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プロローグ
断頭台からあなたの幸せを祈る
しおりを挟む断頭台から周囲を見ると、怨嗟の声が響く。
曰く、「聖女だなんて嘘をつきやがって」。
曰く、「王子を騙すなんてなんて女だ」。
曰く、「おまえさえいなければ俺たちはこんな生活をしなくて済んだ」。
一つ一つに言い返したいところだけれど、今の私にできることは執行人の手によって降りてくる刃を待つことだけだ。
執行人は不憫そうな顔をしている。ああ、きっとどこかで私が特に何をしたわけではないことを知ってしまったのだろう。
小さな声で「せめて一発で首を落としてやる」と言ってくれた彼に、私はもう声なんて出せやしないから「ありがとう」と唇だけを動かした。拷問の中で喉を焼かれてしまったのだ。王家に都合の悪いことを喋らせないためって言ってもひどいなって思う。
この国に不利益を齎した、と彼らは全ての責任が私にあるかのように怒鳴りながら鞭打ち、熱した鉄で肌を焼き、楽しそうに笑った。
唯一、王太子だけは「なんということを……!」と不快感を露わに止めようとしていた。
けれど、まだ陛下ほどの権力を持たない彼では止められず、王太子も誑かしただなんて王妃と王太子妃がさらに怒り狂って暴力は激化した。それに彼は悍ましさを感じたらしい。
「吐き気がする」と。
「私はジェリーに何と言えば」と。
彼は苦悩しながらどうすればせめて処刑までの間、安らかに過ごせるかを考えてくれた。暴力は受けながらも最終的にこの身だけは暴かれなかったのはその慈悲によるものが大きいだろう。
少し遠くに、泣き出しそうな金髪の青年が見える。
第二王子である彼、ジェラルドは痩せこけた姿で周囲を兵に囲まれている。知らない令嬢が睨みつけるように私を見た。
こんなことになっても、あの王子様は私が好きらしい。第二王子である彼は、周囲に愛されていたけれど、私をその腕に取り戻す力を得ることはできなかったらしい。
助けられない、と知る彼はほろほろと涙を流す。
彼が全てを被って死のうと思っていたことを今の私は知っている。それを思えば、今ここに立つのが彼でなく私であることだけは私の喜びだ。ジェリーは私を助けようとしただけなのだ。こんなところで断頭台に上がることなんてあってはいけない。
──でも。ああ、太陽みたいな笑顔が好きだったのに。
そう思っていると頭に固いものがぶつかった。石を投げられたらしい。
けれど、どんな人に憎まれたって、それでもこんな私がジェリーに愛されていることが嬉しかった。
貴族が座る席では殿下以外がざまぁみろと嗤っている。
あなた達の方がよほど、だろうに。
こんなパフォーマンスをするくらいならば国民のために走り回った方が良かっただろうに。
出ることのない声で「どうか、あなたは幸せに」と唇を動かして、笑顔を向けた。
瞬間、大きく目を開けて手を伸ばす。
「やめろ!やめてくれ!!」
処刑を執り行うと宣言された瞬間、血を吐くように悲痛な、私の名前を呼ぶ声が響く。
そこで私の意識は途切れた。
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