上 下
35 / 128

2-2錬金術の国を調べる

しおりを挟む
「なんでも、エリクサーを見つけた金の冒険者がいるようやで」
「……エリクサーか、本物なら凄い物が見つかったものだ」
「それって不老不死の薬とか、どんな病気も治せる万能薬ですよね!!」

「そうそう、それがな。このゼーエンの街を治めとる領主の土地で見つかってんねん」
「ただエリクサーほどの薬が、その辺りに転がっていたなんてことはないはずだ」
「それじゃあ、古代の遺跡かダンジョンが見つかった。つまりは、そういうことですか!?」

「そうやねん、ソアンちゃん賢いなぁ。せっかく見つかった古代の遺跡の新しいダンジョンやねん」
「古代遺跡から見つかったのか、それなら本当かもしれない話だ」
「リタ様、その新しいダンジョンに行って、ご自身でエリクサーを見つけるおつもりですか」

 エリクサーというのは錬金術が生み出したと言われる最高の薬だ、ソアンが言ったとおりにその薬を飲み干すと不老不死になれる、またはどんな病気でも治ると言われ信じられている。不老不死のほうはともかくエリクサーはどんな病気も治せる、いわゆる万病薬だというのは信じられているのだ。何故なら歴史の中で何回か登場し、実際に使用して健康になった人間がいたからだ。とても今の錬金術の技術では作り出せない、そう奇跡の薬と言ってもいいものなのだ。僕は正直にソアンに言った、今の僕の気持ちをそのまま伝えた。

「ソアン、僕は自分の病気を治したい。エリクサーを手に入れれば、それが叶うならそうしてみたい」
「そうですか、ちょっと古代遺跡と聞いて心配です。でも明日から色々と調べないといけませんね」

 そのエリクサーが僕の心の病気に効くのかは分からない、だがもし手に入るなら試してみたいという気持ちは確かにあった。だが心の病気というのは難しいものだ、体と違って傷を負った部分が見えるわけではない、だからエリクサーが心の病に効くとも限らないのだ。でもできるなら僕は自分の病気を治したい、それがエリクサーを手に入れることで叶うなら、試してみないという選択肢はみつからないのだ。だからいつも心配してくれるソアンには悪いが、しばらくその新しいダンジョンに通うつもりだ、そしてエリクサーを自分の手で手に入れるのだ。

「ああ、でも師匠。あかんで、まだ新しいダンジョンは開放されとらんねん」
「いつになったら一般の冒険者に開放されるだろうか、ミーティア」

「ほやなぁ、まぁちょっと待っといたらすぐやろ。ゼーエンの街の財政にとっても、良いダンジョンになりそうやしな」
「そうか、そうだね。ダンジョンから生み出される品は、街にいろんな影響を与えるものだ」

「そうそう、しばらくは冒険者ギルドに通って、ちゃんとした情報を集めんといかんなぁ」
「エリクサーを持ち帰ったという、その金の冒険者も気になるところだ」

 それからは僕たちはしばらく新しく見つかったダンジョンの話をして、夜中になってからミーティアは自分の家に、僕らは借りている宿屋の部屋に戻った。水浴びをしてからベッドに入る、まだクレーネ草の薬による副作用は続いていた、効果がある時間が約半日で副作用も半日続くのかもしれなかった。ベッドに入るといつものようにソアンが僕の腕の中にもぐりこんでくる、ソアンの体温は高い方で温かいからクレーネ草の薬による副作用の寒さ、それがまだ続いている僕には本当にありがたかった。そうして眠り薬を僕は多めに飲む、クレーネ草の薬による副作用には不眠もあるからだ、そうやって眠ってしまう前にソアンと少しだけ話をした。

「リタ様、何千年か何万年も昔のお薬を飲んで大丈夫でしょうか?」
「おそらく『鑑定アプレイゾル』の魔法を使える者が現れるはずだ」

「ああ、その『鑑定アプレイゾル』で薬の正体を調べれば安心して飲めるのですね」
「あの魔法は世界の根源の力と繋がる、特別な者しか使えないから僕には無理だ」

「本当にあるんですね『鑑定アプレイゾル』って、言われてみると不思議な魔法です」
「何をするとしても明日だね、ソアン。さぁ、おやすみなさい」

 そうして次の日になったらクレーネ草の薬の副作用はなくなっていた、それに僕の体の調子も良かったから冒険者ギルドに行ってみた、すると下は銅の冒険者から上は金の冒険者まで沢山の人々が集まっていた。聞き耳をたててみると昨日ミーティアが話してくれたような話が飛び交っていた、でもまだ依頼の掲示板には新しいダンジョンのことは無かった。だから僕たちは冒険者ギルドの図書室に向かった、そこで調べておきたいことがあったからだ。エリクサーとは錬金術の生み出した奇跡だ、だから僕たちは錬金術が遥か昔にこの辺りで発展していた、そんな過去がないのか探してみることにした。

