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3-10最期の時まで忘れない

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「誰かを好きだと思ったら、その意味をよく考えてね。私のように友愛と恋情を間違えては駄目よ」

 レーチェのその言葉に俺は咄嗟に返事ができなかった、俺にも大切な家族として愛しているアクアがいたからだ。俺とアクアとの間にあるものは多分だが友愛だけだろうか、俺は保護者としての愛情だと思うが本当にそれだけなのか分からなかった。だから俺は咄嗟に返事ができなかった、レンは別の感情によって返事ができなかったようだ、そしてこう俺とレーチェに言いだした。

「話を聞かせてくれてありがとよ、でも俺様は納得がいかねぇ!!」
「えっと、どうしたんだ。確かに俺も納得できない部分はある、でももう終わってしまった話だ」
「優しい太古からの隣人よ、何に納得がいかないのかしら?」

「レーチェとやら、てめぇは誇り高きドラゴンと正々堂々と戦った、なのにあんな糞みてぇな男を旦那にしているのが納得いかねぇ!!」
「ああ、それか。確かにそれは俺も納得できない、浮気を理由に別れることはできないのか?」
「あんな卑怯な人間とまだ結婚しているのは戒めよ、本当に愛するべきものを間違えた私への戒め」

「それでクヴァリテートとやらが幸せだと思うか!! 絶対に俺様なら納得がいかねぇな!!」
「確かに俺たち誇り高きドラゴンに愛された人間、そんな幸運な人間は幸せでいるべきだ、それがクヴァリテートも君に望んでいたことだ」
「私は……、私には……、幸せでいる資格がないわ」

 レーチェはレンの思いがけない言葉に戸惑っていた、でも彼女は誇り高きドラゴンから愛された人間だ。それに正々堂々とドラゴンと戦った人間でもあった、そうでなかったら彼の息子や仲間のドラゴンから今頃八つ裂きにされている、彼女は確かに正々堂々とドラゴンと戦ったのだ。そんな彼女が不幸でいることをクヴァリテートが望むだろうか、いや決して俺たち誇り高きドラゴンはそんなことを望まない。

「おい!! しっ、親友。何を言えばいいかはお前に任せる、だから俺様は少し暴れるふりをするぜ」
「よく分かった、親友。さぁ、レーチェ。君に俺たちドラゴンからの愛情、そうクヴァリテートの意志を拒むことは許されない」
「私に何をしろと言うの? 私は愛するべき者を間違えた愚かな女よ? そう私はずっと不幸でいるべきなのよ!!」

「でもなクヴァリテートって奴がそれを望んでねぇ!! そう世界の大きな力に返った奴が望んでねぇんだよ!!」
「その通り、レーチェ。君は幸せになっていけない人間じゃない、君を愛した誇り高きドラゴンの為にも幸せに生きるべき人間だ」
「わっ、私が幸せを望んでもいいの? わっ、私は愛するべき相手を間違えたのに?」

 レンはそれ以上レーチェとは話さなかった、ただ彼女に見ていろと言って外に出てそれからドラゴンの姿になった。もちろん領主の館は大騒ぎになった、いや街の方でもきっと大騒ぎになっているはずだった。俺はレンの背中に飛び乗った。レンから俺は彼が喋るべき言葉を選ぶことを頼まれた、だから俺はレンにこっそりと言うといい言葉を背中から伝えていった。

「かつて我が同胞を見事に倒したレーチェ・メディシナ・デストルドールよ、その時に貴様には誇り高きドラゴンからの加護が与えられた」

 大騒ぎになっている領主の館から、あのレーチェが結婚したという浮気男も出てきていた。レンはそいつをみつけたら尾でギリギリ死なない程度に弾き飛ばした。レンに向かって矢と魔法が飛んできたが、それは俺が防御の中級魔法を使って防いでみせた。レンは迫力たっぷりに空中に向かって炎のブレスを吐き出した、その炎に照らされてレンのドラゴンの姿は遠くまでよく見えた。

「我が同胞から加護が与えられたレーチェ・メディシナ・デストルドールよ、今度は己の為にまた戦え!! 生きろ!! そうしてお前にふさわしい幸せをつかみとるのだ!!」

 レンは俺に言われたとおりにそう話した、レーチェがまた立ち上がり変えられない過去ではなく、幸せな未来を見て歩き出せるようにしたのだ。レーチェはレンのドラゴンの姿を人間たちの中で唯一恐れてはいなかった、彼女はレンを攻撃する領主の館の他の人間たちを諫めた。そうして彼女はレンの前に剣を持って立った、彼女はそれから己の剣に誓うように俺たちに約束した。

「私はレーチェ・メディシナ・デストルドール、これから私は幸せに生きるために戦う、そう誇り高きドラゴンと約束する!! 私を愛してくれた彼の為に、私が治める大切な領民の為に、何より私自身の為にそう約束する!!」
「よく言った、我が誇り高き同胞を倒した者よ。汝はこれからも戦い続けるのだ、そう誇りを持って生き続けるのだ!!」

