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第4章 王宮学園--長期休暇編--
第074話
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「いただきまーす!!」
手を合わせてから食事に手をつけるエドを横目に、アーサーへと話しかける。
「…もう治ったか?」
「…うす。つか…気付いてたんすか?」
「……うん。あの状態は一発で分かるよ」
「マジすか…恥ずかしいっすね…。……てか、いきなり何で…」
「……さぁ?アレはいきなり勃つもんだからな…。溜まってたとか?」
「それは!!…………否定はしないっす…」
「……思春期だもんなぁ。分かるよ…」
男特有の会話を終え、食事に手をつける。今日は『王宮御膳』を頼んだ。
「ふぉーいえふぁふぇんふぇいって………
「口の中に入れたまま喋んなよ…」
「……ングッ。そーいえば先生って午後は何処の当番なんすか?」
「…確か3-3だったかな?」
「んじゃオレも移動しよーっと。アルス先生が居なきゃ全然進まねーすからね!」
「まだ手合わせすんの?」
「そりゃあもちろんすよ!稽古だって分かってますけど、指南役の先生よりも強かったすもん!」
「そんなに??てか、指南役とかいたんだ…」
「騎士団を引退したお爺ちゃんでしたけどね。親父の知り合いだったんで稽古つけてくれてたんす」
「へぇー。そんな事聞くと、アーサーも貴族なんだなぁって思うよ」
「貴族っつー柄じゃ無いですけどね!小遣いとか貰った覚えないですし」
「…貴族も小遣いとかあんの?イメージ的に使い放題だと思ってたよ」
「他は分かんねーすけど、オレとアリスは小遣い無しっすよ!必要な時に連絡するぐらいっすね」
「ほぉー!アリスさんもなのか!アリスさんこそ小遣いは無限だと思ってたけどなぁ…」
「アルゼリアル国の大臣の娘ですからね。浪費癖があったら反発がありますよ!」
「そうだよなぁ。上に立つものが浪費癖があったら溜まったもんじゃ無いもんなぁ…」
「そうそう!ま、アリスは結構ケチんぼなんすけどね!」
「マジで?意外だ---
「あら?私の悪口を言っているのかしら?」
「「へっ?!」」
お喋りに夢中になっていると、いきなり背後から話しかけられた。おそるおそる振り返ると、ニッコリとした笑みを浮かべたアリスさんと、苦笑いを浮かべたケビン君が料理を持って立っていた。
「隣に座ってもよろしいですか?」
「ど、どうぞ…」
「どうかなさいましたか?顔が引きつっておりますが…」
「そんな事無いぞ?ふつーだよふつー」
「そうですか?…今何の話をしていたのか聞いてもよろしくて?」
席に座りながらアリスさんは笑顔で問いかける。
「いやぁ…アーサーやアリスさんは小遣い貰って無いって話をしてたんだよ」
「そうですか。貰ってないと言えば貰ってはいませんわ」
席に着き、食事を始めながらアリスさんは答える。
「まぁ俺の偏見なんだけどさ、貴族って言うからには結構な小遣いを貰ってるだろうなーって思って」
「貰ってはいませんが、必要な物は仕送りしてもらってますわ」
「へぇー。服とかか?」
「そうですね………新作のワンピースや美容品などを送ってもらってますね」
「………し、新作??」
「ええ。私が贔屓にしている方が送ってくださるの。新作についての意見を聞きたいと仰いまして…」
「……すげぇな。貴族となればお抱えのデザイナーとかいるんだな」
「でざいなぁ?」
「えーと…服とか作る人の事…だよ。…つーか、それって気に入らなかったらどーすんの?捨てるの??」
「そんな勿体無い事はしませんわ!仲の良い友達にあげたり、ケビンに譲ったりしてますわ!」
