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第17章 交差する視線
しおりを挟む放課後・律の通う高校の前
門の前で待っていたのは、黒のパーカーを羽織ったノアだった。
律は駆け寄りながら、わずかに顔を赤らめる。
「待った? 俺、ちょっと遅くなっちゃって」
「いや。俺も今来たとこ」
ノアの声は相変わらず感情の読めない低さを持っている。けれど律はそれが嫌ではなかった。
無表情の奥に、ごくたまに見せる気配──それを掴みたくて、つい目で追ってしまう。
「な、ノアってさ……兄弟いる?」
「……どうして?」
「いや、なんとなくさ。どっか寂しそうに見えるから」
ノアの目が一瞬揺れた。だがすぐ、いつもの静けさに戻る。
「いるよ。でも、今は……遠い存在だ」
「……そっか」
律はノアの隣を歩きながら、ふと口を開く。
「なあ、俺ってさ……変かな。最近、自分でもよくわかんなくて。
誰かと会ってるときに、こんなに胸がざわざわするのって初めてでさ……」
ノアはその言葉を聞いて、律の横顔を見つめる。
その視線の熱に、律は一瞬息を呑んだ。
「……変じゃない。むしろ、自然な感情だと思う」
それだけ言って、ノアは歩を進める。
その背中が、どこか遠い世界のものに見えて、律はなぜか切なさに胸を掴まれた。
⸻
夜・宗一の家、アルマの部屋
アルマは窓辺でカーテン越しに夜風を感じていた。
ふと、律がノアのことを話していた会話が脳裏に蘇る。
(“ノア”──あの名を人間界で聞くことになるとは……)
魔界での記憶が蘇る。
三男・ノア。感情の欠落した冷徹な兄弟。
けれど、アルマには分かっていた。ノアもまた、心の奥で何かを渇望していたことを。
(まさか……律に惹かれている?)
それは、彼らの兄弟間の「掟」ではあってはならないことだった。
魔族が人間に情を移す──それは大罪に等しい。
ノアがなぜ人間界に身を潜めているのか。
その理由を探るためにも、アルマは接触を決意する。
⸻
深夜・路地裏の裏通り
アルマは黒いコートを纏い、ノアの気配を追っていた。
魔族特有の波長は、極めて希薄だが確かに残っていた。
そして──、闇の中で向かい合う。
「……ノア」
細い路地の奥、街灯の影の下。
人間の姿をしていたはずの男が、ふと僅かに赤い目を見せた。
「久しぶりだね、アルマ」
感情のない声。だが、その一瞬の眼差しに、アルマは気づいた。
ノアの瞳に宿る、律を見つめる時のような微かな揺らぎを。
「お前……律に、近づいているな」
「“近づいている”んじゃない。“惹かれている”んだ」
静かに放たれた言葉に、アルマは目を見開いた。
「ノア……」
「禁忌は分かってる。でも、俺はもう魔界の駒でいたくない」
アルマは沈黙する。
ノアの決意と迷いと感情が、痛いほどに伝わってきたから。
──血の繋がりよりも、強く惹かれる誰かに出会ってしまった。
それは自分も同じだった。
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