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3-08故郷はこんな場所じゃない
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「取り替え子がいなくなった、うちの本物の息子が帰ってきた!!」
その翌日、村の中は雨が降り続いているのに騒がしくなった。アクアをレンやリッシュに預けて俺は空き家の外に出た、そうしてこの村の村長のところに行ってみることにした。雨の中で赤い髪に茶色い瞳の男が喜んで踊るようにしながら、取り替え子がいなくなったとそう皆に言いまわっていた。俺は村長のところへ行って詳しい話を聞いた、村長もまだ聞いたばかりの話ですがと言っていた。
「あのいなくなっていたセレーノが、本物のセレーノが帰ってきたのです」
「いなくなっていた? 本物のセレーノ?」
「セレーノは生まれた時には赤い髪に茶色い瞳をしていました、それが夜の間に少しだけ両親が目を離したら、銀の髪に青い瞳の子どもと入れ替わっていたのです」
「誰が一体どうしてそんなことを?」
「我々には分かりません、ですがセレーノの両親はその取り替え子を育てるしかなかった。不気味な子どもでも美しくて、一思いに殺すのも気が引けた。でもその子はもうすぐ売り払う予定でした、村の仕事などもよくしてくれましたが、やはりどうも不気味だったのです」
「一度は自分の養い子にした子どもを、その自分の子どもを売り払うつもりだったのか!?」
「あのセレーノはとにかく美し過ぎた、きっと売り払われた先で良い家に貰われたでしょう。ですが本物のセレーノが帰ってきた、だからもうそんなことはしなくていいのです」
「………………」
それから俺は雨の中なのに人が集まっている家に行ってみた、そうしたらあの美しい少年はもうどこにもいなくて、赤い髪に茶色の瞳をしたどこにでもいる普通の男の子がいた。その子は喜び合うセレーノの両親に代わるがわる抱きしめられていた、でもその子の瞳は明らかに戸惑いがあって、俺がどう見てもその子自身は喜んでいるように見えなかった。
俺は見るべきものは見たと皆がいる空き家に戻った、『洗浄』と『乾燥』で雨で濡れた体を綺麗にしてから皆に見たものを話した。セレーノと言われていた美しい少年がもうすぐ売り飛ばされるところだったこと、本物のセレーノだという少年が帰ってきて両親は喜んでいること、その本物の少年なら両親から売られる心配はないだろうと俺は話した。
アクアはとっても複雑な顔をしていた、美しいセレーノと呼ばれた少年は、一度はアクアを攫っていこうとした。アクアにとっては一度は楽しく遊んだお友達だった、でも自分を妖精界に攫おうとした子でもあった。レンは明らかにホッとしていた、これでもうアクアに危険がなくなったからだ。リッシュは考え込んでいた、リッシュの言う通りなら妖精や精霊には、時にこちらの理屈が通じないことがあった。
「シエル様、明日にはこの村を離れましょう」
「そうか、そうした方がいいんだな」
「ええ、妖精や精霊には僕たちの理屈は通じません」
「まだここは危険だということか、分かった。たとえ雨が降っていても、明日にはここを出よう」
幸いにも翌日には雨が止んだ、俺たちはさっさと旅支度をして、俺が村長に今日出ていくことを話しておいた。村長も別に俺たちを引き止めなかった、そんな理由が何もなかったからだ。そうして俺たちは出ていくことになったのだが、村の中で小さな騒ぎが起きていた。俺たちは村を出るところだったが、その騒ぎの原因をみることになった。
「こんなところは俺の家じゃない!! 俺はセレーノじゃなくてアヴェルスだ!!」
「何を言っているんだセレーノ!?」
「そうよ、セレーノ。お父さんの言うことが聞けないの!!」
「俺はアヴェルスだ!! セレーノじゃない!! 俺のことは放っておいてくれ!!」
「何を言っている、お前はこれから畑仕事を覚えるんだ!!」
「そうよ、お父さんの言う通りよ!!」
