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57. グラスホッパー準男爵

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「ガッハッハッハッハッ! 流石婿殿だ!
 みんな、ドラゴンステーキを握り締め、ホクホク顔で帰っていきおった!」

 10歳、若返ったイーグル辺境伯は、御満悦。

「凄いぞ! 我が娘、エリザベスよ! これでグラスホッパー騎士爵の格が上がる。多分、グラスホッパー騎士爵は、準男爵ぐらいには爵位が上がる筈だぞ!」

 グリズリー公爵も、何だが嬉しそうだ。

「でも、他の敵対勢力が妨害工作をしてくるんじゃないかしら?」

 エリザベスが心配する。

「そんなもの、少しドラゴン肉を王家に分けてやれば大丈夫じゃろうて!」

 イーグル辺境伯は、強気である。
 まあ、ドラゴンの尻尾は10メートルもあったのだ。今回の大盤振る舞いでも、在庫に余裕が有ったりする。

「そしたら、レッドドラゴンの血50ミリリットルと、ドラゴンの鱗を1枚ぐらいなら、王家に献上してもいいぞ?」

 ヨナンは、軽い気持ちで口走る。

「な……なんと……レッドドラゴンの血まで採取しておったか!」

 イーグル辺境伯が、驚愕してる。

 確か、鑑定スキルの話によると、レッドドラゴンの血を10ミリリットル飲むと、寿命が10年。20ミリリットル飲むと20年。飲む量により、寿命が延びるらしい。
 それを、ヨナンは350ミリリットル採取する事に成功している。

「ヨナン君。そんな貴重な物を、本当に献上しちゃっていいの?」

 エリザベスが、恐る恐る聞いてくる。

「だって、俺は、返しきれないほどエドソンには世話になってるからな。
 グラスホッパー家の爵位が上がるというなら、幾らでも協力する事は、やぶさかじゃないんだけど?」

 ヨナンは、当たり前のように述べる。

「ヨナン……お前ってやつは、なんて孝行息子なんだよぉ……」

 エドソンが感動したのか、鼻水を垂らして泣いている。

「カレンの婿殿は、なんと立派な男なんじゃ……ワシも、物凄く感動したぞ!
 というか、ドラゴンの血まで献上するんじゃったら、準男爵じゃなくて、男爵は確実じゃ!」

 イーグル辺境伯が、太鼓判を押す。

 てな訳で、明日、ワイン好きなカララム王も、イーグル辺境伯領に来て、ワイン品評会に参加する予定らしいので、品評会の前に、お目通りして、ヨナンが、カララム王に、レッドドラゴンの肉1キロと、レッドドラゴンの鱗1枚、それからレッドドラゴンの血50ミリリットルを献上する流れを、ワイン品評会の主催者であるイーグル辺境伯が、取り付ける流れとなった。

 ーーー

「お前、本当に凄いな……」

 全ての打ち合わせが一通り終わり、イーグル辺境伯も城に帰って行くと、長男のセントが話し掛けてくる。

「一応言っとくけど、別に、俺自身は何も変わってないからな!
 何も道具を持ってなかったら、ただの凡人だしね」

 ヨナンは、謙遜する。

「いや! 凄いって! 俺なんかとっくの昔に人生諦めてたもん。
 こんなに貧乏になるんだったら、昔のように平民のまんまが良かったと……その方が、幸せに暮らせたんじゃないかと、本気で思ってた。
 もう、兎に角、家を出たくて、出たくて、必死に剣の腕を磨いて、カララム王国騎士団に入団する事だけを考えてた。
 それなのに、今じゃ、グラスホッパー騎士爵を継ごうと思ってるし、何故か知らないが、次は男爵になっちゃうんだろ?
 展開が早過ぎて、もうついてけないよ!
 まあ、何が言いたいかと言うと、本当にありがとな!
 グラスホッパー家の子供になってくれて!」

 正直、あまり面と向かってセントと喋ったこと無かったので、セントの告白に思わず麺を食らってしまう。

 まあ、セントとは、ジミーと違って、何も確執など無かったのだけど、多分、自分の事が精一杯で、ヨナンなんかと構う時間もない程、自分自身を追い詰めていたのだろう。
 セントの記憶と言えば、エドソンとの激しい剣の稽古をしてるところしか、見た事なかったし……。

