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夜這い1

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 翌日。
新しい公務に夢中になる事で、1日をなんとか乗り切ったヴィオラは……

ーーああ、サイフォス様に会いたい!
昨日会ったばかりだというのに。
次はいつ会えるかも分からないのにっ。
もうこんなに恋しいなんて、この先耐えられそうにないっ……
そんな思いで、ベッドに入ると。

 コンコンと、窓を叩く音が聞こえた。

ーーなに?
何の音っ?

 怪訝な思いで、音の方に視線を向けると。
バルコニーに人影を捉えて、きゃあ!と叫びそうになる。

 するとすかさず、その人影がランプをかざして。
顔の前で、しぃと人差し指を立てた。

ーーえっ……
うそ、サイフォス様!?
そんなまさかっ……
もしかして私、会いたすぎて幻覚でも見てるのっ?
信じられない状況に、そう混乱するも。

「入っていいか?」
小声と人差し指のジェスチャーで、そう訊かれ。

 ヴィオラは、とにかく開けようと側に駆け寄り。
すぐさま部屋へと通した。


「驚かせてすまない」

「それは構いませんがっ……
どうしたんですかっ?
なぜこんなところに?」
そう訊きながらも。

 見慣れないラフな格好と髪型に、胸を鷲掴まれるヴィオラ。

「ああ、実は……夜這いに来たんだ」

「夜這いっ?」
思わぬ言葉に面食らうと。

「いやそのっ、抱くつもりで来たわけじゃない。
ちゃんと、心の準備が出来るまで待つつもりだ。
ただ、せめて一緒に眠りたくて……」
慌てて、そう弁解するサイフォス。

ーーうそ、そのためにこんな事をっ?
嬉しすぎる理由に、ヴィオラはきゅううと胸を締め付けられるも。

ーーちょっと待って、そのためにこんな事を!?
ありえない出来事に、再び面食らう。

 そして思わず。

「王太子ともあろう方が、何をやってるんですかっ。
しかも、そんな冷淡な表情で夜這いだなんてっ……」
ふっと、そう吹き出してしまう。

 その瞬間、サイフォスは雷に打たれたようになり……

「……サイフォス様?」
ヴィオラがその異変を伺ったと同時。
ガバと身体が、力強く抱きしめられる。

「っっ!サイフォス様っ?」

「マズい、嬉しくてどうにかなりそうだっ……
ずっとその笑顔が見たかった」
たまらなそうに吐き出しながら。
その腕がいっそう力強く、ヴィオラを取り込む。

ーーずっと、って……
もしかして私の笑顔を見るために、あれほど尽力してくれてたのっ?
そう思って。

 ヴィオラもどうにかなりそうなほど、愛しさが込み上げる。

「……では、どうにかなってください。
夜這いのおかげで、心の準備が出来たので」

 途端、バッと身体を離して。
信じられない様子で、ヴィオラを見つめるサイフォス。

「……いい、のか?」

「はい。
サイフォス様が夜這いに来てくださったのが、嬉しかったので……
これからもそうしてくださった時には、この身を捧げたく思います」

 そう、それなら……
夜明け前に帰ってもらえば、誰にもバレずに逢瀬を重ねられると思ったのだ。

 一方、サイフォスは……

ーー俺の夜這いが、嬉しい!?
驚喜の衝撃を喰らって、のぼせ上がる。

「……そんな事を言ったら、毎日夜這いをするかもしれないぞ?」

「ふふっ、構いません。
世継ぎの責務も、果たさなければなりませんし」

「世継っ……!」
あまりの感激発言に打ち込めされて、絶句するも。

「いやっ、それは……
ヴィオラが欲しいと思ってからで構わない」
責務と言われた事から、無理にしてほしくないと気遣うサイフォス。

 ところが。

「思ってなければ、自ら口にしたりしません」

「っっっ!
いやちょっと、待ってくれっ……」

 それはつまり、サイフォスとの子が欲しいと言っているも同然で……
キャパオーバーなほど狂喜して。
片手でストップの手をかざしながら、もう片方の手で口元を抑えて悶えるサイフォス。

 しかしその様子から……

「……すみません。
サイフォス様は、まだ子を望まれてはいないのですね……」
そう見えて、胸を切り裂かれるヴィオラ。

「っ、そんな訳ないだろう!」
即座にサイフォスは、そう愛しい妻を抱き寄せて。
そのままグンと抱き上げて、ベッドに運んだ。

「ヴィオラとの子なら、すぐにでも欲しいに決まってる。
そんな無防備な姿を前にして、そんな嬉しすぎる事を言われたら、もう我慢出来ない。
全て、俺のものになってくれ」

 そう言うなりサイフォスは、ヴィオラの唇を奪うと。
ちゅうと何度も、渇望するように口付けて……
それを首筋へと落としていった。
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