そこには本物のセレーノと言われた少年がいた、でも彼自身は自分のことをアヴェルスだと言っていた。村人たちはあちこちでヒソヒソ話をしていた、アヴェルスはこの村を出ていこうとしていた。ここを出てどこへ行くのかは分からない、だがアヴェルスには目的地が分かっているようだった。でも彼は両親に無理やりに連れ戻されて、その両親の家に閉じ込められてしまった、それでも彼の声は村中に響いた。
「俺の故郷はこんな村じゃない、それはもう美しい宮殿だった!!俺をセレーノと呼ぶな、俺の名はアヴェルスだ!!」
俺たちはアヴェルスという少年の声を聞きながら旅に出た、リッシュはそれを見てまた何か考えこんでいた。そうして少しでもこの村から離れようと、俺たちに言ってきたから俺はアクアを背負った、そして少しばからい早いペースでこの村から遠ざかっていった。アクアが恐る恐るリッシュに話しかけていた、それはさっき見たアヴェルスという少年の話だった。
「リッシュ、あの子はどうなるの?」
「分かりません、アクア様。妖精や精霊の理屈は僕たちとは全く違うのです」
そうして数日俺たちは旅を続けて次の街に向かった、その途中にあの美しい少年がいた村が地すべりでほとんど埋まってしまったと聞いた。リッシュが妖精や精霊にこちらの理屈が通じないという意味が分かった、そうして村でたった一人だけアヴェルスという少年が生き残ったと聞いたが、その少年も誰かに連れ去られるように消えてしまい村には誰もいなくなった。
「妖精ってやつは本当に気紛れなんだな、精霊もそうか力を貸してくれないことあるもんな」
俺は妖精や精霊を見たことは無かったが、今回のことで彼らの気配は覚えてしまった。そして次の街にようやく着いたが、なんだかとても活気のある街で、道を行く人々の表情が明るかった。俺たちはそれは何故なのかと思っていたが、街の中央にある銅像を見てある意味で納得した。そこには誇り高きドラゴンと、それを剣で倒す鎧を着た人間の姿が銅像で表されていた、俺とレンは顔を見合わせて、ちょっとだけお互いにため息を吐いて言った。
「はぁ~、またここでも俺たちは悪者なのか」
「はぁ!? 俺様たちが普通の人間に対して何かしたかよ」
そして道ゆく街の人にこの銅像について話を聞くと、ここの領主さまのドラゴン退治の話を聞かされた。ここの領主さまはドラゴンを倒して男爵の地位を与えられ、そうしてからこの辺り一帯の土地を治めることになった。領主さまはドラゴン退治で貰った褒賞を使って街を作り、この辺りに住む人々の生活をとても豊かにしてくれた、そう領主さまこそがドラゴン退治の英雄だという話だった。
「ドラゴン退治の英雄か、どうして人間はそこまでドラゴンを怖がるんだろう」
「えっとアクアはこう思うの、よく分からなくて強いから多分怖いの」
「本物のドラゴンは普通の人間を襲わねぇのにな、……盗賊なら襲うドラゴンはいるけどな」
「人間の都合で勝手に邪悪なものと決められてはたまりません」
「よく分からないものは怖いか、確かにドラゴンも積極的に人間には関わらないからな」
「本物のドラゴンさんをよく知っていれば、きっとドラゴンさんは人間に狙われないの」
「そんな人間見たことねぇぜ、このチビくらいしか俺様は見たことがねぇ」
「アクア様はドラゴンのことをよく分かっていらっしゃる、そして賢く聡明な人間ですからね」
「でも本物のドラゴンを倒した人間、ちょっとだけ会ってみたいな」
「シエルったら悪い顔してるの」
「はははっ、確かにな。でも俺様もちょっと会ってみてぇな」
「お二人ともご無理はなさらないように、もし会いに行かれるのなら夜がいいでしょう」
そうして俺たちはまず宿屋を決めた、それから俺とアクアはいつも通りに神殿に寄付をしに行った。レンとリッシュも冒険者ギルドの掲示板を見に行った、それから俺とアクアは領主の館の下見に行った。俺とレンとで一緒に行ってみるつもりだったからだ、俺たちはドラゴンを倒したという人間にぜひ会ってみたかった。でも俺たちは平民だから領主と会うとしたら、その領主の屋敷に忍び込むしかなかった。
領主の屋敷は街で一番に高いところにあった、俺とアクアは貴族たちが住む特別区には入れなかった。だから別の遠くから屋敷の場所を確かめるだけですませた、実際に会いにいくのは『飛翔』の魔法が使えればそう難しくはなかった。やがて夜にはレンやリッシュと合流して、美味しいご飯を皆で食べた。この街周辺は本当に発展していて贅沢に柔らかい白パンや、飼育された豚肉などを食べることができた。
