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混血系大公編:第二部
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スライムには魔核と言うものがある。スライムの本体とは、脳であり心臓でもある魔核のことを指し、周囲のアメーバ状のものは魔核を守るために出している粘液に過ぎない。スライムを殺すにはその魔核を潰す必要があるんだけど、あれだけ巨大だと魔核が複数ある可能性が高いかな。魔核が一つだけだと、多分体の隅まで指令が行き渡らないんだと思う。司令塔となっている魔核はあるんだろうけど、潰しても他の魔核に代替わりするようで、全て潰さない限り動き続ける…というのがスライムの特徴だ。
透明度の高いスライムなら魔核も丸見えだけど、色々取り込んできた個体だからかかなり濁っている。魔核の位置を特定するのは難しい。それでも時折飲み込まれたであろう物体の影が浮遊して見えて…うわ、あの影、人型っぽくない?ひえー、想像したくない。
「イス、魔核の位置と数は探れる?」
「数は可能だ。だが人も何人か飲み込まれているから、そちらと識別する必要がある。位置は体内で移動しているが、範囲が決まっているからおおよそであれば可能だ。どちらも時間がかかるから、魔力を感知されて私が攻撃されると思う」
「わかった、数だけ探って。まだ生きている人がいたら、位置も特定して。ビョルンはその間イスを守って」
「わかった。ヴァレンティーノ、シャーラを頼めるか?」
「任せてくれ」
んもうビョルンったら。私は皇帝陛下の護衛任務を受けてるんだから、私が護衛する立場なんだけど!
「ヴァレさん、ちゃんと護身用の附術を展開させるんで、私の事はお気になさらず!ヴァレさんのことも守りますからね!」
「それは頼もしい。じゃあ俺のそばから離れないでくれ。いいね?」
「はい!」
…ん?なんか丸め込まれたかな?
ふと思ったけれど、ヴァレさんに「次の指示を」と急かされたので気持ちを切り替える。
「ヴァレさん、狙撃スポットはもう見つけてます?」
「もちろん」
狙撃手の攻撃は、まず最適な狙撃スポットを見つけるところからスタートだもんね。すでにいくつか目星はつけているらしい。
「ヴァレさんと私はそこへ移動。後の指示は通信で出すから、回線をオープンにしておいてね」
「Rojer」「Got it」
あいかわらず揃わない返事を受けて、ヴァレさんと私はその場を離れる。
イスが魔術を編み出すと、その魔力の動きに気づいたスライムが動き出した。
ブオン!
離れたところからもよく聞こえる、風が唸る音。常人ならば目で追うのも困難なスピードで振るわれたそれを、ビョルンが苦もなくはじき返す。スライムはいくつも触手を伸ばして攻撃を繰り出しているけれど、ビョルンは大剣を自在に振るっていなし、弾き、ぶった切り、イスを完璧に守っている。
「すご…」
「ああ、さすがだな。…シャトラ、こっちだ」
「はい」
ビョルンとイスがスライムの気を引いてくれている間に、ヴァレさんと狙撃スポットへ移動する。
「あそこだよ」
ヴァレさんが指し示したのは、古びたレンガ造りの2階建ての建物だ。屋根部分が半分なく、2階部分も側面の壁が崩れて外から進入できるようになってしまっている。家としては機能してなさそうだけれど、元々の基礎はしっかりしていたんだろう。5番街の建物にしては丈夫そうだし、スライムがいる広場側はしっかり壁が建っているから身を隠すこともできる。さすがヴァレさん、いいポイントを見つけている。
ちょっとそこにいたるまでの足場は悪いけど…なんとか行けそうかな。
「先に行こう」
「あっ」
ヴァレさんは背が高いから、私よりずっと高いところまで手が届く。軽く助走をつけて建物の外壁を蹴り、ひょいと手を掛けて勢いと腕の力で2階部分に軽々と登る。うーん、この身軽さよ。私は崩れた部分を足場にして、よじよじ登ろうと思ってたんですけどね。
ヴァレさんは周囲をさっと警戒して建物内に危険がないか確認した後、私に右手を差し出してくれた。
「マイレディ、お手をどうぞ」
「ふふッ」
気取った言い方に、こんな時だけど笑ってしまう。私も助走をつけて壁を蹴り上げ、右手でヴァレさんの手を取る。グッと強く腕を引き上げられ、体が持ち上がる。2階部分の床に足を掛けて、踏み込んで前に進もうとして…ほんの少しだけれど、レンガ部分が崩れて足が滑った。
「あっ」
「おっと」
倒れかかった体を、ヴァレさんがさっと腕を出して支えてくれたけれど。勢いは止まらず、たくましい胸に顔から飛び込んでしまう。
「!!」
頬に感じたムチっとした筋肉と、鼻をくすぐる品の良い香水の香り…と混じり合った、ヴァレさん自身の匂い。
うわー!うわー!
暴力的なほどの男の魅力が、私の触覚と嗅覚に襲い掛かってくる。心臓が高鳴り、顔がカアっと熱くなる。
「おっと、大丈夫か?」
「あッ、わっ?!すみません!」
ぎゃー、不可抗力とはいえ、この国の皇帝陛下になんてことを!
