黒羽の約束

猫目オテテ

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第18章 夜が裂ける音

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放課後・公園のベンチ

 柔らかな夕焼けが街を包むころ、律とノアは静かな公園の片隅にいた。
 人気のないそのベンチで、律は黙ったまま俯いている。

「……律」

 ノアが静かに口を開いた。

「君といると、俺は……普通の人間みたいになれる気がするんだ。
 笑ったり、困ったり、戸惑ったり。そんな感情、ずっとなかったのに……」

 その言葉に、律は顔を上げた。
 ノアの瞳はいつもよりも少しだけ、揺れていた。

「律、俺は──君が好きだ」

 律の心臓が跳ねた。
 思考が追いつかないまま、鼓動だけが暴れ出す。

「……うそ、だろ……?」

「これは“うそ”じゃない。俺にとって、初めての──“本物”だ」

 律は言葉を失いながらも、ノアの目を見つめ返していた。
 その奥に、冷たさではない、痛いほどの真剣な感情が宿っているのを確かに感じた。



同時刻・宗一の家、アルマの部屋

 窓辺に佇んでいたアルマの元に、一本の黒い羽が舞い落ちる。
 その羽は宙で形を変え、赤黒い印章に姿を変える。

(……魔界からの通達)

 無言でそれを手に取ったアルマの表情が、次第に凍りついていく。

今宵、ノアを始末せよ。
応じぬ場合、次に消されるのは貴様だ。

 姉──長女からの命令だ。
 容赦のない一文に、アルマの血が音を立てて凍る。

「……こんな形で……」

 選択の余地などなかった。
 だが心は叫んでいた。
 ノアを殺せば、律はどうなる? 宗一はどう思う? ──自分は、何のためにここにいる?

 重く、冷たい夜が迫ってくる。
 心臓の奥から、感情がちりちりと焼けるように疼いた。



夜・宗一の部屋

 アルマは無言で宗一の寝室の扉を開いた。
 宗一は本を閉じて、顔を上げる。

「……眠れないのか?」

「……うん」

 ベッドの縁に腰を下ろすアルマ。
 宗一は彼の沈んだ顔を見つめ、そっと問いかける。

「なにか、あったのか?」

 アルマは答えない。ただ、そっと宗一の方に身体を向ける。

「お前に……ひとつだけ、伝えたいことがある」

「ん?」

 その瞬間だった。
 アルマは、震える指先で宗一の頬に触れ──そのまま唇を重ねた。

 甘く、短く、けれど確かに熱を孕んだ初めてのキス。

 宗一は驚きながらも、その温度に黙って目を閉じた。

 唇が離れ、アルマは静かに言った。

「……ありがとう。俺は、お前に出会えてよかった」

「おい、待て──」

 宗一が手を伸ばそうとしたその瞬間、アルマは姿を消していた。

 ただ一枚、黒い羽が床に落ちていた。
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