「ソアン、錬金術が盛んだったというエテルノという小国があったらしい」
「はい、リタ様。こちらにも同じような記述が500年前にあります」

「古代遺跡とそのエテルノという国が、どこかで繋がっているのかもしれないね」
「そうですね、エテルノという国は古代遺跡の研究もしていたみたいです」

「古代遺跡を研究して、そうしてエリクサーを手に入れた。もしくは自らで作り出したんだろうか」
「うーん、それは分かりませんね。エテルノという国は錬金術が盛んでしたがエリクサーの記録はありません」

 それから僕たちは街の図書館でも同じことを調べてみた、こちらでも分かったことは同じようなものだった。エテルノという国が500年前に確かにあって、錬金術を魔法より優先させて研究していた。同時に古代遺跡の研究もすすめていたらしい、だがエリクサーについてはどこにも記述がなかった。エリクサーは貴重品だから、本当は存在していたのだとしてもわざと記録に残さなかった可能性もあった。僕たちはお昼になったら調べものを止めて、街の飯屋に出かけることにした。

 最近のソアンのお気に入りはお菓子が美味しいお店だ、肉と野菜中心の昼食をとって、それにソアンはアイスクリームという甘いものを楽しんでいた。あんまり美味しそうに食べるから、ソアンに一口だけ僕にも分けて貰った。冷たい氷とは違う感触の甘くていい香りのものが喉を滑り落ちていった、とても美味しかったが甘いものはあまり好きではない、なので僕はアイスクリームは一口だけで満足してしまった。

「大雑把にだが、この辺りの昔の錬金術については調べ終わった、冒険者ギルドに戻ってみようか」
「そうですね、リタ様。新しい情報が公開されているかもしれません。うーん、やっぱりバニラアイスは冷たくて甘くて美味しいです」

 アイスクリームを食べ終わってご機嫌なソアンと一緒に冒険者ギルドに戻った、相変わらず沢山の人々で溢れかえっていた。中には喧嘩をはじめる者たちもいて、運動場の方へギルドの職員に放り込まれていた。依頼の掲示板には変化がなかった、特に面白そうな依頼もみつからなかったので、冒険者ギルドに併設されている運動場で体を動かすことにした。

 初めは武器を使わずに軽く格闘技だけでソアンと勝負した、父親のドワーフゆずりでソアンは力がとても強い、だが格闘技だけなら受け流したり相手の力を利用して戦う僕の方が強かった。これが武器を持つと話が違ってくる、ソアンの大剣は攻撃範囲が広いのでなかなか近寄れない、短剣で戦う僕のほうが今度は負けることになった。そんなことをしていると、ソアンと見た目は同じくらいの少年が声をかけてきた。真っ赤な髪に黒い瞳を持つ、強い目をした剣士で印象に残る少年だった。

「なぁ、なぁ、そこの薄茶色い髪のねぇちゃん」
「ええと、はい。なんでしょうか」

「俺と剣の勝負をしないか、俺は大剣と勝負したことがないんだ」
「うーん、あまり気が進みません」

「それじゃあな、内緒だけど教えてやろうか……」

 そこで少年はソアンと傍にいた僕にだけ聞こえるような声で言った、その少年が話すことを聞いてソアンと僕は正直なところとても驚いた。

「エリクサーを見つけた、この金の冒険者であるカイトとの勝負だぜ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:660

【R18】はにかみ赤ずきんは意地悪狼にトロトロにとかされる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:837pt お気に入り:162

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

BL / 連載中 24h.ポイント:809pt お気に入り:301

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,875pt お気に入り:458

夫に「好きな人が出来たので離縁してくれ」と言われました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,854pt お気に入り:3,868

おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,055pt お気に入り:3,852

処理中です...