黒羽の約束

猫目オテテ

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第30章《黒羽の静寂》

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夜が明ける

 風がやわらかく吹き抜ける。

 森の奥、魔界との結界が崩れた地で、宗一は静かに目を覚ました。
 隣には、まだ眠るアルマの横顔。呼吸は浅く、けれど確かに生きている証があった。

 宗一はそっと手を伸ばし、アルマの髪を撫でた。
 その指先に、微かに震える気配。

 「……おはよう、アルマ」

 まぶたが、ゆっくりと開かれる。

 「……ここは……」

 「もう大丈夫だ。お前は俺のとこに帰ってきた」

 アルマはしばらく黙って宗一の顔を見つめていた。
 その瞳に浮かんだのは、戸惑いではなく――安心だった。

 「……帰って、いいのか……?」

 「馬鹿。俺が呼び戻したんだから、当然だろ」

 宗一はふっと笑って、アルマの手を取る。

 「お前がいない世界は、もう俺にとっちゃ半分以下だ。
  だから、ここにいてくれ。どんな姿でも、どんな過去でも関係ない」

 アルマの瞳が、じわりと潤む。
 長く張り詰めていたものがほどけて、彼はようやく肩の力を抜いた。



ノアと兄弟たちの決意

 一方、エリスの変化に戸惑う兄弟たちが集められ、ノアがその中心に立っていた。

 幼子となったエリスは記憶も知性も失い、ただ無垢な瞳で空を見上げている。

 「これが、彼女の望んだ結末じゃないのはわかってる。でも――この形でしか終われなかったんだ」

 ノアの言葉に、長男カインが静かに頷く。

 「次は、俺たちが決めなきゃいけない。魔界の未来も、王位継承も――もう争うのはやめよう」

 「……俺も同意だ。エリスのことは、俺が面倒を見る。罪を赦すとは違う。これは責任だ」

 弟たちも、それぞれ思いを口にしていく。
 長く分断されていた兄弟の輪が、ようやく少しずつつながり始めた。



宗一の問い

 日が落ちたころ。宗一は家の縁側で、アルマとふたり腰を下ろしていた。

 空はすっかり赤く染まり、鳥の影が一羽、空を横切る。

 「……聞いてもいいか?」

 「……何を」

 「“あの夜”のこと。寝てたと思ってたけど……目が覚めてた」

 アルマは一瞬息を止める。

 「……そうか」

 「泣いてたよな、お前。俺の枕、ちょっと濡れてた」

 「……寝ぼけてたくせに、よく覚えてるな」

 「そりゃ、忘れられないよ。俺の人生で、一番優しくて、悲しいキスだったからな」

 アルマは言葉を失ったまま、ゆっくりと顔を伏せた。

 宗一は笑いながらも、そっと彼の手を握る。

 「なぁ、アルマ――俺、お前のことが好きだ」

 「……」

 「ようやく言えた。お前は?」

 しばらく沈黙のあと、アルマはかすかに笑った。

 「……俺も、たぶん。いや、ずっと、ずっと前から……お前が好きだった」

 夕焼けが二人を染めていた。



そして、律とノア

 そのころ、律は部屋の机に突っ伏していた。
 ノアの告白から数日、返事をできずにいた自分に苛立ちすら覚えていた。

 「……あああもう!なんだよもう、こっちの気も知らないで!……いや、ノアのこと、好き……なのかな、俺……」

 そんな彼のもとに、ピンポーンとチャイムが鳴る。

 出ると、そこには笑顔のノアが立っていた。

 「こんばんは、律くん。今日、君の返事を聞きに来た」

 「……え、うそ……」

 「冗談じゃないよ。君に会いたくて、来たんだ」

 律の顔が真っ赤に染まった。
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