【完結】捨てられた侯爵令息は、王子に深い愛を注がれる

藍沢真啓/庚あき

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一章

求愛

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「あ、あああああああ……っ」
「真っ昼間から何て悩ましい声をあげていらっしゃるんですか、エミリオ様」

 ソファに座り頭を掻き毟るエミリオの耳は真っ赤だな、とブランは観察しながらもしれっと尋ねる。彼の意地が悪い所は、彼が頭を抱えてる原因を把握しているところだ。侯爵子息……いや、授爵が確定し今後はスーヴェリア侯爵となったエミリオが、先日起こった出来事で懊悩するのがほんの少し……割と楽しんでいたりする。

 エミリオはふかふかのクッションを抱いて、そこに顔を埋めた。脳裏を巡るのは兄が作ったとされる『常世』の効果にあてられ淫らになった自分を、フレデリクが何度も熱を与えた情景だった。

『あっ、あ、そ、そこぉ……あぁんっ』
『あぁ……エミリオ、そんなに締め付けたら……うっ、出るっ』
『ふぁっ、あ、つい、フレイのあちゅいの……ぉ』

 内部を太く硬い熱が燃えそうに擦られ、張り出した部分がしこりをゴリュゴリュと虐め、目に火花が飛び散る程の激しい快感に全身をビクビクと戦慄かせる。
 何度も何度もエミリオに『リオ、愛してる』と囁き、何度も何度もお腹の中に熱い飛沫を迸らせ、もうやめてと言ってもフレデリクは片時もエミリオを離してはくれず、ベッドだけでなく浴室でも数え切れない程体を結んだ。

「うぅ……」

 今も彼の熱が体の奥で燻ってる気がする。
 兄に犯された時はただただ苦しくて痛いだけしかなかったのに、フレデリクとの交合は体が溶けそうに甘くて快楽ばかりを与えられた気がする。
 あんなに多幸感に満たされたのは、エミリオの人生において初めての出来事だった。

 ただ、それとこれとは別の話だ。

 『常世』に負けた自分が悪いのは分かっている。だけど恥ずかしくてどうフレデリクと接したらいいのか分からないのだ。

「情事を思い出すのもいいですけど、水分だけは摂るよう言われてますので飲んでくださいね」
「え!? ち、違うよ、ブラン! そんなんじゃ……っ」
「まあまあ、飲んでからまた反芻していただければいいので」
「うぅ……ブランが酷い」
「エミリオ様の体調を思っての事ですよ」

 カチャリと磁器の触れる音が聞こえ、ブランがテーブルにカップを置く手が見える。水色は紅茶の色よりも茶色味を帯びた色で、湯気に乗って香る匂いはスーヴェリアの祖父母が愛飲していたハーブティの香りだった。
 エミリオに対して臣下らしい態度で接してくれる。しかし素顔のブランは割と意地悪な人だと知ったのは最近だ。
 現にこの間の出来事で悶絶するエミリオを、何度もからかってくるので疑いようがない。
 王太子のアレクシスよりも年上らしいと聞いてるから、これも年の差と言えるのだろうか。

「こちら、スーヴェリア領のご祖父母様より預かった物です。解毒に特化したそうですので、侍医より紅茶ではなくこちらをお飲みになるようにと」
「これは……ダンデライオンを焙煎したものです。いつも朝の食後に飲んでたんです」

 何とか気を取り直したエミリオはカップを持ち上げ、香ばしく懐かしい匂いを堪能する。
 クライドと離縁してから一年。領から王都に来てまだ数ヶ月も経っていないのに、次から次へと記憶に焼き付く出来事が多すぎて、とても懐かしい気持ちになる。

「ダンデライオンって、あの……道端に生えてる?」

 部屋の隅で警護していたノアルが、苦虫を噛んだような顔で尋ねてくる。

「そう、あのダンデライオン。っていっても、うちの領の畑で栽培しているものだから不潔でもないし、焙煎する前にちゃんと洗って乾かしてるから大丈夫。ノアルも試してみる?」

