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2-1クレーネ草の薬を使ってみる

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「『水竜巻ウォータートルネード』、ふぅ、威力はこんなものかな」
「リタ様!! お体は大丈夫ですか!?」

「ありがとう、ソアン。おそらくこのクレーネ草の薬の副作用は後から出てくる」
「そこまでしてこのお薬が必要でしょうか、……私はリタ様のお体が心配です」

「クレーネ草の中毒性はほぼ取り除いた、死の危険がある毒性も同じだよ」
「ほぼっていうのが心配なのです、完全にでは無いんですから!!」

 今の僕が使用した『水竜巻ウォータートルネード』の魔法は大きな水の竜巻となった、威力はこれなら人間なら十数人がひとたまりもないだろう、まずまずの魔法の結果に僕は満足していた。

 僕はクアリタ・グランフォレという金髪に蒼い瞳をしている250歳ほどの一応はエルフだ、今はソアンと街の近くの森にきて魔法の実験をしていた、僕は心の病気にかかって魔法が使えなくなったエルフだ。だがとあることからクレーネ草が僕の心の病気に効くことが分かった、ただクレーネ草をそのまま食べるのは危険過ぎるので、今回は薬に加工して中毒性などを取り除いてみたのだ。結果は中級魔法までなら問題なく使えるようだ、薬を使っている間だけ霧がはれるように思考が研ぎ澄まされて、僕には以前に近い魔法が使えるようになったのだ。

 ただしソアンという僕の養い子はそれでもまだ心配そうだ、とても可愛い薄茶色の髪に同じ色の瞳を持っていて、150歳になって成人したら僕を家出に誘ってくれたという大胆で行動力のある子だ。僕が若長候補に選ばれて日々元気がなくなっていった時、ソアンだけがそのことに気がついてくれた、そして僕を若長候補という重荷から解放する為に、プルエールの森からの家出に誘ってくれたのだ。なんという家族想いの良い子だろうか、僕は自分の心の病気に気づいてくれたソアンに本当に感謝している。

 だからその彼女を守るためにもこの実験は必要だった、クレーネ草でできた薬がどのくらいの時間効くのか、そしてその副作用がどのくらい間だけ続くのかが問題だった。僕はもう一度魔法を唱えることにする、上級魔法までは昔は使えていたが今は少し無理そうだ、そこまでの集中力を取り戻せていないのだ。クレーネ草の薬を更に改良すれば良さそうではあった、だがエルフの森なら簡単に見つかる薬草が無い、人間の世界で見つかる薬草には限りがあるのだった。そしてソアンは薬による死の危険を心配しているが、飲み過ぎればその危険は多くの薬にはあるものだった、だから完全に取り除けはしないが必要以上に心配もしなくていいのだ。

「もう少し、魔法の練習をしておこう。ソアン、『水竜巻ウォータートルネード』」
「はい、リタ様。記録、記録、発動問題なし、威力問題なし」

「水の魔法が一番こんな時は良いな、火は危ないし土は後が大変だ、風は効果が分かりにくい」
「ちょっと周囲が水浸しになりますけど、最近は雨も少ないことですし森さんには良いでしょうね」

「そうだね、森の木々が潤いを取り戻している。この周囲から感謝の心が伝わってくるよ」
「ハーフエルフの私には分かりませんが、リタ様がそう言うのならそうなのでしょう」

 それから僕たちはひたすら中級魔法の練習を続けた、僕の魔力量はプルエールの森の村で若長候補に選ばれるくらいには高かった。だからこんなに中級魔法が連続して使えるのだ、ソアンなら5回ほどで力尽きてしまうが、僕は調子が良ければ50回くらいはいけそうだった、クレーネ草の薬のおかげとはいえ魔法が使えるのは楽しかった。元々は僕は魔法が音楽と同じくらい大好きだったので、一時的にとはいえ魔法が使えるようになったのは本当に嬉しいことだった。