「は?ケビン君に!?……いや、ケビン君は男だろ?」
「あら?存じませんの?ケビンには妹がおりますのよ?」
「えっ!?…そうなの?」
「は、はい……。まだ5歳ですけど…」
「5歳児にアリスさんサイズの服を着せてんのか?」
「そ、それは無いですよ!!ブカブカですよ!」
「だよな……」
「ケビンのお母様はとても美人な方ですので、きっと将来は私程の美人になりますわ!だから、その時に着れるようにとお気に入りの服も渡していますの」
「……早過ぎないか?着れるまで10年は必要だろ?」
「そ、そうなんですけど……。でも、アリスちゃんと母上は仲がとても良いので…」
「…んまぁ、人様の家庭事情には口を突っ込まないけどさ……。ケビン君の妹は可愛がられてるんだなぁ」
「ぜひとも私の妹にとケビンに言ってるのですが、なかなか首を縦に振ってくれないんですよねぇ…」
「あたりめーだろ!!」
「そ、そうだよ!!フレイヤは絶対に譲らないよ!!」
「ケビン…そういう事じゃねーだろ…」
「だ、だってぇ…母上が結構乗り気なんですよ……。終いにはアリスちゃんと結婚すれば良いって…」
「ケビンが?!」
「そ、そうなんです…」
「ブハハハッ!ケビンがアリスとだって?!…おいおい、尻に敷かれるのが簡単に想像出来るぜ…」
「ちょっと!!どういう事よ!!」
食事の手を止め、アリスさんがアーサーへと噛み付く。
「だってよぉ…お前らの関係って主従関係に見えるぞ?別に仲が悪いって訳じゃねーけど、アリスの腰巾着って感じだな」
「腰巾着ですって?!ケビンに謝りなさいよ!!」
「バカにしてる訳じゃねーよ。お前らとは付き合い長いから分かってるけど、側から見ればそういう風に見えるってことだよ」
「……そう見えますか?アルス先生」
「…アリスさんは語気が荒いからなぁ。そう見える時があるよ」
「……ウソ…」
「あ、いや、別に悪い風には思ってないぞ?腰巾着っつーか、ケビン君が連れ回されているなーって感じはする」
「べべ別に僕はそうは思ってないです…」
「うん。2人とは仲良くなれたし、そんな関係じゃないって分かってるけど……時たまそう思っちゃうね」
「……そんな風に見られてただなんて…。私ったら貴族としてあるまじき行為をしてたようね…」
「そ、そこまでは言ってねーぞ??」
「…いえ。私はアルゼリアル国の大臣の娘。そんな風に見られていただなんて…失態ですわ!!」
俺と目線を合わせながらアリスさんは力強く言葉を発する。その目は本気で恥ずかしいと訴えているようだった。
「……俺には分からねぇけど、貴族の娘ってのは大変なんだなぁ。学園にいる時ぐらい人の目を気にしないで生活すればいいのに…」
「私の恥は一族の恥。他の家庭であれば許されるかも知れませんが、私はその様な妥協はしたくないのです!」
「………ご立派ですこと」
アリスさんから目を離し、食事を再開する。
(…責任感が強い子なんだなぁ。いや………強いじゃねーな。過剰…な気がする。こりゃあ…気にかけてやらねーとパンクしちまうタイプだな)
オカズを口に含みながらアリスさんの分析をする。学年に1人は居たよね、こんな風にクソ真面目な性格の人って。
食事を進めながらアーサー達の性格についても分析する。
(…アーサーは明るくて人懐っこいタイプだな。誰にでも好かれて裏表が無い性格だな。…好印象過ぎて嫉妬しちまいそうだよ。……ケビン君は分からん。どっちが本性なのか分からんけど、こっちのケビン君は気弱な性格。けど、魔法とか自分が強い分野には芯を曲げないタイプだ。………こう考えるとこの3人ってバランス取れてるよな。まさに青春漫画の主人公グループって感じだな…)
黙々と食事を進めていると、エドの横に座り込む影が目に入った。
