る。

「黙らっしゃい! ドワーフが、酒の品評会と聞いて、黙って居られる筈ないじゃろて!
 ワシは、何と言われようと、絶対に行くぞい!」

 ゴンザレスは、テコでも動かない。

「まあまあ、グラスホッパー領の警備ぐらい、私とハヤブサが居れば十分よ!
 伝説のS級冒険者パーティー『熊の鉄槌』の元メンバーが2人も居るんだから、ハッキリ言って過剰戦力よ!
 まあ、ハヤブサが居る時点で、トップバリュー商会の間者なんて、一人も入ってこれないと思うけど。まあ、入ってきたとしても、私の緑魔法で、簀巻きにしてやるわよ!
 どうやら、私の緑魔法、ここの大森林と凄く相性が良いらしくて、パワーが10倍増しぐらいになってるからね!」

 リサリサが、チビっ子の癖に意外とある胸を、何故か、シスに見せつけるようにプルルンと振るわせる。

「あの人嫌い。あの人嫌い。あの人嫌い……」

 そして、なんか、シスがブツブツ言っているが、見なかった事にする。

 そんな感じで、ヨナン達は、キャンピングキッチントレーラー2台に別れて、イーグル辺境伯領に向かったのであった。

 ーーー

「主様、本当にこの荷馬車は凄いですね。
 これも、主様がお作りになったのでございますか?」

 超絶美形のエリスが、俺の目の前まで顔を近づけて聞いてくる。
 というか、このエルフ……距離が近過ぎる。

 人間の少年に、かしずいてるエルフも珍しいのだが、どうやら、エリスはエルフ族の中でも、相当美形の部類に入るらしく、一緒に歩いて居ると、滅茶苦茶目立ってしまうのである。

 しかも、元々エリスは、相当有名人であるらしく、

「オイオイ、氷の微笑と一緒にいるチンチクリンの子供って一体何者だ?」

 と、こんな感じだ。

 まあ、それは置いとて、現在、荷馬車の席決めを巡って、一悶着している所だったりする。

 1台目の荷馬車には、エドソンと、エリザベスと、ゴンザレスと、セバスチャンが乗り、2台目の荷馬車には、俺と、コナンと、シスと、エリスが乗り込んだ。

 そして、御者も護衛も付けずに、イーグル辺境伯領まで旅をする事となっている。

 まあ、超人的に強い、エドソンと、エリザベスと、ゴンザレスと、エリスを襲うなんて自殺行為で、逆に、このメンツに護衛を付けても、エドソン達が、護衛を守らなければならなくなるという逆転現象が起こってしまうのだ。
 そして、この4人は、元冒険者。旅にも慣れてるし、荷馬車の運転もお手のもの。
 しかも、俺も、コナンも、シスも、セバスチャンさんもそこらのA級冒険者より強いし。

 まあ、俺の場合は、素手では超絶弱いが、何か武器を持ってたら、その武器を極限まで使いこなす大工スキルを持ってるしね。

 という訳で、今回、俺は、ゴンザレスさんに適当に作って貰った木刀を持っている。

 試しに自分で作ってしまったら、なんか色んな付与が付いちゃって、ミスリルの剣より滅茶苦茶斬れる木刀になっちゃったし。

 なので、本当に、ゴンザレスさんに片手間に作って貰った、しかも、大森林の木ではない、そこら辺に生えてる木で作った木刀じゃないと使えないのだ。

 それで、やっと、大戦の英雄であるエドソンが、受け止められるレベル。

「やっぱ、お前のスキル凄過ぎんな……多分、俺、お前が爪楊枝持ってても勝てる気しないぞ……」

 てな感じが、実際、ゴンザレスさんが片手間で作ってくれた木刀で稽古した、エドソンの感想。

 まあ、一応、作った物を捨てるのは勿体ないから、自分の魔法の袋の中に、色々な付与が付いちゃってる、大森林の木で作ったミスリルよりよく斬れる木刀も持ってるんだけどね。


 そんな話もあったりして、現在は、御者を買って出た、俺の隣に誰が座るかの争奪戦。

 エリスと、シスが、バチバチ目から火花を飛ばし合ってるのであった。

「主を守るのは、騎士の役目です!」

「こっちの馬車には、荷馬車を運転出来るのは、お兄ちゃんとエリスさんだけですから、エリスさんは、お兄ちゃんが荷馬車を運転中、荷馬車のフカフカのベッドでキッチリと休んでいて下さい!」

「私、聞きましたよ! 最近、コナンさんも、1人で荷馬車を運転する事が有るって!」

「それは、何かの間違いです!そうよね!ちい兄ちゃん!」

「えっと、それは……」

 コナンも、どうしていいかしどろもどろになってしまっている。

『あの、ご主人様には、僕が居るんで、2人は荷馬車の中で休憩していればいいんじゃないですか?
 ご主人様との喋り相手は、僕一人で十分ですし!』

 鑑定スキルが、調停案を出す。

「だな。喧嘩するくらいなら、2人は大人しく、後ろで座っててくれ!」

「主様……」

「お兄ちゃん……」

 どうやら、ヨナンの裁定には従うようで、なんとか2人を黙らす事に成功した。
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