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混血系大公編:第二部
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しおりを挟む「ああ…そうだな。私もそう、考えている」
ヴァレさんの言葉に、今度は私がクスっと笑う。
「ふふ、そりゃそうですよ。だってヴァレさんの影響ですもん」
「?そうなのか?」
「ええ。覚えてません?」
私がこの世界に来て、まだ間もない頃かな。詳しい状況は忘れちゃったけど、浮浪者の人に絡まれちゃってお金せびられちゃったことがあったのよね。
その時はそれなりに附術を身につけていたし、隙を見て返り討ちにしてやろうなんて思ったんだけど…ちょうど通りかかったヴァレさんが、間に入ってくれたのだ。
そして彼はこう言った。
『レディを恐喝できるほど元気なら、働いてまっとうな手段で稼いだらどうだ。俺が仕事を紹介してやる』
それでその浮浪者の人を連れて行ってくれたのだ。同じ傭兵団の人たちは、そういう時相手をボコボコにするかコロコロしちゃうから、ヴァレさんの対応が新鮮だなって思ったのよね。
そして、素晴らしいと思った。何ヶ月後かに、その浮浪者の人がまっとうに働いている姿を見かけたから。ただ仕事を紹介するだけでは、きっとそんなふうにはならない。ヴァレさんが気に掛けて、フォローしたからこそ彼はまっとうになれたんだろう。
変な話なんだけどさ。この世界で気がついた時からずっと傭兵団に身を置いていたからか、その時は暴力で解決するって考えがけっこう当たり前になっちゃってたのね。前世はあんなに暴力と縁遠い世界で生きていたはずなのにね。
それからヴァレさんと接するうちに気づいた。ヴァレさんは、施しはよくないと思っている。もちろん働けない理由があれば仕方ないけど、それが解消されたら自活する努力をするべきだと思っている。そのための手助けなら、可能な限りしてくれるってことも。
「そうだったかな…」
「そうですよ。そんなヴァレさんに、憧れたんです」
そう、憧れてしまった。こんなに暴力で溢れた世界で、平和的かつスマートに解決して見せた彼に。
私はけっこう独善的な人間だ。自分が一番だと思ってるし、余裕がなかったら自分のことを最優先する。
でも、人に優しくしたくないわけじゃない。誰かが喜んでいる顔を見れば、自分だって嬉しくなる。
暴力だって、できる限り奮いたくない。傭兵団の団員である手前、力を見せつけなきゃいけない場面もあるけど…前世の倫理観だって、私の中にはちゃんと残ってる。
だから浮浪者だった彼が、洗いざらしの服を来て働いている姿を見た時。同じ職場の人と、ランチを取りながら笑い合っている姿を見た時。
ヴァレさんのしたことは、本当に素晴らしいことだと思ったんだ。
「だからこれは、ヴァレさんの真似です」
握る手に力を込めて、ヴァレさんの瞳を見ながら微笑む。
ヴァレさんが行った政治的判断に対し、私は何も言うことはできない。結果的に帝国の経済は劇的に復興したから、彼の判断は正しかったんだろうけど…その陰で、苦しんだ人々がいることも事実だ。
だけど知ってほしい。
今この場にいる5番街の人々の笑顔を作り上げたのは、ヴァレさんなんだと。
5番街の人々を助けようと私を説得し、素材を提供し、私に人を助けるやり方を教えてくれた、ヴァレさんのおかげなんだよ。
私をじっと見ていたヴァレさんの目が、わずかに揺らぐ。
眼鏡の奥の、美しいアースアイ。
ずっと見ていると、魅了されて目が離せなくなってしまいそう。
ヴァレさんの右手が持ち上がって、迷うような動きをしてから、下ろされる。抱きしめるような動きに見えたのは、私の思い上がりだろうか。
「…ありがとう」
目を伏せて、深いため息とともに吐き出された言葉。
強引に抱きしめてくれれば、なんて私は思っていない。思ってはいけない。かつてこの人に抱いたあこがれが、胸の奥で疼いたとしても。
「…ヴァレさんにも、隣で支えてくれる女性(ひと)が早くできるといいのに」
自分の気持ちをごまかすためだったんだろうか。自分がこれ以上、馬鹿げた気持ちを持たないようにという、願望からだろうか。そんな言葉が口をついて出てきてしまう。
その瞬間、グッとヴァレさんの手に力が入る。驚いて手を引こうとするけど、左手はしっかりと捕らえられていて叶わない。
戸惑っていると、ヴァレさんが顔を上げて再び私を見つめる。
その顔には、確かな怒りが浮かんでいた。
……私ったら、なんて失礼なことを言ってしまったんだろう。
「あの…」
「あいにくだが、隣に立つ相手はもう決めている」
私の言葉を遮って、ヴァレさんが低い声でハッキリと言う。
「ごめんなさ…」
謝罪の言葉を紡ぐ前に、グッと手を持ち上げられ。
左手の薬指に唇を押し付けられる。
「あ…ッ」
手を引こうとしても、力が強くて敵わない。
なんで、どうして。
混乱する頭の中で、以前ハリーさんに言われた言葉が過った。
『いいや。情けないけどね、多くの男は女性に癒しを求めてしまうんだよ』
『そんなら、お嫁さん候補でも紹介してあげたらどうです?』
『そんなことをしたら、ボスにぶん殴られるよ!妻子を置いて死ぬわけにはいかないんだ』
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