「まあ、兎に角、良かったじゃん!これからグラスホッパー男爵になるみたいだし!
 長男のセントは、メッチャ、ホクホクだよね!」

 ヨナンは、セントの言葉を真剣に返すのが恥ずかしかったので、茶化して返す。

「ああ。本当に、ホクホクだな!」

 セントも、気恥しさを隠すように、ヨナンの頭をクチャクチャにして、誤魔化したのだった。

 ーーー

 次の日、予定通り、ワイン品評会の前に、カララム王とお目通りして、レッドドラゴン肉1キロ、ドラゴンの鱗1枚、レッドドラゴンの血50ミリリットルを献上した。

 そして、予想通り、その場でグラスホッパー家に新しい爵位が与えられ、グラスホッパー騎士爵家は、新たにグラスホッパー男爵家となり、
 ヨナンも、レッドドラゴンを討伐した個人的な功績として、準男爵の称号が与えられたのだった。

 エドソンなどは、緊張のあまり、なんか色々やらかしてた気がするが、一緒に出席してた元公爵令嬢のエリザベスなどは、普通に王様と雑談までしてたし、イーグル辺境伯と、グリズリー公爵は、必ずグラスホッパー家を男爵にしろよ。という王様への圧が物凄かった。

 そして、爵位授与の簡易な式典も終わり、一息ついた所で、鑑定スキルに話し掛ける。

「なあ、何でグラスホッパー騎士爵は、グラスホッパー男爵に格上げされたのに、俺だけ、地位が1つ低い準男爵にされちゃったんだ?
 これって、やっぱり、俺がグラスホッパー家の本当の息子じゃないからなのか?」

 ヨナンは、気になってた事を、鑑定スキルに確認する。

『違いますよ! それはご主人様の功績が認められた為の処置ですから!
 簡単に説明すると、エドソンが領主のグラスホッパー男爵家と、ご主人様のグラスホッパー準男爵家は、もう、完全に別の家です!
 これは、ご主人様自身が、一人の貴族として、国に認められたという事ですよ!』

「ん? 貴族って、俺も一応、貴族の息子だろ?」

『正確に言うと違います! ご主人様は、貴族の爵位を持つエドソンの息子であって、本当の貴族じゃありません。単なる、貴族の爵位を持つ、エドソンの子息の一人という事になります。
 それも、絶対にグラスホッパー男爵家の爵位を継げない四男のね!
 それを回避する為に、カララム王は、新たな準男爵家を作って、ご主人様に与えたんですよ!
 なので、今のご主人様は、グラスホッパー男爵家の長男のセントさんより、地位は上です!
 例え、セントさんが、グラスホッパー男爵家の長男で、家を必ず継ぐとしても、まだ、グラスホッパー男爵家の爵位を持つエドソンの子息という域からは、全く出て居ない訳になりますからね!』

「なんで、わざわざそんな事を?」

 ヨナンは、鑑定スキルに更に聞く。

『それは、カララム王国の観点から言えば、莫大な利益を国に還元できるご主人様を、爵位で縛り、カララム王国から逃がさない為にするのが一つ。
 それから、エリザベスさんと、イーグル辺境伯の事前工作が大きかったと思います』

「国は何となく分かるが、エリザベスも?」

『はい。多分、今後起こるであろう、セントさんと、ジミーさんとのグラスホッパー男爵家の相続問題から、ご主人様を守る為ですね!
 ジミーさんの性格を考えれば、揉める事必至ですから。
 ご主人様がグラスホッパー男爵とは関係ない、グラスホッパー準男爵家の人間なら、ジミーさんは何も言えなくなりますし、そもそも、爵位を既に持ってるご主人様は、ただの貴族の子息の戯言など、無視するだけでいいですからね!』

「スゲーな……エリザベスは、そこまで考えてたのかよ……」

『エリザベスさんは、曲がりなりにも、元公爵令嬢ですから、貴族がやる様な事は、大体分かってるんじゃないですか?』

「だな……」

『そして、イーグル辺境伯の思惑は、ご主人様を、カレンさんの旦那としての格を上げる事、この1つのみです!
 あの人、完全に孫バカですから!
 一番、ヤンチャで自分に似てるカレンさんを滅茶苦茶可愛がってるだけですね』

「だな……」

 ヨナンは、鑑定スキルの解説を聞いて、全て納得した。
 自分が、グラスホッパー家を金持ちにしてしまって、兄弟で骨肉の争いまで発展してしまう事は悲しい事だけど、それより貧乏よりはマシだろう。

 まあ、グラスホッパー準男爵となった今となっては、もう、関係無い家の話なので、どうでもいいかも?とも思う、ヨナンであった。
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