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第3話:【転機】外界からの嫉妬
アレクシス様の元で私の才能は何の枷もなく自由に花開いていった。
私が作るものはもはやただの服ではなかった。刺繍には守護の力が宿り生地の色は着る者の心を映して輝きを変える。私の針仕事は魔法と芸術の完璧な融合だった。
そしてその噂はどれだけこの屋敷が世間から隔絶されていようといずれ外界に漏れ聞こえるものだった。
最初に屋敷の門を叩いたのはかつて私を「縁起が悪い」と追い出した伯爵夫人だった。
彼女は以前とは打って変わって卑屈なほどの笑顔を浮かべていた。
「エリーゼ!あんな些細なことであなたを解雇してしまったことずっと後悔しておりましたのよ!さあ私の屋敷へ帰りましょう。今度はもっと良い待遇を約束しますわ!」
次に現れたのは仕立て屋ギルドの親方だった。彼は私の才能を「異端」と断じたはずなのに今はまるで長年の師匠であるかのような顔で私に語りかけた。
「エリーゼ君。君ほどの才能をこんな場所に埋もれさせておくのはギルド全体の損失だ。君にはギルドの名誉職人の地位を用意した。我々と共にこの国の服飾の歴史を新たに作っていこうではないか」
彼らのあまりにも身勝手な手のひら返し。
私はただ静かに首を横に振った。
「申し訳ありません。私の針はただ一人、主であるアレクシス様のためにのみ振るわれるものです」
私の明確な拒絶は彼らのプライドをひどく傷つけたようだった。
そして手に入らないと分かった才能はやがて嫉妬と悪意の対象へと変わっていった。
数日後、王都の社交界に悪質な噂が流れ始めた。
『クロムウェル公爵は不運の針子に騙されその呪われた服で心を操られている』
『あの女の呪いはいずれクロムウェル公爵家そのものを破滅へと導くだろう』
噂は尾ひれがついて広まりやがて公爵家に対するあからさまな非難へと変わっていった。
私は自分のせいでアレクシス様がそしてこの静かな屋敷が再び世間の好奇と悪意に晒されていることに胸を痛めた。
「……私のせいです」
その夜、私は書斎でアレクシス様に頭を下げた。
「私がここを去れば公爵様にご迷惑は……」
「馬鹿を言うな」
彼は私の言葉を静かにしかしきっぱりと遮った。
彼は窓の外の闇に沈む森を見つめている。その仮面の下の素顔は怒りでも悲しみでもない、まるで何か遠い昔を懐かしむかのような穏やかな表情をしていた。
「……エリーゼ。私がなぜ長年この屋敷に引きこもっていたか知っているか?」
「……お顔の傷のせいでは……」
「それもある。だが一番の理由は違う」
彼は私に向き直った。
「私はくだらない噂や偏見にうんざりしたのだ。彼らは私の傷の奥にあるものを見ようともせずただ怪物と決めつけた。そんな愚かな連中と言葉を交わすこと自体が時間の無駄だとそう思っていた」
彼は私のそばに歩み寄るとその大きな手で私の頬にそっと触れた。
「だが君が来て変わった。君は私の傷も世間の評判も何も気にせずただ私という人間を見てくれた。君の作る服は私の体の痛みだけでなく心の痛みさえも癒してくれたのだ」
彼の瞳は真剣な光を宿していた。
「今度は私が君を守る番だ。君の才能を君という人間をくだらない噂で傷つけようとする連中から私が君を守る」
彼は執事を通して王宮に一通の書状を送った。
それはクロムウェル公爵家主催の夜会の招待状だった。
何年も社交界から姿を消していた呪われた公爵が自ら夜会を開く。その報は王都中の貴族たちを驚かせた。
「エリーゼ」
彼は私に言った。
「夜会で君の最高傑作を披露する。そして君こそがこの国でいやこの大陸で最高の針子であることを私が証明してみせる」
それは宣戦布告だった。
噂や偏見という目に見えない怪物に対するたった二人だけの静かでしかし決然とした戦いの始まりだった。
