冷甘メイドの怪奇図書

要 九十九

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第一章「最初の一冊」

第3話「怪奇図書と怪奇図書館」

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「怪奇……図書館……?」
 聞きなれない単語に、カミラさんが言った言葉をそっくりそのまま返す。
「……はい。そして、こちらが怪奇図書です」
 俺の反応を予想していたのか、カミラさんの手元には、いつの間にか何かが握られていた。見覚えのある丁寧に綴じられた一冊の本。じいちゃんが書いた物だ。
「……続きは中で。南様お願いします」
 カミラさんはそう言って、俺の胸ポケットに人差し指を当てた。その行為に少しドキドキとしながら、ポケットの封筒から鍵を取り出した。
 頑丈そうな扉のドアノブ、その上にある鍵穴らしき所に鍵を差し込む。それからゆっくりと横にかたむ……あれ? 横に傾け……うん? 鍵はピクリとも動かない。もしかして、この鍵じゃない?
「カミラさんこの鍵じゃないみたいです」
「……いえ。合っていますよ」
 鍵の代わりに俺が首を傾けながらカミラさんを見た時だった――――鍵穴から緑の光が一気にほとばしり、ドア全体に広がっていく。
 やがてその光が収まると、ドアの表面に緑で発光する文字が所々浮き出ていた。暗くて気付いていなかったが、元々ドアに彫られていた物みたいだ。何て書いてあるかはやっぱり分からないが、人物画に挟まれた鏡の額縁に書かれていた文字列と似た物もいくらかある。
「うわっ!」
 文字が発光すると同時に、扉中央の赤い宝石が一瞬カメラのフラッシュの様に光った。咄嗟に目を閉じたが間に合わない。
「これ、何なんですか?」
 じいちゃんの人物画もそうだったが、こんなドアの仕掛けも生まれて初めて見た。
「……誰でも好きに入れないようにする為の物です」
 いつの間にかカミラさんの手には、俺が持っていたのと同じ鍵が握られていた。鍵には紐が結ばれているのが見える。俺に見せた後、カミラさんは鍵を服の中に仕舞った。普段からネックレスのように身に付けているのだろう。
 そんなやり取りをしていると――ガチャリと一際大きな音が聞こえた。扉を確認すると文字は未だに発光しているが、ドアノブは回せるようになったみたいだ。早速、扉を引いてみる。結構な重さだが、両手で引っ張れば問題はなさそうだ。
「よいしょ…………っと!」
 掛け声を上げ、一気に扉を開ける。ちらりとドアの内側に大きな五芒星が刻まれているのが見えるが、それよりも……。
「凄い!!」
 目の前には本棚が一目では数え切れないぐらい並んでいた。
 カミラさんがドア横のスイッチを押すと、中に明かりが点く。
 中を進みながら、本棚を確認していく。本の素材だけでも紙や、布のような物、これは……羊皮紙って奴かな? 木に直接書いている物も。見た目も明らかに本と分かる形の物だけじゃなく、巻物や、石板まである。
 それらを見ているだけで、書いている場所や時代、国が違うのが伝わって来た。
 そんな本棚の間には、まるで本物の図書館のように椅子や机が置かれている。
「屋敷の地下にこんな場所があるなんて……」
「……これが、真道家の皆様が遺された、怪奇図書館です」
「これ、全部が?」
「……はい。遥か昔から真道家の方が見た物をこういった形で保管されていたと、お祖父様から聞いていました」
 カミラさんは頷きながら、明かりを消したランタンを近くの机の上に置く。
「……真道家の方が見た物の中には、普通の人間のごく平凡な生活の一部などもあったそうですが、それよりも……」
 俺の目の前までカミラさんが歩いてくる。
「……言葉では言い表すのが中々に難しい、あやしく、不思議な内容が、圧倒的に多かったそうです。お祖父様は真道家の能力、その特性故に、そういった物に引っ張られているのではと分析されていましたが……」
「俺が見た、じいちゃんが書いた本もそんな内容でしたよね?」
 暗闇の何かに呑まれた男、これ程に怪しい話もないだろう。
「……はい。そして、真道家の方は自分達が見て、感じた、あやしく、不思議な内容を怪奇図書として纏めたそうです」
「なるほど……。それらを集めたのが、俺たちが今いるこの怪奇図書館なんですね」
「……その通りです」
 初めて聞いた単語ばかりで混乱していたが、やっと少しは分かってきた。でも、やはり気になるのは……。
「結局じいちゃんには怪奇図書の内容がどんな風に見えてたんだろ?」
「……私には聞いても理解が及びませんでしたが、お祖父様はこう言っていました」
 椅子が目の前にあるのに、立ったまま話を続けるのも疲れるので、近くにあった椅子に座り、カミラさんにも座るように促す。
「……突然、断片的な映像が見える。でも、好きなタイミングで、好きな映像を、好きなだけ見れる訳ではない」
 誰かが選んだDVDを、ランダムに選択されたチャプターで、再生するか停止するかも相手次第……みたいな感じか?
「難しいな」
 自分の頭で想像した分かりづらい例えに翻弄される。
「……過去、現在、未来、いつを見てるかも咄嗟にはわからない。時計や、景色、その人物が考えてる事で何とか判断するしかない。そうしないと…………」
 そこまで言って、明らかにはっとした顔をするカミラさん。
「そうしないと?」
「……何でもありません」
 俺の質問には答えず、何事もなかったかのように椅子から立ち上がる。
「……ここは上の屋敷の設備とは独立していて、発電機や浄水装置なども完備しています」
 カミラさんは怪奇図書館の説明をしながら、奥を指差した。
「……向こう側には、ここに泊まれるようにベッドや食糧、シャワーなどもありますよ」
 つかつかと、俺を置いてカミラさんが先に行く。慌てて付いていくが、先程の続きが気になって頭から離れない。
 そうしないと……じいちゃんはその後に何を言ったのか? カミラさんがその先を隠す理由は分からないが、言いづらい何かがあったのかも知れない。
 カミラさんに隠されれば、じいちゃんの事を全く知らない俺に残されるのは、あれやこれやと妄想する事ぐらいだ。
 屋敷と怪奇図書館を見て、カミラさんの話を聞いていけば、少しは分かるようになるのだろうか……?
 結局その後は、怪奇図書館の中を見て回るだけで一日が終わってしまった。
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