ご令嬢は没落前にとんずらする

穂積イ子

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とんずら5

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「聞くに耐えない……、あのクソ王子!」

 アリサが静かに吠えた。
 クラリスも本心では同意だった。こちらには身に覚えがないのに、端から冷たい女だったと吐露するアレクサンドルにこそ、裏切られた気持ちだった。

「アリサ、少し静かに」
「しかし、お嬢様」

 悔しげなアリサに、クラリスはことさら無表情に首を振る。
 アリサは何故か痛ましげにクラリスを見ていた。
 クラリスは再び会話に集中した。

「ご令嬢の真意は直接話をお伺いしないことには分かりませんが、こうしてオスムル国の密書が見つかっています。密使の証言もありますし、言い逃れはできません。早く自白されることを祈るばかりです」
「どうかな。あれが素直に負けを認めるとは思えん」
「クラリス様は冷静なお方です。勝機がないと分かれば潔くお認めになるでしょう」
「あのブロイがか? できるだけ証言を長引かせて、公爵が全てを有耶無耶にしてしまうに決まってる」
「……公爵閣下のことを思えば否定できませんが、だからこそまずクラリス様だけをお呼び立てしたのです。公爵が状況を掴む前に、速やかに対処せねばなりません」

「なるほど、そういうことか……」

 クラリスは冷ややかに呟いた。
 告発するなら手順を踏んで然るべき部署に申し出るべきだ。それをせず、秘密裏にクラリスを呼び出したのは、ブロイ公爵家の揉み消し工作を恐れてのこと。クラリスの言質を取り、公爵が動く前に外堀を埋める気なのだ。

「宰相は本気だな。あの方は中立派の公正な方だ。よく見極めた上でのことだろう。証拠が余程堅いということだ。私には一滴も覚えがないというのに」
「冷静に仰っておいでですが、聞く限りかなりまずい状況なのでは?」
「ああ、そう思う」

 王太子たちの会話はすでに、クラリスたちが来ないことに話が移っていた。今から公爵家と連絡を取る暇はない。

「いや……」

 王太子があの調子では、ケチのついた婚約はどのみち破棄される。公爵家にとって、クラリスには何の価値もなくなるということだ。不名誉な疑惑を向けられたそんなお荷物を、公爵は身を呈して庇うだろうか。

(この陰謀の全貌が見えない……。父上は、状況次第で私を切り捨てるかもしれない)

 のこのこ出ていって潔白を主張した時、氷の女に同情してくれる者はいない。さっきの衛兵がいい例だ。クラリスには最初から悪役になる素地そちがある。無罪放免になるためには、公爵家の後ろ盾が不可欠なのだ。
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