欲情プール

よつば猫

文字の大きさ
18 / 30

溺れる身体3

しおりを挟む
「……茉歩、愛してるっ」

 肩のマッサージをしてくれてる最中、不意にそう抱き締めて来た聡。

 ただでさえ、溝のある夫婦関係の中。
慧剛に溺れてる私は、聡と過ごす時間が激減してて……
きっと、寂しさと焦りに駆られんだと思う。

 だけど。

「っ、どうしたの?急に。
あ、マッサージありがとう。
じゃあ明日も忙しいから、もう寝るね?」
聡を躱して、その腕から逃れようとした。

 途端。
スルリと寝衣を潜って来た手が、肌を侵す。

「あっ……
っ、やめて聡!
私まだっ、そんな気持ちにはなれないよっ」
抵抗するも。

 その手は胸へ伸びて、その先端を刺激する。
そしてその唇は、私の唇を追い求める。

 嫌っ!!
慧剛以外に触れられたくないっ……
思わず出た感情。

 実際、それもマッサージを断ってた理由だったし。
不貞行為を仕事と偽ってる状況で、聡の優しさに甘える訳にはいかなかったのに。
いつも一方的に施して来て……
そのうち、私に触れたいという下心に気付いたから、マッサージを拒めなくなってた。

 それは、せめてもの罪滅しで……
慧剛の事を抜きにしても、聡から触れられるのには抵抗があったのに。
罪悪感から、少しは聡の気持ちも汲みとろうと思ったからだ。

 最近じゃその抵抗も、少し和らいでたけど……
だからって!

「ねぇ聡っ、いくらでも待ってくれるんじゃなかったの!?
こんな強引にされたら、傷が癒えるどころか逆効果だよっ」
その言葉で。

 ハッと我に返って、脱力気味に私を解放した聡は……

「ごめんっ……
けど俺だって不安なんだ!」
頭を抱えて、そう項垂れた。

 強引な聡は初めてで……
本当に、それほど不安だったと思う。

 とはいえ。

ー「一生許せなくても当然だよ!
一生かけて償っていきたいんだよっ!」ー
そう思ってくれたなら。
夫婦関係の修復が容易じゃない事くらい、解ってるよね?

 不倫の挙句、離婚を突き付けたんだから……
そんな苦しみ、当然の報いでしょ?

 そう思う一方で。
慧剛に溺れてる今となっては、聡の身体を拒む口実があって良かったなんて……
私はもう、狂ってる。

 そして私もいつか、当然の報いを受けるんだろう……

 それを解ってて。
いけない事だと解ってて。
どうして止められないんだろう!






「俺も泳ぎたいな」
同行の最中。
信号待ちのタクシー内から見える市民プールを映して、目を輝かせて呟く慧剛。

「もうすっかりそんな季節なんですね」

「茉歩は泳ぐの好き?
お望みなら、今のビルにプールジムでも造るけど」

「いきなりスケールが大きいですね。
でも私の好みは別として、いい案だとは思いますよ?
そういったマンション、最近は増えてますし」

「ん。だから新しくそういったマンションを建てるか、今のビル地下を改造するか悩んでたんだけど。
茉歩が喜ぶなら、改造に決定だなって」

「っ!
仕事にそんな理由、持ち込まないで下さいっ」
そう怒りながらも、嬉しくて……
乱れる感情を隠し切れず、慧剛から顔を背けた。

 そして、発進したタクシーから窓外のプールを映して。
ふと、自分に重ねた。

 それは流れるプールで……
そんな風に私も、欲に翻弄されて流されて。
流れに逆らって、欲情を抑え付けたり抵抗すれば……
逆に溺れて。
きっと、もがいたらもっと逆効果で……
それを口実に、欲に身を委ねてる。

 そもそも、溺れてる私にどうにかする余裕なんかなくて……
聡の存在と、その優しさを浮き立たせて。
しっかりしなきゃ!って、しがみ付いたところで。
それは藁でしかなくて。

 今なら、不倫に溺れてた聡の気持ちだって理解してあげられる筈だけど……
そんな事考えたくもないし、どうでもよくて。

 今はただ、慧剛への欲しかない。

 愛のない、身体だけの関係に、どうしてこれほど溺れるのか……
そんなのきっと、理屈じゃなくて。
心なんて大抵、理性や道徳や建前で隠されてて。
身体が1番、素直な気持ちを表してるのかもしれない。

 だからって。
これ以上どうするつもりもなければ、どうにもならない訳で……
そんなの解ってる。
解ってるんだってば!


「茉歩、打ち合わせの資料を見せてくれ。
ちょっと確認したい事があるんだ」

 この人はほんとに……
見事なまでに、仕事とプライベートのスイッチを切り替えてて。
激しく抱かれてるのが夢のよう。

 いくら、背負ってるものの重みが違うにしても。
私ももっと、コントロール出来るようにならなきゃ!

「……私も泳ぎたいです」
溺れてる現状から、本来の自分らしく。
そして早く、この欲情の渦から抜け出したい。
小さな声で聞こえないように呟いたのに。

「プールジムが完成したら、2人っきりで泳ごうか」
資料を確認してる筈の慧剛が、小さな呟きをちゃんと捕らえて、それに応えた。

 そんな事ですら。
それどころか、そんな提案も嬉しくて。
抜け出すどころか、どんどんその渦に溺れてく。

「職権乱用ですね」
間に受けていいものか、とりあえずそう躱すと。

 ハハッ!と、やんちゃな笑顔が零れて。
大好きな笑顔を前に、愛しさが込み上げる。

 寧ろ今は、慧剛の何もかもが好きで……
愛しさで埋め尽くされた胸は、息も出来ないほど苦しくなる。


 例えば……
デスクで業務に集中してる時の、鋭い目も好き。

 だけど後日。

「茉歩、気が散る」
視線を書類に落としたままの慧剛から、少しぶっきらぼうな声が向けられる。

「っ、すみません……」
見つめ過ぎた視線を外して、自分の作業に戻ると。

「いや嬉しいけど、仕事どころじゃなくなるから。
もう少し待ってくれ」
なんて。

 仕事とプライベートを切り替えれてない私が悪いのに。
フォローの抜かりがない所も、ちゃんとハッキリ注意してくれる所も、好き。


 そして終業後。

 ベッドで激しく抱き合う最中。
ポタポタと私の肌を浸食する、慧剛の汗ですら……
愛おしくて堪らない。

 その汗ばむ身体に塗れて。
その肌に舌を絡めて、キスで掬って……
私に取り込む。

「茉歩っ、エロい……」

「ううんっ、まだっ……
もっともっと、慧剛が欲しいっ」
そうしがみ付くと。

 私の身体も、もっと激しく欲される。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫さゆり
恋愛
オムニバス形式です。 理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。 大人の女性のストーリーです。

ひとつ屋根の下

瑞原唯子
恋愛
橘財閥の御曹司である遥は、両親のせいで孤児となった少女を引き取った。 純粋に責任を感じてのことだったが、いつしか彼女に惹かれていき――。

幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました

ほーみ
恋愛
 春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。  制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。  「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」  送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。  ――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

ズボラ上司の甘い罠

松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。 仕事はできる人なのに、あまりにももったいない! かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。 やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか? 上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。

処理中です...