「ふぃー……疲れたぜ。皆で飯食うなら俺も誘ってくれよ」
「あ、お疲れ様ですロニキスさん」
「お疲れ!…午後は俺と一緒だったよな?」
「みたいっすね…。今朝知りましたけど…」
「ん?何で……ってそうか。アルスは正式な当番じゃねぇもんな…」
「そうですね…。当番の日は前もってエドが教えてくれるって言ったんで…」
「そうか、なら大丈夫だな。……いただきます」
ガツガツと食べ進めるロニキスさんと、無言ながらも恐るべきスピードで食べ進めるエドを見ながら、黙々と食べ進める。
「「ご馳走さまっ!!」」
エドとアーサーが食べ終わり、それに続いて俺も食べ終わる。程無くしてからケビン君、アリスさんと続きロニキスさんも食べ終わる。
「ごっそうさん!」
「食べるの早いっすね…」
「あたりめーだろ!!さっさと食べてさっさと移動!時間は有限なんだぞ!」
「そうですね…んじゃ行くとしますか!」
「あーん!!デザート食べるまで待ってよぉー!」
「……お前まだ食べんのかよ」
「おやつの時間なんて無いし、今食べないとダメなんだよ!!」
「なんて食いしん坊な台詞なんだ…。んじゃ、俺とロニキスさんは先に行くからな。アーサー達が一緒に居てくれるさ」
「え?オレもすか??オレはもう行きますよ?」
「私達もそろそろ移動するつもりですが…」
「あーん!ひぎぃー!裏切り者ぉぉ!!」
「…もう持ち帰れば良いじゃん。暇見つけて食べろよ…」
「出来立てを!!その場で!!食べるのが一番美味しいんだよぉー!!」
「…付き合いきれん。アルス、俺は先に行くからな」
ロニキスさんはため息交じりで言うと、さっさと外へ出て行った。
「んじゃ、オレも先に3-3に行っときますんで!」
「ええー?俺を置いて行くのかよ…」
「あら?アルス先生は3-3の当番なのですか?」
「そうだよ?」
「ふぅん……。ケビン、私達も3-3に行きましょ」
「え?エ、エドワード先生を待たなくて良いの?」
「アルス先生がいるから大丈夫でしょ?…それじゃまた後で」
「ま、待ってよぉアリスちゃん!」
アリスさん達はそう言うと、食堂から出て行く。残された俺は注文を済ませ、満面の笑みを浮かべているエドが食べ終わるのを待つのであった。
「……ホントよく食べるね」
「デザートは別腹なんだってば!」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「おう、アルス。遅かったじゃねーか!」
「すいません。遅くなりました」
「んじゃ早速だがあっち側を頼む。今日は高学年ばかりでかなり楽だぞ」
武闘場に着き、早速生徒達の見回りをする。午前中と同じで生徒達は各々真剣に練習をしていた。
「アールースーせぇーんせっ!!」
「一通り回ってからでも良いか?」
「良いっすよ!それまでケビンと練習しとくんで!」
「あらら。ケビン君はアーサーに捕まっちゃったのか」
「ぼ、僕が練習相手になるはず無いって言ってるんですよぉ…」
「大丈夫だって!ただ、オレに思いっきり攻撃してくれるだけで良いんだから!」
「アーサー!アナタばっかりケビンを使わないで!私もケビンに教えてもらわないといけないんだから!」
「……仲がよろしいことで。…んじゃまた後でな」
アーサー達と別れ、生徒達の様子を見て回る。時々、魔法や剣術について質問を受けるが、当たり障りの無い返答をし出来たら褒めるという事をしていた。
そうそう。質問をしてきた生徒で面白いのが1人いた。その子は魔法を練習していたのだが、ひたすらに治癒魔法の練習をしていたのだ。治癒魔法は目に見えないと実感が湧かないらしく、練習をしている生徒に声をかけて疲労を取るという、効率が悪く見えそうな練習をしていた。
