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悲劇のヒロイン2
しおりを挟む「茉歩、昨日の話だけど……
ちゃんと、話し合いたいんだっ」
帰りたくなかったけど、逃げたくもない私に……
容赦なく、離婚を突き詰める聡。
既に傷だらけの胸を、どんどん八裂いて……
あなたは、楽しいですか?
「話し合いって……
話して状況が変えられるの?」
「そうじゃなくてっ……
その、慰謝料の事とか、今後の事とか」
「なにそれ!
私、まだ離婚の承諾すらしてないけどっ?」
「わかってる!わかってるけどっ……
……頼むよ。
お前には本当に、申し訳ないと思ってる。
だけどもう、(お腹の子の)責任取るって決めたんだ!
ちゃんと責任、取りたいんだよっ!」
そのくせ、私の人生の責任は放棄するんだ?
バカにしてる!
こんな時、取り乱したり泣き喚いたり出来たら、少しは可愛げもあるんだろうけど……
そしたら状況も変わるのかな?
……違う、逆効果だ。
よくドラマとかじゃ……
半狂乱になった奥さんは、ますます愛想を尽かされて。
なかなか結ばれない2人の愛は、ますます強くなって。
そう、ここで修羅と化したら……
罪を犯した不倫相手の方が、悲劇のヒロインになってしまう!
それに……
*
*
*
聡と付き合い始めた頃、携帯にイタズラ電話が始まった。
犯人は、聡の元カノ。
「悪いけど、聡はあたしの男だから。
返してくれる?」
そんな留守電のメッセージで判明した。
でもどうやら、元カノの独り善がりだったみたいで……
私も聡も相手にしてなかった。
だけど、だんだん回数がエスカレートしていって……
「ねぇ聡、どうにかしてよ!
このまま放置してたって、この人わかんないよっ。
私が言っても納得しないし……
聡の口からハッキリ言ってよ!」
「いや、俺が言っても駄目だっただろ?
むしろそうやって反応したから、エスカレートしたんだよ。
この手のタイプは、放置しとくのが一番だって」
「でももうウンザリなの!
それに、もう終わっただろ?って宥めたくらいじゃ伝わらないよ!
ハッキリ嫌いだって……
迷惑だって言ってよ!」
「女の子にそんな酷い事言えないよっ」
聡の優しさは、こんな時に仇になる。
だけどそれは、優しさを履き違えてると思うし。
私の事が好きなら、私だけに優しくして欲しい。
中途半端な優しさは、私にも残酷で……
しかもどこで調べたのか、仕事の携帯への嫌がらせだったから、ほんとに参ってた。
だけど、付き合って間もない関係だったから、押し切れなくて……
「……わかった」
悔しさに唇を噛んで。
聡の家に来ていた私は、いつものようにその家の家事を始めた。
気持ちを紛らわしてたつもりが、聡には健気に映ったんだろう。
「聡だけど……
うん、うん……
だけど、こんなことするお前は嫌いだよ!
もうその気持ちは迷惑なんだっ」
背後から聞こえた電話の声。
そして……
「今まで嫌な思いさせて、ごめん。
もう掛かって来ないと思う。
これからはちゃんと、茉歩を守るよ」
炊事してた私を、後ろから抱きしめて来た。
*
*
*
心も物質と同じで。
抑え付けたり、強い非難(力)をぶつけたら……
その分反発を募らせたり、どんどん離れて行ったり、逆効果。
本当に現状を変えたいなら……
悲しみはちゃんと伝えて、それ以上に相手の気持ちを受け止める。
きっと人の心を動かすのは、そんな事なんだと思う。
だから一旦、聡の要求を承諾して。
私は今まで通りに、でもさり気なく健気に振る舞って。
優しい聡の、情に訴えてみるのが有効かもしれない。
私の事をあんなに溺愛してくれてた聡なら、思い留まってくれるかもしれない!
そうは思っても。
感情なんて、容易くコントロール出来る訳なくて。
いくらクールな私でも、この状況で平静を保つのは難しいし……
策略上でも承諾出来ない!
それに、もし策略が仇になったら……
「……少し、考えさせて」
「茉歩!
頼むよっ……
勝手なのは分かってるし、最低な男だよ!
だけど慰謝料は充分に用意するしっ、出来る限りお前の条件にも、」
「だから承諾してないってば!
慰謝料の話なんて今しないでっ」
心がグチャグチャに砕き潰されて、頭がおかしくなりそう!
「っ……
ごめん、でもっ」
「聡!
離婚だよ?
簡単な話じゃない事くらい、解るよね?
親にだって説明しなきゃいけないし、私の気持ちだって……
考えるのなんて、当然でしょ?」
「……うん、ごめん。
もう少し待つよ。
でも茉歩ならっ、解ってくれるって信じてる」
どーゆう意味!?
いつもクールな私なら、冷静に割り切れるとでも思ってるっ?
それとも、そう言ってそっちに誘導にしてるつもりっ?
なんにしても、私を何だと思ってるのっ!
こんな最低な男、こっちから捨ててやればいいのに……
なのにっ……
好きだから別れられない?
それとも、許せないから別れられない?
もうわからない!
情熱を注いだ仕事を失って。
情愛を注いだ夫まで、失うカウントダウンが始まってて……
すごいスピードで、底無しの闇に堕ちてく気分だった。
壊れそうだった私は……
いっそ壊れてしまえばいいのに!
次の日。
仕事のない私は、茫然と過ごしてると……
『あいつ(妻)に嫌がらせされたんだろっ?
守れなくてごめん……
あいつもう、おかしくなってて手に負えないんだっ」
何気につけたテレビから、不倫ものの昼ドラが流れて来た。
おかしくなるのなんて、当然でしょ!?
自分がパートナーから不倫されたら、どうなのっ?
ドラマの中の不倫男にさえ、怒りが込み上げる。
『いいの!
あなたを愛した、私が悪いんだから……
でも、神様は意地悪だね。
いくら真実の愛でも、世の中早いもの勝ちなんだもん。
ノロマな亀が幸せを掴むのは、物語りの中だけだねっ。
だからあなたは、奥さんの所に戻ってあげて?
私なら、大丈夫だからっ……』
そう微笑みながら涙を流す不倫女は、間違いなく悲劇のヒロインで……
バカみたいっ!
ドラマとかじゃいつだって、不倫した方にスポットライトが当てられて、その悲しみばかりがアピールされてるけど。
罪とか罰とかって、悲しみに酔ってるようにしか思えないっ。
だいたい、悲しむ資格なんてないと思う!
本当の悲劇のヒロインは……
「なぁ、茉歩……
そろそろ、いいかなぁ?」
考える時間をもらってから、丸3日。
早くも、離婚の承諾を催促して来た聡。
「……そろそろって、まだ3日だよ?
そんな早く、人生決めれる?」
「けど、彼女妊娠してるって言っただろっ?
頼むよ!
今、情緒不安定でさ……
このままじゃお腹の子にも悪影響だし、これ以上辛い思いをさせたくないんだっ」
私が辛いのはいいの!?
嘘でしょ、信じられない……
そりゃ、流産なんてされても後味悪いけど……
でも私には関係ないし!
ねぇ、そんなにそのコしか見えないのっ?
「っ、茉歩っ……」
思わず零れた涙に、狼狽える聡。
ハッとした私は、慌てて涙を拭うと。
「酷すぎるよ」
そう言い残して、その場をかわした。
ねぇ、知ってる?
本当の悲劇のヒロインは、紛れもなく不倫された方だよ?
悲しみを横取りしないで。
涙を横取りしないで。
夫を横取りしないで!
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