ご令嬢は没落前にとんずらする

穂積イ子

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とんずら2

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 クラリス=オクレールは、名門ブロイ公爵家の娘である。代々王国議会の大臣を輩出し、現公爵は議会の最大派閥を率いる有力貴族でもある。
 時に冷血公とも言われる公爵の娘として、クラリスは忠実にその教えを守ってきた。ブロイの家訓は『常に勝者であるべし』である。温もりとかけ離れた屋敷の中で、幼い頃のクラリスを支えたのは弛まぬ努力と鉄の精神だった。ブロイ公爵家の人間として、決して人に隙を見せないことがクラリスの掟だった。
 十八になり、クラリスは社交界でも畏怖の対象となっている。時に冷然と人を使い、生まれ持った美貌を持ちながらにこりともしない。噂は社交界を中心に市井にも広まり、陰で冷血麗人、氷の女とまで言わしめた。艶めくシルバーブロンドも、凪いだ湖を思わせる青緑の瞳も、いっそ整いすぎた顔にはビクトールのような冷たい印象しか残さないのだ。



 老婆と別れてから少しして、クラリスは人形のように整った表情の奥で、静かに顔を曇らせていた。よほど見ていないと分からない機微だったが、付き合いが長いアリサは見抜いていた。

「先ほどの占いを気にしてるんですか? お嬢様が気に留めるまでもない戯言ですよ」

 アリサは黒髪を肩口で揃え、切れ長の目をした涼やかな顔立ちの美人である。淡々としているが、長年クラリスに仕える有能な侍女だ。屋敷にいて、クラリスを理解し、恐れず接するのは彼女だけだった。主人のこととなると少々熱くなるときもあるのが玉に瑕だが、クラリスは彼女のお節介が好きだった。

「あの老婆のことはいいんだ。それより、アレクサンドル殿下に呼ばれた理由が気になる。当日の朝になって呼び出すなんて、殿下らしくないだろう?」
「五日後には正式に婚約となりますし、多少の無礼は良いと勘違いしたのでは?」
「……そうね。私もここに来るまではそう思っていたけど」

 アリサの毒舌はいつものことなので軽く流し、クラリスは静かに思案した。
 そもそも、王太子との婚約は、次期国王としての地位を盤石とするための政略として、十年前にまとまっていた話だった。ただし、情勢次第では諸外国との姻戚関係が重要になることもあるし、王太子が成人するまではあくまで仮の婚約ということで。ちなみにその条件を率先して提案したのはブロイ公爵であり、娘より国の利益を採るやり方から冷血公の異名が生まれたと言われている。
 さておき、つい先日、王太子がめでたく二十歳となり、婚約が正式に進められると下知された。それまでは半年に一度だけお茶をする付き合いだった二人にとって、これからは本腰を入れて仲を深めていくべき状況だった。さしあたって、王族を集めての婚約式が五日後に迫っている。
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