その子に『どうすれば1人でも出来るのか?』と質問され、返答に困った俺はとりあえずアーサー達の元へと連れて行った。
「おーい!アーサー、この子が治癒魔法の練習したいって言うんだけどさ、お前練習相手になってくんねぇ?」
「治癒っすか??オレ怪我なんかしてないすよ?」
「ほら、俺と手合わせする時ちょこっと打撲しちゃうだろ?」
「あー…確かにそう言えばそうっすね!」
「その時に治癒魔法が必要だろ?俺も一々掛けなくて済むし、この子の練習にもなる。どう?」
「オレは良いっすよ!……オレはアーサーって言うんだ!よろしくな!」
「は、初めまして…『シュナ』って言いまス…」
初対面の相手に気さくに挨拶する辺り、アーサーがとてもイケメンに見える。…いや、元からイケメンなんだけど絵になるっつーか何つーか…。
イケメンスマイルを浮かべているアーサーにちょっと嫉妬していると、アリスさんがこちらへやって来た。
「アーサー!そろそろケビンをこっちに返して………って、シュナじゃない?どうしたの?」
「あっ!アリスちゃん!」
アリスさんがシュナさんに声をかける。
「ん?2人は友達なの?」
「そうよ?私のルームメイトなの。シュナ、アナタが外に出るなんて珍しいわね…」
「う、うん……。どうしても練習したくテ…」
「また治癒魔法?本当に好きねぇ…」
「うん!魔術団を目指しているからネ!」
「そっか…。支援部隊を目指してるんだったわね」
「他の魔法は苦手だからネ…」
「大丈夫よ。アナタの実力なら支援部隊に入れるわよ!」
「ありがとアリスちゃん!」
あどけない笑顔を浮かべるシュナさんにアリスさんも笑顔で返す。………そんな顔俺にした事ないよなぁ?たまには俺にもデレてくれよ…。ま、あり得ないけど。
「先生!見回りは終わりました?」
「うん。ある程度は終わったよ。後からまた回る予定だけど…」
「んじゃ早速お願いします!!」
「おう。…んじゃシュナさん。今からアーサーと手合わせするんだけど、適度に治癒魔法をかけてやってくれ」
「え?休憩の時にしたりとかじゃ無いんですカ?」
「それだとシュナさんが暇になるだろ?手合わせ中で良いからガンガン掛けてやってくれ」
「……つーことは午前中よりも厳しいって事すか?」
「そりゃ当たり前だろ。手加減なんかしたら覚えられねーだろ??」
「…マジかぁ。出来れば優しくして欲しいっす…」
「騎士団を目指してるんだろ?甘い事言ってんな」
「えぇ……?普通の事を言ったつもりっすよ?」
嫌そうな表情で文句を漏らすアーサーに、俺は優しく声をかける。
「………………アーサーには素質があるからなぁ。俺的には沢山教えたいんだが…」
「素質??オレが??」
「うん。俺も受け流しが形になるまで一月掛かったんだぜ?それを午前中だけである程度形になるなんて、素質があるって事だろ?」
「………マジすか?」
「マジマジ。だから厳しいかもだけど、午後を乗り切ったら殆ど習得出来るんじゃねぇかなぁ?」
「…やります!!オレはやるっすよ!!」
(…お前もチョロいな)
不満そうだった顔がやる気に満ち溢れたものとなり、鼻息を荒くする。
「よぉーし…んじゃ模造刀を持って来てくれ」
「はいっす!!」
「せ、先生…。ぼ、僕はどうすれば…」
「ケビンはこっちで私と練習よ!!」
「あ、そっか……」
アリスさんと一緒にケビン君は練習を始める。すると、ちょうどアーサーが模造刀を取って来た。
「お待たせしました!」
「ありがと。…んじゃ早速やろうか」
「はい!お願いしゃす!!」
「シュナさんもガンガン掛けてあげてね。結構スパルタの予定だから」
「は……はい……」
「行くぞ…アーサー!」
