欲情プール

よつば猫

文字の大きさ
2 / 30

悲劇のヒロイン2

しおりを挟む

「茉歩、昨日の話だけど……
ちゃんと、話し合いたいんだっ」


 帰りたくなかったけど、逃げたくもない私に……
容赦なく、離婚を突き詰める聡。

 既に傷だらけの胸を、どんどん八裂いて……
あなたは、楽しいですか?

「話し合いって……
話して状況が変えられるの?」

「そうじゃなくてっ……
その、慰謝料の事とか、今後の事とか」

「なにそれ!
私、まだ離婚の承諾すらしてないけどっ?」

「わかってる!わかってるけどっ……
……頼むよ。
お前には本当に、申し訳ないと思ってる。
だけどもう、(お腹の子の)責任取るって決めたんだ!
ちゃんと責任、取りたいんだよっ!」

 そのくせ、私の人生の責任は放棄するんだ?
バカにしてる!

 こんな時、取り乱したり泣き喚いたり出来たら、少しは可愛げもあるんだろうけど……
そしたら状況も変わるのかな?

……違う、逆効果だ。
よくドラマとかじゃ……
半狂乱になった奥さんは、ますます愛想を尽かされて。
なかなか結ばれない2人の愛は、ますます強くなって。
そう、ここで修羅と化したら……
罪を犯した不倫相手の方が、悲劇のヒロインになってしまう!

 それに……






 聡と付き合い始めた頃、携帯にイタズラ電話が始まった。
犯人は、聡の元カノ。

「悪いけど、聡はあたしの男だから。
返してくれる?」
そんな留守電のメッセージで判明した。

 でもどうやら、元カノの独り善がりだったみたいで……
私も聡も相手にしてなかった。

 だけど、だんだん回数がエスカレートしていって……

「ねぇ聡、どうにかしてよ!
このまま放置してたって、この人わかんないよっ。
私が言っても納得しないし……
聡の口からハッキリ言ってよ!」

「いや、俺が言っても駄目だっただろ?
むしろそうやって反応したから、エスカレートしたんだよ。
この手のタイプは、放置しとくのが一番だって」

「でももうウンザリなの!
それに、もう終わっただろ?って宥めたくらいじゃ伝わらないよ!
ハッキリ嫌いだって……
迷惑だって言ってよ!」

「女の子にそんな酷い事言えないよっ」

 聡の優しさは、こんな時に仇になる。
だけどそれは、優しさを履き違えてると思うし。
私の事が好きなら、私だけに優しくして欲しい。

 中途半端な優しさは、私にも残酷で……
しかもどこで調べたのか、仕事の携帯への嫌がらせだったから、ほんとに参ってた。

 だけど、付き合って間もない関係だったから、押し切れなくて……

「……わかった」

 悔しさに唇を噛んで。
聡の家に来ていた私は、いつものようにその家の家事を始めた。

 気持ちを紛らわしてたつもりが、聡には健気に映ったんだろう。

「聡だけど……
うん、うん……
だけど、こんなことするお前は嫌いだよ!
もうその気持ちは迷惑なんだっ」
背後から聞こえた電話の声。

 そして……

「今まで嫌な思いさせて、ごめん。
もう掛かって来ないと思う。
これからはちゃんと、茉歩を守るよ」
炊事してた私を、後ろから抱きしめて来た。







 心も物質と同じで。
抑え付けたり、強い非難(力)をぶつけたら……
その分反発を募らせたり、どんどん離れて行ったり、逆効果。

 本当に現状を変えたいなら……
悲しみはちゃんと伝えて、それ以上に相手の気持ちを受け止める。
きっと人の心を動かすのは、そんな事なんだと思う。

 だから一旦、聡の要求を承諾して。
私は今まで通りに、でもさり気なく健気に振る舞って。
優しい聡の、情に訴えてみるのが有効かもしれない。

 私の事をあんなに溺愛してくれてた聡なら、思い留まってくれるかもしれない!