我に返って慌てて離れると、ヴァレさんは笑いながら腰に回った手をするりと離した。
「すみません、転んじゃって…」
「いいや。役得だったよ」
「え?」
「ふふ」
いたずらっぽく目を細めたヴァレさんに、ドキドキとした鼓動が治まらない。
ああもう、私ったら。夫が(3人も)いる身なのに、他の男性にときめいてどうするのよ。
深呼吸をして動悸を抑えていると、右耳のピアスが『ザザっ』と小さなノイズを発して、通信が入ったことを知らせてきた。途端に雑念が消え失せ、頭がスッとクリアになる。通信機能はオンになっているので、そのまま声が聞こえて来るのを待つ。
『ロルフだ、シャーラ』
聞こえてきたのは、顰めているため普段より低くなったロルフの声だ。
透明度の高いスライムなら魔核も丸見えだけど、色々取り込んできた個体だからかかなり濁っている。魔核の位置を特定するのは難しい。それでも時折飲み込まれたであろう物体の影が浮遊して見えて…うわ、あの影、人型っぽくない?ひえー、想像したくない。
「イス、魔核の位置と数は探れる?」
「数は可能だ。だが人も何人か飲み込まれているから、そちらと識別する必要がある。位置は体内で移動しているが、範囲が決まっているからおおよそであれば可能だ。どちらも時間がかかるから、魔力を感知されて私が攻撃されると思う」
「わかった、数だけ探って。まだ生きている人がいたら、位置も特定して。ビョルンはその間イスを守って」
「わかった。ヴァレンティーノ、シャーラを頼めるか?」
「任せてくれ」
んもうビョルンったら。私は皇帝陛下の護衛任務を受けてるんだから、私が護衛する立場なんだけど!
「ヴァレさん、ちゃんと護身用の附術を展開させるんで、私の事はお気になさらず!ヴァレさんのことも守りますからね!」
「それは頼もしい。じゃあ俺のそばから離れないでくれ。いいね?」
「はい!」
…ん?なんか丸め込まれたかな?
ふと思ったけれど、ヴァレさんに「次の指示を」と急かされたので気持ちを切り替える。
「ヴァレさん、狙撃スポットはもう見つけてます?」
「もちろん」
狙撃手の攻撃は、まず最適な狙撃スポットを見つけるところからスタートだもんね。すでにいくつか目星はつけているらしい。
「ヴァレさんと私はそこへ移動。後の指示は通信で出すから、回線をオープンにしておいてね」
「Rojer」「Got it」
あいかわらず揃わない返事を受けて、ヴァレさんと私はその場を離れる。
イスが魔術を編み出すと、その魔力の動きに気づいたスライムが動き出した。
ブオン!
離れたところからもよく聞こえる、風が唸る音。常人ならば目で追うのも困難なスピードで振るわれたそれを、ビョルンが苦もなくはじき返す。スライムはいくつも触手を伸ばして攻撃を繰り出しているけれど、ビョルンは大剣を自在に振るっていなし、弾き、ぶった切り、イスを完璧に守っている。
「すご…」
「ああ、さすがだな。…シャトラ、こっちだ」
「はい」
ビョルンとイスがスライムの気を引いてくれている間に、ヴァレさんと狙撃スポットへ移動する。
「あそこだよ」
ヴァレさんが指し示したのは、古びたレンガ造りの2階建ての建物だ。屋根部分が半分なく、2階部分も側面の壁が崩れて外から進入できるようになってしまっている。家としては機能してなさそうだけれど、元々の基礎はしっかりしていたんだろう。5番街の建物にしては丈夫そうだし、スライムがいる広場側はしっかり壁が建っているから身を隠すこともできる。さすがヴァレさん、いいポイントを見つけている。
ちょっとそこにいたるまでの足場は悪いけど…なんとか行けそうかな。
「先に行こう」
「あっ」
ヴァレさんは背が高いから、私よりずっと高いところまで手が届く。軽く助走をつけて建物の外壁を蹴り、ひょいと手を掛けて勢いと腕の力で2階部分に軽々と登る。うーん、この身軽さよ。私は崩れた部分を足場にして、よじよじ登ろうと思ってたんですけどね。
ヴァレさんは周囲をさっと警戒して建物内に危険がないか確認した後、私に右手を差し出してくれた。
「マイレディ、お手をどうぞ」
「ふふッ」
気取った言い方に、こんな時だけど笑ってしまう。私も助走をつけて壁を蹴り上げ、右手でヴァレさんの手を取る。グッと強く腕を引き上げられ、体が持ち上がる。2階部分の床に足を掛けて、踏み込んで前に進もうとして…ほんの少しだけれど、レンガ部分が崩れて足が滑った。
「あっ」
「おっと」
倒れかかった体を、ヴァレさんがさっと腕を出して支えてくれたけれど。勢いは止まらず、たくましい胸に顔から飛び込んでしまう。
「!!」
頬に感じたムチっとした筋肉と、鼻をくすぐる品の良い香水の香り…と混じり合った、ヴァレさん自身の匂い。
うわー!うわー!
暴力的なほどの男の魅力が、私の触覚と嗅覚に襲い掛かってくる。心臓が高鳴り、顔がカアっと熱くなる。
「おっと、大丈夫か?」
「あッ、わっ?!すみません!」
ぎゃー、不可抗力とはいえ、この国の皇帝陛下になんてことを!
我に返って慌てて離れると、ヴァレさんは笑いながら腰に回った手をするりと離した。
「すみません、転んじゃって…」
「いいや。役得だったよ」
「え?」
「ふふ」
いたずらっぽく目を細めたヴァレさんに、ドキドキとした鼓動が治まらない。
ああもう、私ったら。夫が(3人も)いる身なのに、他の男性にときめいてどうするのよ。
深呼吸をして動悸を抑えていると、右耳のピアスが『ザザっ』と小さなノイズを発して、通信が入ったことを知らせてきた。途端に雑念が消え失せ、頭がスッとクリアになる。通信機能はオンになっているので、そのまま声が聞こえて来るのを待つ。
『ロルフだ、シャーラ』
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