「しゃあ!!」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
手を合わせてから食事に手をつけるエドを横目に、アーサーへと話しかける。
「…もう治ったか?」
「…うす。つか…気付いてたんすか?」
「……うん。あの状態は一発で分かるよ」
「マジすか…恥ずかしいっすね…。……てか、いきなり何で…」
「……さぁ?アレはいきなり勃つもんだからな…。溜まってたとか?」
「それは!!…………否定はしないっす…」
「……思春期だもんなぁ。分かるよ…」
男特有の会話を終え、食事に手をつける。今日は『王宮御膳』を頼んだ。
「ふぉーいえふぁふぇんふぇいって………
「口の中に入れたまま喋んなよ…」
「……ングッ。そーいえば先生って午後は何処の当番なんすか?」
「…確か3-3だったかな?」
「んじゃオレも移動しよーっと。アルス先生が居なきゃ全然進まねーすからね!」
「まだ手合わせすんの?」
「そりゃあもちろんすよ!稽古だって分かってますけど、指南役の先生よりも強かったすもん!」
「そんなに??てか、指南役とかいたんだ…」
「騎士団を引退したお爺ちゃんでしたけどね。親父の知り合いだったんで稽古つけてくれてたんす」
「へぇー。そんな事聞くと、アーサーも貴族なんだなぁって思うよ」
「貴族っつー柄じゃ無いですけどね!小遣いとか貰った覚えないですし」
「…貴族も小遣いとかあんの?イメージ的に使い放題だと思ってたよ」
「他は分かんねーすけど、オレとアリスは小遣い無しっすよ!必要な時に連絡するぐらいっすね」
「ほぉー!アリスさんもなのか!アリスさんこそ小遣いは無限だと思ってたけどなぁ…」
「アルゼリアル国の大臣の娘ですからね。浪費癖があったら反発がありますよ!」
「そうだよなぁ。上に立つものが浪費癖があったら溜まったもんじゃ無いもんなぁ…」
「そうそう!ま、アリスは結構ケチんぼなんすけどね!」
「マジで?意外だ---
「あら?私の悪口を言っているのかしら?」
「「へっ?!」」
お喋りに夢中になっていると、いきなり背後から話しかけられた。おそるおそる振り返ると、ニッコリとした笑みを浮かべたアリスさんと、苦笑いを浮かべたケビン君が料理を持って立っていた。
「隣に座ってもよろしいですか?」
「ど、どうぞ…」
「どうかなさいましたか?顔が引きつっておりますが…」
「そんな事無いぞ?ふつーだよふつー」
「そうですか?…今何の話をしていたのか聞いてもよろしくて?」
席に座りながらアリスさんは笑顔で問いかける。
「いやぁ…アーサーやアリスさんは小遣い貰って無いって話をしてたんだよ」
「そうですか。貰ってないと言えば貰ってはいませんわ」
席に着き、食事を始めながらアリスさんは答える。
「まぁ俺の偏見なんだけどさ、貴族って言うからには結構な小遣いを貰ってるだろうなーって思って」
「貰ってはいませんが、必要な物は仕送りしてもらってますわ」
「へぇー。服とかか?」
「そうですね………新作のワンピースや美容品などを送ってもらってますね」
「………し、新作??」
「ええ。私が贔屓にしている方が送ってくださるの。新作についての意見を聞きたいと仰いまして…」
「……すげぇな。貴族となればお抱えのデザイナーとかいるんだな」
「でざいなぁ?」
「えーと…服とか作る人の事…だよ。…つーか、それって気に入らなかったらどーすんの?捨てるの??」
「そんな勿体無い事はしませんわ!仲の良い友達にあげたり、ケビンに譲ったりしてますわ!」
「は?ケビン君に!?……いや、ケビン君は男だろ?」
「あら?存じませんの?ケビンには妹がおりますのよ?」
「えっ!?…そうなの?」
「は、はい……。まだ5歳ですけど…」