「それじゃ、レン。ちょっと行ってみるか?」
その翌日、村の中は雨が降り続いているのに騒がしくなった。アクアをレンやリッシュに預けて俺は空き家の外に出た、そうしてこの村の村長のところに行ってみることにした。雨の中で赤い髪に茶色い瞳の男が喜んで踊るようにしながら、取り替え子がいなくなったとそう皆に言いまわっていた。俺は村長のところへ行って詳しい話を聞いた、村長もまだ聞いたばかりの話ですがと言っていた。
「あのいなくなっていたセレーノが、本物のセレーノが帰ってきたのです」
「いなくなっていた? 本物のセレーノ?」
「セレーノは生まれた時には赤い髪に茶色い瞳をしていました、それが夜の間に少しだけ両親が目を離したら、銀の髪に青い瞳の子どもと入れ替わっていたのです」
「誰が一体どうしてそんなことを?」
「我々には分かりません、ですがセレーノの両親はその取り替え子を育てるしかなかった。不気味な子どもでも美しくて、一思いに殺すのも気が引けた。でもその子はもうすぐ売り払う予定でした、村の仕事などもよくしてくれましたが、やはりどうも不気味だったのです」
「一度は自分の養い子にした子どもを、その自分の子どもを売り払うつもりだったのか!?」
「あのセレーノはとにかく美し過ぎた、きっと売り払われた先で良い家に貰われたでしょう。ですが本物のセレーノが帰ってきた、だからもうそんなことはしなくていいのです」
「………………」
それから俺は雨の中なのに人が集まっている家に行ってみた、そうしたらあの美しい少年はもうどこにもいなくて、赤い髪に茶色の瞳をしたどこにでもいる普通の男の子がいた。その子は喜び合うセレーノの両親に代わるがわる抱きしめられていた、でもその子の瞳は明らかに戸惑いがあって、俺がどう見てもその子自身は喜んでいるように見えなかった。
俺は見るべきものは見たと皆がいる空き家に戻った、『洗浄』と『乾燥』で雨で濡れた体を綺麗にしてから皆に見たものを話した。セレーノと言われていた美しい少年がもうすぐ売り飛ばされるところだったこと、本物のセレーノだという少年が帰ってきて両親は喜んでいること、その本物の少年なら両親から売られる心配はないだろうと俺は話した。
アクアはとっても複雑な顔をしていた、美しいセレーノと呼ばれた少年は、一度はアクアを攫っていこうとした。アクアにとっては一度は楽しく遊んだお友達だった、でも自分を妖精界に攫おうとした子でもあった。レンは明らかにホッとしていた、これでもうアクアに危険がなくなったからだ。リッシュは考え込んでいた、リッシュの言う通りなら妖精や精霊には、時にこちらの理屈が通じないことがあった。
「シエル様、明日にはこの村を離れましょう」
「そうか、そうした方がいいんだな」
「ええ、妖精や精霊には僕たちの理屈は通じません」
「まだここは危険だということか、分かった。たとえ雨が降っていても、明日にはここを出よう」
幸いにも翌日には雨が止んだ、俺たちはさっさと旅支度をして、俺が村長に今日出ていくことを話しておいた。村長も別に俺たちを引き止めなかった、そんな理由が何もなかったからだ。そうして俺たちは出ていくことになったのだが、村の中で小さな騒ぎが起きていた。俺たちは村を出るところだったが、その騒ぎの原因をみることになった。
「こんなところは俺の家じゃない!! 俺はセレーノじゃなくてアヴェルスだ!!」
「何を言っているんだセレーノ!?」
「そうよ、セレーノ。お父さんの言うことが聞けないの!!」
「俺はアヴェルスだ!! セレーノじゃない!! 俺のことは放っておいてくれ!!」
「何を言っている、お前はこれから畑仕事を覚えるんだ!!」
「そうよ、お父さんの言う通りよ!!」
そこには本物のセレーノと言われた少年がいた、でも彼自身は自分のことをアヴェルスだと言っていた。村人たちはあちこちでヒソヒソ話をしていた、アヴェルスはこの村を出ていこうとしていた。ここを出てどこへ行くのかは分からない、だがアヴェルスには目的地が分かっているようだった。でも彼は両親に無理やりに連れ戻されて、その両親の家に閉じ込められてしまった、それでも彼の声は村中に響いた。
