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混血系大公編:第二部
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「そっちはどう?」
『ハゲ1名負傷。あとは軽傷だ』
カッツェと一緒にいた、スキンヘッドの人かな。遠くで『ハゲじゃねー』と聞こえた気がするから、動くには支障があるけど命に別状はないってとこかな。他にも何か文句を言っているようだけど、ロルフは意にも介していないようだ。
『カッツェは?』
『使える』
大した怪我はしていないみたいね。よし。
「負傷者は安全な場所に運んで。他に戦力になりそうなのは?」
『3。黒ヒゲと茶髪ロング女とバンダナハゲ』
もう一人スキンヘッドの人がいるのかな?通信の向こうで『はいハゲです!』と元気な返事が聞こえる。こんな時だけど陽気な人らしい。
ロルフの返答は簡潔だけど、長く一緒に戦ってきたのでちゃんと伝わる。
負傷者とその人を避難させる人員を除いて、戦えそうな人が3名いるってことだ。その人たちを私が識別できるように、簡単な特徴も教えてくれる。
「持ってきた附術付きのナイフを彼らに渡して。カッツェ、あなたはその3名の指揮を…カッツェ?」
あれ、返事がない。目の前で自分の団の団長と隊長が作戦について通信してるんだから、指示しなくても通信ピアスはオンにしといて欲しいんだけどな。
ロルフにそれを言ってもらおうと思ったら、『おいバカ』とロルフの声とゴチッと鈍い音がして…。
『すんません団長!』
すぐにカッツェと通信が繋がった。
「気を抜かないで。あなたは救助される側じゃない。する側だよ」
『すんません!!』
「よし。カッツェは3名を指揮して。作戦はロルフから伝える。ロルフ、伝えたあとはビョルンのサポートに回って。イスを守ってる」
『Copy』
『Yes,Ma’am! 』
ふたりからの返事を聞き、私も動くことにする。ヴァレさんは狙撃準備のため、スライム側の木窓を開け放って、射線を確保している。
私は周辺に防御の魔道具を設置し、簡易的な結界を構築していく。この建物はそこそこ丈夫そうだけど、あの巨大なスライムの触手に攻撃されたら崩れちゃいそうだしね。
「ヴァレさん、ビョルンとイスは?」
私は手を止めずに話しかける。これから行う作戦のために、附術師の私はやることが盛りだくさんなのだ。
「凌ぎきってるよ。スライムの動きが先ほどより鈍くなっている」
ビョルンの鉄壁の防御を前に攻めあぐねているのか、イスが動きを阻害する魔術を編み込んでいるのかも。
「準備ができたら、ビョルン達のフォローお願いします」
「任せてくれ」
ヴァレさんはすでに弓矢の準備を終え、いつでも攻撃できる準備は整っている。前団長所有の強弓は矢が6本しかないし、作戦のために取っておかなきゃいけないから、普通の弓も持ってきている。普通と言っても、力の強い男性団員が引くような、皮鎧なら余裕で貫通できる強い弓だ。これなら矢のストックもたくさんあるので、出し惜しみせず攻撃できる。
バン!
弦が弾ける音。
ヴァレさんの放った矢は真っ直ぐに飛び、スライムの太い触手が1本弾け飛ぶ。
「ワオ。さすが」
「どうも」
感嘆の声を上げると、ヴァレさんはこちらを向いてウィンクしてみせる。うーん、カッコイイ。
スライムからちぎれた触手はべちゃりと地面に落ちる。が、すぐに本体から細い触手が伸び、落ちた触手を吸収する。ビョルンが切り落とした触手もそうだ。スライムの攻勢を凌いでいるうちに細い触手が伸び、回収していくから本体の容量は減っていかない。
…このままじゃあ、堂々巡りだね。ビョルンも体力オバケだけど、いちおう人間だから疲弊するし、集中力が途切れることもある。ずっとスライムの攻撃を受け続けることはできない。
「おっと」
ヴァレさんが呟き、弓を構える。
少し焦っているように聞こえたから、思わず顔を上げて広場を覗く。
「あっ、ビョルン…!」
目に飛び込んできたのは、幾本もの細い触手に腕を絡めとられたビョルンの姿だ。これはまずいかも!