「5歳児にアリスさんサイズの服を着せてんのか?」
「そ、それは無いですよ!!ブカブカですよ!」
「だよな……」
「ケビンのお母様はとても美人な方ですので、きっと将来は私程の美人になりますわ!だから、その時に着れるようにとお気に入りの服も渡していますの」
「……早過ぎないか?着れるまで10年は必要だろ?」
「そ、そうなんですけど……。でも、アリスちゃんと母上は仲がとても良いので…」
「…んまぁ、人様の家庭事情には口を突っ込まないけどさ……。ケビン君の妹は可愛がられてるんだなぁ」
「ぜひとも私の妹にとケビンに言ってるのですが、なかなか首を縦に振ってくれないんですよねぇ…」
「あたりめーだろ!!」
「そ、そうだよ!!フレイヤは絶対に譲らないよ!!」
「ケビン…そういう事じゃねーだろ…」
「だ、だってぇ…母上が結構乗り気なんですよ……。終いにはアリスちゃんと結婚すれば良いって…」
「ケビンが?!」
「そ、そうなんです…」
「ブハハハッ!ケビンがアリスとだって?!…おいおい、尻に敷かれるのが簡単に想像出来るぜ…」
「ちょっと!!どういう事よ!!」
食事の手を止め、アリスさんがアーサーへと噛み付く。
「だってよぉ…お前らの関係って主従関係に見えるぞ?別に仲が悪いって訳じゃねーけど、アリスの腰巾着って感じだな」
「腰巾着ですって?!ケビンに謝りなさいよ!!」
「バカにしてる訳じゃねーよ。お前らとは付き合い長いから分かってるけど、側から見ればそういう風に見えるってことだよ」
「……そう見えますか?アルス先生」
「…アリスさんは語気が荒いからなぁ。そう見える時があるよ」
「……ウソ…」
「あ、いや、別に悪い風には思ってないぞ?腰巾着っつーか、ケビン君が連れ回されているなーって感じはする」
「べべ別に僕はそうは思ってないです…」
「うん。2人とは仲良くなれたし、そんな関係じゃないって分かってるけど……時たまそう思っちゃうね」
「……そんな風に見られてただなんて…。私ったら貴族としてあるまじき行為をしてたようね…」
「そ、そこまでは言ってねーぞ??」
「…いえ。私はアルゼリアル国の大臣の娘。そんな風に見られていただなんて…失態ですわ!!」
俺と目線を合わせながらアリスさんは力強く言葉を発する。その目は本気で恥ずかしいと訴えているようだった。
「……俺には分からねぇけど、貴族の娘ってのは大変なんだなぁ。学園にいる時ぐらい人の目を気にしないで生活すればいいのに…」
「私の恥は一族の恥。他の家庭であれば許されるかも知れませんが、私はその様な妥協はしたくないのです!」
「………ご立派ですこと」
アリスさんから目を離し、食事を再開する。
(…責任感が強い子なんだなぁ。いや………強いじゃねーな。過剰…な気がする。こりゃあ…気にかけてやらねーとパンクしちまうタイプだな)
オカズを口に含みながらアリスさんの分析をする。学年に1人は居たよね、こんな風にクソ真面目な性格の人って。
食事を進めながらアーサー達の性格についても分析する。
(…アーサーは明るくて人懐っこいタイプだな。誰にでも好かれて裏表が無い性格だな。…好印象過ぎて嫉妬しちまいそうだよ。……ケビン君は分からん。どっちが本性なのか分からんけど、こっちのケビン君は気弱な性格。けど、魔法とか自分が強い分野には芯を曲げないタイプだ。………こう考えるとこの3人ってバランス取れてるよな。まさに青春漫画の主人公グループって感じだな…)
黙々と食事を進めていると、エドの横に座り込む影が目に入った。
「ふぃー……疲れたぜ。皆で飯食うなら俺も誘ってくれよ」
「あ、お疲れ様ですロニキスさん」
「お疲れ!…午後は俺と一緒だったよな?」
「みたいっすね…。今朝知りましたけど…」