「俺の故郷はこんな村じゃない、それはもう美しい宮殿だった!!俺をセレーノと呼ぶな、俺の名はアヴェルスだ!!」
俺たちはアヴェルスという少年の声を聞きながら旅に出た、リッシュはそれを見てまた何か考えこんでいた。そうして少しでもこの村から離れようと、俺たちに言ってきたから俺はアクアを背負った、そして少しばからい早いペースでこの村から遠ざかっていった。アクアが恐る恐るリッシュに話しかけていた、それはさっき見たアヴェルスという少年の話だった。
「リッシュ、あの子はどうなるの?」
「分かりません、アクア様。妖精や精霊の理屈は僕たちとは全く違うのです」
そうして数日俺たちは旅を続けて次の街に向かった、その途中にあの美しい少年がいた村が地すべりでほとんど埋まってしまったと聞いた。リッシュが妖精や精霊にこちらの理屈が通じないという意味が分かった、そうして村でたった一人だけアヴェルスという少年が生き残ったと聞いたが、その少年も誰かに連れ去られるように消えてしまい村には誰もいなくなった。
「妖精ってやつは本当に気紛れなんだな、精霊もそうか力を貸してくれないことあるもんな」
俺は妖精や精霊を見たことは無かったが、今回のことで彼らの気配は覚えてしまった。そして次の街にようやく着いたが、なんだかとても活気のある街で、道を行く人々の表情が明るかった。俺たちはそれは何故なのかと思っていたが、街の中央にある銅像を見てある意味で納得した。そこには誇り高きドラゴンと、それを剣で倒す鎧を着た人間の姿が銅像で表されていた、俺とレンは顔を見合わせて、ちょっとだけお互いにため息を吐いて言った。
「はぁ~、またここでも俺たちは悪者なのか」
「はぁ!? 俺様たちが普通の人間に対して何かしたかよ」
そして道ゆく街の人にこの銅像について話を聞くと、ここの領主さまのドラゴン退治の話を聞かされた。ここの領主さまはドラゴンを倒して男爵の地位を与えられ、そうしてからこの辺り一帯の土地を治めることになった。領主さまはドラゴン退治で貰った褒賞を使って街を作り、この辺りに住む人々の生活をとても豊かにしてくれた、そう領主さまこそがドラゴン退治の英雄だという話だった。
「ドラゴン退治の英雄か、どうして人間はそこまでドラゴンを怖がるんだろう」
「えっとアクアはこう思うの、よく分からなくて強いから多分怖いの」
「本物のドラゴンは普通の人間を襲わねぇのにな、……盗賊なら襲うドラゴンはいるけどな」
「人間の都合で勝手に邪悪なものと決められてはたまりません」
「よく分からないものは怖いか、確かにドラゴンも積極的に人間には関わらないからな」
「本物のドラゴンさんをよく知っていれば、きっとドラゴンさんは人間に狙われないの」
「そんな人間見たことねぇぜ、このチビくらいしか俺様は見たことがねぇ」
「アクア様はドラゴンのことをよく分かっていらっしゃる、そして賢く聡明な人間ですからね」
「でも本物のドラゴンを倒した人間、ちょっとだけ会ってみたいな」
「シエルったら悪い顔してるの」
「はははっ、確かにな。でも俺様もちょっと会ってみてぇな」
「お二人ともご無理はなさらないように、もし会いに行かれるのなら夜がいいでしょう」
そうして俺たちはまず宿屋を決めた、それから俺とアクアはいつも通りに神殿に寄付をしに行った。レンとリッシュも冒険者ギルドの掲示板を見に行った、それから俺とアクアは領主の館の下見に行った。俺とレンとで一緒に行ってみるつもりだったからだ、俺たちはドラゴンを倒したという人間にぜひ会ってみたかった。でも俺たちは平民だから領主と会うとしたら、その領主の屋敷に忍び込むしかなかった。
領主の屋敷は街で一番に高いところにあった、俺とアクアは貴族たちが住む特別区には入れなかった。だから別の遠くから屋敷の場所を確かめるだけですませた、実際に会いにいくのは『飛翔』の魔法が使えればそう難しくはなかった。やがて夜にはレンやリッシュと合流して、美味しいご飯を皆で食べた。この街周辺は本当に発展していて贅沢に柔らかい白パンや、飼育された豚肉などを食べることができた。
「それじゃ、レン。ちょっと行ってみるか?」
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