「……ソアン、実験を中止する。なんとなくだが、体が寒くなってきた」
「はい、リタ様。それでは実験は中止!! 体を温かくして今すぐに街に戻りましょう」

 だが中級魔法が40回をこえたころから僕は自分の体が冷たく感じられた、それに急に不安が襲ってきて何か起きるんじゃないかと思った。これはクレーネ草の副作用の兆候でしかない、だから僕とソアンは実験を中止して街に戻ることにした、以前にもクレーネ草の副作用に襲われたことがあった。そうした経験があるから今度は準備はしっかりとしてあった、まだ温かい季節だが冬にも使える厚めのフード付きのマント、だがそれだけでは寒さが収まらなかった。それから僕は温かい体のソアンを背負わせてもらって、そうしてソアンに僕は危険はないだろうかと、薬の副作用の不安からくる質問をし続けた。そして、そんな質問をソアンからキッパリと危険は何もないですと否定されつつ、ゆっくりと歩いて街の宿屋まで帰り着いた。

「ソアン、以前ほどではないがやはり体が寒い」
「了解です、この私がこのままリタ様の湯たんぽになりましょう!!」

「物理的な寒さじゃないのに、人肌でしか温かくないなんて不思議だね」
「むしろ心理的な寒さだからこそ、他の人の体温が温かく感じるのかもしれないですよ」

「そうだね、そうなのかもしれない。迷惑をかけるよ、ソアン」
「迷惑だなんて、リタ様と一緒にいると子どもの頃に戻ったみたいで嬉しいです!!」

 そう言ってソアンは宿屋にある酒場に帰ってきてからも、僕にぴったりくっついて抱きしめていてくれた、ソアンの体温が伝わってきて体だけじゃなく心まで温かくなるようだった。宿屋の主人も宿屋にある酒場の人間たちも、そんな僕たちに何も言わなかった、それだけ普段から僕とソアンは仲良くしていたからだ。夕方までの魔法の実験が終わると僕たちはミーティアという吟遊詩人、その友達の歌声を聞きながら夕食をゆっくりと食べた。その間も寒さが消えることはなかったが、クレーネ草をそのまま飲んだ時ほど激しくはなかった。

「おお、今日も師匠とソアンちゃんは仲がええな」
「ミーティア、今日は僕がソアンにお願いしてるんだ」
「いいえ、私はリタ様をお守りしているんです!!」

「ほうか、やっぱり二人は仲がええな」
「まぁ、お互いに出会ってから100年は経っているから」
「素晴らしい100年でした、これからもぜひ続いて欲しいです」

 ミーティアは吟遊詩人で僕の音楽の弟子でもある、歌の素質は良いのだが楽器が上手く弾けなくて悩んでいた。今は少しだけ指摘すれば次は同じ失敗をしない、それだけ音楽の才能がある人間なのだ。音楽以外では冒険者として先輩であり、今までに簡単なダンジョンだったが、そこに行くのを手伝って貰ったこともあるのだ。18歳くらいでソアンとは女友達のような仲だ、ソアンに初めてできた友達のようで僕は嬉しいのだ。このままプルエールの森から家出している間、ずっと仲良くしておきたい女性だった。そのミーティアが突然にこう言いだした、彼女は吟遊詩人らしくなかなかの情報通でもあるのだった。

「そういえば師匠とソアンちゃんはあの噂は聞いたかいなー」
「今日は森の中でずっと魔法の練習をしていた、だから知らないがどんな噂のことかな」
「はい、冒険者ギルドにも寄りませんでしたから私も知らないです」

「久しぶりに本当やったら、凄い噂やで」
「なるほど、まだ本当かどうか分からないんだな」
「それでも気になります、ミーティアさん教えてください」

 僕はミーティアが言っている噂が気になった、情報は時として命に関わるほど重要なものだ。ましてや冒険者で吟遊詩人のミーティアは勘が鋭かった、彼女は嘘は言わないから言っていることは信用できることだ。彼女は本当だったらと言ってはいるが、その情報がほぼ本当だと自信があるのだ。そうでなければその素直な性格からして、不確かなことはミーティアは友達に言わないからだ。

「なんでも、エリクサーを見つけた金の冒険者がいるようやで」
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