ヴァレさんが矢を放つ。いくつかの触手が断ち切られるけど、さらに触手が伸ばされてビョルンを捉える。まずい!
そう思った瞬間。
ズバン!
上空から降ってきた人物が、その勢いのまま刀を降り下ろし、ビョルンに絡みついた触手を断ち切る。伸びきったゴムを断ち切った時のような破裂音が、周囲に響き渡る。
続いて通信ピアスから聞こえてくる、不遜な声。
『ダセーな兄貴、スライムごときに捕まってんじゃねーよ』
私のいる場所からは表情は見えないのに、ニヤッと意地悪そうな笑みを浮かべているのがありありと思い浮かぶ。
ロルフ、ナイス!
『遅いぞ、ロルフ』
『ヘッ、こっちだって色々やってたんだよ』
憎まれ口を叩き合っているけど、ビョルンの声は安堵を含んでいる。数本残ったスライムの触手をブチブチと引きちぎり、改めて大剣を構える。
せっかく捕らえた獲物を逃したからか、スライムの攻撃が一瞬止む。でも、イスはまだ魔術を紡いでいる。体の中を魔力で探られる不快感と恐怖から、スライムの攻撃が止まることはないだろう。
『ロルフ、フォローを』
『わぁってるよ』
ロルフも刀を構える。本日のロルフの獲物は和刀だ。洋風鎧に洋顔の戦士が構えているから見た目はチグハグだけど、切るのに特化した和刀はスライム相手に最適だ。
『先行くぜ』
『ああ』
ロルフが地面を蹴り、前に飛び出す。
「おいゲロ野郎、こっちだ!!」
通信で拾わなくても聞こえるくらいの大きな声を出し、スライムの注意を引きつける。右側の太い触手が蠢き、ロルフを狙う。それをスレスレで身をひねって躱し、刀で切りつける。うん、全然余裕がありそうだ。
左側の触手は変わらずイスを狙っている。でも攻撃してくるのは1本になったので、ビョルンは余裕を持ってはじき返している。
よしよし、あっちは心配なさそうね。
『ハゲ1名負傷。あとは軽傷だ』
カッツェと一緒にいた、スキンヘッドの人かな。遠くで『ハゲじゃねー』と聞こえた気がするから、動くには支障があるけど命に別状はないってとこかな。他にも何か文句を言っているようだけど、ロルフは意にも介していないようだ。
『カッツェは?』
『使える』
大した怪我はしていないみたいね。よし。
「負傷者は安全な場所に運んで。他に戦力になりそうなのは?」
『3。黒ヒゲと茶髪ロング女とバンダナハゲ』
もう一人スキンヘッドの人がいるのかな?通信の向こうで『はいハゲです!』と元気な返事が聞こえる。こんな時だけど陽気な人らしい。
ロルフの返答は簡潔だけど、長く一緒に戦ってきたのでちゃんと伝わる。
負傷者とその人を避難させる人員を除いて、戦えそうな人が3名いるってことだ。その人たちを私が識別できるように、簡単な特徴も教えてくれる。
「持ってきた附術付きのナイフを彼らに渡して。カッツェ、あなたはその3名の指揮を…カッツェ?」
あれ、返事がない。目の前で自分の団の団長と隊長が作戦について通信してるんだから、指示しなくても通信ピアスはオンにしといて欲しいんだけどな。
ロルフにそれを言ってもらおうと思ったら、『おいバカ』とロルフの声とゴチッと鈍い音がして…。
『すんません団長!』
すぐにカッツェと通信が繋がった。
「気を抜かないで。あなたは救助される側じゃない。する側だよ」
『すんません!!』
「よし。カッツェは3名を指揮して。作戦はロルフから伝える。ロルフ、伝えたあとはビョルンのサポートに回って。イスを守ってる」
『Copy』
『Yes,Ma’am! 』
ふたりからの返事を聞き、私も動くことにする。ヴァレさんは狙撃準備のため、スライム側の木窓を開け放って、射線を確保している。
私は周辺に防御の魔道具を設置し、簡易的な結界を構築していく。この建物はそこそこ丈夫そうだけど、あの巨大なスライムの触手に攻撃されたら崩れちゃいそうだしね。
「ヴァレさん、ビョルンとイスは?」
私は手を止めずに話しかける。これから行う作戦のために、附術師の私はやることが盛りだくさんなのだ。
「凌ぎきってるよ。スライムの動きが先ほどより鈍くなっている」
ビョルンの鉄壁の防御を前に攻めあぐねているのか、イスが動きを阻害する魔術を編み込んでいるのかも。
「準備ができたら、ビョルン達のフォローお願いします」
「任せてくれ」
ヴァレさんはすでに弓矢の準備を終え、いつでも攻撃できる準備は整っている。前団長所有の強弓は矢が6本しかないし、作戦のために取っておかなきゃいけないから、普通の弓も持ってきている。普通と言っても、力の強い男性団員が引くような、皮鎧なら余裕で貫通できる強い弓だ。これなら矢のストックもたくさんあるので、出し惜しみせず攻撃できる。
バン!