「ん?何で……ってそうか。アルスは正式な当番じゃねぇもんな…」
「そうですね…。当番の日は前もってエドが教えてくれるって言ったんで…」
「そうか、なら大丈夫だな。……いただきます」
ガツガツと食べ進めるロニキスさんと、無言ながらも恐るべきスピードで食べ進めるエドを見ながら、黙々と食べ進める。
「「ご馳走さまっ!!」」
エドとアーサーが食べ終わり、それに続いて俺も食べ終わる。程無くしてからケビン君、アリスさんと続きロニキスさんも食べ終わる。
「ごっそうさん!」
「食べるの早いっすね…」
「あたりめーだろ!!さっさと食べてさっさと移動!時間は有限なんだぞ!」
「そうですね…んじゃ行くとしますか!」
「あーん!!デザート食べるまで待ってよぉー!」
「……お前まだ食べんのかよ」
「おやつの時間なんて無いし、今食べないとダメなんだよ!!」
「なんて食いしん坊な台詞なんだ…。んじゃ、俺とロニキスさんは先に行くからな。アーサー達が一緒に居てくれるさ」
「え?オレもすか??オレはもう行きますよ?」
「私達もそろそろ移動するつもりですが…」
「あーん!ひぎぃー!裏切り者ぉぉ!!」
「…もう持ち帰れば良いじゃん。暇見つけて食べろよ…」
「出来立てを!!その場で!!食べるのが一番美味しいんだよぉー!!」
「…付き合いきれん。アルス、俺は先に行くからな」
ロニキスさんはため息交じりで言うと、さっさと外へ出て行った。
「んじゃ、オレも先に3-3に行っときますんで!」
「ええー?俺を置いて行くのかよ…」
「あら?アルス先生は3-3の当番なのですか?」
「そうだよ?」
「ふぅん……。ケビン、私達も3-3に行きましょ」
「え?エ、エドワード先生を待たなくて良いの?」
「アルス先生がいるから大丈夫でしょ?…それじゃまた後で」
「ま、待ってよぉアリスちゃん!」
アリスさん達はそう言うと、食堂から出て行く。残された俺は注文を済ませ、満面の笑みを浮かべているエドが食べ終わるのを待つのであった。
「……ホントよく食べるね」
「デザートは別腹なんだってば!」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「おう、アルス。遅かったじゃねーか!」
「すいません。遅くなりました」
「んじゃ早速だがあっち側を頼む。今日は高学年ばかりでかなり楽だぞ」
武闘場に着き、早速生徒達の見回りをする。午前中と同じで生徒達は各々真剣に練習をしていた。
「アールースーせぇーんせっ!!」
「一通り回ってからでも良いか?」
「良いっすよ!それまでケビンと練習しとくんで!」
「あらら。ケビン君はアーサーに捕まっちゃったのか」
「ぼ、僕が練習相手になるはず無いって言ってるんですよぉ…」
「大丈夫だって!ただ、オレに思いっきり攻撃してくれるだけで良いんだから!」
「アーサー!アナタばっかりケビンを使わないで!私もケビンに教えてもらわないといけないんだから!」
「……仲がよろしいことで。…んじゃまた後でな」
アーサー達と別れ、生徒達の様子を見て回る。時々、魔法や剣術について質問を受けるが、当たり障りの無い返答をし出来たら褒めるという事をしていた。
そうそう。質問をしてきた生徒で面白いのが1人いた。その子は魔法を練習していたのだが、ひたすらに治癒魔法の練習をしていたのだ。治癒魔法は目に見えないと実感が湧かないらしく、練習をしている生徒に声をかけて疲労を取るという、効率が悪く見えそうな練習をしていた。
その子に『どうすれば1人でも出来るのか?』と質問され、返答に困った俺はとりあえずアーサー達の元へと連れて行った。
「おーい!アーサー、この子が治癒魔法の練習したいって言うんだけどさ、お前練習相手になってくんねぇ?」
