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混血系大公編:第二部
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私は安堵して、前団長の弓に使う矢を手に取る。今からこれに、附術を刻むのだ。矢じりは大きめに作られているので、刻む難易度は高くない。でも数は6本と限られているから、失敗は許されない。慎重に、かつ正確に刻まなきゃ。
「ヴァレさん。今はイスが魔術を使ってるからスライムの気はそちらに向いてるけど、それが終わったら私の魔力にも反応する可能性があります」
あのスライムは音に反応しているけど、魔力にも反応している。イスがあれだけスライムに魔術を注ぎこんでいるから、魔力の方をより警戒する可能性が高い。
「結界は張ってますけど、簡易的なものなんで…」
「大丈夫。破られるほど攻撃はさせない」
私の言葉を遮って、矢をつがえたまま、ヴァレさんは応える。
誇張でもなんでもない、冷静で当たり前のように放たれた言葉。
……結界が破られたら、次の狙撃スポットに移動しましょうって言おうと思ったんだけどな。でも、彼の言葉を聞いたら、その必要はなさそうだ。
「はい。頼りにしてます」
「任せてくれ」
ヴァレさんの頼もしい言葉は、私に安心感をもたらせてくれた。おかげで集中することができ、ヴァレさんがいくつか矢を放ってここを守っている間に、できるだけ急いで附術を刻んでいく。矢尻に魔力を込めて、附術に間違いがないか確認して。
…よし、今のところミスはないな。
続けてもうひとつ附術を刻もうとした、その瞬間。
『見えた』
イスの艶やかな声が、通信機から響いた。
『シャハラ、魔核は8だ。あと、生命反応が1』
「うそ…!」
生存者がいる…?!
ドキリ、と心臓が高鳴る。スライムに飲み込まれた人の中に、生存者がいるのは嬉しいことだ。でも、その人を助けようとすると難易度は跳ね上がる。無闇に攻撃を打ち込めないからだ。
「位置は?」
『左側の太い触手の根本あたり。…鼓動は激しいが弱まっていない。体も痙攣していない。呼吸はまだできているようだ』
「えっ?」
スライムに取り込まれると最終的に消化されちゃうんだけど、そのまえに呼吸ができないから窒息してしまう。でも何らかの理由で、空気と一緒に取り込まれたのかも。
だとしたら猶予はある。でも、長くはないはずだ。
『どうする』
「助けるに決まってる!」
感情のないイスの声に即答する。助けられる可能性がある限り、助ける努力をするのが我が傭兵団の信条だよ!
「ヴァレさん、この矢をお願いします!」
ヴァレさんに、先ほど附術を刻んだ矢を渡す。本当はもうひとつ附術を刻むつもりだったけど、ここでいったん勝負に出ることにする。
「了解。どこに射る?」
「生存者の近くです。場所は今から確認します」
私はバッグの中をさばくって、持ってきた魔道具を取り出す。手の平サイズの棒状の物だ。
「それは?」
「レーザーポインターです。こうすると…ホラ」
私はボタンを押して、ポインターの先を壁に向ける。壁面に映された赤い点を見て、ヴァレさんは感嘆の声を出す。
「ああ、なるほど。私がそこに射ればいいんだね?」
「そのとおり。…イス、スライムに捕まっている人を避けて、でもなるべく近い位置に矢を打ち込みたい。今からスライムにレーザーポインターを向けるよ。生存者のいる位置を教えてくれる?」
『わかった』
私は窓から少しだけ顔を出し、レーザーポインターをスライムに向ける。スライムの左腕辺りに照射し、イスの指示に従ってポインターの先を動かす。
『そこから約5フィート深部に生存者がいる』
5フィート…約1.5メートルってことだ。
「ヴァレさん、いけそうです?」
「そうだな…」
問いかけると、ヴァレさんは前団長の弓をグッグッと数回引いたあと頷いた。
「いける」
「よし、作戦決行!イスは生存者の位置に集中して!ビョルン、ロルフはそのままイスを守りつつスライムの気を引いて!」
『『『Copy』』』
うわぁ、初めて夫たちの返事が揃ったぞ!
「イスハーク、生存者の近くに魔核はないかい?」
ヴァレさんが弓に矢をつがえながら質問する。少しの沈黙のあと、イスが答える。
「ある。恐らく、左の触手を操るためのものだろう」
「そうか。ならば障害物が多そうだな」
イスの返答に呟き返しながら、ヴァレさんは弦を引く力を調整している。
ふと、イスに位置を確認してもらえばこのまま魔核を射抜けるのでは?…なんて期待しちゃうけど、すぐに考えを改める。
生存者がなぜ核の近くに配置されているのか。理由を考えてみればすぐにわかることだ。
スライムは有機物を取り込んで自身の糧にするけれど、無機物…固い物も自身の体に積極的に取り込む。それは自身の核を守るためだと言われており、その生存者も核を守るための楯にされているんだろう。
目視できない状態で下手に狙えば、生存者ごと射抜いてしまう可能性がある。
『シャトラ、3インチ下』
イスの声が聞こえる。まずは生存者を助けることに集中しなきゃ。
えーと、10cm弱下ってことかな。ついついセンチで考えちゃうから、換算が難しい。少し下にポインターを動かす。スライムは流動的だ。少しずつ、中のものも動いていく。
『その辺りだ』
ヴァレさんも矢じりの先を動かし、再調整する。
「行くよ」
「はい!」
バァン!