弦が弾ける音。
ヴァレさんの放った矢は真っ直ぐに飛び、スライムの太い触手が1本弾け飛ぶ。
「ワオ。さすが」
「どうも」
感嘆の声を上げると、ヴァレさんはこちらを向いてウィンクしてみせる。うーん、カッコイイ。
スライムからちぎれた触手はべちゃりと地面に落ちる。が、すぐに本体から細い触手が伸び、落ちた触手を吸収する。ビョルンが切り落とした触手もそうだ。スライムの攻勢を凌いでいるうちに細い触手が伸び、回収していくから本体の容量は減っていかない。
…このままじゃあ、堂々巡りだね。ビョルンも体力オバケだけど、いちおう人間だから疲弊するし、集中力が途切れることもある。ずっとスライムの攻撃を受け続けることはできない。
「おっと」
ヴァレさんが呟き、弓を構える。
少し焦っているように聞こえたから、思わず顔を上げて広場を覗く。
「あっ、ビョルン…!」
目に飛び込んできたのは、幾本もの細い触手に腕を絡めとられたビョルンの姿だ。これはまずいかも!
ヴァレさんが矢を放つ。いくつかの触手が断ち切られるけど、さらに触手が伸ばされてビョルンを捉える。まずい!
そう思った瞬間。
ズバン!
上空から降ってきた人物が、その勢いのまま刀を降り下ろし、ビョルンに絡みついた触手を断ち切る。伸びきったゴムを断ち切った時のような破裂音が、周囲に響き渡る。
続いて通信ピアスから聞こえてくる、不遜な声。
『ダセーな兄貴、スライムごときに捕まってんじゃねーよ』
私のいる場所からは表情は見えないのに、ニヤッと意地悪そうな笑みを浮かべているのがありありと思い浮かぶ。
ロルフ、ナイス!
『遅いぞ、ロルフ』
『ヘッ、こっちだって色々やってたんだよ』
憎まれ口を叩き合っているけど、ビョルンの声は安堵を含んでいる。数本残ったスライムの触手をブチブチと引きちぎり、改めて大剣を構える。
せっかく捕らえた獲物を逃したからか、スライムの攻撃が一瞬止む。でも、イスはまだ魔術を紡いでいる。体の中を魔力で探られる不快感と恐怖から、スライムの攻撃が止まることはないだろう。
『ロルフ、フォローを』
『わぁってるよ』
ロルフも刀を構える。本日のロルフの獲物は和刀だ。洋風鎧に洋顔の戦士が構えているから見た目はチグハグだけど、切るのに特化した和刀はスライム相手に最適だ。
『先行くぜ』
『ああ』
ロルフが地面を蹴り、前に飛び出す。
「おいゲロ野郎、こっちだ!!」
通信で拾わなくても聞こえるくらいの大きな声を出し、スライムの注意を引きつける。右側の太い触手が蠢き、ロルフを狙う。それをスレスレで身をひねって躱し、刀で切りつける。うん、全然余裕がありそうだ。
左側の触手は変わらずイスを狙っている。でも攻撃してくるのは1本になったので、ビョルンは余裕を持ってはじき返している。
よしよし、あっちは心配なさそうね。
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