 そうは思っても。
感情なんて、容易くコントロール出来る訳なくて。
いくらクールな私でも、この状況で平静を保つのは難しいし……
策略上でも承諾出来ない!
それに、もし策略が仇になったら……

「……少し、考えさせて」

「茉歩!
頼むよっ……
勝手なのは分かってるし、最低な男だよ!
だけど慰謝料は充分に用意するしっ、出来る限りお前の条件にも、」

「だから承諾してないってば!
慰謝料の話なんて今しないでっ」

 心がグチャグチャに砕き潰されて、頭がおかしくなりそう!

「っ……
ごめん、でもっ」

「聡!
離婚だよ?
簡単な話じゃない事くらい、解るよね?
親にだって説明しなきゃいけないし、私の気持ちだって……
考えるのなんて、当然でしょ?」

「……うん、ごめん。
もう少し待つよ。
でも茉歩ならっ、解ってくれるって信じてる」

 どーゆう意味!?
いつもクールな私なら、冷静に割り切れるとでも思ってるっ?
それとも、そう言ってそっちに誘導にしてるつもりっ?
なんにしても、私を何だと思ってるのっ!

 こんな最低な男、こっちから捨ててやればいいのに……
なのにっ……
好きだから別れられない?
それとも、許せないから別れられない?
もうわからない!


 情熱を注いだ仕事を失って。
情愛を注いだ夫まで、失うカウントダウンが始まってて……
すごいスピードで、底無しの闇に堕ちてく気分だった。

 壊れそうだった私は……
いっそ壊れてしまえばいいのに!




 次の日。
仕事のない私は、茫然と過ごしてると……

『あいつ(妻)に嫌がらせされたんだろっ?
守れなくてごめん……
あいつもう、おかしくなってて手に負えないんだっ」

 何気につけたテレビから、不倫ものの昼ドラが流れて来た。

 おかしくなるのなんて、当然でしょ!?
自分がパートナーから不倫されたら、どうなのっ?
ドラマの中の不倫男にさえ、怒りが込み上げる。

『いいの!
あなたを愛した、私が悪いんだから……
でも、神様は意地悪だね。
いくら真実の愛でも、世の中早いもの勝ちなんだもん。
ノロマな亀が幸せを掴むのは、物語りの中だけだねっ。
だからあなたは、奥さんの所に戻ってあげて?
私なら、大丈夫だからっ……』
そう微笑みながら涙を流す不倫女は、間違いなく悲劇のヒロインで……

 バカみたいっ!
ドラマとかじゃいつだって、不倫した方にスポットライトが当てられて、その悲しみばかりがアピールされてるけど。
罪とか罰とかって、悲しみに酔ってるようにしか思えないっ。
だいたい、悲しむ資格なんてないと思う!

 本当の悲劇のヒロインは……



「なぁ、茉歩……
そろそろ、いいかなぁ?」

 考える時間をもらってから、丸3日。
早くも、離婚の承諾を催促して来た聡。

「……そろそろって、まだ3日だよ?
そんな早く、人生決めれる?」

「けど、彼女妊娠してるって言っただろっ?
頼むよ!
今、情緒不安定でさ……
このままじゃお腹の子にも悪影響だし、これ以上辛い思いをさせたくないんだっ」

 私が辛いのはいいの!?
嘘でしょ、信じられない……
そりゃ、流産なんてされても後味悪いけど……
でも私には関係ないし!
ねぇ、そんなにそのコしか見えないのっ?

「っ、茉歩っ……」

 思わず零れた涙に、狼狽える聡。
ハッとした私は、慌てて涙を拭うと。

「酷すぎるよ」
そう言い残して、その場をかわした。


 ねぇ、知ってる?
本当の悲劇のヒロインは、紛れもなく不倫された方だよ?
悲しみを横取りしないで。
涙を横取りしないで。
夫を横取りしないで!




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...