 俺とレンはレーチェのした約束を聞いて満足した、彼女はこれからは失ってしまった過去を大切にして、それでも輝かしい新しい未来に向かって生きると決めてくれた。彼女を愛したクヴァリテートというドラゴンがどこかで笑ったような気がした、世界の大きな力に返った彼が少しだけここに戻ってきたような気がした、俺とレンはそんな不思議な感覚を抱いて領主の館から飛び立った。

 そうして近くにある森に行きレンは人間の姿に変身した、それで街が大騒ぎしている間に街を守る外壁、それを魔法で俺たちはこっそりと乗り越えて宿屋に戻った。アクアやリッシュは最初は俺たちの心配をしてくれていた、でも俺たちが事情を説明すると納得してくれた。俺は大切な家族であるアクアを優しく抱きしめた、アクアはいつも通りに俺の腕の中で嬉しそうに笑ってくれた。

「友愛と恋情を間違えては駄目か、確かにその二つは大違いだな」
「シエル、どうしたの?」

「いや、少し考えるべきことができたんだ。きっとアクアが大人になる、それまでには分かることさ」
「アクアはシエルに相応しい大人になるの」

「そうか、そうだったな。アクアが大人になる日が楽しみだ、それまでには俺も答えを出せると思う」
「レーチェっていう女の人は間違ったの、でもシエルは絶対に間違わないでね」

 アクアも少しずつだが成長していた、もう十歳の子どもではなくなっていた。そう背も伸びて俺と変わらないくらいになっていた、俺の身長が成長不足で小さいせいもあるが、それでもアクアが大人に近づいているのは間違いなかった。アクアがこのまま成長して大人の女性になった時、その時に俺たちの関係は変わるかもしれないと思った、その時に俺がどうすればいいのかよく考えておきたかった。

「ドラゴンが領主さまの館に出たんだよ」
「領主さまはドラゴンから加護を貰ったそうだ」
「街を襲ったドラゴンを追い払った」
「領主さまは旦那さまと離婚するそうだ」
「なんでも旦那の方が浮気してたんだとさ」

 翌日の街は思ったとおりにドラゴンの話題で盛り上がっていた、俺とレンはそれを苦笑いしながら聞いていた。アクアも楽しそうにしていた、リッシュも口元だけで少し笑っていた。それからもレーチェは良い領主でいたようだった、俺たちは街を出たがその国にいる間は、レーチェの話を聞くことがあった。その随分と後になって知ったが彼女は離婚してからは独身を貫いた、代わりに多くの領民を愛し彼らからも愛された、そうして最期はドラゴンの像の前で幸せそうに微笑んで死んでいたと聞いた。

「さてと次はどんな街かな?」
「アクア、皆が仲良くしてる街がいいの」
「チビの望む街はなかなかねぇな」
「人間は他の種族を差別し、それに争いを好みますからね」

 次に着いた街は少し変わっていた、あちこちで有翼人を見世物にしていたのだ。有翼人とは天使のような姿の美しい種族だ、その気性は穏やかで知能はあるが言葉は話せない、あまり人間と関わることなく隠れるように暮らしている種族だった。でも今度訪れた街では有翼人をしばしば見かけた、それで街の人間に話を聞いてみると、有翼人が隠れて暮らしていた島が見つかったそうだ。

「綺麗な天使、でも少し悲しそうなの」
「ええ、そうですね。アクア様、人間とは惨い仕打ちをするものです」

 この街がある国ではエルフや獣人族などは差別されなかったが、有翼人には権利というものが与えられずペットのような扱いを受けていた。多くの有翼人はそれを悲しんで死んでしまったそうだが、それでも環境に適応した者が生き延びていた。アクアはそんな有翼人を珍しそうに見ていた、天使というのはある宗教で天の使いとされていたが、有翼人は知能は高いがどちらかというと鳥に近かった。

 俺たちはその有翼人がいる街にしばらくいた、俺とアクアはいつも通りに神殿に寄付をして、それから街の図書館などを利用していた。中には『有翼人の正しい飼い方』などという失礼な本もあった、有翼人は本来なら飼われず自由に暮らしている種族だった。人間というものは本当に自分たち以外の種族を軽く見ている、俺たちも人間を猿のように思っていることがある。

 でもそれにしても人間の有翼人への態度は悪かった。人間が有翼人を蹴る、殴るは当たり前、中にはもう飛べないように風切羽を切る者もいた。有翼人は美しいのでベットでの相手をさせる者もいた、中には自分が飼っている有翼人に売春させる人間もいた。リッシュはそんな沢山の有翼人を見て、とうとう我慢しきれなくなった。

「僕はもう我慢できません、僕に出来る限りのことはしてみます」
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