私の返事と同時に、弦を弾く音が響く。
矢は弧を描かない。威力が強いからだ。目標に向かって、真っ直ぐに飛んでいく。
私がポインターで示したより上方。左の触手を貫き、威力を殺しつつもスライムの体に潜り込んでいく。
<ギュオオオぷぎゅルプ!!>
魔核近くを攻撃されたからだろうか。それとも、体内で附術が発動したからだろうか。声帯もないはずのスライムが、不気味な咆哮を上げた。
「ヴァレさん。今はイスが魔術を使ってるからスライムの気はそちらに向いてるけど、それが終わったら私の魔力にも反応する可能性があります」
あのスライムは音に反応しているけど、魔力にも反応している。イスがあれだけスライムに魔術を注ぎこんでいるから、魔力の方をより警戒する可能性が高い。
「結界は張ってますけど、簡易的なものなんで…」
「大丈夫。破られるほど攻撃はさせない」
私の言葉を遮って、矢をつがえたまま、ヴァレさんは応える。
誇張でもなんでもない、冷静で当たり前のように放たれた言葉。
……結界が破られたら、次の狙撃スポットに移動しましょうって言おうと思ったんだけどな。でも、彼の言葉を聞いたら、その必要はなさそうだ。
「はい。頼りにしてます」
「任せてくれ」
ヴァレさんの頼もしい言葉は、私に安心感をもたらせてくれた。おかげで集中することができ、ヴァレさんがいくつか矢を放ってここを守っている間に、できるだけ急いで附術を刻んでいく。矢尻に魔力を込めて、附術に間違いがないか確認して。
…よし、今のところミスはないな。
続けてもうひとつ附術を刻もうとした、その瞬間。
『見えた』
イスの艶やかな声が、通信機から響いた。
『シャハラ、魔核は8だ。あと、生命反応が1』
「うそ…!」
生存者がいる…?!
ドキリ、と心臓が高鳴る。スライムに飲み込まれた人の中に、生存者がいるのは嬉しいことだ。でも、その人を助けようとすると難易度は跳ね上がる。無闇に攻撃を打ち込めないからだ。
「位置は?」
『左側の太い触手の根本あたり。…鼓動は激しいが弱まっていない。体も痙攣していない。呼吸はまだできているようだ』
「えっ?」
スライムに取り込まれると最終的に消化されちゃうんだけど、そのまえに呼吸ができないから窒息してしまう。でも何らかの理由で、空気と一緒に取り込まれたのかも。
だとしたら猶予はある。でも、長くはないはずだ。
『どうする』
「助けるに決まってる!」
感情のないイスの声に即答する。助けられる可能性がある限り、助ける努力をするのが我が傭兵団の信条だよ!
「ヴァレさん、この矢をお願いします!」
ヴァレさんに、先ほど附術を刻んだ矢を渡す。本当はもうひとつ附術を刻むつもりだったけど、ここでいったん勝負に出ることにする。
「了解。どこに射る?」
「生存者の近くです。場所は今から確認します」
私はバッグの中をさばくって、持ってきた魔道具を取り出す。手の平サイズの棒状の物だ。
「それは?」
「レーザーポインターです。こうすると…ホラ」
私はボタンを押して、ポインターの先を壁に向ける。壁面に映された赤い点を見て、ヴァレさんは感嘆の声を出す。
「ああ、なるほど。私がそこに射ればいいんだね?」
「そのとおり。…イス、スライムに捕まっている人を避けて、でもなるべく近い位置に矢を打ち込みたい。今からスライムにレーザーポインターを向けるよ。生存者のいる位置を教えてくれる?」
『わかった』
私は窓から少しだけ顔を出し、レーザーポインターをスライムに向ける。スライムの左腕辺りに照射し、イスの指示に従ってポインターの先を動かす。
『そこから約5フィート深部に生存者がいる』
5フィート…約1.5メートルってことだ。
「ヴァレさん、いけそうです?」
「そうだな…」
問いかけると、ヴァレさんは前団長の弓をグッグッと数回引いたあと頷いた。
「いける」
「よし、作戦決行!イスは生存者の位置に集中して!ビョルン、ロルフはそのままイスを守りつつスライムの気を引いて!」
『『『Copy』』』
うわぁ、初めて夫たちの返事が揃ったぞ!
「イスハーク、生存者の近くに魔核はないかい?」
ヴァレさんが弓に矢をつがえながら質問する。少しの沈黙のあと、イスが答える。
「ある。恐らく、左の触手を操るためのものだろう」
「そうか。ならば障害物が多そうだな」
イスの返答に呟き返しながら、ヴァレさんは弦を引く力を調整している。
ふと、イスに位置を確認してもらえばこのまま魔核を射抜けるのでは?…なんて期待しちゃうけど、すぐに考えを改める。
生存者がなぜ核の近くに配置されているのか。理由を考えてみればすぐにわかることだ。
スライムは有機物を取り込んで自身の糧にするけれど、無機物…固い物も自身の体に積極的に取り込む。それは自身の核を守るためだと言われており、その生存者も核を守るための楯にされているんだろう。
目視できない状態で下手に狙えば、生存者ごと射抜いてしまう可能性がある。
『シャトラ、3インチ下』
イスの声が聞こえる。まずは生存者を助けることに集中しなきゃ。
えーと、10cm弱下ってことかな。ついついセンチで考えちゃうから、換算が難しい。少し下にポインターを動かす。スライムは流動的だ。少しずつ、中のものも動いていく。
『その辺りだ』
ヴァレさんも矢じりの先を動かし、再調整する。
「行くよ」
「はい!」
バァン!
私の返事と同時に、弦を弾く音が響く。
矢は弧を描かない。威力が強いからだ。目標に向かって、真っ直ぐに飛んでいく。
私がポインターで示したより上方。左の触手を貫き、威力を殺しつつもスライムの体に潜り込んでいく。
<ギュオオオぷぎゅルプ!!>
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