私が作るものはもはやただの服ではなかった。刺繍には守護の力が宿り生地の色は着る者の心を映して輝きを変える。私の針仕事は魔法と芸術の完璧な融合だった。
そしてその噂はどれだけこの屋敷が世間から隔絶されていようといずれ外界に漏れ聞こえるものだった。
最初に屋敷の門を叩いたのはかつて私を「縁起が悪い」と追い出した伯爵夫人だった。
彼女は以前とは打って変わって卑屈なほどの笑顔を浮かべていた。
「エリーゼ!あんな些細なことであなたを解雇してしまったことずっと後悔しておりましたのよ!さあ私の屋敷へ帰りましょう。今度はもっと良い待遇を約束しますわ!」
次に現れたのは仕立て屋ギルドの親方だった。彼は私の才能を「異端」と断じたはずなのに今はまるで長年の師匠であるかのような顔で私に語りかけた。
「エリーゼ君。君ほどの才能をこんな場所に埋もれさせておくのはギルド全体の損失だ。君にはギルドの名誉職人の地位を用意した。我々と共にこの国の服飾の歴史を新たに作っていこうではないか」
彼らのあまりにも身勝手な手のひら返し。
私はただ静かに首を横に振った。
「申し訳ありません。私の針はただ一人、主であるアレクシス様のためにのみ振るわれるものです」
私の明確な拒絶は彼らのプライドをひどく傷つけたようだった。
そして手に入らないと分かった才能はやがて嫉妬と悪意の対象へと変わっていった。
数日後、王都の社交界に悪質な噂が流れ始めた。
『クロムウェル公爵は不運の針子に騙されその呪われた服で心を操られている』
『あの女の呪いはいずれクロムウェル公爵家そのものを破滅へと導くだろう』
噂は尾ひれがついて広まりやがて公爵家に対するあからさまな非難へと変わっていった。
私は自分のせいでアレクシス様がそしてこの静かな屋敷が再び世間の好奇と悪意に晒されていることに胸を痛めた。
「……私のせいです」
その夜、私は書斎でアレクシス様に頭を下げた。
「私がここを去れば公爵様にご迷惑は……」
「馬鹿を言うな」
彼は私の言葉を静かにしかしきっぱりと遮った。
彼は窓の外の闇に沈む森を見つめている。その仮面の下の素顔は怒りでも悲しみでもない、まるで何か遠い昔を懐かしむかのような穏やかな表情をしていた。
「……エリーゼ。私がなぜ長年この屋敷に引きこもっていたか知っているか?」
「……お顔の傷のせいでは……」
「それもある。だが一番の理由は違う」
彼は私に向き直った。
「私はくだらない噂や偏見にうんざりしたのだ。彼らは私の傷の奥にあるものを見ようともせずただ怪物と決めつけた。そんな愚かな連中と言葉を交わすこと自体が時間の無駄だとそう思っていた」
彼は私のそばに歩み寄るとその大きな手で私の頬にそっと触れた。
「だが君が来て変わった。君は私の傷も世間の評判も何も気にせずただ私という人間を見てくれた。君の作る服は私の体の痛みだけでなく心の痛みさえも癒してくれたのだ」
彼の瞳は真剣な光を宿していた。
「今度は私が君を守る番だ。君の才能を君という人間をくだらない噂で傷つけようとする連中から私が君を守る」
彼は執事を通して王宮に一通の書状を送った。
それはクロムウェル公爵家主催の夜会の招待状だった。
何年も社交界から姿を消していた呪われた公爵が自ら夜会を開く。その報は王都中の貴族たちを驚かせた。
「エリーゼ」
彼は私に言った。
「夜会で君の最高傑作を披露する。そして君こそがこの国でいやこの大陸で最高の針子であることを私が証明してみせる」
それは宣戦布告だった。
噂や偏見という目に見えない怪物に対するたった二人だけの静かでしかし決然とした戦いの始まりだった。
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