「治癒っすか??オレ怪我なんかしてないすよ?」
「ほら、俺と手合わせする時ちょこっと打撲しちゃうだろ?」
「あー…確かにそう言えばそうっすね!」
「その時に治癒魔法が必要だろ?俺も一々掛けなくて済むし、この子の練習にもなる。どう?」
「オレは良いっすよ!……オレはアーサーって言うんだ!よろしくな!」
「は、初めまして…『シュナ』って言いまス…」
初対面の相手に気さくに挨拶する辺り、アーサーがとてもイケメンに見える。…いや、元からイケメンなんだけど絵になるっつーか何つーか…。
イケメンスマイルを浮かべているアーサーにちょっと嫉妬していると、アリスさんがこちらへやって来た。
「アーサー!そろそろケビンをこっちに返して………って、シュナじゃない?どうしたの?」
「あっ!アリスちゃん!」
アリスさんがシュナさんに声をかける。
「ん?2人は友達なの?」
「そうよ?私のルームメイトなの。シュナ、アナタが外に出るなんて珍しいわね…」
「う、うん……。どうしても練習したくテ…」
「また治癒魔法?本当に好きねぇ…」
「うん!魔術団を目指しているからネ!」
「そっか…。支援部隊を目指してるんだったわね」
「他の魔法は苦手だからネ…」
「大丈夫よ。アナタの実力なら支援部隊に入れるわよ!」
「ありがとアリスちゃん!」
あどけない笑顔を浮かべるシュナさんにアリスさんも笑顔で返す。………そんな顔俺にした事ないよなぁ?たまには俺にもデレてくれよ…。ま、あり得ないけど。
「先生!見回りは終わりました?」
「うん。ある程度は終わったよ。後からまた回る予定だけど…」
「んじゃ早速お願いします!!」
「おう。…んじゃシュナさん。今からアーサーと手合わせするんだけど、適度に治癒魔法をかけてやってくれ」
「え?休憩の時にしたりとかじゃ無いんですカ?」
「それだとシュナさんが暇になるだろ?手合わせ中で良いからガンガン掛けてやってくれ」
「……つーことは午前中よりも厳しいって事すか?」
「そりゃ当たり前だろ。手加減なんかしたら覚えられねーだろ??」
「…マジかぁ。出来れば優しくして欲しいっす…」
「騎士団を目指してるんだろ?甘い事言ってんな」
「えぇ……?普通の事を言ったつもりっすよ?」
嫌そうな表情で文句を漏らすアーサーに、俺は優しく声をかける。
「………………アーサーには素質があるからなぁ。俺的には沢山教えたいんだが…」
「素質??オレが??」
「うん。俺も受け流しが形になるまで一月掛かったんだぜ?それを午前中だけである程度形になるなんて、素質があるって事だろ?」
「………マジすか?」
「マジマジ。だから厳しいかもだけど、午後を乗り切ったら殆ど習得出来るんじゃねぇかなぁ?」
「…やります!!オレはやるっすよ!!」
(…お前もチョロいな)
不満そうだった顔がやる気に満ち溢れたものとなり、鼻息を荒くする。
「よぉーし…んじゃ模造刀を持って来てくれ」
「はいっす!!」
「せ、先生…。ぼ、僕はどうすれば…」
「ケビンはこっちで私と練習よ!!」
「あ、そっか……」
アリスさんと一緒にケビン君は練習を始める。すると、ちょうどアーサーが模造刀を取って来た。
「お待たせしました!」
「ありがと。…んじゃ早速やろうか」
「はい!お願いしゃす!!」
「シュナさんもガンガン掛けてあげてね。結構スパルタの予定だから」
「は……はい……」
「行くぞ…アーサー!」
「しゃあ!!」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
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