 ノアルはカップとエミリオを何度も往復させて、うーんと天井を見上げて唸った後「いただきます」と戦地に向かうような厳しい顔で頷く。そこまで不味いものではないと思うが、とエミリオはブランに彼の分にはミルクと砂糖をたっぷり入れてあげて、と囁いておいた。
 この部屋にはノアルとブラン、それからフレデリク以外の人間が入ってこない。ブランの話では、ブランの部下である優秀な影が周囲を守ってくれてるとの事で、毒見が全く必要ないのだ。
 食事も王族専門の料理人が調理し、毒見もそこで済ませているらしい。状況も落ち着きだしたので問題ないと聞いた。

 そしてダンデライオンのハーブティは妊婦に悪いとされている成分が入ってない為、スーヴェリア侯爵領では妊娠すると母親達がお茶の代わりに飲む。便通も良くなり、体の無駄な水分を尿として出してくれ、更には安価で気軽に手に入るのもあって、領では一般的な飲み物だった。

 エミリオのお願い通りにミルクと砂糖が入ったハーブティをブランがノアルに手渡す。彼は警備中なのもあり、直立したまま飲むようだ。何度か座ればいいと誘ったものの、何故か足を押さえて蹲ったノアルは「だ、大丈夫ですっ」と固辞してくるので、エミリオも段々と誘わなくなった。
 今度鎮痛で使う薬草を渡した方がいいのだろうか。

 渋い顔でカップを見つめるノアルをクスリと笑っていると、コンコンとノックをする音が聞こえる。
 侍従であるブランが対応に出ている背中を眺め、王城に運び込まれた時に、ぼんやりと聞いた会話を思い出していた。
 彼が王妃様とは別腹ではあるが、王族の血を引いている事を。
 初めて相対したあの日、彼の髪と燃えるような瞳を見た時に、エミリオは「もしかして」と疑念を持っていた。だが、フレデリクが信頼している人物のようであるし、本人が身元を言わないのなら、そこと啄くべきではないと直感したのである。
 多分、尋ねたら教えてくれるとは思うが、そうまでしてブランの過去を暴くつもりはない。本人が言いたくなるまで待つつもりだ。

「エミリオ様、フレデリク殿下がお越しです。どうされますか?」
「っ」

 折角あの日の事を忘れかけていた記憶が鮮明に蘇り、顔がすぐさま熱を持つ。
 会いたい。でも彼の綺麗な目を見るのが恥ずかしい。逡巡していたものの、もしかしたら何か大切な話があるのでは、とエミリオはブランに入室の許可を与えた。
 それ以前に臣下であるエミリオがフレデリクの訪問を拒否する権限はないのだ。

「リオ、体調はどうかな?」
「フレ……デリク殿下」

 つい、うっかり彼の愛称で呼びそうになり、慌てて訂正すると。

「フレイで構わないよ、リオ。呼び方が戻ってくれて嬉しい」

 フレデリクからにこやかに微笑まられ、エミリオはどぎまぎしながら相対するソファを勧める。それからブランにお茶をお願いして、ゆっくりと顔を上げた。
 銀色の髪は陽の光を受けて眩く、赤い瞳はエミリオに対する愛情が溢れんばかりに輝いている。今までこんな眼差しを受けていたのか、とエミリオは羞恥でどうにかなりそうだった。

「それで、今日はどうして……」
「ああ、うん。……ブラン、外の人払いを頼んだ。それから影に周囲の警護を」
「畏まりました」

 いつもより厳重な人払いをブランに指示し、ほどなく「問題ありません」と戻ってきたブランは、ノアルと並んで待機姿勢を取る。
 フレデリクはすっと立ち上がると、ソファに座るエミリオに近づき、静かに跪き呆然とするエミリオの手を取った。

「リオ……。いいや、エミリオ・スーヴェリア侯爵。どうか、私と結婚してくれませんか?」
「え?」
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